第23話 ラブドール


 大統領官邸では,ピアロビ顧問と大統領が何やらおかしな相談をしていた。


 大統領「ピアロビ顧問,あの千雪をなんとかぎゃふんと言わせる方法はないのかね。麦国政府から,強くいわれていてね。人工衛星を破壊できるような人物をなんとかしないと,わが国と麦国との相互防衛協定さえも破棄されかねんのだよ」

 ピアロビ顧問「世の中,絶対の強者というものはないですよ。何かしら方法はあるものです」

 大統領「ほう? あの千雪に勝てる方法があるかね。ぜひ聞かせてもらいたいのだが」

 ピアロビ顧問「いやいや,もし失敗すると,私が殺されますから。それなりの見返りといいますか,その,,,」

 大統領「わかっとる,わかっとる。代表秘書官,提示してあげなさい」

 代表秘書官「ピアロビ顧問,まず,手付金として,200億円。ご希望の魔鉱石の採掘費用を政府で全額保証します。また,ピアロビ顧問,奥様,子弟には,完全な税金の免除を実施します。もし,ピアロビ顧問が千雪に殺された場合,奥様もしくは子弟に,500億円を支払います。もし,千雪を殺す,もしくは封印その他有効な方法で捕獲できた場合,成功報酬として,1000億円を支払います」

 ピアロビ顧問「なるほど,失敗しても500億円,成功すれば1000億円ですか。いずれも,その倍額いただければ,一肌脱ぎましょう」

 大統領「よし。了解しよう。きみの作戦で,必要なものがあれば何でも言ってくれ」

 ピアロビ顧問「魔鉱石を製錬して,高純度の魔力結晶を作りたいのです。大型の窯を有する製錬工場を見つけてください。ただし,魔鉱石を製錬すると,その窯はもう他の用途には使えなくなります。その点ご注意ください」

 大統領「代表秘書官,急ぎ製錬工場を探してくれたまえ。して,ピアロビ顧問,どれくらいで準備ができそうかね?」

 ピアロビ顧問「製錬作業に1ヵ月程度あればいいでしょう。先月,娘が魔界から新しい指輪を持って来てくれたのです。ですから精錬した魔力結晶があれば,指輪の力を100%発揮させることができます。魔界でも実現できなかった最強の戦士を生み出すことができます。千雪の戦い方の特徴は,その速度です。人の50倍,いや100倍もの高速で動くそうです。その速度に対抗できる戦士を作ればいいだけです」

 大統領「おお,そうかね。そんな最強の戦士が生まれるのかね。それは楽しみだ。つまらない質問だが,その指輪は,もともと魔界にあったのだろう? なんで,千雪が魔界にいるときに,その指輪の力を発揮しなかったのかね?」

 ピアロビ顧問「魔界は,魔法に頼り切りの世界です。この国の精錬技術には到底及びません。効率の悪い魔鉱石をそのまま使って,なんとかするようなことしか考えません。そのように,頭が硬化してまって,柔軟な発想ができないのです。ですから,この指輪があっても,せいぜいドラゴン数体程度しか生み出せません。それでは,千雪の持つ契約獣ゴールデンドラゴンにも勝てやしませんよ」

 大統領「いや,,,あまり理解できなかったが,とにかく千雪に勝つ勝算はあるんだな?」

 ピアロビ顧問「そうですね,勝つ確率は,5部5部といったところでしょうか。私が殺されたら,娘が私の霊体を確保して,魔界に持って帰ってくれる予定です。いずれは転生できるし,そうでなくても,魔体があればそこに乗り移れますから。まあ,それでもいいかと思っています。千雪がこの世界に来たときから,いずれ彼女と戦うだろうとは,覚悟していました」

 大統領「そこまでしても,5部5部なのか。もっと勝率はあげれないのか?

