第36話 親善試合とメアリーとの再会
2週間が経過した。
今日は,親善試合の日だ。前国王は,そわそわしていた。国王軍のカベール隊長に現在の状況を聞いた。
前国王「隊長,守備はどうだ?うまく,千雪を殺せるのか?千雪が参加しなかったらどうすのだ?」
カベール隊長「親善試合ですので,何度も開催します。無理に殺すことを考えなくてもいいでしょう。国王も,教団側はさほど脅威にはならないと言っていました」
前国王「そうだといいのだが。今回は,魔力結晶をバケツ半分も購入したんだぞ。これで成果がでなかったら,もうお手上げだ」
隊長「今回は,参加選手に,かなりの魔力結晶を隠し持たせています。まず負けることはないでしょう」
前国王「そうか。では,試合会場にいこうか」
試合会場は,運動場のような場所だ。テントが2つ並んでいた。国王側と教団側だ。国王側の観覧者は,100名を超えた。彼らは,今日のために,高純度魔力結晶を加工して,選手の腕部に貼り付けるようにしたのだ。1番から3番の選手は,初級魔法士を選んだ。その彼らが高純度魔力結晶を駆使することで,SS級を超えることができれば,大変な成果だ。今回の親善試合の意義は,この1番から3番にあると言ってよい。
1戦目の氷結による対決(氷の硬さを争う)が始まった。2名の選手は,10m先の鋼鉄の板を,何回目の氷の矢でぶち抜くかで決める。矢の長さは50cm程度と決められている。
1回目の氷の発射で,国王の選手は,SS級レベルだとわかった。千夏の発射スピードよりも倍近く速い。これだけでもう勝負にはならなかった。国王の選手は6回目の発射で鋼鉄の板をぶち抜いた。千夏は10回目でやっとぶち抜いた。千夏のこの氷結魔法のレベルは,実は,SS級を遙かに超えていた。本気なら,1回目でぶつ抜いていた。
2戦目の風魔法による対決(空中での移動スピードを争う)が始まった。千秋は,100mの距離を10秒で移動した。国王の選手は,7秒で移動した。実は,千秋もSS級を遥かに超えるレベルだった。全力なら軽く1秒で移動できた。
3戦目の火炎魔法対決(鋼鉄を溶解させる時間を争う)が始まった。フレールは,すでにSS級魔法士になっていた。おまけに火炎魔法は超得意で,それだけならSS級を超えるレベルだ。だが,負けなければならない。力を3割り程度に抑えた,10m先の鋼鉄の板を10秒で溶解した。国王の選手は,8秒で溶解した。フレールは,もっともっと力を抑えるべきだったと悔やんだ。フレールが,本気なら1秒も経たずに溶解できた。
4戦目の国王側の合体死霊体との対決が始まった。ここからがバトル戦だ。千冬は,合体しない体で戦わなければならない。この2週間,魔力吸収魔法陣を体のどの場所にも,同時に10箇所起動できるようになった。拘束リングは寅吉も使えた。寅吉に何度か拘束リングで,千冬を拘してもらい,何秒で解除できるかを測った。最初は3秒かかったが,練習を積んで1秒にまで短縮した。さらに,防御の硬度強化も図った。霊力の精度を引き上げて,ダイヤモンドの硬度の4倍にまでに達した。この練習メニューは,千秋も同じように行った。
千冬と合体死霊体が対峙した。この合体死霊体は,北東領主で戦ったものと同一だった。霊体も同じだった。しかし,もう色香にはだまされない。火炎で衣服を焼くことはしないと思っていた。だが,その衣服に隠された豊満な胸を見ると,同じことをしてしまいたくなった。合体死霊体は,まったく同じ作戦に出た。高速の火炎攻撃だ。
ボボボボーー!
その火炎は千冬を直撃した。千冬はよけなかった。よけても無駄だと知った。衣服が灰になったが,そこに肌色の裸体はなかった。真っ黒な裸体だ。千冬は体色を黒にしたのだ。それでもその裸体は美しかった。観覧席からは,
オオオーー,黒もなかなかーー
という声が湧きだった。国王側の研究班は,この裸体を見れただけでも,この2週間の努力が報われたと感じた。というのも,彼らは,この2週間,寝食忘れて合体死霊体を即席のSS級を越える魔法士にするために,高濃度魔力結晶を選手の腕に取り付けれるように改造してきたからだ。
合体死霊体は,7輪の高速リングを生成した。そして,それらに魔力を十分に注入して高速で発射した。
それを見た千冬は,すぐに叫んだ。
千秋「降参です!」
合体死霊体は,千冬の胸を触りたかった。このまま降参させてたまるものか!
