第18話 雪生と小雪の旅立ち


 キー---!!


 自動車が急ブレーキを踏んだ。彼女は,初めての道でナビに注視しすぎて,飛び出してくる少女の発見に遅れてしまった。


 バサッ!!

 少女は,その場に倒れてしまった。運転者は,少女を車で引いたわけではない。ギリギリ衝突を免れた。だが,少女のほうが車に驚いて,その場に倒れてしまった。


 車を運転していたのは,消滅した千雪邸の代わりにメーララが借りたマンションに急ぐ葉月だった。まだ,ボディーラインの改造が終了していないので,千雪に抱かれていない。あと1週間は,通わないと千雪の好みの体にならないらしい。


 葉月「あなた!!大丈夫?」


 葉月は,車から降りて倒れた少女のところに来た。少女は,色白で肌も真っ白だった。一度も日に当たっていないようだった。少女は,すぐに起き上がったが,返事はしなかった。


 葉月「あなた?私の声,聞こえていないの??大丈夫??」


 少女「・・・,わたし,,,だれ?ここ,,,どこ?」


 葉月は,めんどくさいことになったと思った。新しい千雪邸のマンションに時間通り行かないと,千雪の仲間に嫌がられてしまう。現在の状況では,千雪はどうでもよかった。千雪の仲間,とりわけ,サルベラ,メーララ,アカリの3人の女性がキーパーソンだ。この3名がこの組織を牛耳っていると思っていい。千雪の実質の弟子はハルトだ。ハルトは毎朝の会議には出席するが,その後すぐ修行に行ってしまうので,なんら決定権はない。


 葉月は,この少女をこのまま見捨てようとも思ったが,やはり見捨てることもできず,この少女を連れていくことにした。



 ー 新しい千雪邸 ー


 新しい千雪邸に着いて,葉月がサルベラたちに,少女を紹介すると,この少女のことで話しが盛り上がってしまった。


 この少女は,自分の名前さえも覚えていなかった。身分証明書などはいっさい持っていない。身元のわかるものは,いっさいなかったのだ。まず,仮の名前をつけることから始めた。


 サルベラ「葉月が拾ってきたから,葉月の名前の一部をつけるのがいいわね。じゃあ,月夜!」

 アカリ「私なら,そうね,月影!」

 メーララ「じゃあ,光月!」

 

 などと,この見知らぬ少女を出しにして,ああでもない,こうでもないとおしゃべりを楽しんだ。葉月は,いい話題提供をしてしまった。そのため,今日のボディーラインの改造はお流れとなってしまった。

 

 結局,決まったことは,この少女の名前は,『月影』と命名されて,当面はこのマンションで住み込みして,家事手伝いをすることになった。警察には,いっさい報告はしないことにした。せっかく,家事手伝いがひとり手に入ったのに,わざわざ手放す必要もない。


 翌朝,千雪が,元の千雪邸の跡地に姿を現した。そこでは,ハルトが,千雪を待っていた。


 ハルト「千雪様,お待ちしておりました。新しい千雪邸まで,お連れします」


 ハルトは,千雪を連れて新しい千雪邸へと連れていった。その間,昨日,何があったのかを詳細に千雪に報告した。


 千雪「なるほどね。あとは,大統領からお金をふんだくるだけね。じゃあ,私は本格的にハーレム王国をつくることにしようかな?ハルトは,修行の合間に,美人女性を探すようにするのよ」

 ハルト「はい,ですが,まず,50倍速に対処できるほどのパワーを身につけないと,千雪様を守ることもできません。もう1,2ヶ月,お待ちください」


 千雪「そうね,,,昨日は,久しぶりに真面目に魔法書を読んで,時間をつぶしてしまったわ。魔法書を読むと,時々,リスベルのこと思い出すのよね。彼は今頃何をしているのかな??」

 ハルト「リスベル様のことは,少しは伺っております。なんでも,古代文字の解読に得意だとか,,,」

 千雪「そうね。いろいろと魔法を解読してもらったわ。ハルトもそろそろ魔法を覚えてもいいかもしれないわね。でも,50倍速を達成してからがいいわ。それを達成できたら,魔法のようなことがいろいろとできると思うわ」


 千雪も久しぶりにゆったりとした時間を潰して,新しい千雪邸に到着した。


 新しい千雪邸で,各自の部屋割りをした後,朝の会議を行った。テーマは,もちろん,大統領への賠償請求の件だ。だが,その案を立案したのは,アカリであり,アカリのバックに控えている陸奥星財閥の連中であり,その案を実行するのは,メーララたちだ。千雪は,なんの役にもたたない。ただ,千雪は「ふんふん」と聞いているだけだ。どこかの潰れゆく会社の社長のようだ。


 アカリ「まず,大統領には,賠償金として100億円を請求します。さらに,千雪様のご意向で,麦国の人工衛星は1週間までには破壊することにします。この点については,いっさいの妥協はありません。破壊方法は,マサとサルベラさんで検討してもらいます。次に,賠償金についてですが,賠償金が払われても,払われなくても,東都電力の第8火力発電所の破壊を3日後に行います。これは,われわれの力を見せつける意味があります。次に,賠償金が支払われなかった場合,さらに,西都電力の第3火力発電所の爆破を行います。ほかに,候補がありますが,たぶん,100億円はその前に支払われるでしょう。大統領への退陣要求,および,われわれへの恒久的な安全保障を要求します。科学先端省長官の退陣要求は,別の方法で行いますので,今回は行いません。この要求は,美月さんからSARTの隊長経由,大統領に通達されます。千雪様,この案でよろしいですね?」


 千雪は,聞いてもさっぱりわからず,「う,うん,好きにして」と言うだけだった。


 その返事にさすがのサルベラも少々頭にきた。


 サルベラ「千雪,もうちょっとまじめに聞きなさいよ。ハーレムのことばっかり考えないで!!」

 千雪「サルベラ,あんた,文句あるの!!」

 サルベラ「文句あるわよ。だんだんと組織が大きくなるのよ。これから,成美博士だってくるし,リンリンだって来るわ。それに,秘書の香奈子だってもうすぐ戻ってくるのよ。千雪がしっかりしないと,どうしようもないでしょ!!」


 カロック「千雪,お前は,魔界では良くも悪くも,率先して自分で動いていたろ。だが,今はどうだ?茜を抱くだけで,自分ではまったく動いていないじゃないか!」


 茜の霊体をもった千幸は,恥ずかしくなって下を向いていた。確かにカロックの言う通りだ。この1ヶ月近く,千雪は霊体が茜の本体にもどったら,千雪は茜を亜空間につれて,延々と茜を抱く生活をしていたのだ。茜もその生活が普通だと思っていた。


 メーララ「千雪,今の千雪は,ダメ千雪よ。魔界の千雪のほうがよっぽど良かったわ。いっそ,リスベルの性奴隷に戻って,やり直したら??」

 

 カロック「なるほど。千雪をリスベルのところに送り返せば,千雪も反省するかもしれん。なにせ,千雪はリスベルと一緒なら,リスベルの奴隷だからな」


 サルベラ「そうね,もしかしたら,ピアロビ領主の持っている精霊の指輪って,リスベルのいる世界に行けるのかもしれないわ。今,電話してみるわ」


 千雪も,確かにここ数ヶ月は,怠慢な生活をしていたので,このように非難されても,反論することはできなかった。まさに,そのような生活を送っていたからだ。


 サルベラは,ピアロビ領主と電話連絡を取り,彼の精霊の指輪でリスベルの住む世界にいける可能性のあることを知った。また,指輪を提供する件については,大統領との直接面談で決着することにした。その決着の日は,麦国の人工衛星を爆破した翌日とした。


