第14話 依頼達成と集団自殺事件の容疑者

 すでに,千雪がこの月本国に来てから7ヶ月半が経過していた。そして,ウルトラ・ハイパー・ビーム砲を発射する予定の25日まで7日しかなった。


事態が緊迫する状況の中で,集団自殺事件では,新たな展開が起きようとしていた。


 ーーー

 集団自殺事件では,連日の報道合戦と,宅急便が千雪邸についたこともあり,千雪に対して警察からの事情聴取のリクエストが何度もあった。だが,千雪側はすべて拒否した。


 警察は,なんとか逮捕状を取ろうとしたが,証拠の立証ができず苦慮していた。そこで,ターゲットを香奈子に変えた。集団自殺したものたちは,香奈子の体に触っていることがわかっていたからだ。その際に,香奈子が自殺した信者に呪詛を施したものと推定した。


 警察にも優秀な人物がいた。彼女の名はリンリンという。警察学校をトップの成績で卒業して,鳴り物入りで特殊捜査課,俗称『殺人課』に配属になった。


 リンリンは,状況から判断して香奈子が自分で呪詛をしたのではなく,千雪が呪詛を香奈子の体に施したのではないかと推定していた。そして,上司におとり捜査の許可を依頼した。


 リンリン「香奈子に猫を抱いてもらいます。そして,その猫が死ぬと,香奈子の体には呪詛が施されていることになります。香奈子を強制的に拘留することができます。ぜひ,おとり捜査をさせてください」


 上司「そうだな,,,でも,そんな簡単な方法でわかるのか?それに,仮に猫が死んだとしても,呪詛で死んだという証明にはならんぞ」

 リンリン「いいえ,猫が死んだという事実が大事なのです。動物虐待事件として,香奈子を逮捕できます。逮捕ができたら,警察超現象科学研究所できちんとした実験をして,香奈子の体にほんとうに呪詛が施されているのかを証明できます。そして,,,呪詛をしたであろう千雪を逮捕するのです。ふふふ」


 上司「リンリンよ。別件逮捕でマスコミに突っつかれるぞ。そんなにムキになるな。相手は,平気で人を殺すことができるんだぞ。お前のやり方だと,命がいくつあっても足りなくなる」


 リンリン「正義は悪に勝つものですよ。神様は常に正義の味方です。温かく見守ってくださっています」


 上司「そんな漫画みたいなことを言って。まあいい。やってみなさい。猫を触らせるくらいなら,殺されることもないだろう」


 リンリン「ありがとうございます! では,早速,取りかかります!」


 リンリンは,殺人課を後にして,香奈子のアパートの近くで陣取って,香奈子が家から出てくるのをじっと待つことにした。


 待つこと3時間,香奈子はアパートから出てきた。コンビニで弁当を買うためだ。リンリンは,香奈子から5メートル離れて尾行した。


リンリンは,急に走りだして,香奈子の後ろからぶつかった。


 ドン!!(体と体がぶつかる音)

 キャーー!!(香奈子の叫び声)

 ダン!(香奈子が倒れる音)

 バタン(リンリンが倒れる音)

 バラバラバラ(リンリンの携帯が飛び散る音)


 リンリン「ごめんなさい!ごめんなさい!痴漢に追われていると思って,全力で走ってしまて,,,怪我はありませんか?」


 香奈子「ちょっと,足をすりむいたみたい。あなたの方こそ,怪我はなかったのですか?」

 

