第13話茜ゴーレム,千雪男性機能

 この日,メーララは,『夢現幸福教』から追放となった。そして,教団のホームページから,教祖の名前が,メーララからキクに変更になった。メーララには,メーララの携帯に教祖としての役職を解くとだけメール連絡があった。


 もっとも,当のメーララにとっては,それどころではなかった。


 ー 千雪の部屋 ー


 メーララと千雪は,茜のもともとの心臓の止まった肉体の修復を継続していた。その肉体は,千雪の霊力によって覆われて,あらゆる生化学反応を停止させていた。腐敗菌等は,ことごとく生命エネルギーを吸われて,その作用を示すことはなかった。それでも,完全には停止できず,小さい血の塊が血管内にできるたびに,千雪は,それを霊力で潰していった。


 そうしながら時間を稼ぐことで,メーララが肉体の欠陥部分を探すという地味な努力を続けていた。


 メーララのオーラを見る能力は飛び抜けていた。体内の一本一本の血管レベルで,肝臓,肺などの臓器レベルでそのオーラを見ることが可能なのだ。それらの機能が不全になっていると,オーラの色が違ってしまう。その違いを見いだすのだ。


 すでに,精査を開始して4日が経過していた。


 千雪「メーララ,もう4日も経ってしまったわ。まだ,原因がわからないの?」

 

 メーララ「臓器にまったく問題ないわ。それに,臓器はすべて無事よ。死んでいないわ。血液自体も,腐敗もまったくないわ。千雪の細胞レベレでの生化学反応を停止させる能力はすごいわね」


 千雪「べつにたしいたことではないわ。霊力で覆って,細胞レベルで反応停止させて,腐敗菌の生命エネルギーを吸収したの。でも,それは,霊力で覆った肉体の時間経過を止める行為に等しいとわかったわ。だから,途中で,私の霊力を操作するイメージを,時間停止に変更したの。こうすることで,私の疲れるレベルがずっと,低減できるようになったわ。メーララ,時間かかってもいいから,どんどん調べていってちょうだい」


 メーララ「なるほどね。時間停止,,,ね。ふーーん?ほんとうに神の領域になってしまったわね。まあ,いいわ。あとは血管の調査だけよ。たぶん,血管に問題があるわ。さらに,細かい調査が必要よ。いったん,ここで,休息にしましょう」


 千雪「わかったわ。いったん,亜空間から出ましょう」


 メーララと千雪は,千雪の亜空間から出て,千雪の部屋に戻った。


 千雪の部屋では,サルベラが,難しい顔して,ゴーレムの魔法陣設計図の解析を進めていた。


 サルベラがメーララと千雪を見たが,すぐに設計図の方を見直した。ちょうど,一番困難な部分を理解しようとしていた部分だ。それは,,妊娠させる機能を追加する機能だ。


 メーララ「サルベラ,何をそんなに真剣になっているの?ゴーレムは完成したんじゃないの?」


 サルベラ「一応は,完成したわ。でも,この部分だけが残っているの。妊娠させる機能よ。でも,この部分は,,,この設計図でも未完成みたい。いくら理解しようとしても,魔法陣が発動しないの」


 メーララ「ゴーレムにそこまで期待するのは無理よ。所詮,ゴーレムよ。手足が動いて魔法が使えたら,御の字だわ」


 サルベラ「でも,ここまで理解してくると,なんか,新しく設計できそうな気がしてきたのよ。茜の肉体が蘇生するまでは,頑張ってみるわ」


 千雪「サルベラ,一度,休息よ。一緒に下に降りなさい。気分転換よ」


 サルベラ「そうしようかしら。千雪やサルベラは,もう4日間も,下に降りていないんでしょう?」


 千雪「そうよ。でも,なんか,やっと目処が立ってきた感じがするわ。メーララに感謝ね」


 メーララ「まだ,成功していないし,その可能性はまだ低いわ。これからが本番よ」


 そんな会話をして,彼女らは,4日ぶりに一階のリビングルームに来た。


 ー リビングルーム ー


 リビングルームでは,相変わらず,茜の霊体によって支配されたゴーレムが,カロックについて,魔法の修練をしていた。言葉も,スムーズではないが,だいだい話すことができるようになっていた。


 アカリは,千雪たちが2階から降りてきたのを見て,飲み物の準備をしに台所に移動した。台所といっても,リビングルームに隣接していて間仕切りもないので,そこで彼らと会話することもなんら支障はない。