7輪の拘束リングは,前回と同様に,千秋の首両手首,胸,腹,両足首を拘束した。彼は高速で千秋のそばに来て手袋をした。この手袋をするのに,2秒くらいかかった。胸を触っても気絶しないためだ。そして,千秋の上にまたがろうとした。
しかし,そこには,もう千秋の姿はなかった。拘束リングは,わずか1秒で消滅してしまったのだ。
千秋は,すでに教団側のテントに戻ってきており,予備の服を着はじめていた。合体死霊体は,その場で,ボケーーっとしていた。何が起こったのか,まったく分からなかった。
ー--
5戦目の国王側のゴーレムとの対決が始まった。やはり,前回と同じ合体ゴーレムだ。その速度も前回とほぼ同等だ。今回は,千夏に防御に専念した。合体ゴーレムの回し蹴りがクリーンヒットして,千夏を数mも蹴り飛ばした。千夏がゆっくり起き上がったところをさらに高速のキックで数m突き飛ばされた。さらに3回ほど足蹴りで飛ばされたところで,千夏は降参した。
千夏「降参でーーす」
その声には,余裕が感じられるものだった。
第6戦目の双方の最高実力者同士の対決が始まった。国王側は,30体を合体した戦闘型合体ドラゴンだ。マレーベリが,人間界に高濃度魔力結晶を取りに行った時に,ドラゴンの指輪の複製体も魔界に持ってきたのだ。人間界では,100体の合体をおこなったが,今回は30体だ。高濃度魔力結晶の節約のためだ。30体でもかなりの能力向上を図ることができる。
寅吉と合体ドラゴンが対峙した。寅吉は,大規模魔力転移魔法陣から,魔力を供給されている。そのため,ふんだんに魔力を使うことができる。その点は,合体ドラゴンも同様だ。豊富に魔力をその体に注入されていた。寅吉は,攻撃されていないのに,遠慮なく,正面と両サイドの3面に防御結界を設けた。長時間の防御結界の維持には,膨大な魔力を消費する。だが,十分に魔力は供給されていているので,問題はない。
合体ドラゴンは,三倍速で移動して,キックを数回加えたが,ことごとく防御結界で防御された。そこで,少し離れて,火炎攻撃,氷結の矢攻撃,雷撃を加えた。しかし,やはりすべて防御結界によって防御された。
そこで,研究班に教えてもらった炎氷混竜激派を放った。
バシューー!!
この魔法は,寅吉にとって,何度も受けたことのある魔法だ。対策は充分にできている。すぐに,3重に防御結界を構築した。
ダーン!ダーン!
一層の防御結界を砕いたが,2層目で防がれた。合体ドラゴンにとって,これは,想定の範囲だ。
合体ドラゴンは,本気を出した。そして,叫んだ。
炎氷混竜激派10連弾攻撃!!