 リンリン「私は,膝をこすったみたい。ちょっと,血が出てしまったわ」


 香奈子「この時間だと,病院も開いていなわね,,,よかったら,私のアパートに来ませんか?そこで,応急措置程度ならできますけど」


 リンリン「私からぶつかってっておいて,おこがましいけど,そうさせていただければ助かるわ」


 リンリンは,バラバラになった携帯を拾った。


 香奈子「あらら,携帯もだめになったみたいね」


 リンリン「この携帯,もうダメみたい。携帯に猫の写真がいっぱい入れていたのに,,,また,猫の写真,撮り直さないといけないみたい,,,」


 香奈子「・・・・,私のアパートは,すぐそこよ」


 リンリンは香奈子から数歩遅れてついて行った。その間,特に共通の話題などなかった。


 香奈子は,リンリンを自分の部屋に入れた。


 リンリンは,香奈子の机に積み上げられた容器を見た。それは,ゴキブリを駆除する業務用の大型燻煙剤が20個ほど並べてあった。奇異に感じたリンリンは香奈子に訪ねた。


 リンリン「あの机にある燻煙剤は何するの?この部屋で使うには,あまりに大きすぎると思うのだけど?」

 香奈子「ああ,これ?私,夢現幸福教の信徒なの。あの施設,ゴキブリが多いのでその駆除に使おうと思って」


 香奈子の説明は,その通りなのだが,実は,この燻煙剤の煙で,爆弾事件に似せるために使う予定だ。もともと,爆弾の専門家を採用する予定だったが,それだと,完全に犯罪者になってしまう。そこで,犯罪にならない方法をいろいろと考えた結果,燻煙剤を使う方法に思い至った。


 リンリン「え?夢現幸福教の施設って,封鎖されているの,知っているわよね?」


 香奈子「ええええ???」


 香奈子は世事に疎かった。というのも,香奈子が夢現幸福教に潜入捜査してから,かれこれ3週間近く経過するのだが,体を男どもに触られて,それを2日連続で経験してからというもの,だんだんと自己嫌悪に陥っていた。


 『なんてバカなことしたんだろう,自分のバカバカバカ!!』


 日が経つにつれて,その思いは強くなり,『自分のバカバカバカ!!なんで素直にお金を出さなかったの??』と,また,いろいろと思い悩む日々を過ごした。 


 こんな台詞を繰り返す日々が続いた。


 2週間経った頃から,『こんな気分ではダメだわ。このままではうつ病になって,終いには,自殺まで行きかねないわ』と,気分を持ち直した。


 その気持ちの切り替えには,大統領や科学先端省長官を退陣においやってやる,という復讐心があり,それを実現するまでは,死ぬに死ねないという思いがあったのも大きい。


 少し気分を持ち直して,教団の爆破方法をどうするかを考えるようになった。携帯のネットを見ると,夢現幸福教の文字ばかり出てくるので,もう,その文字を見たくなかった。夢現幸福教の情報をすべてシャットダウンしてしまった。

 

 香奈子「私,ずーっと,自己嫌悪に陥ってしまっていて,夢現幸福教の情報を見ないようにしてたの。だから,全然わからない,,,今なら,夢現幸福教の文字を見ることも耐えられそうだわ。明日にでも,図書館に行って,この3週間の経緯を調べて見ようかな?」


 リンリン「そうなの? この3週間,ずーっと,夢現幸福教の情報を見ないようにしていたのですね?」


 リンリンは,香奈子の部屋にテレビがないことに気がついた。つまり,テレビからの情報も入手していないのだ。


 リンリン「あの,,,よかったら,だいたい,どのようなことがあったか,説明してあげましょうか?」


 香奈子「え?夢現幸福教のこと,詳しいの?」

 リンリン「詳しいって,毎日テレビを見ていれば,誰でもわかることよ。そこら辺のおばちゃんなら,私よりも,ずっと詳しいと思うわよ」

 香奈子「私は,世間からも,,,仕事からも,,,しかも千雪様からも忘れさられた存在になってしまったのかもね,,,」

 リンリン「何があったのか,知らないけど,社会との接点はもっておくべきだと思うわ。例えば,すくなくとも,ときどきはメールをチェックするとか,家族に電話するとか,親友がいるなら,無駄話をするとかね」

 香奈子「メールをチェックするか,,,そう言えば,まったく見ていないわね。どうせ,だれもメールしてこないし,,,」


 香奈子は,何週間かぶりに,メールをチェックをしてみた。すると,アカリからメールがきていた。日付を見ると,3週間も前のメールと昨日のメールだった。3週間前のメール内容は,『教祖の奇跡の暴露方法として,霊能力者の竜姫が頼りになるかもしれません。連絡先は,以下です。xxxx』というような内容だった。


