第二話

「ようこそ我が国へ!!」


 俺を含む4人の感情のないメンバーは、勇の思い付きにより『エデン』という名の国に来ていた。

 エデンは勇の国であり世界で3番目に大きい国だという。

 右から勇、快離、葛葉、和颯の順に、国の門の手続きを済ませて歩いていた。

 レンガやガラスを主に使った建物が多く中世ヨーロッパを風物とさせ、人の通りが多いこの国は俺にとっては毒だなと思えた。

 皆、4時間歩いてきた苦痛を忘れたかのように楽しそうな表情を浮かべていた。


「というかさ、なんで初めての国がここ?」

「お前?! エデンの良さが分からないのか?!」

「いや、批判してるわけじゃないけど……」


 俺はあきれた様子で聞いていた。

 そもそも城に残っているメンバーを合わせる俺ら感情のないメンバー8人は、例外を省いて皆自身の城と国を持っている。

 なんとなく強欲な気もするがここは国境のない世界、つまりは国と国との間には誰の所有物でもない土地が余るほどある。

 そんな土地があるのに使わないなんてもったいない。そう思って贅沢に土地を有効活用していた。

 そのおかげか、勇の国は世界で3番目に、葛楽の国に至っては世界で2番目に大きな国となっていた。

 大きいというが実際は数が多いだけで一つ一つの国は小さいしまだまだ発展途中の国が多数なのが現状だった。


「まぁチュートリアル的な感じでここに来たのは正解だったんじゃない?」

「確かに初めから知らない国に行っても進歩がなさそうですしね」

「進歩?」


 勇は頭に疑問符を浮かべた。


「感情をとりもどす方法を調べるために旅してる、確かそう言ってましたよね?」

「あー、それね!覚えてるよ、そうそう!俺の国広いから調べ物にはもってこいなんだよね!」

「わすれてなかった?」


 快離が勇の顔を覗き込むように見た。

 勇は恥ずかしそうに目線をそらした。


「気のせいってことにしといてやる」

「ま、この無能勇者はほっといてさっさと行きましょう!」

「あれ? もしかして俺嫌われてる?」

「行くって言ってもどこに行くの?」

「そういやそうだな…」


 俺がそういって首を傾げた。

 葛楽も特に考えてなかったらしく視線を宙に這わせた。



 そう皆考えながらふらふらと歩いていると、


「おっと」

「あっ」


 勇が近くを歩いていた男性と肩をぶつけた。


「ごめんなさいね」


 考え事をして前をよく見れていなかったのだろう。

 勇が右手を挙げ軽く謝るとまた歩き出そうとした。だがぶつかった男性が勇の腕を両手で掴んだ。そして、


「す、すみませっ、ごめんなさい!!」


 今にも泣きだしそうに潤わせた目で謝った。

 ぶつかっていない俺達も気になり二人の方を見た。


「すみません! 僕としたことが、前を見ていなかったせいで!」


 男性は許してくれるよう懇願していた。

 そもそも気を付けていなかったのはこちら側なのに、男性はまるで自分が悪いかのように謝っていた。

 勇もそもそも怒っていないので困った様子で相手をしていた。


「大丈夫ですよそんなに謝らないで……自分が悪いですし!」

「いえ、僕が気を付けていなかったので!」

「そ、そんな」


 普段の雑な性格を全く感じさせないほど下手に出ていた勇は、とにかく相手を冷静にさせようとしていた。


「ほんとにすみませんでした!! 僕は…」

「いいよいいよ! 気を付けて!」


 男性は用事があったのか、つま先を道の先に向けていたので勇は笑顔で見送った。

 男性は額の汗をぬぐって走っていった。それも逃げるように。


「随分と丁寧な人ですね」

「たとえ人にぶつかったとしても俺なら無視するけどな」

「それは論外だろ」


 勇は疲れた様子で俺らの隣に並んだ。

 国にきて間もないのにこんなことで疲れるなんて、このままだと過労死ENDまっしぐらだろう。


「それにしても自分から盛大に謝ってたのに必死に走っていってたね」

「用事があったからー、とかじゃねーの?」

「あたしだったら用事があるほど謝らないよ?それこそ逃げる!」

「当て逃げ犯みたいなこと言いますね……」

「そんなことよりこの後どこ行くよ」

「そういえばそんな話してたな」


 男性とぶつかったことで話がずれてしまったが、元々は「今からどこ行くか」の話をしていたはずだ。


「というか勇の国のことなんだし、どっかおすすめの場所とかないの?」

「そうだな…『ギルド』とかどうだ?」

「『ギルド』ってラノベとかアニメにあるやつ?」

「へー、和颯ってアニメとかの娯楽?見るんだね!」

「俺のこと感情のないロボットだと思ってないかお前は」

「まぁ和颯さん普段つまんなさそうですし、人生楽しいんですか?」

「なんだそれは?俺を煽ってるのか?」


 そういうとクズは真顔を作り顎に手を当てた。そして顎をしゃくり、


「『俺は楽しいなんて感情、湧かないね!』」


 と、小馬鹿にした後小さく笑った。

 他の二人も声を出して笑っていた。


「うるさい……こっち来てから『喜び』系の感情無くなってるんだよ」

「和颯君…遅めの中二病かな?」

「本当にないんだからそう言うしかないだろ……」

「大丈夫、ここは男同士理解しあっていこ!」

「変に気をつかうな」

「オタクくんさぁ!」

「お前は話を変えるのが上手だね」


 隣まで来てヘラヘラと笑っている金髪野郎の鼻をつまんだ。


「それで? そのギルドってどこにあるんだ?」

「ちょ、ちょい、いたいからはなして!」

「国の真ん中の方にある、このまま歩けば10分くらいで着くと思うぜ」

「ならそこまで行ってみましょう」

「まって?! なんで無視するの?! ねぇ!」


 鼻声で怒っているクソ野郎は放っておいて俺らは『ギルド』に向かうことにした。

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