ピュー! ピュー! ピュー! ーー
合体ドラゴンの有り余る魔力で,この連弾魔法を放った。超贅沢な攻撃だ。
寅吉は,過去,この技で2度も消滅させられていた。その対策は,実は十分にできている。多重防御結界もそうだが,『高精度反射魔法結界』が寅吉の隠し玉だ。攻撃を受けた魔法をそのまま相手に返してしまうものだ。
寅吉は,10連弾のうち,3連弾を多重防御結界で防いだ。その間, 『高精度反射魔法結界』を新しく構築しようとした。
だが,4連弾目で,寅吉の体の一部がぶち抜かれてしまい,そのショックで,『高精度反射魔法結界』の構築する角度を誤ってしまった。
そのため,5連弾目以降の6発は,合体ドラゴンに反射すべきところを,誤って,千雪のいる教団側のテントに反射させてしまった。
寅吉は,叫んだ。
寅吉「ああー-,間違った!」
そう言いいながら,寅吉は,炎氷混竜激派の4連弾目以降の攻撃によって,消滅してしまった。
反射された5連弾目以降の6発の炎氷混竜激派は,その勢いが下がることなく,教団側のテントに向かった。
千雪は,慌てずに一言言った。
千雪「千秋!千冬!」
千秋と千冬は,言われなくてもするべきことはわかっていた。広範囲の魔力吸収結界の構築だ。魔力攻撃であれば,すべてそれを吸収して,地中に返せれる。影雪がそれを行えば,地中の代わりに指輪に吸収できる。
反射された6連弾の炎氷混竜激派は,二人によって構築された広範囲の魔力吸収結界に衝突した。
パッシューー! パッシューー! パッシューー! ブブブー-! シュワーー! スーー。
反射された6連弾の炎氷混竜激派は,魔力に変換されて,地中に返っていった。この光景は,すぐ隣のテントにいた100名以上の国王側を驚嘆させた。なぜなら,このハプニングで,すくなくとも数人は確実に死亡すると思っていたからだ。
千雪「千秋,千冬,ご苦労様。完璧な術の行使だったわ。私も鼻が高い」
この状態でも,千雪は,マントに隠された体を愛撫されていて,千雪は,ただ,無意識にかつ時間差なく,リスベルの言ったことをオウム返しするだけで,肉体の快楽を楽しんでいた。
千雪は,リスベルに言われて,戻ってきた寅吉の霊体を核にして,すぐに彼を生成させた。この技も国王側を驚嘆させた。古代文字による生成魔法陣を使ったからだ。尊師やナタリー最高顧問が解読したものだが,そのノウハウは,国王側に提供されていなかった。
千雪は,隣のテントに移動して,国王と前国王に語った。
千雪「今回の親善試合は,これで終了です。残念ながら,私たちは,すでに国王側の戦力には及ばないことが判明しました。これからは,つつましく,生活していきたいと思います。また,これからも国王側とは,よい友好関係を維持していきたいと思います。今後ともどうぞよろしくお願いします」
国王「ああ,,,そうだな。こちらこそよろしく」
前国王「確かに,見かけ的には,われわれの圧勝のようだ。しかし,まだまだ細かな点では,われわれの力は,あなた方には及ばないようだ。これからも,定期的にこのような親善試合をして,お互いのレベルアップを図りたいと思う。今回は,勉強させてもらった。ありがとう」
千雪「いえいえ,こちらこそ,いろいろと勉強になりました。では,私どもはこれで失礼させていただきます」
教団側が去った後,前国王は,カベール隊長と魔法陣研究班長に感想を聞いた。
カベール隊長「確かに,今回は,われわれの圧勝でした。ですが,どうも,そのようにしくまれたように感じます。教団側は,決して負けないような対策をしていたようです。死霊体の拘束リングをすぐに解除するなど,まったくわれわれが知らない未知の魔法です。あの反射された数連弾の炎氷混竜激派をこともなく防いだことも驚愕に値します。攻撃力ではたぶん教団に追いついたかもしれません。ですが,防御力ではわれわれは,まだまだ追いついていないと思います。
魔法陣研究班長「私もカベール隊長の意見に同感です。あの高濃度魔力結晶は,ほんとうに有用です。合体死霊体を即席でSS級を越える魔法士にできたのですから,そして教団のSS級魔法士に勝つことができました。このことは,総合力から言えば,われわれは圧倒的な力を持ったことになります。ですが,教団のあの防御力は異常です。
今回の試合の最大のポイントは,ゴーレムとの対決だったとみていいでしょう。私が思うに,北東領主でみせた千夏たちの動きと,今回の千夏たちの動きは,ぜんぜん違います。今回は,わざと力をセーブして試合したと思われます。そのためか,防御に専念したのではないでしょうか? でも,その防御力は完璧で,何度飛ばされても怪我一つ負っていません。教団側は,負けない戦法を選んだのだと思われます」
前国王「そうか。ある意味,教団のおかけで,われわれは,戦力の強化に成功したとみていいのだな。課題は,防御力のアップ,というところか」
カベール隊長「そのような理解でよろしいかと思います」
前国王「教団の脅威は,各段に下がったとみていいのだな?」
カベール隊長「いまのところは,友好条約が有効ですので,安全だと思います。これからも,個人の戦力を強化していくことで,教団側を圧倒していけば,教団側の潜在的な脅威はますます減少していくと思います。ですが,もし,千雪が本気で王宮を滅ぼそうと思った場合,あの直径1kmの範囲を爆裂攻撃させた力を行使するかもしれません。個人戦の強化と平行して,大規模防御結界を構築するノウハウも蓄積していく必要があるでしょう」
前国王「よくわかった。これからもよろしく頼む」
隊長「かしこまりました」
ー--
千雪御殿
千雪らは,千雪御殿のホールに戻った。ホールには多人数用の転送座標点がある。千雪は,皆に声をかけた。
千雪「皆さん,ご苦労でした。ですが,今からが本番です」
千雪以外のメンバーは,何のことかわからなかった。
千雪「今から,千雪に寅吉との契約を解除させます。私は,もう2週間以上も寝ていません。私の千雪への支配はもう終わります。いいですか,みなさん。千雪をおだてて,おだてて,うまく対応するのです。この世界にいてほしくなかったら,千雪にうまいこといいくるめて地球界に帰ってもらいなさい。ほんと,限界です,,
千雪は,リスベルに指示されて,寅吉との契約を破棄した。破棄する方法は簡単だ。一言,破棄する,と言えばいいだけだ。
千雪の体を愛撫していた霊力の触手は消滅した。愛撫が,急になくなったことで,体のバランスを崩して,その場に倒れた。
ドン!
