第11話 香奈子の受難,美月美沙美桜の決心

ー 香奈子の部屋 ー


 千雪にとんでもない命令を受けて,香奈子は,ベッドに潜り込んで,どうしようか悩んでいた。


 『夢現幸福教』のことをネットで調べても,ほかのツイッターとかを調べても,有益な情報がまったく得られない。たとえ,私立探偵を採用しても,無駄に時間と金を浪費するだけだと感じた。


 となると,自分で『夢現幸福教』の信者になって,潜入捜査をするしかほかに道はなかった。爆破させることは,金さえ積めばなんとかなるかもしれない。でも,教祖の奇跡を暴く方法は,まったくもってわからない。それは,いくら受験勉強ができても,上級公務員でも無理だ。


 だが,それよりも問題なのは時間がないことだ。爆破のアレンジに1ヶ月かかるとして,2ヶ月で教祖の奇跡を暴露しないといけない。奇跡を行うのは月に一回だけ。となると,内情を把握する時間は,せいぜい1,2週間くらいしかない。対策をとるのに1ヶ月,うまく動画がとれたとして,その編集に1週間,などなど考えると,とても仕事をしている暇はない。


 ここにきて,姉の小百合を恨んだ。『なんで千雪の秘書に私をさせたのよ!!私の人生,滅茶苦茶じゃない!!なんのために,今まで一生懸命勉強してきたのよ!!!』


 香奈子は,ベッドの中で布団をかぶってなんどもなんども叫んだ。


 このままでは,確実にあの人間ばれした能力を持つ男どもの性奴隷にされてしまう。もう,人生もほんとうに終わりだ。


 『決めた!3ヶ月,休職を取ろう。それで首になってもいいわ。あんな姉の妹に産まれたのが運の尽きよ。もともと,私は,地べたを這いずり回るしかなかったんだわ』


 香奈子は,自暴自棄になった。つい最近,テレビで,一流大学,一流企業に努めたのはいいが,セクハラ,パワハラにあって,自殺した女性新入社員の報道があったばかりだ。


 そんな報道を耳にするにつけ,一流大学に入って,一流企業や上級公務員というエリートコースを選ぶのが,ほんとうに幸せな路なのかと,ふと疑問に思うこともある。でも,でも,これまでの努力の上に,今の地位がある。そうそう容易く捨てられるものではない。


 そんな,堂々巡りの考えを何度も繰り返して,でも,結局のところ,結論をださずに,自分の職場に出勤した。



 ー 科学先端省 人材開発部 ー


 香奈子の職場は,科学先端省の人材開発部に所属している。さほど面白い職場ではない。


 香奈子は,自分の席について,独り言を言った。


 『あーあ,やっぱり首覚悟で,休職願いを出そうかな??』と思った。その時に,上司に呼ばれた。


 香奈子「なんでしょうか?」

 上司「宇宙開発プログラムが,進行中なのは,知っているな?そこで,宇宙船のパイロットを10名ほど選抜するのだが,候補が200名にもなって困っている。せめて50人までに絞りたい。このリストは,私が書類審査で残した人物だ。

 お前は,そのうち,2名の候補者に会って,彼らの意気込みをインタビューをしなさい。別にそれで彼らが受かるとか落ちるとかいうことはないから安心しなさい。ただ,新人のお前が行くことで,彼らがどう反応するか見たいだけだ。インタビュー中は,録音の許可を取って,録音しなさい。これが,インタビューで聞いてもらう内容だ。どうだ?簡単な仕事だろう?」


 香奈子「はい。自分にもできそうです。では,住所をしらべて,早速行ってきます」

 上司「あ,待て。今回は特別だ。タクシーチケットを使え」

 香奈子「え?いいのですか?」

 上司「かまわん。すぐに行け」

 

 香奈子は,ちょっとうれしくなった。こんな簡単な仕事で,タクシーが使えるのだ。やっぱり休職願いを出さないで,もう少し二足の草鞋で頑張ろうと思った。『夢現幸福教』へのおとり捜査は,土曜日の休日にでもしようかと考え直した。


 香奈子が職場から去った後,上司の同僚が,上司に声を掛けてきた。


 同僚「あのインタビューって,うそですよね。でもタクシーチケットまで出して,会計審査で睨まれたら,困りますよ?」

 上司「いや,大丈夫だ。あのタクシーチケットは,SARTとα隊の経費だ。至急に香奈子の状況を知りたいそうだ」

 同僚「ということは,インタビューされるのは,相手側ではなくて,香奈子ってわけですか?」

 上司「そうだ。どうも,とんでもない連中と関わっているらしい。今のところ,トップシークレットらしいがな」

 同僚「ということは,,,いずれ彼女は,首ですか?」

 上司「いずれではない。今月中にも辞めてもらう。長官の判断だ。だが,頭がいたいよ。どんな理由で首にできるのだ??仕事は真面目にしているし,大学の成績はトップだぞ!!出世コース間違いなしの人材だ。まあいい。お前は席に戻れ」