 ピアロビ顧問「無理ですね。でも,千雪が勝つにしても,辛勝でしょう。無傷ではすまないと思います。彼女に一泡吹かせてあげることは十分にできるはずです」

 大統領「おお,そうか。大いに期待しているぞ!」


ーーーー

 仮住まいの千雪邸の2階には,教団事務所がある。メーララの教団は『神王教』として活動を始めた。まだ,おおっぴらに布教活動をしていないが,徐々に信者が増えつつある。『夢現幸福教』が壊滅してしまったが,行き場を失った信者が,徐々にメーララのところに集まってくるからだ。


 そのころ,千雪は,頗る能天気な日々を過ごしていた。あまりに暇まので,千雪は,久しぶりに教団の事務所に顔を出した。教団の事務所には,採用したばかりのスタッフが2名いる。まだ,千雪のお手つきになっていない。サルベラの肉体の改造が

終わっていないせいもある。それよりも,茜の嫉妬がだんだんと厳しくなり,他の女性を排除する動きに出てきた。千雪の回りを,最大4名の女性で囲い込む作戦のようだ。でも,千雪はつまみ食いをしたい。まずは,ターゲットは,この新しく入った処女2名だ。春香と夏香だ。


 千雪「いま,何してるの?」

 春香「あっ,千春様だ。どうぞ,座ってください。今,教団の制服をデザインしているんです。あと,教団でのパーティ用のドレス,カジュアル用の服装それぞれ3点くらい。服装は,女性の基本ですから」

 千雪「なるほどね。確実に売れる商品ね。制服は,あまり利益を取らないでいいわよ」

 春香「はい,了解です」

 夏香「あの,千雪様。教団にも,なにか,目玉商品がほしいと思います。人形みないなものが。リンリンばっかり,ドラゴンとか,人形与えて,不公平を感じてしまいます」

 千雪「そうねーー。あとは,死霊術しかないしなーーー。そういえば,この精霊の指輪に聞いてみようかな?」

 夏香「あら?きれいな指輪ですね」

 千雪「もらった当時は,ぼろぼろだったのよ。でも,今は,こんなにきれになっちゃったのよ。自己修復する指輪よ。もうすぐ,複製体を作れそうよ」

 夏香「複製体?」

 千雪「そうよ。複製体の指輪に,異能力を移すって言われているわ」

 夏香「へー」

 春香「すごーい」


 そう言われて,千雪は,おだてられて,だめもとで,指輪に向かってお願いしてみた。 


 千雪「指輪さん,何か,面白いもの,創れるのですか?例えば,人形とか,ドラゴンとか,パンダとかでもいいのですけど」

 

 ボボボボボー!!


 その精霊の指輪は,強烈な閃光を放った。それから,複数の魔法陣がどんどんと形成されていった。それは,肉体生成魔法陣とはまったく異なるものだった。特別な召喚魔法のようだった。


 ホァーー!!


 人のようなものが現れたかと思うと,すぐに消えてしまった。


 千雪「えー??,どうしたの? なんか,中国のおとぎ話に出てくる蛇女のような姿が出現したかと思うと,すぐに消えてしまったわ」


 千雪は,魔力が足りないと思い,カロック,メーララ,サルベラを呼んで,彼らの魔力を,千雪の精霊の指輪に流してもらった。千雪の精霊の指輪は,霊力でも魔力でもパワーに変えることができる。


 精霊の指輪に,十分すぎるほど魔力と霊力が流れた。


 千雪「指輪さん。もう一回,さっきの召喚のような魔法をお願います」


 精霊の指輪は,再度,魔法陣を起動して,魔力と霊力をすべて使って,召喚した。


 ボボボボボーーー!!

 ホァーーーー!!