 リビングルームには,テレビがあったが,普段はそれをつけることはない。音がうるさくで邪魔だからだ。


 珍しく,ここの住人がリビングルームのソファーに集合した。アカリが手際よく,コーヒー,紅茶,麦茶などをソファーの前のテーブルに準備した。各自,好みの飲料を選ぶことができる。


 千雪は,紅茶にミルクと砂糖を入れて,一杯飲んだあと,アカリに言った。


 千雪「アカリ,この数日間,何か変化はあったの?」


 アカリ「はい,千雪様。秘書の香奈子さんが,科学先端省を辞めさせられました。香奈子さんが千雪様の秘書になっているという理由です」


 千雪「へえーー,それって,私が何人も殺しているけど,証拠がないから逮捕できない。そこで,腹いせに香奈子をいじめたってわけ?」


 アカリ「そう理解していいと思います。香奈子さんは電話で千雪様に伝言してほしいっていいました。これから,夢現幸福教団に潜入捜査に行くって。もし,香奈子さんが,夢現幸福教団の信用を失墜させるのに成功して,本部の爆破に成功したら,香奈子さんの願いを聞いてほしいって,言っていました。その願いは,香奈子さんを首にした大統領と科学先端省の長官を退陣に追いやってほしいというものです」


 千雪「そんな簡単な願いでいいの?大統領とその長官を殺せばいいんじゃないの?」


 アカリ「だめです。退陣に追いやる,という意味は,社会的に葬るということです。スキャンダルを暴露して,その地位から追いやる,ということです」


 千雪「それって,かなりめんどいわね,,,アカリ,あなた,その作戦を考えなさい。どんな無理な作戦でもいいわ。われわれに不可能はないわ」


 アカリ「わかりました」


 千雪「それはそうと,夢現幸福教団って,メーララが教祖している組織じゃないの?」


 メーララは,自分の携帯に届いたメールを読んでいた。


 メーララ「そうよ。数日前まではね。でも,解雇させられたわ。教団に戻らないから,解雇されたんでしょうね。でも,ちょうどいいわ。あの教団は,集団売春組織とホストクラブが合体したようなものよ。女性は娼婦がほとんどで,残りは男あさりをする金持ちババアくらいだわ。私が新しく教団を設立するなら,もうちょっとまともな宗教団体にしたいわね」


 アカリ「集団売春組織??それって,香奈子さんが侵入捜査するって言っていたけど,売春するってこと?」


 メーララ「いろいろな方法があるのよ。乙女の体を10分間,触るだけとかね。たぶん,実際の行為まではしないんじゃないかな?」


 アカリ「そうですか。それなら,まだいいのですけど,,,あ,そうそう,昨日と2日前に,大量の宅急便が千雪様宛てにきていましたよ。差し出し人の住所と氏名は,すべて同じ名前と住所でした」


 千雪「フフフ,ということは,香奈子は,体をさんざん触られたのね。可哀想なのか,幸せなのか分からないわね」


 アカリ「それって,どういうこと?」


 千雪「香奈子の体全身に禁呪法を施してやったわ。香奈子本人には内緒でね。香奈子の皮膚に3分触ると,そいつは,貯金全部引き落として宅急便でここに送るようにしたの。その後,自殺するようにしたわ。まあ,わたしの精神支配の簡易バージョンって感じかな?」


 アカリ「ええーーーーーーーー!!この宅急便って,500通以上ありますよ!!これ,全員が自殺したんですか??」


 千雪「何,驚いているの?そんなの大したことないじゃない」


 カロック「そうだろうな。千雪は,魔界でもっと凄いことしてきたもんな」


 千雪「記憶にないわ,ふん!」


 千雪はそういうものの,しっかりと記憶にあった。


 サルベラ「もしかして,ニュースになっていないかしら?」


 アカリ「ヤボーのホームベージで,集団自殺か?って見出しがあったけど,まだ内容を読んでいないわ。ちょっと見るわね」


 アカリは,携帯のホームページを起動した。


 カロック「テレビでも報道しているかもしれんぞ?」


 カロックは,テレビのスイッチを入れた。


 テレビでは,どのチャンネルも,夢現幸福教の男性信者が,2日前と昨日の正午前後に,自殺者が多数でたことを報じていた。その中で,日の出テレビ局は,専門家を招いて,早々に特集特番を報じていた。


 カロックは,その番組を選択して見ることにした。



 ー 日の出テレビ局の番組内容 ー


 司会者「本日は,特別に,高名な霊能力者である老師をお招きして,いろいろと話を伺いたいと思います。老師は,さまざまな怪奇現象を解明しておられ,特に,霊障,呪詛などについても,卓越した見識をお持ちです。ただ,本日は,急な依頼でもあったため,顔見せはNGとのことで,仮面をかぶっていただき,かつ,名前も伏せさせていただきます。その代わり,忌憚のない意見が聴けるものと期待しております。それでは,老師,ずばり,この集団自殺事件をどう見ますか?他殺の可能性もあるのでしょうか?」