 同僚「はーい」

 

 同僚は,持って来たコーヒーを上司の机に置いて自分の席に戻った。


ーーー

ー 千雪の部屋 ー


 アカリは,一通のメールを入手した。それは,執事からだった。アカリは,千雪の家をピンポイントで破壊する方法を執事に調査依頼してい。


 執事に依頼する,ということは,陸奥星財閥のすべての機関を動かせる。その調査能力は,国の調査能力を遙かに凌駕する。軍事武器開発会社も多く抱えており,数多くの秀才,天才たちの頭脳を結集させることができる。アカリの依頼など,片手間で回答することが可能だ。


 調査期間は,わずか3日で結果が出てきた。その内容をアカリは一読した。


 『お嬢様,ご依頼の調査結果は,以下の通りでございます。


 結論:ピンポイントで千雪邸を攻撃することは可能です。武器は,麦国人工衛星搭載のウルトラ・ハイパー・レーザービーム砲を使用する方法です。月本国の上空に留まる静止衛星でないため,照射できるのは,月に2回のみ。今月では,10日(土曜日)と25日(日曜日)の午前10時5分から5分間の間になります。


 コメント:ウルトラ・ハイパー・レーザービーム砲,この武器は開発中だと言われていました。しかし,すでに開発が終了して,実地試験で,その成果が実証済みです。我が国の大統領が麦国に依頼すれば,使用許可がでるものと思います』


 アカリは,この報告書をプリントアウトして,カロックにそれを見せた。


 アカリ「マサ(カロックのこと),この報告書を見てちょうだい。もし,超法規的措置を講じるとすれば,7日後の10日か,3週間後の25日だと思うわ。千雪を生かしておくと,どんどん死人が増えるからね。おまけに証拠がないから,逮捕もできないし,私が大統領なら,ゴーサインをだすわ」

 カロック「このビーム砲って,この家を焼き尽くすことができるのか?」

 アカリ「できると思う」

 カロック「でも,アカリを犠牲にはしないだろう?」

 アカリ「それは,絶対にないわ。だから,なんらかの方法で私をこの家から連れ出す方策をとるはずよ」

 カロック「では,その時が襲撃の時だな。この件は,千雪に言うな。今,茜の蘇生術で精一杯だからな。折を見て千雪に話す」

 アカリ「わかったわ。他に調べることはない?」

 カロック「そうだな,,,では,サルベラとメーララの所属する組織を調べてくれ」

 アカリ「メーララさんは,夢現幸福教って分かるけど,サルベラさんはどの組織かわからないわ」

 カロック「サルベラの服装の写真を撮って,調べさせればいいだろう」

 アカリ「なるほど,,,確かにそうね。マサって,結構,優秀なのね」

 カロック「あほ!!お前がアホすぎるんだ。もっと,頭をつかえ」


 アカリは,舌を出してテヘっとして,可愛いポーズをしてごまかした。

 

ーーーーーー

ーーーーーー


ー SART(特殊攻撃機動隊)の会議室 ー


SARTの会議室では,香奈子がSARTの隊長にインタビューをしていた。インタビュー項目は決まっているので,その順番に従って進めていった。


 香奈子は,『宇宙船のパイロットに応募にした動機は?』,『宇宙にいる間は,家族のことは心配ないですか?』,『他のクルーとのコミュニケーションについて,特に留意することはなんですか?』などなど,20項目の質問について,インタビューしていった。


 30分ほどでインタビューが終わったので,香奈子は別れの挨拶をした時,隊長は,本題を切り出した。実は,パイロット候補のインタビューなど,ダミーなのだ。これからが本題なのだ。