千雪「いたー-い。え,リスベル?リスベル?どこ?もう愛してくれないの?リスベル?」
エルザは,千春に声をかけた。
エルザ「千夏,3人交代で,千雪をすぐに抱いてあげなさい。愛してますと,口酸っぱくして言いなさい。そして,徐々に地球界のことを思い出させなさい」
千夏らは,千雪を抱きかかえて,千雪のベッドに運んだ。そして,千秋,千冬の2人で,千雪の肉体を愛撫した。千夏は,その仲間には入らなかった。
千夏「千雪様,千影様は今は寝ています。もう2週間以上も寝ていなかったそうです。しばらく寝かせてあげてください。代わりに,千夏がいます。千夏は,千雪様を愛しています。愛しています」
千雪「頭がぼーーとしているわ。この一週間,何があったか,詳しく教えて。どうも記憶が曖昧なの。リスベルの愛しているよ,という声しか覚えていないわ」
千秋「千影様は,千雪様が,まだ情緒不安定だったので,安定するまで,千雪様の代わりにいろいろと頑張ってくれました。ここ1週間のこと,詳しくいいますね」
千秋は,一週間のできごとを詳しく述べた。また,リスベルは,霊力の触手を6本も駆使できるようになったこと,そして,千雪の意識のある時も,千雪の肉体をその触手で愛撫し続けたことも述べた。
千雪「霊力の触手で愛撫されたのは知っているけど,途中から意識朦朧となってしまったわ。まだ,精神状態が回復していないのね。回復魔法を私の眉間部にもしてちょうだい。少しは,霊体が元気になるかもしれないわ」
千夏は,千雪の眉間に回復魔法を展開してみた。霊体に対して効果があるのかどうか不明だ。
千雪「ふう,ありがとう,みんな。なんか,長い夢を見ていた感じがするわ。ねえ,千夏,千雪はこれからどうすればいいの?」
千夏「はい,地球界のことを思い出すことが大事だって,エルザさんが言っていました」
千雪「ふふ,そうなのね。やっかいものは,追い出したいのね。じゃあ,月本国に帰ることにするわ。そういえば,寅吉はもう私の契約獣ではないのね。じゃあ,別れの前に挨拶しようかな」
千雪は起き上がろうとしたが,胸が重かった。
千雪「千春,胸が重たいわよ。なんとかからないの?」
千春「それは,無理です」
そうこうしていることで,千雪は千雪らしさを取り戻した。
千雪は,全裸のまま,教団のホールに出向いた。教団内,原則,男性は出入り禁止だ。寅吉は例外だ。寅吉も普段は女装することが義務付けられている。千春たちは,あわてて,自分たちの服を着て,千雪の服を持ってホールに急いだ。
千雪「寅吉,今の主人はだれなの?」
寅吉「今は,エルザよ」
寅吉は,普段は女性言葉を話さなければならない。
千雪は,エルザに,寅吉を生成させる古代生成魔法陣の説明をエルザに説明した。不明点があっても,尊師に聞けばわかることなので,ざっくりと説明した。
エルザ「説明してくれて,ありがとう。それで? 今日は,別れの挨拶に来たの?」
千雪「そうよ。エルザが言ったのでしょう? 月本国のことを思い出せって。すっかり思い出したわ」
エルザ「でも帰る前に,たまには,自分の子どもに会いに行ったらどう?」
千雪「そうか,,,エルザもたまにはいいこと言うわね」
千雪は,千夏,千秋,千冬,エルザ,フレール,寅吉たちと別れの挨拶をした後,千雪御殿に設置してある長距離転移ゲートに移動して,そこから,南東領主であるベルダン領主邸の敷地に転移した。
ー----
南東領主
ー----
千雪は,ベルダン領主の屋敷に転移した。千雪は,女中によって,領主の部屋に案内された。千雪は,自分の娘を見る以外に,ベルダン領主とその妻のルベットに報告することがあった。ルベットは,孫のメアリーを抱いて主人の部屋に来た。