 老師「はっきり言いまして,500人以上もの信徒が,同じ時間に自殺するということは,常識では考えられません。私の知る限り,これを可能にする方法がひとつだけあります」


 司会者「ほほう,ひとつだけあるのですね?」


 老師「はい。あります」


 司会者「老師,それは,ずばり,何でしょう?」


 老師「呪詛です。自殺した人たちは,集団呪詛にかかったものと思います。自殺した人たちが,この1週間,どのような行動をとったかを詳細に調べれば,どの時点で,集団呪詛を植え付けられたか,判明すると考えています。ですが,今の社会,法律体系では,呪詛は認められていません。仮に,呪詛だとわかっても,それで,犯人を弾劾することはできないでしょう」


 司会者「なるほど。法律で裁けない,警察も手が出せないとなると,どうすればいいのでしょう?」


 老師「そこは,真実を正確に報道しつづけることが大事だと考えています。もし,呪詛であるならば,呪詛で人を自殺に追い込めるということを,きちんと報道すべきです」


 司会者「ですが,一般には呪詛でそこまでできるとは考えにくいのですが」


 老師「では,実演してみましょう。用意していただいた猫を一匹持ってきてください」


 アシスタントが,檻に入った猫を一匹持ってきて,机に置いた。


 老師「この猫は,殺していいのですね?」


 司会者「はい。大丈夫です」


 老師「猫を殺すと,動物虐待だとか言われてしまいますから,仮死状態にまでします。その後,回復してみます。しかも,一切,手を猫に触れずにです」


 司会者「え?そんなことができるのですか?」


 老師「私の呪詛の力は,あまり強くありません。せいぜい,人を眠らせるくらいが関の山です。でも,生命力の弱い猫なら可能です。ましてや,仮死状態にするくらいわけありません」


 老師は,手を猫のいるケージに触れて,5分ほど,ぶつくさと唱えた。すると,猫は,だんだんと眠るようになって,そのまま,動かなくなった。


 司会者は,動かなくなった猫をケージから出して,猫の手足を揺り動かしたが,微動だにしなかった。


 司会者「老師,心臓が動いていません!!」


 老師「仮死状態ですから当然です。2分後に回復させます」


 老師は,2分たってから,猫の体を触って,なにやら呪文を唱えると,猫は意識を取り戻して動くようになった。そしてその猫を檻の中に返した。


 司会者「老師,すごいですね。これが呪詛ですか?」


 老師「こんな小手先の技は大したことはありません。呪詛と言っても,今は廃れているようですが,いろいろと流派があると聞いています。でも,今回の事件を引き起こすことができるような強大な呪詛力を有するとは思えません。


 ですが,,,最近,これに似た事件を経験しました。特殊な呪詛である女性の足を動けなくした事件です。その呪詛は特殊でした。私でも解除することはできませんでした。強大な呪詛力の持ち主でした。もしかすると,その者なら,今回の集団自殺事件を引き起こすくらいの呪詛力を持っていてもおかしくないのではないかと思っています」


 司会者「その足を動けなくしたという犯人は分かっているのですか?」

 老師「はい,あとで犯人が誰かわかりました。被害にあった女性も呪詛から解放されました。犯人自ら,その呪詛を解除したと聞いています」

 司会者「その犯人の名前は公開することはできますか?」


 老師は,一枚の紙を司会者に渡した。


 老師「私は,この者が,今回の事件の犯人であるとは言っていません。まだ,警察は,自殺とも他殺とも判断がつかない状態ですから。でも,もし,集団呪詛だとしたら,今回の件は納得がいきます。そして,この集団呪詛を施した犯人は,この紙に書かれた人物であれば,実行可能なのではないかと疑っています。それを公開するかしないかは,すべて,テレビ局の判断でお願いします」


 司会者「わかりました。今,プロデューサーがテレビ局長の了解を取り付けにいくと言っています。結果を待ちたいと思います」


 ここで,宣伝が入って,5分間ほど中断した。


 司会者「はい,番組を続けます。老師から提供された犯人と疑わしい人物については,今は公開いたしません。ですが,至急に,われわれのほうでコンタクトをとって,テレビに出演していただくことで,交渉したいと思います。その時は,老師もご一緒に参加していただけますか?」