 隊長「香奈子さん,慌てないでください。実は,以前,われわれの社員と遭遇したことがありますね?」

 香奈子「え??いえ,ありませんけど,,」

 隊長「では,少々おまちくだい。今,彼女たちを連れてきます」


 隊長が会議室を出ていってから,しばらくして,3人の女性隊員を連れてきた。その女性たちを見て,香奈子は見覚えがあった。焼き肉屋でトラブルになった人たちだった。


 この時,やっと思い出した。サルベラと一緒にいた女性たちだった。


 3人の女性は,美月,美桜,美沙だった。


 美月「香奈子さん,久しぶりね。覚えていいましたか?まさか,あなたが千雪の秘書をしているとは思ってもみなかったわ」

 香奈子「え?どうして,そんなこと知っているのですか?職場でも誰も知らないはずですけど。まさか,サルベラさんが??でも,その可能性はないと思うけど,,,」

 美月「私たちも,つい最近,教えられたのよ。まさか,科学先端省のエリート職員が,あの千雪の秘書をしているとはね。びっくりしたわ」

 香奈子「そうですか,,,α隊から情報が伝わったのですね。当然かもしれませんね。私もそろそろ,年貢の納め時かもしれません」

 隊長「香奈子さん,その可能性はあるだろうな。千雪の秘書の身分が公然となると,たぶん,今の職場には居られないだろう。まあ,どこかの関連会社の再就職先くらいは紹介してもらえるかもしれん」

 

 香奈子は,隊長の言葉を聞いて,意外とショックが少ないことに,自分でも驚いた。昨晩,休職するか,退職するか,などと,いろいろと逡巡していた甲斐があって,『退職』または『首になる』ということに対して,多少抵抗力ができたのかもしれない。


 香奈子「やっぱり,そうなりますか,,,私の考え方が,まだまだ甘かったかもしれませんね。もともと二足のわらじは無理だったのですね,,,」


 隊長「まあ,仮にそうなっても,今日,明日,ということもあるまい。どうだ?ここに,温泉旅行の切符が5人分ある。彼女らと仲直りの意味も含めて,5人で旅行したらどうだ?もう一人は,そうだな,,,千雪さんのそばに,確かアカリさんがいたと思う。彼女も誘ってみてはいかがかな?旅行の日にちは,10日か25日のいずれかだ。都合のいい日を選べばいいだろう。タクシーチケットも用意しよう」


 香奈子「・・・,そうですね。首になる前の温泉旅行ですか,,,それもいいかもしれません,,,ありがとうございます。では,アカリさんの都合を聞いてみます」


 香奈子は,その場でアカリに電話して,彼女に打診した。彼女は,ぜひ参加したいとのことで,25日を希望した。


 香奈子「アカリさんもぜひ参加したいとのことです。25日のほうが都合がいいそうです」

 隊長「そうか。では,美月,予約のほうを頼む」

 美月「了解しました」


 香奈子は,隊長らに別れの挨拶をして,会議室を後にした。


 香奈子が去ったあと,美月は,隊長に言った。


 美月「香奈子さんは,職場を辞めさせられると聞いても,意外とショックが小さかった感じですね。覚悟していたのでしょうか?」

 隊長「今から考えれば,千雪が秘書と認めた時点で,香奈子は官庁に務めを続けることは無理だろうと判断すべきだったのかもしれん」

 美月「でも,香奈子さんは,自分で望んで千雪の秘書になったわけではないのでしょう?なんか,かわいそうですね」

 隊長「資料によれば,香奈子の姉が,小百合だそうだ。木の葉会の幹部ハルトの情婦だ。ハルトは,千雪の弟子になって,日々,山に籠もって修行しているらしい」

 美月「そんな話を聞くと,千雪の仲間って,少しずつ増えていく感じですね。ますます脅威になるんじゃないですか?」

 隊長「そうだ。だが,問題はそこではい。今でも,日々5名ほどが,殺されているという事実だ。しかも,証拠がいっさいない。多分だが,大統領は決断するだろう」

 美月「決断って,超法規的措置ですか??」

 隊長「・・・・,話はここまでだ。長官に報告にいかねばならん」


 隊長も会議室を後にした。


 隊長が去ったあと,美桜がとんでもないことを言った。


 美桜「隊長は,絶対,何か隠しています。ちょっと,調べてみましょうか?」

 美月「そうね,,,でも,バレたら私たち,首よ,首!!」

 美桜「ふふふ,就職先の候補が見つかったような気がするの」

 美沙「それって,どこよ?」

 美桜「千雪のところよ。千雪にやとってもらうのよ。だから,今のうちに,香奈子といい関係を構築しないといけないわね」

 美沙「なるほど,,,でも,私たちって,悪者になってしまうよ。殺人者の仲間になってしまうのよ」

 美桜「千雪とこの国の軍隊が戦ったら,どっちが勝つと思う?」

 美沙「千雪の能力ってよくわかんないけど,,,『千雪の勝ちーー!!』」

 美桜「直感だけど,私もそう思うわ。勝てば官軍よ。それに,殺される人って,皆,千雪をレイプしったっていう噂よ。まあ,殺されて当然ね」

 美月「よし。では,隊長のパソコンを乗っ取ることから始めましょう。美沙は,部長のパスワード解析をすぐに実地してちょうだい。バレないように,職場のランに繋がっていないパソコンで解析してよ」