 蛇女が浮かび上がった。それは,伝説に出てくる女媧(じょか)の姿のような蛇女だった。腹部から上は女性で,腹部から下は蛇。蛇の部分は,4mにも及んだ。どくろを巻いて,千雪たちを見た。


 年齢は16歳くらい。髪は,緑色の長髪。千雪にも引けをとらない超美人。どことなく千雪に似ていた。服は着ておらず,胸はかわいいAカップくらいだ。


 蛇女は,『私を召喚したのは,誰?この世界はどこなの?私を元に戻してくれる?』と言ったつもりだが,まったく通じない。


 千雪は,月本語,英語とか魔界語話しても通じなかった。そこで,一番,暇そうにしている香奈子に彼女を押しつけた。


 千雪「香奈子,蛇女の対応しなさい。空いている部屋を彼女に使ってもらっていいわ。食事もちゃっとしてね。他のスタッフにも,割り振っていいわよ。じゃーね!!」


 千雪はそう言って,その場から逃げた。千雪は自分で召喚しておいて,香奈子に丸投げした。


 香奈子「千雪様! ちょっと,無責任ですー!」


 そうは言ったものの,千雪にそれ以上,追求しても始まらない。


 召喚された蛇女は,言葉がまったく通じない。とりあえず蛇女を『ホーカ』と名づけた。


 そして,『行く,歩く,食べる,私,あなた』などなど,赤ちゃんに言葉を教えるように,ホーカに言葉を教えた。学習机,椅子,ノートと鉛筆も準備した。


 他のスタッフにも,空いている時間を使って協力してもらった。さらに,成美たちも加わって,日本語の集中レッスンが行われた。


 寝る時間はなし。ホーカは寝なくてもよかった。また,一度,言ったことはすぐ覚えた。1週間でほぼ会話ができるようになり,2週間目でテレビの内容を理解できるようになった。


 ホーカが月本語を話せるようになったのを聞いたので,千雪がホーカに会いにきた。ホーカは,相変わらず召喚されたままの姿だった。千雪は,

ホーカと2人きりになった。というのも,他のスタッフは,千雪に遠慮して席を外してしまった。 


 千雪は,ホーカの胸に両手を接触させて精神支配を施した。ホーカが千雪を好きなるという精神支配だ。


 3分経過,,,

 

 千雪「ホーカ,わたしのこと好きになった?」

 ホーカ「初めてあったときから好きですよ」

 千雪「え?そうなの?精神支配があまり効果ない感じね。もう一度,試しましょう」


 千雪は,再度,精神支配を試みた。 


 3分後,,,


 千雪「ホーカ,どう? わたしのこと,もっと好きになった?」

 ホーカ「え? 初めてあったときと変わりませんけど?」


 千雪は,ガックリきた。千雪の精神支配が効かない人物は,リスベルに続いてホーカが2人目だ。


 千雪の両手は,ホーカの胸に接触させたままなので,千雪は,精神支配の効果を引き上げるため,霊力を自分の手の平から,ホーカの体に流した。


 ズズズー!!


 千雪の手の平から霊力がドンドンとホーカの体の中に入っていった。しかも,千雪がもう充分だと思って,霊力の注入を取りやめたのに,その制御が出来なくなっていた。


 千雪「え? 霊力が吸われる? 何?これ? あーー,もうダメ! 霊力が全部吸い取られるーー!!」


 ホーカは,吸収した霊力を胸の部分に注入していった。そのため,ホーカの胸は,やや大きくなってCカップほどになった。


 千雪は,自分の霊力が吸収されてた後,体力も奪われてしまって,その場に倒れた。千雪は,まさか自分が霊力や体力を奪われるとは思ってもみなかった。


 ホーカは,蛇状の体で,千雪をぐるぐる巻きにして,そのまま寝入った。


 

 ーーー

 翌朝,,,


 千雪は目覚めた。千雪は,ホーカの蛇の体によって,ぐるぐる巻きにされているのがわかった。


 千雪「ホーカ,ホーカ,起きてちょうだい。このぐるぐる解いてちょうだい」

 

 しかし,ホーカは起きなかった。今の千雪は,手も足も動かせない。霊力は回復したものの,霊力を使えばホーカにまた吸収されてしまう。霊力の使えない千雪など,最弱の小娘だ。


 唯一動かせるのは,歯くらいしかない。そこで,口部分に当たっているホーカの体表を噛んでみた。しかし,ホーカの皮膚は,弾力があって,もち肌しているのに,いくらきつく囓っても傷ひとつつかない。