 老師「それはかまいせん。事件解決に協力するのは,われわれ市民の義務でもあります。及ばずながら,できる範囲で協力させていただきます」


 ここで,番組のスタッフから,一枚の紙が司会者の元に置かれた。それを読んで,司会者は,ぎょっとした。


 老師から渡された紙には,『千雪』という名が記載されていた。そして,スタッフから渡されたのは,速報として報道する内容だ。その内容とは,自殺者が自殺する前に宅急便を送った相手が『千雪』という内容だった。


 この内容を公開する,ということは,『千雪』を敵に廻すということになる。呪詛で人を殺せる相手を敵に廻すことになる。さすがに,司会者は,この内容を報道することに躊躇った。だが,プロデューサーから早く報道しろという矢の催促がきた。しがないサラリーマンは従うしかなった。


 司会者「たったいま入った情報ですが,自殺した信者の方は,自殺の前に何かを宅急便で送っていることが判明しました。その送付先の名前は,,,」


 司会者は,老師からもらった紙を広げて,カメラの前に示した。


 司会者「ご覧ください。その送付先は,老師から名前を記されたものと一致します。それは,『千雪』です!!」


 これを見ていた千雪は,カロックに言った。


 千雪「カロック,もうテレビはいいわ。切ってちょうだい」


 カロックは,言われた通りテレビの電源を切った。


 サルベラ「千雪,あんたは,バカだと思っていたけど,ほんとうにバカね。なんで,証拠を残すようなアホなことしたのよ。そんなの,千雪が禁呪をかけたって,明言しているのようなものじゃない」


 千雪「まさか,香奈子にかけた禁呪がこんな結果になるなんて思わなかったのよ。これは,正当防衛よ,正当防衛!!」


 サルベラ「千雪にかかれば,なんでも正当防衛になってしまうのね。それで?これからどうするの?」


 千雪は,ふふふと笑って,今後の方針を説明した。


 千雪「せっかくの機会だから,今後の方針を説明しておくわ。この世界では,私は,男になる!!そして,私のハーレム王国を創るのよ。私がリスベルにしたようにね」


 サルベラ「千雪が男になる?そうね,,,千雪は,確かに男性器をつけていたわね。それって,本物?」

 千雪「偽物だけど,もうすぐ本物になるわ。私の遺伝子による精子も作れるようになるわ。つまり,女性に私の子供を産ませることができるのよ,最高でしょう?」


 サルベル「はいはい,もう驚かないわ」


 千雪「ハーレム王国を創って安穏として生活できうるように環境を整えるのがサルベラの役目よ。カロックはサルベラを助けてちょうだい。メーララは,もし茜の蘇生に成功したら,メーララを教祖とした新しい御殿を創ってあげるわ。そのお金は私が全額出してあげる。アカリ,この近くで,信者1万人くらい収納できる施設の建設,宿泊施設など,総合的な施設創ってちょうだい。お金はいくらかかってもいいわ。いくらでも稼いであげる。最悪,銀行強盗すればいいだけだからね」


 アカリ「了解しました。任せてください。すぐに着手します」

 

 サルベラ「でも,あの集団自殺は,どうするの?千雪って名前が公になったわよ。千雪の考えなしの禁呪のせいで!!」

 千雪「名前なんて,適当に変えればいいでしょ。今日から,私は,そうね,,,『雪』はもう飽きたから,,,雷,,,『雷太』にするわ。私は雷太よ。だから,千雪は,だれか別のものがなりなさい。サルベラ,集団自殺の件は,サルベラがなんとかしなさい」

 サルベラ「なんで,私が責任とらなきゃならないのよ!!それに,雷太って,変な名前。いままで通り千雪でいきなさい。千雪って名前,この国でごまんといるから」

 千雪「名前の件はどうでもいいわ。それより,サルベラは私の性奴隷でしょう?当然,この事件の後始末はサルベラがするのはあたりまえよ」

 サルベラ「性奴隷じゃないわ。ただの奴隷よ!!」

 千雪「おなじことよ。性奴隷は,性奴隷らしく,浮気禁止なのよ。わたし以外の男とエッチは禁止よ。特にカロックに抱かれるのは絶対にダメ。カロックは,勝手に女創るから」

 カロック「へへへ,,,悪うございましたね」

 千雪「カロック,他に女抱きたいなら,私にいいなさい。いくらでもあてがってあげるわ。でも,サルベラ,メーララ,香奈子はだめよ,わかった?」

 カロック「はいはい,仰せのままに」


 サルベラは,自分の携帯のメールを読んで,びっくりした。


 サルベラ「千雪,あなた,外に出たら機関銃で狙撃されるらしいわよ。木の葉会と敵対するグループ『繁木会』が千雪を狙っているらしいわ。その武器はSARTの倉庫から盗まれたものよ。さらに,今月の25日に,人工衛星に搭載されているビーム砲で,この千雪邸を黒焦げにしてしまうんだって」