 美沙「私を誰だと思っているの?天才ハッカーよ。私に破れないパスワードはないわ」

 美月「期待しているわ」


ーーー

ー 大統領執務室 ー


 大統領執務室では,大統領,秘書長,幹事長の3名と,α隊の2号と3号および彼らが連れてきたピアロビ顧問がいた。


 他にオンラインで,陸軍大将,空軍大将,海軍隊長,科学先端省長官,と彼らの秘書陣,SART隊長,α隊隊長が繋がっていた。SART隊長とα隊隊長の直接の上司は警察庁長官になる。


 人事・総務関連の通知内容は,警察庁長官を経由して通達されるが,実際の業務では,大統領からの直接指示で動くことになっている。


 オンラインで繋がっているからといって,集中的に会議をしているわけではない。今は,この国の方針を決定する前の,雑談的な状況で,オンラインで繋がっていても,そこには,秘書か連絡係がいるだけだった。


 ピアロビ顧問「大統領,例の件,間違いないですね?」

 大統領「ああ,心配するな。すでに3機の高炉を確保した。採掘権およびその採掘費用はすべてこちらで持つ。その約束だったな?」

 ピアロビ顧問「それで安心しました。これで,大統領が,最悪の事態に陥っても,千雪をなだめることが可能です。どうぞ,自由な判断を下してください」


 このやりとりには,補足説明が必要だ。ピアロビ顧問は,前々から,月本国の精錬技術の高さに驚嘆していた。その技術で魔鉱石を精錬すれば,魔界に産業革命が起こると確信していた。だが,その精錬技術はピアロビ顧問が独占したかった。その意味では,この月本国にその精錬技術があるのは好都合だった。

 

 以前から,大統領に,魔鉱脈の採掘権を打診していたが,大統領もその重要性がわからず,返答を渋っていた。しかし,千雪が殺人を犯しているのは間違いない状況なのに,死体が発見できず殺人事件にならない。おまけに,自殺幇助の可能性があるのに,まったく証拠がつかめない。


 ピアロビ顧問が魔界から戻ってきて,千雪が魔界で何をしてきたかを概略教えてもらってから,大統領は超法規的手段をとることを決めた。だが,千雪は怪物だ。もし,その手段でも駆除,排斥できなかった場合,この国が確実に滅ぶ。それを避けるための保険が必要だった。そして,今,その保険がピアロビ顧問だ。


 大統領「ピアロビ顧問,もし,こちらの手法で対処できなかった場合,ほんとうに,千雪をなだめることができるのだな?その方法は,教えてくれないのか?」


 ピアロビ顧問「教えてもいいですけど,大統領のこれから下す判断に,まったく影響しないので,知る必要がないと思ったまでです。知りたいのなら,お教えしますが?」

 大統領「ぜひ知りたい。教えてくれ」


 ピアロビ顧問は,大きくため息をついた。そして,説明を始めた。


 ピアロビ顧問「千雪は,魔界では,死んだことになっています。公衆の面前で攻撃魔法で死にました。ですが,私がこの月本国に戻ると,千雪がいるではありませんか。では,殺された千雪は,いったい誰だったのでしょう?」

 大統領「え?誰だ?分かるわけないだろう!!」

 ピアロビ顧問「実は,この指輪が創り出す兵士だったのです」

 大統領「???何?それは?」

 ピアロビ顧問「魔界では,5地域に区分けされていて,それぞれが領主として君臨しています。領主は,その証として,精霊を宿した指輪を管理しています。千雪は,この月本国に戻るために,自分の身を領主の性奴隷にしてまで,精霊の指輪2本を手に入れました。ここからは,私の推測ですが,千雪の偽物は指輪が創った兵士だと睨んでいます。その辺の事情は千雪に聞かないとわかりません。重要な点は,千雪は領主の性奴隷になってまでも指輪を欲したという事実です。そして,私は,そんな精霊の指輪のひとつを預かる身分です」


 ピアロビ顧問は,左手にしている指輪を見せた。


 ピアロビ顧問「この指輪があれば,いくらでも,千雪と対決することができますし,千雪を懐柔することもできるはずです。大統領が死地に陥ったときは,この指輪を千雪に差し出して,大統領を救済することも可能でしょう。ですから,大統領,どうぞ,遠慮無く,自分の好きなように判断してください」