 千雪は,もうお手上げ状態だった。


 いったい,ホーカって何なの? 千雪に敵対しているようでいて,でも,殺すこともしないし,,,それでいて,このぐるぐる巻きの状態にされているのも,なんか,心地良い感じがする。


 しばらくして,ホーカが目覚めた。それとともに,千雪を解放した。


 やっと自由を取り戻した千雪は,なんか,体が重くて倒れた。


 千雪「え? 何? どうしたの??」


 千雪は,昨日まではGカップだったはずだが,今は,なんと,10倍以上も大きいZカップにまでなっていた。21kgにもなる胸に変化していた。


 千雪は,まったく理解が追いつかなかった。天変地異だ。まったく,どんな原因で,こんなことになったのか?


 千雪「ホーカ? わたしの体,どうしちゃったの?」

 ホーカ「わかんなーい」


 千雪が類推するに,ホーカの周囲に,膨大なエネルギー流が巻いている感じがして,そのエネルギーの一部が,千雪の胸に流入したとも考えられるが,ほんとうのことはわからない。


 千雪「まあいいわ。昨日,どうして,わたしから霊力を吸収したの? それも体力まで」

 ホーカ「それって条件反射です。霊力を注入されたので,吸収し続けただけです。ついでに体力も吸収してしまいました」

 千雪「・・・」


 どうやら,ホーカは,千雪に対して敵対行動する意思はないようだった。

 


ーーーーー

 翌日,


 香奈子「千雪様,α隊長とピアロビ顧問,その娘,マレーベリさんが午後にでもお邪魔したいとの要望です」

 千雪「手土産をたくさんもってきたら,会ってあげるって返事して。こっちは,Zカップになってしまって,歩くのにも大変なんだから」


 そんな冗談を言いつつ,午後になって,彼らが千雪邸に姿を現した。


 α隊隊長「忙しいところすまない。ピアロビ顧問が話があるとのことです。聞いてもらっていいかな?」

 千雪「手土産は?」

 α隊隊長「はい。たい焼きです。200個入っています」

 千雪「そう? この貴重な時間が,たい焼きに化けたのね。まあいいでしょう。はい,どうぞ。2分で話してください」


 千雪は,まともに聞けるのが,2分くらいだとわかっていた。


 ピアロビ顧問「千雪さんは,また,超大きな胸していますね。どうしたんですか?」

 千雪「ちょっと,変な現象が起きてしまって,胸に変なものが貯まってしまったわ。母乳が出そうなんだけど,まだZカップになったばかりで,まだ母乳がでないの。そんなことより,要件をどうぞ」

 ピアロビ顧問「これは,失礼しました。千雪さんは,もう何百人も人を殺害したと思います。その亡くなられた方々の魂の一部が,私に訴えかけてくるのです。


 わたしは,別に霊能力があるわけではありません。でも,恨みを晴らしてくれと,夢にでてくるのです。それで,ある高名な霊媒師に相談したところ,一番いい方法は,千雪さんに死んでもらうこと。無理なら,千雪に殺された人たちのために建てた慰霊塔を造って,その前で,千雪とそっくりな人形を焼くこと。そして,千雪さんには,できるだけ遠い国にいってもらう,というものでした。


 私は,あなたに何の恨みもない。だが,この人間社会で恩恵を受けてきた身だ。恩返しをしたいと感じている。だが,あなたに関わるということは,自分の命をかけるということだ。私も命はおしい。そこで,大統領とも相談したところ,私の命をかけるに値するに条件を頂いた。


 千雪さん,私は,あなたと生死をかけた勝負をしたい。しかし,あなたにとっては,私と戦っても何のメリットもない。そこで,5億円用意した。私のポケットマネーだ。これで,私との勝負を受けてほしい。そちら側は,何人参加してもかまわない。こちらは,この新しいドラゴンの指輪を使う。場所は,因縁のある朝日公園でどうでしょう? 日時は,1ヶ月後の午後2時。