 サルベラ「千雪,1週間後には,指輪が手に入りそうよ。その代わり,いくらかわれわれの賠償請求を引き下げる必要があるわ。でも,千雪,あなたは一度リスベルに会ってきなさい。すこしは性根が治るでしょ!!」


 カロック「私も賛成だな。今の千雪では,われわれは千雪についていくことはできない。リスベルに性根を叩き直してもらえ!」

 

 メーララ「千雪がいなくても,サルベラやカロック,ハルトもいるから,この組織は大丈夫よ。私もコンスタントにお金を稼げるようになってきたしね」


 千雪「ふん,みんなして,私に反抗して!!でも,まだ抱いていな人がいるから,どこにもいけないわ!」

 サルベラ「じゃあ,抱いたら,さっさとリスベルのところに行きなさいよ!!この色気ちがい!!」

 千雪「ふん,自分だって,さんざんリスベルの性奴隷になっていたじゃない!!」

 サルベラ「それって,千雪が強制したんでしょ!!今の千雪は何?茜の体にでも魅了されて,もぬけの殻にでもなったの?この変態!!ドスケベ!,色気ちがい!そんなけ好きなら,毎日乙女をあてがってあげるわ!ただし,精霊の指輪を手に入れるまでよ!!手に入れたらさっさとリスベルのところに行きなさい!!その腐った根性をたたき直してもらいなさい!!」

 千雪「ふん!リスベルには会いたくもないけど,毎日,乙女を抱くのも悪くないわね。サルベラ,じゃあ,さっさとあてがってよ!!」


 こんなやりとがあって,今日は,葉衣が千雪の相手をすることになった。千雪は,葉衣とハルトを連れて,さっさと亜空間に消えた。ハルトは,この時から千雪がリスベルの住む世界に出発するまで千雪と過ごすことになる。


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 ー 大統領執務室 ー


 大統領執務室では,大統領と秘書長が,そして,ウェブ上では,陸海空の大将3名,SART隊長,ピアロビ顧問,財務大臣らが,千幸側からの賠償請求について議論していた。


 SART隊長「大統領,先日のビーム砲では,千雪の家の破壊に成功しました。ですが,千幸は家にはいなかったようです。また,木の葉会のハルトは,ロケット弾10連発が直撃しましたが,殺せませんでした。その後,50口径の機関銃300発の連射を行いましたが,それでもハルトは殺せませんでした。ハルトは怪物になってしまったようです。


 繁木会の用心棒,金竜は加速の動きができます。その金竜ですが,映像解析によれば,加速20倍でもハルトを倒すことができず,加速50倍でかろうじてハルトを倒すことができました。その後,女性の千幸に戦いを挑みましたが,重力魔法で加速を防がれたようです。その後,ピアロビ顧問が,その場の戦いの水引を行いました」


 SART隊長は,ここで一息ついた。 


 ピアロビ顧問「私の金竜が,勝手に千幸と勝負を挑んだもので,たしなめました。金竜の出しゃばった行動については,千雪側に,何らかの賠償をするつもりです」


 大統領「そうか,,,作戦が失敗したのは,知っていたが,ハルトがそんなにも強くなっていたのか,,,それで?千雪側からの要求は?」


 SART隊長「はい,千雪側からの請求は3項目です。賠償請求金額が100億円,大統領の退陣要求,千雪側への恒久的な安全保障です。もし,約束が履行されなかった場合,2日後に東都電力の第8火力発電所が破壊されます。さらにその2日後には,西都電力の第3火力発電所が爆破されます。その後,順次,エネルギー施設を破壊していくとのことです」


 大統領「そうか,,,だが,千雪側の請求で,大統領の退陣については,すぐには飲めないな」

 

 大統領は,ピアロビ顧問のモニターに向かって言った。


 大統領「ピアロビ顧問,千雪側に私の退陣請求を取り下げる方法はないのか?」


 ピアロビ顧問「もちろんあります。ご安心ください。かつ,請求賠償金も減額できるかもしれません」


 大統領「おお,して,その方法とは,例の指輪なのか?」


 ピアロビ顧問は,左手にしている指輪をビデオカメラの前に示した。


 ピアロビ顧問「そうです。この指輪です。精霊の指輪です。異次元への扉を開く指輪です。千雪側から,この指輪を入手できれば,大統領の退陣要求を取り下げるだけでなく,大幅に賠償請求の見直しをすると言ってきています。どうも,千雪の側近側は,千雪に離反しているようで,千雪をこの世界から追い出そうとする動きがあるようです。ともかく,千雪側との交渉については,私に一任してもらえると嬉しいのですが」


 大統領「なるほど。わかった。その交渉はピアロビ顧問に一任しよう。ところで,千雪はもう殺人事件は起こしていないのか?」


 SART隊長「はい,最近は起こっていないと考えていいと思います。というのも,千雪自身が家から一歩も出ていないように思います。ただ,不思議なのは,家から一歩も出ていないのに,なんでテレビ出演できたのかが不思議です。それに,千雪がテレビに出演したことで,一部の若者に,原因不明の自殺が報告されています。自殺した若者は,不鮮明な千雪のテレビ画像を印刷していたようです。このことと千雪にどのような因果関係があるのか,まったくわかっていません」


 大統領「そうか,,,どのみち千雪がこの世界からいなくなるのはありがたいことだ。しばらくは平和が訪れるのだな」


 SART隊長「はい,そう思います。ただ,一点気がかりなのは,ビーム砲について,いっさい触れていないことです。なんか不気味です」


 ーーーー

 ー 月本国,縦須賀麦国軍事駐在本部、麦国人工衛星管理室 ー


 右国人工衛星の軌道を管理している自動運行システムが,急にアラーム音を発した。


 ピーポーピーポーピーポーピーポー


 アラームを発したあと,人工知能は,墜落軌道を計算して,その結果を音声で報告した。


 「人工衛星オメガ・スリーは,墜落軌道に乗りました。まもなく大気圏に突入します。大部分は分解しますが,コア部分は分解せずにそのまま地球に落下します。落下地点は,月本国関東地区の東都中心部です。すでに,自爆システムが故障しており,自爆することはできません。墜落まで,およそ5分後です」


 担当者は,この音声を聞いて超レベルで慌てた。なんで急に人工衛星が墜落することになったのか!!??


 この人工衛星管理部には,常に月本国の軍人も同席している。大統領へのホットラインもある。彼は,至急大統領に連絡した。至急の場合,音声が直接流れるシステムだ。


 ー  大統領執務室 ー


 大統領執務室では,まだ,賠償請求の件では,大枠は決まったものの,さらに細かな打ち合わせを行っていた。そのときだった。緊急連絡が入った。


 「ピピー,緊急連絡です!大統領,麦国人工衛星オメガ・スリーが墜落します。落下地点は,関東中心部のもよう。あと,4分後に落下します」


 また,別の緊急連絡が入った。常時監視型の地上配備迎撃ミサイルシステムの担当官からの連絡だ。


 「プププー!!緊急連絡です!なぞの物体が関東地区に急速接近中です。迎撃ミサイル発射準備OKです。20秒後に発射します!!10秒経ちました。カウントダウンします。8,7,,,3,2,1。迎撃ミサイル発射します!!」


 パシューーー!!


 迎撃ミサイルが発射された。


 ボボーーーン!!