 香奈子は,それを見て,教団爆破の前に,まず,教祖の奇跡の暴露が先決だったと思い出した。


 香奈子「あーー,なんてバカなの!私!!バカバカバカ!!教祖の奇跡を暴露するの,忘れてた!!」


 香奈子は,思わず,声を出して叫んだ。


 その声を聞いて,リンリンは,すぐに反応した。


 リンリン「え?教祖の奇跡の暴露?そんなの,Youtubeでたくさん公開しているわよ。今回の集団自殺事件で,世間がてんやわんやになってしまったから,教祖の奇跡だけじゃなく,裏ビデオの存在とか,夢現幸福教のあらゆることが暴露されてしまったわ」


 リンリンは,そう言って,携帯を開いて,Youtubeで公開されている教祖の奇跡の暴露動画を流した。


 その動画は,コインの表と裏をいい言い当てるもので,そのトリックは,高性能カメラでコインの表裏を解析して,その結果を色違いの旗を立てて教祖に知らせるというものだった。


 リンリン「集団自殺事件以降,信徒自らがビデオを隠し持って,いろいろと夢現幸福教の秘密を暴露していったわ。さらに,すごいのは,警察顔負けで,夢現幸福教の内情を暴露しているのよ。極めつけは,このホームページね。夢現幸福教のすべてが分かると思っていいわ。何がわかっていて,何が未だにわからないのかが一目瞭然よ」


 リンリンは,『夢現幸福教の真実』というタイトルのホームページを開いて,香奈子に見せた。


 香奈子は,その携帯を受け取って,そのホームページを読み始めた。


 それには,これまでの経緯がこと細かく記載されていた。その概要は,以下のようなものだった。


 集団自殺事件があったことは,香奈子は知らなかったが,香奈子が潜入捜査をしてから3日後の時点で503名が自殺し,4日後にはさらに54名が自殺した。


 自殺者は,自殺する前に,『千雪』当てに宅急便で何かを送っている。その何かはたぶん現金と思われるが,未だ判明していないことや,集団自殺事件については,自殺した信者がその3日前に,『乙女の女性信者』の体に触ったことにより,何らかの影響を受けたと考えるのが合理的だが,それを実証する方法は今のところ不明であるなどの記載があった。


 この集団自殺事件後,信者自らが教団に対して不満を持ち,これまで教団の秘密を公開してはならないという規則を無視して,教団の秘密が次々に暴露されていった。


 教祖の奇跡についてはすべてトリックであり,この種明かしはYoutubeなどで公開されている。また,この教団の実態は,売春を正当化するための隠れ蓑であり,かつ信者の了解を得ずにビデオ撮影して,その裏ビデオを闇マーケットで販売していたことまで明かされた。


 その後,この教団本部は,自殺した親族らによって爆破された。警察は,状況から判断して,爆破に関与した犯人逮捕に,あまり積極的ではない。


 教団の教祖と幹部,スタッフ全員が,無修正DVD販売の罪および売春防止法で捕まっており,さらに,自殺幇助などの追加の罪が科される可能性が高い。


 夢現幸福教は現在活動を停止しており,実質的に解散状態にあるという内容だった。


 この内容を見て,香奈子は愕然とした。


 香奈子「これって,何?何なの?私が悶々としていた3週間の間に,こんなことがあったの?これって,依頼を達成したことになるの??」


 リンリンは,香奈子の言っている意味がよくわからなかったが,慰めの言葉を贈った。


 リンリン「夢現幸福教は,もう解散したも同然なのよ。教団本部は爆破事件で,もう建物の体をなしていないわ。ゴキブリなんて当然いないわよ」


 香奈子は,浦島太郎気分だった。世の中の移り変わりのなんと早いことか,,,


 香奈子は,ふと,まだ読んでいないメールがあることを思い出した。香奈子は,そのメールを開けて読んだ。


 『香奈子,よかったね!!依頼達成よ!!依頼者から感謝のメールを受け取ったわ。そのメールを転送するね。



 ー 転送 ー


 千雪様およびその仲間の皆様


 私の依頼をわずか3週間足らずで達成していただき,誠にありがとうございます。しかも,集団自殺というセンセーショナルな手法で実行していただき,誠に感謝に耐えません。


 実は,妻も男性信者によって辱めを受けていることが判明しました。その事実を知ったのは,公開された裏ビデオの映像の一部からでした。予想されていたとはいえ,とてもショックでした。