 アカリ「え?その情報は,どこから入手したの?私も同じ情報を持っているわ」

 サルベラ「SARTの私の同僚よ。隊長のパソコンのパスワードを解除したんですって」

 アカリ「それって,あれ?クビ覚悟で行ったってこと?」


 サルベラ「間違いないわね。私もこの状況では,私もSARTに帰ることはできないわ。もう幸せな日々は戻ってこれないわね,,,悲しい,,,」


 千雪「サルベラ,狙撃とかビームとかどうでもいいから,すべてサルベラが指揮して対処しなさい。私は,茜を蘇生したら,愛の逃避行をするわ。それが飽きたらハーレムを作るんだからね。私の手をわずらわすんじゃないわよ。メーララ,蘇生術の続きするわよ」


 メーララはため息をついて言った。


 メーララ「そうね,大きな教団を創ってもらうんだから,がんばりましょうか。長官,うまく切り盛りしてね。期待しているわ」


 千雪とメーララは,2階の千雪の部屋に戻って,それから千雪の亜空間に入って,茜の肉体の蘇生術を再開した。


 カロック「さすがは千雪だ。すべて丸投か。王者の風格がでてきたな」


 サルベラ「あーあ,せっかく,もう少しで茜ゴーレムに生殖機能が付与出来るかもって,思ったに,,,でも,まずは,それを先行するわ。アカリ,今までの情報を整理して,対策案をいくつか,まとめておいてちょうだい。私の携帯を渡すわ。私の同僚とも連絡してちょうだい。SARTを辞めるなら,この家に来てって言ってちょうだい。それと,あのテレビに出ていた老師って,誰なのか,アカリなら分かるわよね。一度,われわれに会わせなさい。彼女は,魔界の匂いがするわ。カロックは,アカリの身の安全を守ってちょうだい。だんだんきな臭くなってくるわ」


 カロック「なんか,臨戦態勢になりそうだな。それも嫌いじゃないけどな,ふふふ」


 アカリ「一度にそんな多くの仕事が,,,,でも,頑張ります。俄然やる気がでてきました」


 サルベラ「アカリ,これだけは,覚えといて。どんな戦も,私たちに勝てる相手はいないのよ。でも,皆殺しにしてしまっては面白くないでしょう?だから,スマートに勝ちたいの。なるべく刺激をあたえないように勝ちたいの」


 アカリ「わかりました。1週間ほど待って下さい。方針案を作成します」

 サルベラ「期待しているわよ。じゃあ,私も2階に上がるわね」


 サルベラも千雪の部屋に籠もってしまった。


 残されたのは,カロック,アカリ,そして,やっと片言が喋れるようになった茜ゴーレムだ。


 だが,この時,アカリたちは,マスコミの報道合戦というものをまったく理解していなかった。


 3時間後,もう夕方だというのに,玄関のブザーがなった。何事かとアカリが,インターホンに出ると,『XX報道のものですが,千雪という方にインタビューを申し込みたのですが』という内容だった。それから,引っ切りなしに,インタビューが鳴り続ける始末だ。


 窓から家の外を見ると,報道陣が家の前にテントを張ってまでして,千雪とのインタビューを試みようとしていた。


 アカリ「カロック!!どうしよう??どうしたらいいの??」


 カロック「どうしようったって,俺にわかるわけないだろう。ただ,2階に行った連中は煩わすな。特に,千雪には絶対に連絡するな。あいつは,殺すことしか考えないからな」


 アカリ「わ,わかったわ。まず,人でが足りないわね。えーーと,そうそう,サルベラさんの同僚に声をかけてみましょう」


 アカリは,サルベラの携帯を使って,美月,美桜,美沙の3人に連絡を取った。彼女らはすでにSARTを辞める決心をしていた。というのも,サルベラと一緒にいるほうが,刺激が多いと感じたからだ。


 焼き肉事件で,十和子の仲間であるハンサムのカロックが魔法のようなもので美月たちを回復させたことにあった。そんなハンサムで超次元の能力を持つ人たちと,近づきになりたい,という乙女心もあった。