 迎撃ミサイルは,数秒後になぞの物体に衝突した。それは麦国の人工衛星のコア部分だった。


 その人工衛星のコア部分は,木っ端微塵に粉砕された。だが,その細かな破損物は,関東中心部周辺にパラバラと飛び散って,一部のマンション・自動車などに衝突して破損を与えた。だが,幸いにも人身事故には至らなかった。


 「なぞの物体の爆破に成功です!緊急連絡を終了します。追って,詳細を報告します」


 大統領は,安堵の溜息をついた。


 大統領「どうやら地上配備型のイージス・アショアが有効に働いているようだ。だが,どうして急にオメガ・スリーが墜落するんだ?それも,関東の中心部に?」


 SART隊長「わかりません。今後の麦国の調査を待ちたいと思います」


 SART隊長は通り一辺倒の返答をした。彼は,この仕業は千雪側が行ったものと確信しているが,何分証拠がない。このように返事するのが精一杯だった。


 ピアロビ顧問「なるほど,,,千雪側がどうしてビーム砲について,なんの要求もしてこなかったのがこれで判明した。最初っから墜落させる気だったようだ。

 ふふふ。なかなかやるものですね。そうとう優秀な人材がバックについているとみていいですね」

 

 SART隊長「その点は,私も同意します。関係者にすぐに調査させたのですが,千雪側が破壊すると言ってきた,東都電力の第8火力発電所と西都電力の第3火力発電所は,もともと,数年後には廃炉が決定しているものです。爆破されたとしても,あまりダメージはありません。返って,解体する費用が節約できるというものです」


 大統領「なるほど,,,ということは,アカリのバックに陸奥星財閥系列の企業がサポートしていると見ていいのかな?」


 SART隊長「私もそう思います。アカリがうまく千雪側を操っているとみていいでしょう。オメガ・スリーが関東の中心部に墜落する起動にしたのも,イージス・アショアの有効射程距離の範囲内です。大統領への警告と同時に確実に撃墜できるだろうと見越したのでしょう」


 大統領「なるほど,,,アカリがいると,そのようなメリットがあるのか,,,こちらの動きが筒抜けになるという欠点ばかりではないのだな,,,」


 SART隊長「はい,そう考えていいと思います」



 確かに,ビーム砲の起動変更は,千雪側が行ったものだ。千雪側と言っても,千雪はまったくノータッチだ。サルベラの方針で決まった。


 アカリの依頼により,陸奥星財閥系列の宇宙科探査研究所の分析によって,麦国人工衛星の詳細な軌道が判明した。その軌道と,転移魔法陣の座標点を照合して,衛星軌道上に転移魔法陣を発動させて,100メートルほど地球側に転送させただけだ。それだけで,地球の重力に引っ張られ,墜落してしまった。その人工衛星は,すでに自力で軌道修正することができなくなってしまった。

 

 ピアロビ顧問は。その後,サルベラと何度かやりとりをして,以下の内容で大筋合意した。


 合意内容


 ①月本国は千雪側に,慰謝料および千雪の家屋の修繕費用として50億円支払う。

 ②千雪側は,大統領に対して退陣要求をしない。

 ③千雪側は月本国住民に対して不当な行為をしないかぎり,千雪側に対して超法規的な措置をしない。

 ④ピアロビ顧問は,即時,千雪側に精霊の指輪を貸与する。

 ⑤金竜のハルト,千幸への襲撃に対する保障として,金竜を3ヶ月間,無償で千雪側に貸与する。


 この合意がなってから,3日後に精霊の指輪と金竜が手に入ることになった。


 ー 千雪邸 ー

 大統領との合意が成ってから,3日が過ぎた。精霊の指輪と金竜を入手する日が来た。だが,実際に入手するのは,今日の夕方だ。千雪がそれらを手にするのは,明日の朝ということになる。

 

 サルベラは,ちょっと頭痛がしていた。今日,千雪にあてがう手持ちの『乙女』がいないのだ。今日の朝,せめて指輪だけでも手に入ればいいのだが,そうもいかない。


 数日前,幸いにも,成美博士,リンリン,そして香奈子が千雪邸にやってきた。というのも,成美博士は香奈子やリンリンの調査を終了したからだ。リンリンは,すでに警視庁を退職してここに来た。成美博士は退職していないが,長期出張調査ということにして,この千雪邸に来ていた。


 そのため,最初は葉衣をあてがい,次の日は葉月,繁木会会長の娘である葵,そして,成美博士,香奈子,リンリン,と,調子よく乙女たちを一日も欠かさずに千雪にあてがうことができた。だが,もう『乙女』の手配に底がついてしまった。


 サルベラは,リビングルームにいるメンバーの顔ぶれを見渡した。


 サルベラは,千雪が勝手に行動するのが怖かった。千雪が勝手に動くと,必ずといっていいほど人が死んでしまう。それも,男たちが千雪の美し過ぎる美貌とそのGカップの豊満な体に引かれて自我を忘れて千雪の体に触ってしまう。その結果,男たちはミイラ,骸骨,または,灰燼にまでなってしまう,,,


 その殺人行為がバレると,また超法規的措置がとられてる恐れがある。千雪にさっさと別次元の世界に行ってほしかった。千雪がいなくなると,困るのはハルトくらいだ。でも,ハルトの霊力はかなり安定してきており,千雪の母乳を飲まなくても,3ヶ月くらいは霊力が維持できそうだった。


 今後,ピアロビ顧問との関係を良好にすることで,魔界との接点を維持できるし,必要なら魔界に帰る道筋もつけられるだろう。トラブルメーカーの千雪を追っ払うことで,平穏な日々を送ることができる。サルベラとしても,誰かいい男を捜すこともできる。千雪さえいなければ,,,


 この場で,乙女がまだいるといえば月影だ。月影については,成美博士が昨日から終日,彼女をモルモットにしていろいろと実験していた。


 サルベラは,やむなく記憶をなくした月影を千雪にあてがうことを考えた。だが,事前に月影を説得する時間がなかった。千雪が魔界でしてきたように,無造作に見ず知らずの道行く女性たちを誘拐して千雪にあてがうという行動はもちろんできない。


 月影は,けっしてわれわれの仲間になったわけではない。でも,それしかなかった。いざとなれば,サルベラは不得意ながらも強制的に月影に精神支配をするつもりだった。それは,千雪が得意とするやり方だ。


 でも,これからの多くの犠牲者を出さなくするためには,避けて通れない犠牲だ。小を捨て大に就く。サルベラは,この言葉は決して好きではない。しかし,時としてやむを得ない選択をする時に,この言葉を思いだした。


 とうとうこの朝を迎えてしまった。


 千雪が,亜空間から出てきた。同時に,ハルトと昨晩千雪にあてがわれたリンリンも出てきた。


 朝の会議は,まず,成美博士からの説明で始まった。


 成美博士「昨日から,記憶をなくした月影を催眠療法で調査しました。その結果,いろいろとおもしろいことが判明しました。その要点を説明します」


 成美博士は,そのように話始めて,言葉を続けた。


 成美博士「月影に,いろいろと逆行催眠をかけました。その結果,異なった言語で話し始めました。どうも,香奈子にとりついた『異物』が話す言語に似ているようでした。それでも,この方法によって,月影は,多少は記憶を取り戻すことができました。月本語は,第二言語として習得したようです。この国へは,自分のいた国を救ってもらうべき人物を探しに来たことを思い出しました」


 「ほーー!」

 「国を救う救世主を探しに来るなんて,とってもすてき!!」

 「私が救世主として,行きたーーい」


 などなど,好き勝手な言葉が飛び交った。


 成美博士「そこに行く方法は,聞き出しています。富士山の東側にある山麓にある掘っ建て小屋から出入りするようです。その世界は,魔物が棲み,生存には大変厳しい世界のようです。魔物の活動が最近,活発化していて,救世主を求めているようです。ですが,それ以上の詳しい情報は聞き出せませんでした。逆行催眠でも,ここまでが限界でした」