 今回の,男性信者の集団自殺という手法をとっていただいたことで,私の気持ちの整理がより一層つきました。重ねてお礼申し上げます。


 今後の千雪様およびその仲間の皆様のますますのご健勝を心よりお祈りもうしげます』


 

 このメールを読んで,香奈子は,何かが吹っ切れたようだった。なぜか,涙が出てきた。


 香奈子の涙を見て,リンリンが慌てた。


 リンリン「え?え?なんで泣いているの?私,なにか悪いことした??」


 香奈子「え?いえいえ,あなたとは関係ないわ。でも,ネットの情報,ありうがとう。あなたがいなかったら,夢現幸福教のことを調べるなんて,思わなかったわ。ほんとにありがとう。なにか,あなたにお礼しなくちゃね」


 リンリン「え?お礼してくれるの?ほんと?お願いしていいの?」


 香奈子「いいわよ。出来る範囲だけど」


 リンリン「ほんとに,ほんとに,お願いしていい?いまさら,ダメと言ってもダメよ!!」


 香奈子「遠慮しないでちょうだい」


 リンリンは,猫を使って遠回しに攻め落とすつもりだったが,正直に,全てを話すことにした。それでダメだったら,諦めることにした。それが,スジだと思った。


 リンリンは,自分が殺人課の職員で,集団自殺事件の犯人を捜していることを伝えた。その最有力容疑者が香奈子であることもだ。このままでは,証拠不十分になっていまう。そこで,香奈子の体に呪詛的なものが施されているかどうかを警察超現象研究所で調べたいと,率直に依頼した。


 香奈子「・・・,そうだったのですか。私が集団自殺事件の容疑者ですか。状況的にはそうなるでしょうね。千雪様の秘書になって,科学先端省を首になって,この身を汚して,,,今度は,集団自殺事件の容疑者ですか,,,なんか,自己嫌悪で悶々としている暇はなかったのですね,,,」


 香奈子は,ため息をなんどかついた。


 香奈子「わかりました。警察超現象研究所に行きます。どうぞ,いくらでも調べてください。ただし,私は,千雪様の秘書です。千雪様の了解をとってください」


 リンリン「千雪様って,あの宅急便の宛先にある千雪ですか?」

 香奈子「宅急便のことは知りません。ですが,明日の朝8時に,会うことができます。ここが住所です。私の紹介といえば,家に入れてくれるでしょう」


 リンリンは,千雪の住所を示した。


 リンリンは,それを受け取った。それは,まさしく宅急便の送付先の千雪だった。リンリンは,そこに2度ほど千雪に会いにいったことがある。事情聴取だ。だが,ことごとく断られた経緯があった。


 リンリン「香奈子さん,あの紹介状書いてくれますか?また,門前払いされるのがいやなので,,,」

 香奈子「紹介状?そうか,千雪様に会うのは大変だものね。わかったわ。詳しいいきさつを書いた紹介状にするわね」


 香奈子は,紹介状を書いてリンリンに渡した。


 ーーーーー

 ーーーー

 ー 千雪の家 ー


 翌日の朝7時45分,リンリンは千雪の家についた。ブザーを鳴らすかそうか,迷っていたが,そのとき,ある男から声を掛けられた。ハルトだった。


 ハルト「何か用?美人のお嬢さん?」

 リンリン「あの,,,香奈子さんから紹介状を持ってきました。千雪さんに会わせていただけないでしょうか?」

 リンリンは,ハルトに紹介状を渡した。ハルトはそれを受け取り,リンリンに家の中に入るようにいった。


 リビングルームでは,アカリ,カロック,メーララ,美月,美桜,美沙たちがいた。楽しくおしゃべりをしながら,ビーム砲をどう回避するかという,空想小説のようなアイデアを出し合っていた。