 立会人は,私の娘とα隊長にお願いする。私が死んだら,娘は,私の霊体を持って魔界に戻る予定だ。幸い,この精霊の指輪は,霊体を捕獲する能力を持っている」


 千雪「私が死んだら,どうなるの?」

 ピアロビ顧問「娘のマレーベリが,あなたの霊体を確保して,魔界の尊師のところに持っていってあげよう。尊師なら,何かいい方法があると思う」

 千雪「娘さんは,魔界とこの世界を往復できるのですか?」

 娘「はい,できます。尊師から,往復できる魔法陣と魔法石を準備してもらいました。金貨1000枚かかってしまいましたけど」

 千雪「ピアロビ顧問,死ぬ以外に,勝敗の判定を決めることはできますか?」

 ピアロビ顧問「そうだね,,,戦い不能となった場合かな?私が形成したドラゴンが死滅したら,私の負け。あなたが,戦い不能と宣言したら,あなたの負けでどうだろう?」

 千雪「そうしてもらえると嬉しいですけど,私が殺した人たちの恨みは,晴れないでしょうね」

 ピアロビ顧問「あなたが勝っても負けても,あなたとそっくりな人形を,あなたに殺された人たちを慰霊する慰霊塔で焼くことに同意してもらいたい。それで彼らの霊魂には納得してもらう。


 あなたが負けを認めた場合は,あなたは,この世界から魔界かどこか別の世界に行ってもらう,ということでどうだろう?」

 千雪「つまり,私が死ねば,霊体と指輪を尊師のもとに持っていく。死なないで降参すれば,人形を焼いて,私はこの世界から出ていく。私が勝った場合は,人形を焼くだけ,ということですね?」

 ピアロビ顧問「そう理解してもらうと助かります。この世界から出ていっても,大統領が代われば,また帰ってくればいいでしょう。また,いろいろと騒ぎを起こしてもいいでしょう」


 ピアロビ顧問は,ある会社の資料を千雪に渡した。


 ピアロビ顧問「こちらが人形を作る制作会社になります。千雪さんの顔写真,全体の写真をこの会社に送って貰えれば,1ヶ月もかからずに,千雪さんの手元に届くと思います。送付してもらう写真,製造関連のデータは,人形が完成すればすべて償却処分になりますので安心ください。仮にヌード写真を送ってもらっても守秘は守られますから安心ください」


 千雪は,この戦いにリスクは低いと判断した。死んだところで,霊体が魔界に運ばれるだけだ。肉体の死に対して,さほど恐怖を感じない。それに,悪霊大魔王に,自分の霊体の居場所を造ってもらってもいい。千雪は,5億円のために,その戦いを引き受けることにした。


 千雪「写真の件は了解しました。では,戦いの件,引き受けさせていただきます。

 ピアロビ顧問「そういうと思っていました。引き受けてくれてありがとうございます」



 ー 千雪の部屋 ー

 千雪は,さっそく香奈子に制作会社を調査させた。香奈子からの情報では,この会社はラブドールでは国内トップメーカーの会社であり,また,千雪の写真を元にして制作する人形は,可燃型のラブドールということも判明した。送付してもらう写真は,できれば裸体,無理なら薄めの下着姿の全体像が望ましいとのことだった。


 香奈子「なんで千雪様と同じ大きさのラブドールを作るのでしょう?燃やすだけなら小さい人形でもいいのにね?」

 千雪「霊媒師と相談したって言ってたわね。だいたい予想がつくわ。霊魂への最後の餞(はなむけ)ね」


 千雪は,自分の裸体の写真を送ることにした。これまで多くの男どもを殺してきた償いだと思った。


 千雪「香奈子,わたしの裸体を何枚も写真にとって,データを送ってちょうだい。それと,身長,胸囲,ヒップの長さなどの情報もね。人形の制作後は,写真データや制作データの消去がほんとうに行われたか,確認とってね。もし,変なことしたら,その制作会社,消滅させるから,香奈子もしっかりチェックしなさい」