 その話を聞いて,カロックが声を上げた。


 カロック「その話,乗った。私が行こう。ここにいても,アカリの子守ばかりで面白くないからな」

 アカリ「マサ!!絶対ダメよ!!マサは,私を選んだのよ!!それに,もう私,妊娠3ヶ月になるのよ。父親としての自覚持ってよ!!」

 

 それを言われると,カロックは何も言えなかった。


 サルベラ「博士,なんでもっと早く言ってくれなかったのよ!!そんな情報があるなら,ピアロビ領主から精霊の指輪を無理に入手しなくてもよかったわ。千雪をそこに放り込んでしまえば良かったのよ!!」


 この言葉に,この場にいた全員が納得した。


 千雪「月影!あなた,今の博士の言葉,ほんというなの?記憶をある程度,回復したの?」


 月影は,もじもじとしていた。もともと気が弱い性格で,記憶もなくしていて,何のために,この月本国に来たのかもよく分からない状況だ。成美博士に逆行催眠療法を受けたといっても,それで,記憶を取り戻したことにはならない。


 月影「あの,,,自分ではまだ,ほとんど記憶が回復していません。でも,その夢の中で,自分の名前は『ミグルバ』,自分の国の名前は『ガルベラ女王国』だと思い出しました。私がこの国に来たのは,私の国を救ってもらう強者を探すためです。


 あの,,,千雪様が,とても強者であることは皆さまから聞いて理解しています。私の世界に行って,私の国を助けていただけるのであれば,,,」


 その言葉を聞いて,サルベラが,目をキラッと輝かして,そのあとの言葉を補足した。


 サルベラ「月影は,千雪が彼女の国を助けに行くなら,月影は,自らの体を千雪に捧げると言っていますよ。千雪,さっさと月影を抱きなさい!!」


 サルベラの言葉に,月影が口を挟む余地はなかった。連日,ひとりずつ乙女が千雪に連れされられるのを見て,いずれは自分もそうなるのではないと感じていた。そして,『自分の国を救うため』という名目ならば,月影はそれを受け入れられる。


 千雪の答えは簡単だった。


 千雪「あ,そっ!月影,ここに来なさい!ハルトも一緒よ!」


 千雪は,そう言って,月影とハルトを連れて,さっさと亜空間へと消えた。千雪は,大統領との和解条件がどうなったかも聞くことなく,亜空間に消えた。尚,ハルトは,数人分の食事を亜空間に持ち込むのを忘れることなかった。さすがは,千雪の弟子というべきだ。


 千雪が月影を連れていったのを見て,サルベラはニタッと笑った。これで確実に千雪をこの世界から追い払えると確信した。


 カロック「サルベラ,ほんとうに千雪をこの世界から追い出していいのか?問題ないのか?金竜のような強者が襲ってきたら,どうするのだ??」


 サルベラ「そのときは,カロックが死に物狂いでやっつけなさい。千幸も戦力になるわ。ハルトも,レベルを日々あげているだろうし,千雪がいなくても,充分にやっていけると思うわ」


 カロック「多少,不安はあるが,心配してもしょうがないな。ともかく,うまくこの組織を回してくれ」


 サルベラ「そうね。メーララの教団は順調だから,もうひとつ,新しい商売を準備しないとね。ふふふ。明日,金竜が来るのが楽しみだわ」


 カロック「金竜?彼は商売ができるのか?」


 サルベラ「ふふふふふ」


 サルベラは笑うだけだった。


 朝の会議はこれで終了した。


 ーーーーー

 

 翌日の朝,いつものように千雪が亜空間から出てきた。そのあと,ハルトと月影が続いた。月影は,幾分,顔が赤かった。


 千雪たちが姿を現したので,会議が始まった。会議と言っても連絡会のようなものだ。


 成美博士が,昨日連絡できなかった件を報告した。


 成美博士「リンリンと香奈子に植え付けられたと思われる呪詛ですが,動物実験の結果,呪詛を証明できませんでした。香奈子は,自殺幇助の罪で起訴されることはなくなりました。ご安心ください。ですが,それで呪詛が施されていなかったということにはなりません。私は,これから千雪様に呪詛を習って,呪詛の証明方法を確立していなくてはなりません」

 

 サルベラ「でも,千雪はもういなくなるのよ。誰から呪詛を習うの?」

 

 この問いに,香奈子が口を挟んだ。


 香奈子「あの,ハルトさんから聞いたのですが,竜姫さんとその母親が近々こちらにお邪魔するそうです。その目的はよくわかりませんが,たぶん,われわれの仲間になってもらえるものと思っています。竜姫さんは,高名な解呪師ですので,呪詛についてはよく知っていると思います」


 その話を聞いて,千雪は黙っていなかった。


 千雪「竜姫なら,会ったことがあるわ。呼ぶまでもないわ。今から,召喚してあげる。ハルト,早速,実地訓練よ。召喚しなさい」


 ハルト「はい。では,実際に試してみます」


 ハルトは,この1週間,千雪から受け継ぐものがあった。それが『標的魔法陣』だ。いったん,千雪が別次元の世界に行ってしまうと,この世界との『糸』の繋がりが絶たれてしまう。そのため,千雪の持っている『糸』をハルトに引き渡すための方法を検討していた。そのためにも,ハルトに『標的魔法陣』の習得をさせることにしたのだ。幸い,ハルトは,記憶力と理解力がいいほうだったので,1週間で標的魔法陣を習得できた。そして,千雪から,これまでこの魔法陣で植え付けた『糸』をハルトに引き渡したのだった。


 ハルトに引き継がれた糸は6本だ。サルベラ,カロック,メーララ,香奈子,そして竜姫と名乗っている龍子とマリアの6名だ。


 ハルトは,何度も練習した標的魔法陣を左手の手の平の上に思い浮かべて,そこに霊力を流した。手の平上に,魔法陣が出現した。しかし,霊力の魔法陣なので,ハルトと千雪以外,それを見ることはできない。そこに繋がっている6本の糸の内,2本の糸にS級レベルにも相当する霊力を流し込んだ。単純に伝言を送信するだけなら,初級レベルの微細な霊力でこと足りるのだが,召喚となると,S級レベルの霊力を必要とした。だが,今のハルトにとって,1回や2回のS級レベルの霊力など問題にならなかった。


 ボアー!

 ボァー!


 ハルトの前に,龍子とマリアが召喚された。彼女らはサンドイッチを口にしているところだった。


 マリアは,一瞬何がおこったのか,さっぱりわからなかった。だが,龍子は,なんとなくわかった。龍子には,この『糸』を見ることができた。召喚される前に,この糸が強く光って,パワーの波動を感じたからだ。


 龍子は,周囲を見渡して,千雪がいるのを発見した。


 龍子「ママ,どうやら,千雪に召喚されたみたいよ」


 千雪「意外と察しがいいのね。関心だわ。でも,私の召喚能力はハルトに渡したのよ。これからは,当面の間,私の代わりにハルトがその任をするわ。ところで,竜姫,私に会いたかったそうね。理由は?」


 龍子「・・・」


 龍子は,すぐに答えれなかった。心の準備がまったくできていなかったからだ。それで,マリアが代わりに答えた。


 マリア「私は,竜妃の母親で,マリアと言います。私から返答します」


 マリアは,そう言って言葉を続けた。


 マリア「私たちの素性は,うすうす知っているかと思います」


 そう言われても,千雪はさっぱり分からなかった。だが,メーララが口を挟んだ。


 メーララ「ええ,だいたい予想がつくわ。あなたたち,魔界から来たのでしょう?それも,獣人国出身ね?」


 龍子とマリアは,メーララの言葉を聞いて安堵した。というのも,千雪とその仲間は,獣人国からの追っ手ではないことがわかったからだ。獣人国からの追っ手なら,明確に,『龍子』という名前を明らかにするからだ。