 美月「やぱり,あれね,打たれる前に,こっちから超ロケット弾で人工衛星を打ち落とすほうがいいわね」

 美沙「それもいいけど,麦国の衛星軌道管理システムをハッキングして,その機能を奪うほうが簡単よ。私ならそうね,2ヶ月もあれば,ハッキングシステムを作ってあげるわ」

 美桜「それじゃ,意味ないわ。この建物がパアになってしまうわよ」


 などと,平和?な会話をしていた。


 ハルトは美人の女性,リンリンを連れて来たが,誰もその女性に注意を払わなかった。ハルトは,リンリンにリビングルームの隅にある丸椅子で待つように指示して,ハルトは2階に移動した。


 唯一,リンリンを気にしたのはアカリだった。


 アカリは,コーヒーを準備して,隅で待機しているリンリンにコーヒーを差し出した。だが,それ以降,誰もリンリンを気にせず,好き勝手な冗談を言いながら,朝食を食べていた。


 8時半頃になって,千雪ら一行が降りてきた。千雪がリビングルームに顔を出すのは久しぶりだ。


 カロック「おや,千雪?なんの風の吹き回しだ?今日は,襲撃事件でも起きるのかな?それともビーム砲でも飛んでくるのかな?」

 千雪「ふん,カロック,お前は最近ただ飯ばかり食らっているわね。なんか金もうけの方法でも考えたらどうなの?アカリのお尻を追うのも飽きたでしょう?」

 カロック「でも,まず,千雪が手本を示さないとだめだろう? 茜ばっかり抱いて,そのうち,金欠病になってしまうぞ?」


 千雪「新しい教団の見積もりが30億円にもいなってしまったものね。付随施設の費用も含めたら50億なんて,すぐになくなってしまうわ。でも,大丈夫よ」


 千雪は,そう言ってハルトを睨んだ。


 千雪「ハルト!私の母乳ばかり飲んでいないで,早く襲撃を受けなさい!!そうしないと,相手から金をふんだくれないでしょ!!」


 ハルト「それが,とんと襲撃されないのです,,,」


 千雪「もう,,,まったく,うまくいかないわね,,,やっぱり,カロックをデビューさせないとダメみたいね。アカリ,カロックを手品師にでもしてデビューさせなさい!!カロックの相棒は,そうね,美桜,お前がカロックの弟子として行動しなさい。あの占いの店を使ってちょうだい。今は,ぜんぜん活用できていないから」


 アカリ「千雪様,わかりました。マサと相談して進めます」


 千雪「カロック,よかったわね。私の追求はここまでにするわ。だって,面白いおもちゃが手に入ったのよ」


 千雪は,手に持っていた紹介状をみんなの前に示した。


 千雪「香奈子が警察超現象研究所で検査を受けたいんだって,ふふふ,面白いでしょう」


 カロック「???」

 サルベラ「???」

 メーララ「???」


 他のみんなも意味不明だった。


 千雪は「リンリン!」と一言叫んだ。


 千雪から呼ばれたリンリンは,起立して返事した。


 リンリン「私です。私がリンリンです。香奈子さんの紹介でここに来ました」


 千雪「あなたが,リンリン?」


 千雪は,リンリンの顔と体を見た。それは,男が女性の品定めをしているような目だった。千雪は,茜に代わる愛でる対象としてリンリンを眺めた。茜の霊体を持つ茜ゴーレムである千幸は,その千雪の機微を敏感に察した。


 千幸は,なんとなく察した。『私が愛されるのもそう長くは続かないと,,,』

 でも,千雪は,皇帝のようなものだから,何十人,何百人ものハーレムを作ることになるだろうと予感していた。ならば,今のうちに茜は筆頭の正妻という地位を約束してもらうことを思いついた。明日からの茜のピロートークは,千雪に『茜が正妻で皇妃である』という洗脳をすることに決めた。


 リンリンは,服の上からでもスタイルは抜群だ。警察学校で鍛えられたこともあり,背筋がピンとしており,胸もCカップはあるようだ。


 千雪「ここに座ってちょうだい」


 千雪は,向かいのソファーにリンリンを座らせた。


 千雪「リンリンさんって言うのね?いい名前だわ」


 リンリン「ありがとうございます」


 千雪「要件は,紹介状でわかったわ。つまり,香奈子の体にある呪詛のようなものがあるかを証明したいのですね?」


 リンリン「そうです。証明したいのです。ご協力お願いします」


 千雪「了解したわ。じゃあ,リンリン,全裸になってちょうだい」


 リンリン「??え?」


 千雪「聞こえなかったの??全裸になりなさいって言ったのよ!!」


 千雪は少し怒った声で言った。


 リンリンは訳がわからなかった。それに,この場では,カロックやハルトという2名の男もいる。なんで全裸にならないといけないのか?