 香奈子「明日にでも,直接写真データを持っていって注意してきます」


 さっそく茜に千雪の顔写真とZカップの写真,全体の写真を十数枚撮らせた。茜はさっそくその写真データを持参してその制作会社を訪問した。



 ー ラブドール制作会社 ー


 ラブドール制作会社社長は,この仕事には乗り気ではなかった。特注品だし,入手した写真は,人形作成以外では使わないこと,人形が完成した後は,送付された写真,作成に使用した金型,データ類はすべて廃棄すること,という厳しい条件がついていた。いくら良いお金になってもやりがいは出てこなかった。


 香奈子「これが写真データです。このデータは厳密に管理ください。ちょっとでも漏洩が発覚すると,極端な話,社長の会社は,信用ない,ということで,会社の倒産ということにもなりかねません」

 社長「もちろん。守秘は当然として,制作用に加工したデータ,鋳型などもすべて消去する契約だ。制作完了時に,連絡するので,こちらに来ていただきたい。消去する現場をお見せしよう」

 香奈子「わかりました。では,連絡お待ち申し上げております」


 それから1ヶ月弱で香奈子に連絡があり,さっそく香奈子は制作会社に訪問した。


 社長「香奈子さんがあの日渡してくれた写真を見て,びっくりしました。心臓がバクバクとうごめいてしまった。超絶美人,いや,その表現では到底足りない。この世のものとは思えないその美しさ。さらに,21kgにも達するZカップの超がつくほどの巨乳。理想の中の理想,ラブドールの極地をそこに見出したのです。


 全社員総出で,精魂込めて作らせていただきました。事前に制作費用と完全償却費用あわせて2億円,もちろん,十分にお釣りが来る額です。ですが,社員が全員異常なまでにやる気を出してくれまして,予算度外視で,設計,3Dモデリング加工,高級な材料,3Dプリンターの24時間フル稼働をして制作いたしました。その結果,見てください,この出来栄え。みごとでしょう」


 香奈子「うわ!!本物そっくり。肌触りもすごくいいです。これはすごい。見事としかいいようがありません!!」

 社長「そうでしょう。実は,制作に3億円もかかってしまいました。大幅な赤字です。そこで,この写真の方に会わせていただけないでしょうか。このラブドールの複製体を売りたいと考えています」

 香奈子「会わせるのはいいけど,複製体を売るのには反対するでしょうね。まあ,いいわ。そのラブドールを納入するという名目で,私と一緒に行きましょう」

 社長「ありがたいです。感謝です」


ーーーー

 ー 千雪邸 会議室 ー


 千雪とラブドール制作会社社長が面談を持つことになった。


 社長「千雪様,ラブドールを納入に伺いました。どうぞ実物の確認をお願いします」

 千雪「あらーーー,ほんとに,私とそっくりね。肌の質感もいいわ。乳房,乳首,その形,みごとに私と同じですね。これは苦労したでしょうね。こんな短時間で作って」

 社長「はい。設計が間に合わず,特別に5人も増員して,24時間体制で制作しました。みな,やる気がすごかったです。そのため大幅な赤字がでてしまいました。それで大変申し訳ないのですが,このラブドールの複製体の販売許可をいただきたいのです。もちろん,それなりの謝礼は差し上げます」

 千雪「販売予定価格は?わたしの取り分はいくらなの?」

 社長「はい,複製体といっても,ここまでの質感にはなりません。コストダウンをかなりしないと現実味の値段にはなりません。でもなんとか,35万円くらいには,したいと考えています」

 千雪「わたしの取り分はいくらですか?」

 社長「純利益の1割でいかがでしょう。1体の純利益が10万円として,1万円が千雪さんの取り分です。1日5体売れるとして,1日5万円。1ヶ月で150万円くらいにはなると思います。もちろん,赤字を解消した後は,純利益の5割を提供します」