 マリア「はい,そうです。獣人国から来ました。訳あって,この世界に逃れてきました。逃亡生活の身です。ですが,千雪様との霊能力対決では,ついついお金に目がくらんで,テレビ出演してしまいました。結果は,テレビで見た通りです。千雪様には,とても勝てないと思い,途中で棄権しました。テレビ出演で,千雪様に始めて会ったのですが,その時は,獣人国の追っ手かもしれないと思ったのです。ですが,よく考えると,追っ手ではないと思い直しました。千雪様ほどの強者は,獣人国にはいないと思ったからです。それで,千雪様にお願いがあります。どうか,私たちを千雪様の仲間にしてください。私たちを獣人国の追っ手から守ってほしいのです」


 このような話になると,千雪の判断は不要だ。結局は,サルベラたちの負担になる。そこで,サルベラが口を開いた。


 サルベラ「獣人国の追っ手が,ほんとうにこの世界に来ているのですか?」

 マリア「私たちが獣人国の世界から逃げたのは,もう12年も前です。2年前までは,ある方の庇護下にいました。その間は,彼がすべて対応してくれていたので,仮に追っ手と遭遇しても,私たちに話すような方ではありませんでした。彼が去ってからの2年間は,追っ手に遭ったことはありません。ですが,いずれは追っ手は来ると思います」


 サルベラ「つまり,あなた方を仲間にすることは,厄介ごとを引き受けることになってしまうのですね?」


 その言葉に,マリアは反論できなかった。だが,千雪の反応は違った。


 千雪「いいでしょう。仲間になりなさい。でも,私に仲間になるには,ある儀式を受けなければなりません」


 千雪は,そう言って,マリアと龍子を亜空間に連れていって消えた。


 この場にいた全員がポカンとした。そうなのだ。もともと千雪は龍子を抱くつもりだった。男のマインドを持つ千雪は,美人の龍子を始めて見たときから,抱くつもりだった。あとの厄介ごとは,サルベラたちに任せればいいのだ。


 千雪が龍子とマリアを連れ去ってから,1分後,サルベラは,我に返った。この場を仕切るのはサルベラしかいない。実質,サルベラがいれば事たりる。もともと,千雪に精霊の指輪を渡して,さっさとリスベルのいる世界に追い払うか,月影のいた世界に追い払うかのどちらかだからだ。


 「コホン,コホン」


 サルベラは,コホンと咳を2回してから,会議を継続することにした。


 サルベラ「千雪のことはほっときましょう。竜姫とマリアは,千雪のお手つきになるでしょう。まあ,竜姫とマリアは,われわれの仲間になるでしょうが,おいおい,どうするかは,考えていきましょう。


 さて,千雪が出てきたら,千雪には,別の世界に行ってもらいます。もともと,千雪はいなかったものとしましょう」


 サルベラは,風呂敷に包んだ手提げの駕籠を取り出して,皆に見えるように机の上に置いた。


 サルベラ「皆さん,これを見てください」


 サルベラは,駕籠に覆ってある風呂敷を解いて取り除いた。

 

 「きゃー!!かわいい!!」

 「ぐろーい!」

 「うわーーー!!みにくいーー」


 などなど,反応はいろいろだった。


 風呂敷を取ったそこには,体長10cmほどの羽を生やしたトカゲのような格好をした生物がいた。一般にはドラゴンと呼ばれるものだ。しかも金色だ。


 カロックは,それを見て,ハッとした。


 カロック「それは,金の竜,つまり金竜,人の金竜ではないのか?」

 

 サルベラ「カロック,正解よ。そのような発想することが大事なのよ。もともとの姿は,2メートルにもなるゴールデンドラゴンです。ですが,人型にも変身できるし,このように,小型のドラゴンにも変身できます。エネルギーは魔力です。このように小型になると,少ない魔力でいいので,1ヶ月くらいは具現化できます。魔力を与えれば,もっと寿命が延びます。言葉も話します。もともと,魔界語しか話せれなかったのですが,この金竜は,この世界に来て長いので,月本語も流暢に話します。このドラゴンを使って商売を考えてください。今から,担当者を決めます。このドラゴンを使って,商売をしたい人,手を挙げてください」


 誰も手を挙げなかった。


 サルベラは,予想通りの反応に苦笑いした。


 サルベラ「今,仕事ない人,手をあげて」


 手を挙げたのは,リンリンと葵だった。リンリンの場合,警視庁を辞めたばっかりなので,今はまったく仕事がなかった。


 サルベラは,リンリンと葵が手を挙げたのを見て彼女らに言った。


 サルベラ「リンリンと葵ね。では,その2名にこの金竜で商売を考えてもらいます。リンリンがリーダーとなりなさい」


 サルベラは,リンリンをリーダーとして命じて,机の上にある駕籠の扉を開けた。


 サルベラ「金竜,担当者が決まりましたよ。お前の新しいご主人様はリンリンです。彼女のところに飛んでいきなさい」


 金竜は,軽く頷いて,すーっと,気球がゆっくりと飛翔するかのように飛び上がって,リンリンのとこに来た。そこで,金竜はリンリンに挨拶した。


 金竜「リンリンさん。私は,金竜です。ですが,お好きなように私に新しい名前をつけてください。大きさは,体長5cmから2メートルまで自由に変えることができます。ピアロビ顧問との契約では3ヶ月の貸与期間ですが,もし,延長したいのであれば,再契約も可能です。よろしくお願いします」


 リンリンは,自分の目の前で,空中に浮遊している金竜を自分の手の平に乗せた。この場で,「いや」という返事はできなかった。


 リンリン「は,はい。こちらこそお願いします」


 リンリンは,その返事をするが精一杯だった。サルベラは,担当者が決まったのを見て,安堵した。これで,うまくいけば何億と稼げるとほそくえんだ。


 サルベラ「リンリン,当面の経費は1千万円準備します。それで,いろいろとアイデアを出して営業展開しなさい。経費不足なら私に言いなさい」


 リンリン「はい。わかりました。頑張って見ます!!」


 リンリンは,少し,やる気が起きた。


 その時だった。


 フーー!!

 

 亜空間から出てくる時は,一切の音はしない。

                                

 亜空間からひとりの女性が出てきた。

                      

 それは,千雪の顔と姿をしていた。全裸ではなかった。きちんと,昔,千雪が着ていたジャージを身につけていた。運動靴も履いていた。ただ,千雪と違うのは,胸がなかったことだ。ないと言ってもBカップほどの立派な胸なのだが,千雪のGカップと比較してしまうと,ないに等しかった。


 その千雪とまったくそっくりな女性を見た,この場にいた全員は,その女性が千雪本人であるとは誰も思わなかった。


 千雪は,この世に誰も自分よりも強い者はいない,という傲慢無頼の顔つきをしていて,もし千雪の顔をまともに見てしまうと,千雪の顔が悪辣に変化していき,凶悪な顔に変化してしまうという錯覚に陥ってしまう。どうしてそんな千雪を男どもは犯そうという気になるのか不思議だった。たぶん,一種の幻術にかかってしまうのだろう。


 だが,今,目の前にいる千雪似の女性は,いっさい,そのようなことはなく,花も恥じらう15,16歳の絶世の美女だった。もともと千雪はこんなにも美人だったのかと,改めて感嘆してしまうほどだ。


 その千雪姿の女性は,少し下をうつむいていた。千雪に亜空間から出て行けと命じられたのだろうと容易に想像がついた。


 このまま彼女が率先して口を開くとは思えなかったので,サルベラが彼女に質問した。


 サルベラ「ちょっと,あんた!自己紹介くらいしなさいよ!千雪の格好して,千雪じゃないって誰でもわかるわよ!!」

 