ベルダン領主「千雪さん,元気だったかね?」
ルベット「孫のメアリーよ,もう1歳2ヵ月になるわ。元気よ。あなたのお母さんですよ。あら,千雪さん,あなた,また妊娠してるの?そのお腹なら,妊娠5ヶ月くらいね」
千雪は,妻から娘のメアリーを受け取って,あやしながら言った。
千雪「はい,そうです。この子もリスベルの子です」
千雪は,嘘を言った。でも,今の自分にといって,それは,決して嘘とはいえなかった。
ルベット「ふふふ。わかったわ」
千雪「今日は,ご報告することがあって参りました。リスベルさんは,別次元の世界に飲み込まれました。そして,そこで半年前になくなりました」
この報告に,誰もびっくりしなかった。
ルベット「そう。リスベルさんは,ほんとうになくなったのですね。リスベルの死に際はどうでしたか?」
千雪「わたしの分身を助けるために,リスベルさんは身代わりとなってなくなりました」
千雪は,別世界に行ったのが,小雪ではななく,千雪自身ということにして,説明した。そのほうが理解しやすいからだ。
ルベット「リスベルさんは,あなたのために役にたって死んだのですね。りっぱな最後だったのですね」
ルベットは,涙ぐんで,言葉を詰まらせた。
リスベルは,千雪と出会って,数奇な運命に翻弄された。結果的には,死刑に処せられたので,出来の悪い息子と言わざるを得ない。だが,母親のルベットにとってリスベルは,かわいい息子だ。今でもリスベルのことを片時も忘れたことはない。
千雪は,リスベルの霊体が千雪の霊体と連結したことは言わなかった。知らない方がいいと思ったからだ。
千雪は,娘のメアリーにキスをして,ルベットに返した。元気な子だった。涙が流れた。
千雪は,別れが辛くて,この屋敷で3日間過ごした。別に慌てて月本国に帰る必要もない。
別れの時,千雪は,ずーっと寝ていたリスベルの霊体から声を掛けられた。牧場に寄って,リスベルの赤ちゃんたちを見たいというものだった。
そこで,千雪は,ベルダン領主と妻に別れを告げて,転移ゲートで,牧場に移動した。
ー 牧場 ー
牧場に立ち寄って見ると,そこは,もう,女性戦闘員を短期間で育てあげるというような環境ではなくなった。長期プランに従って,着実にエリート魔法士を育てるプランができあがるつつある。
ただし,現在は,この施設にいる元乙女たち全員がリスベルの子供を産んで,産休を取っていて,マカーラやジテーラたち幹部連中も,リスベルの子供を産んで産休中だった。
ただし,ミミたちや,元乙女たちは,順番制で搾乳の仕事だけは続けていて,なんとか独立採算制を維持している状況だ。
産休期間は3年ほどだ。ただし,余裕があれば,王宮の仕事を引き受けるという感じた。千雪は,ジテーラを呼んで,この幹部連中と元乙女たち全員を,血の池に集合するように指示した。
三々五々,彼女たちは,自分の子供を抱いて連れてきて,千雪の体を支配したリスベルに挨拶していった。生まれてきた子供は,なぜかことごとく女性ばかりだった。
リスベルにとっては,自分の子供を見るいい機会となった。リスベルは,牧場で2日ほど滞在して,彼女らに千雪の魔法因子を分け与え,1ヶ月以内なら,いつでも妊娠できるようにアレンジした。もし,彼女らが望めば,妊娠してさらに追加で3年の産休を獲得することが可能となる。
満足したリスベルは,体の支配を千雪に返し,千雪は,霊珠の指輪にお願いして日本の千雪御殿に時空転移してもらった。
ピィーーーーーン!!
霊力の指輪は,時空亀裂魔法陣を起動した。千雪は,その場から消えた。
ーーー
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