 

 大統領「なんと,その指輪は,そんなに価値があるものなのか!!でも,それを千雪に渡したら,ピアロビ顧問が困るのではないか?」

 ピアロビ顧問「いいえ,これは複製体です。時間がくれば自動で消えてなくなります。千雪が入手した2本の指輪も複製体です。ご安心ください」


 大統領「そうか,,,ならば,その言葉を信じよう。では,私も遠慮無く方針決定をしよう」


 このとき,オンラインで,SART隊長から,呼びかけがあった。


 SART隊長「大統領,千雪の秘書の香奈子と会いました。香奈子は,今月の25日にアカリを連れ出して温泉旅行に行くことになりました。それと,香奈子には,それとなく,科学先端省での仕事ができなくなるとほのめかしておきました。どうも,香奈子も内心,首にされるという覚悟ができているような雰囲気でした」


 大統領「そうか,,,香奈子には,申し訳ないが首だ。科学先端省長官,香奈子は,即刻,首でいいな?」


 科学先端省長官「はい,私に異論はありません。明日から出省しなくてもいいと,次の面談者であるα隊の隊長からお伝えください」


 α隊隊長「え?私からですか??」

 大統領「これは,大統領決定だ。α隊隊長から言い渡してもらって結構だ」

 α隊隊長「わかりました。では,私から連絡しておきます」


 大統領秘書がここで,全員に声をかけた。


 大統領秘書「では,そろそろ全体会議を行いますので,出席をお願いします」


 この声で,ぞろぞろとモニターに出席すべき人物たちが姿を現した。

 

 大統領秘書「大統領,全員が揃いました。会議を進めてください」

 大統領「了解した。では今から,千雪討伐の会議を行う。まず,SARTの倉庫で武器弾薬が盗まれた件だが,やつらは,きちんとそれらを扱えるようになっているのか?」

 

 陸軍大将「大丈夫です。退役軍人が数名,繁木会へ指導に行っています。そこそこ扱えるようになったとの報告を受けております」

 大統領「ピアロビ顧問,銃撃戦以外に,他に手立てはないのか?」

 ピアロビ顧問「多分,機関銃でも爆弾でも千雪は殺せないと思います。その場合,千雪の技量を知る意味でも,すでに兵士1名を用心棒として繁木会に派遣しています。その兵士は,ある程度,自分の考えで行動します。逆にいうと,私の希望通りの行動を示すとは限りませんが,千雪の技量を知ることはできるでしょう」


 大統領「そうか。その辺は,ピアロビ顧問にまかせよう。現場の状況の撮影はどうなっている?」

 空軍隊長「実行日の時間が決まれば,ドローン撮影隊を配備する予定です。5機飛ばします。かりに墜落しても,空軍が関与したという事実がわからないようになっております」

 大統領「了解した。では,繁木会に予定通りで進めるようにと伝えなさい」

 大統領秘書「了解です。政府が関与しているとばれないように注意します」

 大統領「うむ,よろしく頼む。次に,ウルトラ・ハイパー・レーザービーム砲についてだが,これは,25日に決まった。陸軍大将,まず,事務方から麦国の担当者に連絡をとってもらって,麦国の軍部大臣との電話会議のアレンジをお願いしたい」

 陸軍大将「了解しました。早速にアレンジをします」


 大統領「今回の決定で,かりに作戦が失敗して,政府がからんでいると判明しても,ピアロビ顧問は,千雪をなだめる方法があるそうだ。今は,それを信じよう。なによりも,証拠を残さずに殺人をしているという千雪をこのまま野放しにするのは,国家として放置することはできない」


 ピアロビ顧問は,『フフフ』と含み笑いをした。


 大統領「ピアロビ顧問,何がおかしいのだ?」


 ピアロビ顧問「いえいえ?大統領のことを笑ったわけではありません。千雪がいた魔界でも,その国の国王が同じことを考えて,千雪に対処しようとしたのですが,,,,」

 大統領「それで?」

 ピアロビ顧問「なんか,それなりに成果はあったようです。ですが,千雪を王都追放くらいにしかできなかったそうです」

 大統領「そうか,,,まあいい。ピアロビ顧問,千雪の件については,あなたの協力が不可欠だ。今後ともよろしく頼む」

 

 ピアロビ顧問「はい。もちろんでございます。魔法石の精製の件,くれぐれも迅速に対処していただければ,粉骨砕身で尽力させていただきます」


 世の中,所詮,ギブアンドテイクだ。ピアロビ顧問は,大笑いしたかったが,この場は含み笑いで留めておいた。

 

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