 サルベラは,月本語で話した。だが,千雪似の彼女は,その言葉の意味がよくわからなかった。彼女は,魔界語しか理解できなかった。やむなく魔界語で返事した。


 少女「あの,,,月本語はわかりません。魔界語で話してください」


 この言葉を聞いて,サルベラは魔界語で再度,質問した。魔界語については,メーララが月本語に通訳して,皆にわかるようにした。


 少女「あ,,はい。名前は,,,千雪様から「雪生(ゆきお)」という名前をいただきました。年齢は1ヶ月です。1ヶ月前に生まれました」


 サルベラ「1ヶ月?もっとわかりやすく説明しなさい!まったくわからないわ。千雪は,簡単なゴーレムは召喚できると思うけど,あなたのような体つきで,自由に話せるようになるとは思えないわ」


 雪生「あの,,,そんなに大きな声で怒られると,,,あの,,しゃべれなくなってしまいます」


 魔界語のわかるカロックとメーララは,クスクスと笑った。メーララは,この部分は通訳しなかった。意味ないからだ。


 サルベラは,なんとも,気の弱そうな返事をする雪生に溜息をついた。


 サルベラ「わかったわ。雪生お嬢様,あの,,,千雪は,あなたをどうやって誕生させたの?あなたの霊体は何なの?霊体そのもの?霊体のカス?霊体の抜け殻??」


 サルベラは,やさしい声をあげて言い直した。


 雪生「私の体は,霊力でできています。1ヶ月前に,千雪様は,霊力で分体を2体創りました。でも,その分体は,千雪様の霊力の支配から離れると,動くことができません。そこで,千雪様は分体を動かすことを考えました。つまり,霊体をその分体に植え付けようとしたのです。


 悪霊大魔王に最適な霊体を植え付けるように命じました。悪霊大魔王は,もともとは,霊体のカスの塊です。呪い殺すことはできても,肉体を動かすことはできません。ですが,悪霊大魔王の中には,私のような完全な霊体も,数多く取り込まれています。私以外に,完全な霊体は100体以上にも及びます。ほとんどが男性の霊体です。

 彼らは,千雪様の分体を得ることができると喜んで,その2体の分体の中に入りました。複数の霊体が一度に,千雪様の分体の中に入ったのです。ですが,霊体同士の意見が食い違って,まともに分体を動かすことができませんでした。


 その状況を見た悪霊大魔王は,全員の霊体を呼び戻しました。完全な霊体の中で,女性は5体だけでした。それで,その中から2体を選ぶようにと命じました。私たちは,お互い譲り合いましたが,一番歳上の彼女が,私たち2名に行くように命じました。やむなく,わたしともうひとりの霊体が,それぞれの千雪様の分体を支配することになりました。 

 私は,肉体などほしくはありませんでした。どうせ肉体があっても,男どもの餌食になって犯されて殺されるだけだからです。もっとも,霊体になって悪霊大魔王の一部になってからも,精神的に男どもの霊体に犯され続けていましたので,何も状況は変わっていないどころか,かえってひどい状況になっていましたけど,,,」


 ここまでの話を聞いて,サルベラは,雪生にある質問をした。


 サルベラ「霊体が犯されるのかどうかは別にして,もしかして,お前は,魔界でリスベルに殺された乙女のひとりなの?」


 雪生「生前の私を殺したのが誰だかわかりません。ですが,千雪様に似た霊力使いによって捕らえられて,私と同しような若い男に抱かれて寿命も奪われて老婆にまでさせられて殺されました。私は死んだあと,私の霊体は消滅しませんでした。私は,私を捉えた女性にまとわりつきました。男のそばには行きたくなかったからです。

 他の霊体は時が経つにつれて浄化されて消えてしまいましたが,私は消えることなくそのままその女性のそばで取り憑いていました。そして,,,事件が起こって,悪霊大魔王の一部に取り込まれてしまいました。その時,他の霊体との知識などの共有を経験しました。他の霊体も,私と同じように,ドジな霊体でした。ドジだから転生サイクルに入れずに,悪霊大魔王の一部に取り込まれてしまいました,,,」


 メーララは,彼女の言葉を一言一句,通訳していった。その言葉を聞いて,クスクスと笑うものもいれば,目に涙するものもいた。


 サルベラ「なるほど,,,可哀想なことをしたわね。お前を誘拐した女性は,千夏という女性よ。千雪と同じく霊力使いなの。そして,お前を抱いた男はリスベルという男性。千夏は,被害者への賠償金を支払い,罰を受けるかわりに王国のために大事な任務を執行したわ。リスベルは,死刑宣告を受けて死刑執行された。でも,それをうまく避けて,魔界から別の世界に飛ばされてしまったの。今では生きているのか死んでいるのかまったくわからない状況よ」


 雪生は,涙を流しながらサルベラの話を聞いた。


 雪生「そうなのですか,,,私を誘拐したのは千夏,,,そして,殺したのはリスベル,,,彼らはそれなりに罰を受けたのですね,,,なんか,それを聞いて少し,,,気が晴れました。これで,千雪様に命じられた任務を,なんか少しは履行できそうな気がします」


 サルベラ「任務?何の任務??」


 雪生「なんか,月影という人の世界に行って,その世界を征服しなさいって,言われました。とても,そんな任務,実行できないと思うのですが,でも,千雪様の命令は絶対です。それを実行できたら,私の霊体が転生できるように助けてあげるって言われました」


 サルベラ「ふふふ,千雪は,どうやって転生を手助けできるのかしら??千雪は神にでもなったのかしら??」


 メーララ「千雪でも絶対に無理ね。まあ,口からの出任せでしょう。うそついても,千雪には何の罰もないから,うそつき放題だわ」


 雪生は,両手で口を塞いで,びっくりした。涙がまた流れた。


 雪生「千雪様がうそを言っているのかどうかはわかりません。でも,私は,千雪様の命令を実行しなくてはなりません。たとえ,任務に失敗して,そこで死んだとしても,,,,もっとも,もともと死んでいるので,また,千雪様のところに戻るだけですけど,,,」


 メーララ「でも,あなたは,別の世界にいくのよ。そこで死んだら,霊体は,この世界に戻れる可能性はないのよ。知っているの?」


 雪生は,また,びっくりした。


 雪生「えーーーー?別の世界で死んだら,戻れないのですか???」


 メーララ「そうよ。だから,死ぬという発想はやめなさい」


 雪生「そうですか,,,じゃあ,任務に成功しても失敗しても,死ぬ前にこの世界に戻るようにすればいいのですね?なんとか,この霊力の体のまま,この世界に戻って来るようにがんばります」


 メーララ「そうね。とりあえず,月影と一緒に行って,適当に数ヶ月過ごして,生き延びることを最優先に考えなさい。任務なんて,適当にすればいいのよ」


 雪生「千雪様の命令には絶対服従です。でも,真面目にするのか,適当にするのかは,私に任されていると考えていいのですね?では,生き残るのを最優先にして,頑張ってみます」


 サルベラ「あなたの行く別の世界は,魔族語が通じる世界のようですから,言葉の心配は不要です。リラックスして,楽しく過ごしなさい」


 雪生「はい,,,なんか気持ちの整理が少しついた気がします。リラックス,,,楽しく過ごす,,,はい,その精神で,千雪様の命令を実行していきたいと思います」


 サルベラ「そう?それはよかった。じゃあ,ひとつ聞いていい?あなたは,1ヶ月前にその体をもらって今まで何をしてきたの?遊んできた訳じゃないんでしょう?」


 雪生「この1ヶ月の間,霊力を扱うことを修得してきました。でも,私はもともとバカで,もの覚えがよくありません。ドジです。アホです。死んで霊体になっても,浄化して転生する機会を逸したくらいですから」