 千雪「わかりました。いいでしょう」

 社長「ありがとうございます!ありがとうございます!」


ーーー

 テレビ局の関係者が千雪邸を訪問した。例の特番のテレビ放送があってから,1ヶ月が経過していた。


 千雪「日の出放送局局長,ご無沙汰してます。わたくしどもの『あずさ』の売り出し状況について,教えていただけますでしょうか?」

 局長「はい,では,報告させていただきます。『あずさ』ですが,『清純さ』・『明るさ』・『愛嬌』というイメージよりも,『妖艶』,『セクシー』,『豊満』というイメージがつきまといます。

 

 どうしても一般受けは困難だと判断しました。企業のマスコットにするには,逆にイメージダウンになってしまいます。ですが,アダルト関連では,逆に,それが長所になります。


 当社の関連会社のアダルトビデオ作成会社のマスコットドールに採用が決定しました。そこで作成するすべての作品に,『あずさ』のマスコットイメージが貼り付けられます。そこで,相談なのですが,たまたま撮影した『あずさ』のストリップショーですが,それをシリーズ化して,ビデオ販売とオンライン販売をしたいと考えています。


 あの,,,できれば,『あずさ』を男優とのボディータッチも許可してほしいと思います。いかがでしょうか?」


 この提案に,千雪は同意した。1ヶ月に少なくとも4作品を作ることを条件に出した。


 この提案に,逆に,局長側はびっくりした。


 局長の隣に,そのAV制作会社の担当者もいたが,彼もこれにはびっくりした。


 局長「それはいいのですが,もし,作成した作品が,あまり売れなくなった場合は,また別途,相談させてください」

 千雪「もちろんです。そちらが儲からないことを強要するつもりはありません。場合によって,『あずさ』を諦める選択も十分にあります」

 局長「わかりました。では,とにかく,数ヶ月は,その条件で全力で頑張ってみます」


 局長が,起立してお辞儀したので,千雪も起立してお辞儀した。千雪のお辞儀は,Zカップのおっぱいを左右上下に揺らしながらのお辞儀だ。


 千雪「日の出放送局局長,あなたがたのあずさへの熱意については,了解しました。その熱意を認めます。これで,やっと,あなたがたは,謝罪を提示でできるテーブルについたことになります。では,改めて,謝罪の提示をお願いします」

 局長「われわれの努力を認めていただき,ありがとうございます。慰謝料として100億円ではいかがでしょうか?」

 千雪「そうですか,,,よくそこまで提示していただきました。あなた方の年間の純利益に相当する額ですね。了解しました。日の出放送局局長,テレビ局側としての謝罪は受け入れます。この件に限定しますが,あなた方日の出テレビ局および日の出テレビ局の社員への報復行動はいたしません」

 局長「謝罪を受け入れて,ありがとうございます」

 千雪「では,一筆こちらもその旨を書きましょう」


 千雪は,以下の文を書いて,日の出放送局局長に渡した。


『今回の特別報道番組に限定しますが,あなた方日の出テレビ局および日の出テレビ局の社員への報復行動はいたしません。千雪』


 局長「はい,ありがとうございます。では,これで失礼します」


 ーーーー

 帰り道


 局長「意外とスムーズだったな」

 秘書「局長,私はそうは思いません。日の出テレビ局とその社員は守られたかもしれません。しかし,子会社のあの部長は,この謝罪文には含まれていません」

 局長「ああ,そうだな。しかし,α隊隊長は,事前に私に注意したよ。そこまでは求めるなと。たぶん,1000億円以上は要求されると。それでも,守れる保証はないと」

 秘書「では,あの部長を見殺しにするのですか?」

 局長「いや,ただ,われわれができるのは,ここまでだ,ということだ」


ーーーー


 『あずさ』は,その後,ストリップショーのソフトタッチ・スタイルによるシリーズがネット販売された。最初の2ヶ月間は,好調に販売したが,3ヶ月目からは,ファンからも飽きられてしまい,売り上げが大幅にダウンし,とうとう4ヶ月後には『あずさ』のストリップショーシリーズは終了した。


 千雪の密かに期待した『あずさ』の『寿命エネルギー吸収装置』としての役目も,空振りに終わった。


 ーーーー

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