 リンリンは,仮に反論すると千雪をさらに怒らしてしまうし,かと言って全裸になるなんて,この状況では,とてもできるものではない。


 千雪「なんか,少しためらっているわね。恥ずかしいのかな?」


 リンリンは軽く頷いた。


 千雪「美月達3名,全裸になりなさい」


 美月たちにとって,千雪の命令はなににもまして絶対だった。彼女たちは,ためらわず全裸になった。彼女たちは,いずれ,千雪に抱かれる運命であることも薄々わかっている。そのため,サルベラが暇なときに,胸を大きくしてもらっていた。千雪に美月たちが充分に抱かれるに値する体をしている,ということを示す意味でも,いい機会だった。


 美月たちは,胸がいずれもFカップの豊満な体をしていた。サルベラは,さらにHカップくらいにはしたかったのだが,ゴーレム魔法陣の解析業務のほうに時間が取られて,彼女たちへのサービス時間を割くことがなかなかできなかった。


 千雪「お前たち,いつのまにそんな巨乳になったの?サルベラのせい?」

 サルベラ「そうよ。千雪へのお土産よ。感謝してね?」

 千雪「なるほど,,,サルベラ,もうちょっと大きくしてやってちょうだい」

 サルベラ「そう言うと思ったわ。了解よ」

 

 千雪は,リンリンに向かって言った。


 千雪「リンリン,お胸が小さいからって,恥ずかしがる必要はないわ。これが最後よ。全裸になりなさい!」


 リンリンは『これが最後よ』の意味がよくわかった。ここで拒否したら,もう機会はないと思った。


 リンリンは,全裸になる覚悟をして,その場で全裸になった。


 千雪「では,リンリン,私がいいというまで目を閉じなさい。5分前後には終わるから」


 リンリンは,何の意味かわからなかったが,言われた通り目を閉じた。


 5分が経過した。


 千雪「目を開けていいわよ。服も着ていいわよ。ご苦労様」


 リンリン「何をしたのですか?」


 千雪「リンリンの体にあなたの言う呪詛をかけたのよ。あなたの胸の部分にね。そこに3分以上触る人は3日後に自殺するようにしたわ。リンリンは,自分の体でそれを証明しなさい。香奈子の体を使う必要はないわ」


 リンリン「えーーーー???私の体に呪詛が施されたの??」


 千雪「そうよ。いくらでも証明しなさい。頑張ってね。この呪詛は1ヶ月後には消滅するから,気をつけてね。それと,香奈子の呪詛と違う点があるの。1カ月後に呪詛が消える時に,リンリンが自殺するようにしたわ。呪詛が本物だと自分の身をもって証明できるでしょう?ふふふ」

 リンリン「・・・・」


 リンリンは,千雪の言っていることが嘘ではないと確信した。だが,今は動物実験で証明することが大事だと思った。


 リンリン「この呪詛は,動物にも有効ですか?」

 千雪「試したことないからわかんないわ」

 リンリン「香奈子さんを,警察超現象研究所で調査してもいいのですね?」

 千雪「いいわよ。本人がOKならね。それと,香奈子にそろそろ秘書の仕事をしなさいって,伝えておいてちょうだい」

 リンリン「わかりました」

 千雪「じゃあ,もう帰っていいわよ。あ,そうそう,呪詛を解除してほしかったら,私の奴隷になる覚悟でここに来なさい。以上よ」


 千雪は2階に戻ろうとした。だが,戻っても,霊体の抜けた茜の肉体があるだけで何もすることがなかった。そこで,千雪は,美月たち3名を2階に一緒に来るように命じた。


 この日,美月,美桜,美沙の3名が千雪にどのように扱われるのか,誰の目にも明らかだった。


ーーーーー

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