 メーララの翻訳を聞いた者達は,涙顔しながらも,クスクスと笑った。


 サルベラ「霊力使いというからには,加速が5倍か10倍は使えるの?体をダイヤモンド並に堅くすることができるようになったの?」


  雪生「いえ,1ヶ月では,やっと,この体を自由に動かせるようになったくらいです。これから,加速や防御方法を覚えるところでした。あ,そうそう,標的魔法陣だけは,ハルト様と一緒に覚えました。でも,千雪様は,もう面倒はみれないと言って,私を無理やり亜空間から追い出してしまいました。私に月影様と一緒にその世界に行きなさいと命じました」


 雪生は,涙顔を拭きながら返答した。それは,生身の人間が涙しているのとまったく変わらないものだった。


 「かわいいーー」

 「可哀想ーー」

 「抱きしめたいーー」


 などと,本物の千雪に対しては,絶対に出てこない言葉が周囲から発せられた。


 サルベラ「でも,あなた,,,月影の言う世界に行っても,やっていけるの?そこは,魔物がたくさんいるそうよ」


 雪生「わかりません。でも,肉体を失ったとしても数回なら大丈夫です」


 サルベラ「??それって,どういうこと?」


 雪生は,左手の指輪を見せた。それは,小さな亜空間収納をすることのできる指輪だった。


 雪生「この収納指輪に,スペアの霊体の肉体が2体あります。ですから,肉体を破損しても,2回までなら大丈夫です。1体の体は,霊力を無駄使いしなければ半年は持つと言われました。でも,ある程度霊力を使えば,1,2ヶ月しか持たないそうです。スペアの肉体は霊力のエネルギー代わりに使用することもできるともいっていました」


 サルベラ「なるほどね。ということは,半年以上はその世界にいることができるようね。いくらドジ子でも,半年もいれば少しくらいは強くなると思うわ」


 サルベラは,月影に向かって言った。


 サルベラ「月影,あなたの国に行くのは,この雪生でいいわね?今は,弱いかもしれないけど,そのうち強くなると思うわ」


 月影「はい,ありがとうございます。記憶があまりないので,私はなんの役にもたちませんが,新魔大陸までの道案内程度であればできます。いつでも出発できます」


 サルベラ「じゃあ,決まりね」


 サルベラはアカリに向かって言った。


 サルベラ「アカリ,月影から出発場所の詳しい場所を聞いてちょうだい。その緯度,経度,高度が分かれば,転移魔法の転移座標点に変換できるわ」


 アカリ「わかりました。任せてください」


 アカリは,携帯の3D地図ソフトを起動して月影に見せて,月影の世界へ行く入り口の場所を示させた。3Dの地図のため,あたかも実際に歩いているかのように体験することができた。記憶が曖昧な月影でも,なんとかその入り口を示すことができた。


 アカリは,すでに緯度・経度・高度から転移座標点への変換プログラムを創っていて,すぐに転移座標点を算出してカロックに示した。カロックは,それを受けて,すぐに転移魔法陣を発動させた。


 ボァー!!


 転移魔法陣が発動した。


 月影と雪生は,皆に別れの挨拶をする間もなく,この場から消えた。


 ーーーーー

 ーーーーー


 それから,しばらくして,千雪が,ハルト,龍子,そしてマリアを連れて,亜空間から出てきた。


 龍子は,顔が赤くなっていた。マリアも少し顔が赤らんでした。亜空間で何があったのか,予想することは容易だった。


 千雪は,サルベラに早速,要件を言った。


 千雪「サルベラ,ほんとうに精霊の指輪を入手できたの?」

 

 サルベラはその問いに,自信を持って答えることができた。


 サルベラ「ふふふ,千雪,約束よ。リスベルのいる世界に行ってちょうだい。その腐った根性,叩き直して来てちょうだい!」


 サルベラは,入手した精霊の指輪を千雪に渡した。それを受け取った千雪は,ニヤッと笑ってサルベラに質問した。


 千雪「この指輪の有効期間はどのくらいあるの?」

 サルベラ「ピアロビ顧問が言うには,3ヶ月程度だそうよ。3ヶ月以内なら,この世界に戻ってくることは可能だと思うわ。3ヶ月後に,真面目になった千雪に再会したいわね」

 千雪「なるほどね,,,ちょっと,待ってちょうだい」


 千雪は,亜空間に消えた。そして,10分後に,2人の千雪が亜空間から出てきた。1人は巨乳で,もう1人は小さくかわいい胸をしていた。Bカップだった。Bカップの千雪は,さきほどサルベラから入手した精霊の指輪をしていた。


 巨乳の千雪は,Bカップの千雪に命じた。


 千雪「いいこと? これから,あなたは『千雪』の代わりとして過ごすこことになるけど,名前を『小雪』と名乗るのよ。そして,異世界にいるリスベルに会いに行ってちょうだい。あなたの任務は,わたしの代わりにリスベルの奴隷として過ごすこと。そして,リスベルをこの世界に連れて来る事よ。どう?できる?できなくても,無理やりにでもしてもらうけどね」


 小雪「はい,奴隷になるのは,別に構いません。悪霊大魔王に取り込まれた時から,男どもの霊体に,日夜問わず犯されていました。それからみれば,肉体を得て奴隷になるなど,屁でもありません」

 千雪「・・・,あなたも霊体になっても,ぜんぜん恵まれない人生だったのね,,,」

 小雪「わたしは,こうやって千雪様の分体を得たので,つらい日々から抜けだせれたのですけど,残された先輩の女性霊体たちは,ほかの腐れきった男性霊体どもを相手にしなければなりません。それが不憫でなりません」

 千雪「そんな事情があったのね,,,その残された先輩の女性霊体の件は,あとで悪魔大魔王になんとかしてもらいましょう。それで,知っていると思うけど,生前のあなたを殺したのは,リスベルだと思うわ。その恨みを晴らしたい時は,あなたの任務が完了してから,わたしに言ってちょうだい。どう?わかった??」


 小雪「生前の私を殺したリスベルには,いえ,今後は,リスベル様と呼ばないといけないので,リスベル様とお呼びしますが,彼には,もう恨みはありませんし,復讐をしたいという気持ちもありません。彼の奴隷になることも抵抗はありません。どうせ,2,3ヶ月だけのことでしょうし。でも,,,すべての男どもには,いずれ,復讐したいという気持ちはあります」

 千雪「わかったわ。いずれ,男どもを皆殺しにする機会があれば,あなたにお願いしてみるわ」

 小雪「はい,その時は,ぜひお声をお掛けください」


 その言葉を聞いて,その場いる全員がゾッとした。男どもをいずれ皆殺しにしてやりたい,という秘めた復讐心があるのを理解したからだ。

 

 千雪「それと,あなたにあげた指輪だけど,その効果は3ヶ月しか続かないわ。だから,それまでにこの世界に帰ってきてちょうだい。たぶん,指輪にお願いすれば言うことを聞いてくれると思うわ」

 小雪「はい,わかりました。あの,,,わたしには,スペアの肉体はないのでしょうか?」

 千雪「ないわ!」


 千雪は,きっぱりと言った。


 千雪「あなたの分体は,もともとリスベル用に作ったのよ。つまり,リスベリの性奴隷用の分体よ。もう一体の分体は,兵器として作ったわ。もともとは,一緒にリスベルのいる別次元の世界に行ってもらう予定だったけど,変な話が舞い込んだから,兵器の方をそっちに回したのよ。その代わりと言ってはなんだけど,あなたの体には,できるだけ多くの霊力を入れてあげたわ。いくら霊力を使っても使いきれないと思うわ。それに,その分体は,特別に胸とお尻の大きさを自由に変更できるようにしてあるわ。小雪が霊力を自由に駆使できるようになれば,変更できるわ」


 小雪「そうですか,,,わかりました。では,リスベル様に会いにいってきます。あの,,,もう,行っていいのですか?」

 千雪「いいわよ。リスベルのいる世界に行くには,その指輪にお願いすればいいと思うわ。『北東領主の持っていた精霊メルダの指輪が開いた別次元への扉』って言うのよ」

 小雪「はい,わかりました。では,お願いしてみます」


 小雪は,自分のしている指輪に向かってお願いした。


 小雪「指輪さん,指輪さん。北東領主の持っていた精霊メルダ様の指輪が開いた別次元への扉を,ここに開いてくれますか?その世界にはリスベル様がいると思います。彼に会いに行きたいのです。協力していただけますか?」


 この場にいた誰もが,このお願いでは指輪は発動しないだろうと思った。だが,その指輪は,何の躊躇もなく,別次元への扉を開いた。


 ボァーー-!!!


