第9話2億円の仕事

ー 千雪の家 ー


 千雪は喜んだ。ハルトから連絡があって,大きな依頼があるから,ぜひ依頼者と会ってくれとのことだ。しかも,依頼金額は2億円だ。


 現在,占いの店で稼いだ金額は48億円。その2億円があれば,目標達成だ。それで,何をしようかという目標もないのだが,2億円が一度に手に入るのは,ありがたい話だ。


 ハルトが初老の老人を連れてきた。アカリが,最上級のVIP待遇をして,出迎えて,わざわざこのために用意したVIP用のソファに座ってもらった。


 アカリは,最上級のコーヒーと和菓子を出してもてなした。


 アカリ「ほかに,なにかお飲み物のご要望はないでしょうか?どのようなものでも,ご用意させていただきます」

 老人「いや,結構です。ご丁寧な対応,ありがとうございます」


 老人は,痩せこけた体をしていた。素人でも,一見して,病気,しかもガンであることが分かるほどだった。


 千雪は,同席するスタッフの紹介を老人にした。

 

 ハルト「マンダさん,どうぞ,依頼内容を千雪様にお伝えください」


 老人は,千雪があまりにも美人であることに,巨乳であることに,少々驚いた。それ以上に,年齢が15歳そこそこであることに失望した。


 老人「あの,失礼ですが,千雪様は大変お若いようです。その,,,わたくしの依頼を本当に実現できるのでしょうか?」


 カロックはニヤッと笑った。至極当然な意見だからだ。だが,忠実な番犬であるハルトは違った。


 ハルト「マンダさん。申し訳ないが,その言葉を撤回してもらえないでしょうか?私の主人を侮辱するように聞こえます」

 

 ハルトは,できるだけ柔らかい表現で言葉を返した。


 カロックが仲裁するかのように言葉を挟んだ。


 カロック「マンダさん,では,どうすれば,信じてもらえますか?千雪に裸踊りでもしてもらいますか?」


 ダン!!


 カロック「いてて!!」


 アカリがカロックの頭をトレイで叩いた。最近は,カロックのこのような冗談は,千雪が手を出すまでもなく,アカリが真っ先に手を出す。


 千雪「マンダさん。裸踊りで信じてもらえるなら,そうしてもいいですよ。でも,私の美しい肌艶は見ることはできませんけど」


 老人「それは,どういう意味ですか?」


 千雪「マンダさんは,何色が好きですか?」


 老人「何色といわれましても,,,強いていえば,赤色です。携帯のカバーも赤色を使っています」


 千雪「わかりました」


 千雪は,霊力の服ではなく,本物の服を着ることもあった。今日は本物の服を着ている。浴衣1枚のみだ。この服装は,仕事着でもある。占いの店で客に胸を触らせるときに,すぐに裸になるためだ。


 千雪は,ソファーから立って,2,3歩いてるて,少しスペースのある場所に移動した。


 千雪「マンダさん,では,私の裸を見てください」


 バーー!!

 

 千雪は,サッと帯を解いて浴衣を脱いだ。


 老人「な,なんと,,,,赤い,赤い皮膚だ,,,」


 千雪は,首から下を赤に変色させたのだ。


 千雪「マンダさん,別の色を言ってください」

 老人「で,では,青色で,,,」

 千雪「わかりました」


 千雪は,180度回転して,背を向けた。その背を向けた部分の肌の色は,青色だった。そして,また,180度回転した。首から下の部分は,すでに青色に変わっていた。


 千雪は,また浴衣を着て,ソファにもどった。


 千雪「少しは,私の能力を理解しましたか?」


 老人は,驚きのあまり,息をするのも忘れていたが,気を取り直して,言葉を出した。


 老人「千雪様,大変失礼いたしました。若さゆえに,未熟でないかと疑っておりました。お許しください」


 千雪「いえいえ,当然の反応です。謝る必要もありません。どうぞ,依頼内容をおっしゃってください」


 老人は,ハルトの部下に持ってもらった2億円を机の上に置いてもらった。


 老人「ここに2億円あります。どうぞ,納めください。この2億円は,妻の死亡保険です。本来,受け取り人は,今,はやりの新興宗教である『夢現幸福教』でした。妻は,自分の死をもって,死亡保険金をその教団に寄付しようとしたのです。それまでも,土地,家,すべて抵当にいれて,そのお金をその教団に寄付してきました。いっそ妻を殺して私も死のうかと思ったくらいです。それを実現する前に妻は自殺しました。受け取り人が教団であることに愕然としました。


 ですが,私は弁護士です。私の全精力を使って,死亡保険の受け取り人の契約は,無理矢理教団側によって書き換えられたもので,無効であると争ったのです。紆余曲折はあったのですが,なんとかそれを証明することができました。


 その教団の信者の家族は,財産を失って,自殺をするものが続出しています。しかも,死亡保険さえも,教団に入ってしまうのです。


 私は,教団と戦って,教団を潰すことを無き妻に誓いました。でも,私の体は,すでにガンによって蝕まれていました。余命3ヶ月と言われています。末期ガンです。抗ガン剤もうまく効くものがありません。