 それに,彼女たちにとって生活の面では無理に仕事しなくてもいいという裕福な家庭の出身であることも大きな要因だ。


 その日,彼女ら3名は,すでに用意していた辞表を隊長に提出してSARTを辞めた。その足で,千雪邸に移動してきた。


 美月たちが千雪邸に着くと,相変わらず報道陣がごった返していた。その報道陣をかき分けて,美月たちは,千雪邸に入ることができた。その過程で,美月たちも報道陣に,フラッシュを当てられて,『千雪とはどんな関係ですか?あなた方はの名前は?職業は?』などなど,マイクを向けられていく手を阻まれた。


 彼女たち3名が来たことで,アカリはとても心強くなった。アカリは,彼女ら3名に,アカリが抱えている問題をすべて開示して,それぞれの役割分担をしていった。


 香奈子の依頼である大統領と科学先端省の長官の退陣については,アカリがそのまま引き継ぐことにし,メーララの教団施設を建設する件については,美月が担当することになった。アカリの父,総帥に依頼して陸奥星不動産を紹介してもらい,美月は,その会社の担当者とことを進めることになった。


 次に,当面の集団自殺事件の対応については,方針を出すのは困難なので,その場その場の対処療法をとることにした。つまり,報道陣が詰めかければ,それを追い払うような対処をするというものだ。これは,美桜が対応することにした。美桜は,アルバイトを雇うことにして,対処することにした。なにせ,宅急便で届いたお金があるので,資金に困ることはない。


 繁木会の狙撃,銃撃やビーム砲の対策については,カロックと美沙が担当することにした。美沙は,ハッカーのプロだ。今でも隊長のパソコンをこっそりと盗み見ることが可能だ。


 アカリは,方針が決まった時点で,その都度,2階に行ってサルベラの了解を取るようにした。なんといっても,千雪に全権を任されたのはサルベラだからだ。


 サルベラは,千雪の替え玉を準備する必要があった。やむなく,サルベラは,アカリに次の命令を下した。


 サルベラ「アカリ,今から茜ゴーレムを『千幸』と命名します。発音は同じ『ちゆき』よ。それと,ハルトに連絡して,明日の朝,ここに来るときは,変装してくるように伝えてください。明日から,毎日,ハルトに千幸を散歩に連れ出してもらいます。マスコミに千幸の存在を知らしめます。千幸には,化粧をコテコテにして,素顔がわからないようにしてちょうだい。伊達めがねもお願いね」


 アカリ「ハルトへの連絡と千幸の化粧の件,了解です」



 千雪邸を見張っているマスコミは,周囲の状況が異常であることにだんだんと気がついた。というのも,この地区が住宅街であるにも関わらず,マスコミ以外,千雪の関係者以外,人通りがないのだ。隣の住民にもインタビューしようとして,ブザーを鳴らしても,かつ夜になっても,無人状態なのだ。その範囲は,もし詳しく調べるとすれば,千雪邸から半径1kmの範囲が無人になっているのだが,そこまではマスコミの連中は気がつかなかった。


 翌日の朝8時,ハルトがいつものように千雪邸にやってきた。事前にアカリから連絡を受けて,この日から,ハルトは雷太と名乗ることにした。

 

 ハルトはいつものように黒のサングラスを掛けて,千雪邸に来た。さすがに,この時間では,マスコミは,1,2社しかいなかった。それでも,記者に捕まったハルトは,記者の質問に,素直に答えた。


 記者「あなたは,千雪とはどういう関係ですか?名前は?職業は?」

 記者は,矢継ぎ早に質問してきた。


 ハルト「私は,千雪の情夫です。雷太といいます。職業は無職。以上」


 そのように言い残して,千雪邸に入っていった。この情報は,すぐに大々的に『千雪の情夫発覚!!』などと,テレビ報道されたが,テレビを見ない千雪たちにとっては,どうでもよかった。


 ハルトは,千雪邸に入るとすぐに2階の千雪の部屋にいき,千雪が出てくるのを待った。その間,ハルトは,サルベラから,修行のレベルを上げて,大至急『強者』となるようにハッパをかけられた。ハルトは,男性機能を失ってから,修行の成果が出てきていると感じているのだが,加速20倍という目標には,まだ到達できなかった。


 千雪が亜空間から出てきた。千雪の部屋には,千雪とメーララ用の弁当が用意されている。いつでも,それを亜空間に持っていけるようにだ。


 千雪が亜空間から出てきて,いつものように,全裸になって,おっぱいを絞ってどんぶりに母乳を入れ始めている時,サルベラが,千雪に声をかけた。


 サルベラ「千雪,あなたの替え玉は茜ゴーレムがして,ハルトには,雷太という名前で,千雪の情夫身分になってもらったわ。だから,雷太にも,少しは禁呪ができるように教えてあげてちょうだい」