 小雪「え?うそーー??ほんとに扉が開いたの?!」


 小雪は,そう言ったのもつかの間,その別次元の扉に吸い込まれてしまった。


 小雪は,その場から姿を消した。


 サルベラは,いともあっさりと小雪が姿を消したことに,少々,びっくりした。ほんとうに,別次元の扉って開くものなんだと,感慨無量だった。


 サルベラ「千雪!!あなた,リスベルのいる世界にも,自分の分身を送ってしまったの?!彼女は,ちゃんとやっていけると思うの?」

 千雪「さぁ?わからないわ。でも,彼女は,もうひとりの分体の子よりも覚えが早いみたいだったわ。加速も2倍速が使えたし,防御の面でも,硬度7くらいはいけたと思うわ。それに,霊力をたくさんあげたから,なんとかなるんじゃない?その代わり,わたしがヘトヘトよ。しばらく寝るわ。起こさないでね」


 千雪は,自分の部屋に行って寝ることにした。その前に一言,ハルトに言った。


 千雪「あ,それと,ハルトには,標的魔法陣と禁呪の管理を引き継いでもらうことにしたわ。ハルト,説明してやって」

 ハルト「千雪様,了解しました」


 ハルトは,千雪に軽く頭を下げた。そして,この場にいる全員に声をかけた。


 ハルト「私の役目は,標的魔法陣の『糸』を管理することと,千雪様の女性たちに禁呪をしっかりと植え付けることです。この1週間,千雪様から禁呪の魔法をたたき込まれました。その禁呪魔法が,その女性たちを守ることになると千雪様は言っておられます。


 もっとも,千雪様に抱かれた皆様は,すでに禁呪が施されています。でも,有効期間は1ヶ月前後です。使用がひどい場合には,すぐになくなってしまいます。その意味では,香奈子さんの禁呪は,たぶん失効していると思います。定期的に更新しないといけません。これから新しく採用する女性スタッフには,禁呪を施すことが義務づけられます。私の役目は女性たちに禁呪を施すことです」


 サルベラ「なるほどね。千雪らしいわ」

 

 サルベラは,竜姫とマリアに言った。


 サルベラ「竜妃とマリアは,ここに住むのでしょう?部屋は空いているから大丈夫よ。引っ越してきてちょうだい。これまでの仕事を継続してもいいし,新しく仕事を探してもいいわ。アカリと相談すれば,何かしら仕事があると思うわ」

 

 マリア「わかりました。これから,いったん家に帰ります。2,3日後には,こちらに引っ越すようにします。その間,今後の仕事をどうするか,ゆっくりと考えたいと思います」


 マリアは,優等生的な返事をした。さすがは年の功だ。すぐに決めないところが『大人』の味を出している感じだ。


 マリア「では,これで失礼します」


 パッ!

 パッ!


 マリアはそう言って,転移魔法陣が出現することなく,マリアと龍子は瞬時に消えた。


 その消え方に,転移魔法が使えるサルベラ,カロック,メーララは,びっくりした。


 サルベラ「え?今の消え方,何?魔法陣が出現しなかったわ?!」

 カロック「すげーー,カベール隊長が開発していた超瞬間転移をすでに実現しているぜ!」

 メーララ「私も始めて見たわ。あの転移能力なら転移妨害結界なんて,意味がないかもしれない。マリアが敵でなくてよかったわね 」

 サルベラ「ほんと,そうね。マリアは,千雪と遭って勝てないとわかり,千雪の軍門に下ったのでしょう?たまには千雪も役に立つわね」


 葉衣は羽月にひそひそ話をした。


 葉衣「竜姫さんが現れた時,顔が赤かったのは分かるんだけど,マリアさんも少し赤かったよね。それって,マリアさんも千雪様に抱かれたってこと?」

 羽月「間違いないわ。千雪様は,もう男としての発想しかないはずよ。マリアさんて熟女の魅力満載でしょう?それに,胸もDカップはある感じよ。抱かないほうがおかしいわ」

 

この時,メーララが今さらながら,すごい大事なことを言った。


 メーララ「でも,雪生,月影と一緒で大丈夫かしら?」

 サルベラ「どういう意味?」

 メーララ「だって,月影って,よく診たら人間でなかったわ」

 

 「えーー??」

 「人間でないの?でも,千幸もそんなもんだし,雪生もそうよね?」

 「別に不思議ではないかもーー」


 などと,意外と平気な反応をしていた。


 サルベラ「つまり,どういうこと?」

 メーララ「強いて言えば,魔体と人間の体が合体したような感じかな?かなり高度な魔法科学が使われているわ。少なくとも私たちがいた魔界の科学力では絶対に無理だわ」


 サルベラ「メーララ!!そんな大事なこと,なんでもっと早く言わなかったの!!」


 サルベラはカロックにすぐに命じた。


 サルベラ「カロック!すぐに彼女たちの転移先に言って,連れ戻してきて!」

 

 カロックは,面倒くさいなと思いつつ,サルベラの命令に従った。なんといっても元上司だ。体が自然に反応してしまった。


 ボァー!!


 転移魔法陣が発動した。そして,カロックはその場から消えた。だが,だが,10分もしないうちに,カロックが戻ってきた。


 カロック「3D地図で見た出入り口が消えていた。周囲にはもう誰もいなかった。すでに,月影の世界に行ってしまったのだと思う」


 サルベラは,すぐにハルトに命じた。


 サルベラ「ハルト!月影の『糸』も管理しているわよね?ここに連れ戻して来て!!」


 ハルト「了解」


 ハルトは,月影の糸にS級レベルの霊力を流した。これは,月影がどこにいてもここに引き戻せるものだ。


 シューーー!!ポン!


 標的魔法陣に繋がった『糸』の先端が切れた状態で戻ってきた。これを見ることができるのはハルトだけだ。


 ハルト「糸が切られている,,,別次元に行けば,糸が切れるって千雪様は言っていたようだが,,,」


 サルベラ「ということは,その出入り口は,やはりこの世界とは繋がっていないことになるわね,,,」

 

 サルベラ「月影は,いや,月影のバックの組織は,かなり脅威になるかもしれないわ。つまり,私たちのいた魔界よりも数段優れた魔法文明があるっていうことになるわね。この科学文明の月本国以上に脅威かもしれないわ。千雪の追い出し作戦は失敗したけど,,,それが,吉となるか凶となるか,誰もわからないわね」


 カロック「・・・,吉でなくてもいいから,小吉くらいにはなってほしいけところなか?」


 ーーーー

 ーーーー


 雪生のストーリーは,第3節 小雪が行くで公開予定

 小雪のストーリーは,第4節 雪生が行くで公開予定

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