 千雪「それは無理ね。禁呪は古代魔法陣で書かれているのよ。それを暗記して理解するのは無理よ」

 サルベラ「その魔法陣を書いた紙を用意して,それを発動させる霊力を収納する魔法石をペアにしておけばいいんじゃない?見かけ的には,禁呪ができるようになると思うわ」

 千雪「できるかもしれないけど,,,それで?何をしたいの?」

 サルベラ「ハルトをマスコミデビューさせるのよ。テレビに出ていたあの老師との呪詛対決を企画するのよ。出演料は500万円,いや1000万円はいけるかもしれないわ。こうやって,有名になれば,いくらでも商売ができるわよ。千雪のハーレム王国がすぐに実現するわ。本を書いてもいいし,写真集を出してもいいし,ちょっとしたアイドルになればいいと思うわ」


 千雪「別に,ハルトにさせなくても,わたしがマスコミデビューしてもいいんでしょう?私,芸能人になってもいいわ」

 サルベラ「千雪が芸能人?まあ,美人だから芸能人になってもおかしくないけど,,,でも,死人がどんどん出てしまうわね,,,まあ,無理でしょうね」


 そんなどうでもいい話をしながら,千雪は,母乳を絞っていった。


 千雪「ハルト,母乳絞ったわよ。毎日,母乳あげているんだから,それなりに成果をだしてよね」

 ハルト「へへへ。任してください。もう少しで20倍速を達成できそうです」

 千雪「期待しているわよ」


 千雪は,弁当3食分を持って,また亜空間に消えていった。ハルトは,どんぶりに一杯になった母乳を2本の水筒に分けて,リュックに詰めて去ろうとした。そのとき,サルベラからハルトに命令が下った。


 サルベラ「ハルト,茜ゴーレムを千幸として,彼女を連れて散歩させなさい。マスコミデビューさせなさい。散歩コースは,必ず,近くの朝日公園で10分間,ベンチで休息のこと。わかった?」


 ハルト「分かりました。敵が襲って来たらどうしますか?」

 サルベラ「全力で抵抗しなさい。たとえ,お前が死んでも,仇はとってやるから安心しなさい」

 ハルト「・・・・」


 ハルトは,言われた通り,化粧して伊達めがねをかけた千幸を連れ出して散歩に出た。もちろん,すべてのマスコミが彼らを追った。千幸は,まだ言葉がうまくちゃべれないので,ハルトがマスコミ対応をした。マスコミからの質問は,『千雪さんが呪詛をかけたのですか?』という一点につきた。それに対して,ハルトが『いいえ,何も知りません』と答えるのみだった。


 このような散歩を開始して,第3日目にハルトは朝日公園のベンチで千幸と並んで座っている時に,マスコミにある提案をした。


 ハルト「マスコミさんも,毎日,私たちを追いかけるのは大変でしょう。私もしんどいです。そこで,マスコミの方々に提案します。どこかの局で,名前と顔を隠した霊能力者がいましたが,彼女と対決できる機会を創ってくれるなら,特別に,テレビ局のスタジオに出演してもいいです。


 例の集団自殺とは一切関係なく,純粋に千幸が霊能力者として出演します。私も出演します。私は,千幸の情夫ですし,彼女のマネージャー的な存在です。すべての言葉は,私から千幸に伝わります。出演料の一番高いところの局に出演しましょう。オファーは,1週間以内にしてください。オファーの提示は,この公園でしてください。


 毎日,朝9時にはこの公園に来ます。雨が降っても台風が来ても,ここに来ます。それと,今後,千雪邸の玄関の前での張り込みをするものは,プライバシー損害をするものとして,強制的に排除します。もし,張り込みしたものが死んだとしても,消滅したとしても,いっさい関知しませんので,充分にご理解ください」


 この情報を受けて,各放送局は色めき立った。なんとしても,千幸と情夫を自分のスタジオに招きたかった。一部の放送局は,警告を無視して,千雪邸の玄関の前に堂々とテントを張って張り込みをした。


 だが,次の日の朝には,そのテントごと跡形も無く消えていた。テントのあった場所の地面は高熱によって焼けた後が残されていた。そんな例がいくつか続いた後,マスコミが千雪邸の玄関付近で張り込みをすることはもう二度となかった。


 玄関付近で張り込みをすると,神隠しに遭うというジンクスが流れた。事実,100%そうなってしまうからだ。神隠しに遭うのはいいが,まったく連絡がとれなくなる。生きているのか死んでいるのかもわからない状況だ。


 この神隠しにあう,ということをテーマにようとした放送局もあったが,そのクルー全員と車設備一式が,すべて神隠しに遭ってしまった。警察にも連絡がいって,その付近にある監視カメラを調査しても,霧が出てきて,霧が晴れると消えていたという現象が判明するだけだった。まさに,現代の神隠しだ。


 ーーーー

 時は流れて,1週間後,朝日公園ですべてのマスコミからのオッファーの提示があった。それを受けて,ハルトは,その場で返事をした。


 ハルト「皆さん,ご丁寧なオッファー,ありがとうございます。それでは,結果を発表します。一番高額なオファーをしたのは,日の出テレビ局です」


 「おおおーー」

 「やっぱりーー」

 「資金力のあるところは違うなーー」


 などの声が記者たちから出た。


 ハルト「今後は,本件に関しては,日の出テレビ局と進めます。尚,今後,千幸への取材申し込みを希望される場合は,電話予約制になります。事前に秘書に電話で予約してください。秘書の電話番号とインタビューの料金表を記したカードを配ります。今後,勝手な取材をすると,神隠し様が怒ります。くれぐれも注意ください」


 ハルトはそう言って,千幸を連れて朝日公園を後にした。彼らを追うマスコミの姿はもうなかった。神隠しが実際に存在すると判明したからだ。それこそ,大スクープなのだが,それを取り上げるところはもうなかった。

 

 ーーーー


 翌日からの散歩は,まったくマスコミが追うようなことはなかった。それでも,ハルトと千幸は,同じ時間に,同じルートで行動した。これは,サルベラの指示だ。ハルトは,防弾チョッキ,防弾ズボン,防弾靴を履いていた。千幸も同様だ。機関銃などの奇襲攻撃を予防するためだ。


 マスコミがいれば,銃撃されることはないのだが,今は違う。確実に狙撃される最高のチャンスだ。ハルトや千幸は,狙撃されるために,わざわざ同じルートを散歩していた。


 ハルトは,サルベラに何度も散歩を止めたいと訴えたが,却下された。ハルトは,命の保障もしてくれと訴えたが,それも却下された。代わりに,千雪から母乳とは別に千雪の霊力の層を注入されて,防御性能をあげてもらうようにした。


 でも,その防御性能のアップが,どの程度なのかが,まったく予想がつかない。簡単な鉄砲の弾なら,これまでも防御できたが,サルベラからの情報では,0.5インチ口径の重機関銃が使用される可能性があるとのこと。その他,地雷や爆弾,ロケット砲など,かなりの重火器がSARTの倉庫から盗まれている。盗んだのは繁木会だ。だが,扱い方がわからないと使えるものも使えないはずだ。


 美沙の調査では,すでに,陸上軍隊の退役軍人が,繁木会に出入りしていると言う情報も入手していた。


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 美桜と美桜の両名は,ハルトたちが狙われる地点が朝日公園になると予想して,その地点を中心点として,超高性能遠隔望遠カメラによる動画を200メートル離れたところに,10カ所ほど設置した。すでに,この周囲の住宅には,人は退避済みで,誰も住んでいなかった。まさに,狙撃してくださいと感じで準備万端な状況だった。


 美月は,相変わらず教団の建設計画に余念がなかった。メーララが,茜の蘇生の仕事から解放されると,メーララと美月がペアになって,建設計画をさらに,具体的に進めていた。


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 千雪の部屋では,千雪が,やっとの思いで,蘇生に成功した茜を抱いていた。茜の霊体を茜ゴーレムから茜の本体に戻すのにも成功した。


 その作業はメーララの仕事だったが,ひとたび,茜の霊体が茜の肉体とゴーレムの体に往き来できると,それ以降は,茜の霊体は,自分の意思で両方の体の移動を往来できるようになった。


 茜「千雪様,私は,生き返ったのですか?」

 千雪「そうよ。本来のあなたの体はどう?調子いいですか?」

 茜「すごく調子いいです。ありがとうございます。でも,どうやって,生き返ったのですか?」

 千雪「メーララが,心臓の周囲に走っている血管の微細な狭窄部分を見つけてくれたのよ。その部分をメーララ独自の回復魔法で完全に治癒できたの。そのほかにも,微細な欠陥部分が複数あって,いろいろと大変だったわ。でも,もう大丈夫だと思う。無理できる体になったと思うわ」

 茜「はい,ほんとに,ほんとにありがとうございます。このお礼は,体で返します」

 千雪「いいこころがけだわ。茜,じゃあ,ベッドに移動してちょうだい」

 茜「はい,喜んで!」


 茜は,この日,千雪に抱かれた。


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