 私の教団を潰すという誓いは頓挫しました。そこで,私の意思を継ぐものを探しました。法律という武器で戦うには,時間がかかりすぎます。


 ならば,人知を超えた能力者であれば,あの夢現幸福教の教祖の化けの皮を剥いで,信用を失墜させることができるのではないかと思ったのです。信用を失墜させて,それをyoutubeで公開し,宗教という隠れ蓑で悪逆非道を行う財産没収の悪徳商法を世間に知らしめてほしいのです。あの教祖の本殿を爆弾で破壊してほしいのです。


 教祖は,月に一回奇跡行います。その奇跡の嘘を暴いてほしいのです。それを動画にとって公開してほしいのです。信用を失墜させてほしいのです。本殿を爆破させて,妻の恨みを晴らしてほしいのです」


 老人は,切々と千雪に訴えた。その声は,涙声になっていた。ハルトも目を少し潤ませていた。ハルトの部下たちも同様だった。


 だが,千雪やカロックは違った。冷めた目でその話を聞いていた。


 香奈子は,千雪の秘書になってから,超現象を何度も目にしてきた。しかも,千雪がその宗教団体が行っている財産没収を,今も占い店で日々行っていることを知っている。しかも,その客は,最後にはカロックによって肉体を消滅させられることも薄々知っている。


 香奈子は,千雪の秘書になってから,少しずつ考え方が千雪依りになってきた。結局は,強者が勝つ。この老人は,法律という武器で戦ってきたが,それはそれで正しい。でも,寿命が尽きようとしている老人が最後に頼ったのは千雪だった。超能力のある千雪だった。強者としての千雪だった。


 香奈子は,浅いため息をついた。結局は,世の中,圧倒的なパワーのあるものが勝つと思うようになった。香奈子は,最近,科学先端省に出勤するのも,休みがちになった。千雪の仕事を優先するためだ。近々,1年ほど休職願いを出して,千雪の専属秘書として,活動することも決めている。


 香奈子は,老人のことを哀れむのだが,その生き方には賛同しなかった。妻とさっさと分かれて,新しい人生を生きればいいと,ドライに考えるようになっていた。


 千雪の右側には,カロックが座っているが,千雪の左側には,茜が座っていた。茜は,普段は,アカリの手伝いをするのだが,重要な会議では,常に千雪の左側に座るようになった。別に茜の知恵を借りるというわけではない。千雪の手は,時々,会議中でも茜の胸を触る。茜は,すでにBカップからKカップに変わっていた。毎晩,千雪によって愛撫されて,完全に千雪の『ペット』になっていた。


 老人が涙ながらに訴えていたが,千雪の頭の中は,茜のことしか考えていない。


 一通り訴えた老人は話終えた。


 香奈子は,千雪が茜のことしか考えていないことを知っている。最初だけは,話を聞くふりをするのだが,あとは,すべて香奈子が対応することになる。


 やむなく,香奈子が老人に返事をすることにした。


 香奈子「マンダさん。ご依頼の趣旨はわかりました。夢現幸福教の教祖の化けの皮を剥ぎ,その内容をYoutubeに公開して,信用を失墜させ,本殿を爆破させるということでよろしいですね?しかも,期限は今から3ヶ月までに実行する」


 老人「そうしてもらえるとありがたい」

 香奈子「わかりました。その依頼を引き受けます。もし,依頼が不成功の場合は,全額返却させていただきます」

 老人「返却は不要だ。どうせ,もう長くない命だ」

 香奈子「わかりました。少なくとも本殿の爆破は間違いなく実行できますので,それだけは確実に遂行できるとお約束します。信用失墜の件についても,全力で対応します。絶対とは言えませんが,7割の確率で実施できるものと考えております。安心してわれわれの成果を待っていてください」


 老人「感謝する。では,よろしく頼む」


 老人は,ハルトの部下に自宅まで車で送られた。


 老人が去ったあと,千雪は得意の他人任せを行った。


 千雪「香奈子,この件はお前の仕事よ。経費は報酬の1割まで。もし,こんな簡単な仕事に失敗したら,そうね,,,カロックとハルトの性奴隷にでもなりなさい。そのほうがよっぽど役立つわ」


 カロック「へへへ,それはいいですね。そうなってほしいから,私は協力しませんぜ」

 ハルト「私も協力しません。ぜひ失敗してほしいから。ふふふ。今から,超エリートの香奈子さんを抱くのが楽しみだ」


 香奈子は,愕然とした。『な,なんで,私,ひとりだけで???簡単な仕事??いったい,どうやって,やれっていうのよ!!』香奈子は,頭を抱えた。


 千雪「茜,風呂に入って,体を洗っておきなさい」

 茜「はーーーい」


 茜は,この意味を理解した。千雪のペットになる茜は,その身分が決していやではない。茜も頭の中は,『快楽』の文字でいっぱいだ。すべての思考が千雪のペットとして過ごすことを望んだ。


 千雪は,実は,もうひとつ重大なことを決めていた。


 千雪「ハルト,今から,私の部屋に来なさい。いいことしてあげるわ」


 ハルトは,『いいこと』という言葉に狂気した。



 ー 千雪の部屋 ー


 ハルト「千雪様,いいことって,何ですか?」

 千雪「以前,山で修行中に,無性に女を犯したい気持ちになるって,言っていたわね。今のお前の実力では,まだまだ素人の女性を襲って,バレないようにすることは無理よ。どう?いっそのこと,その性欲をしばらく無くしてみる気はない?」


 ハルト「性欲を無くす?」

 千雪「そうよ。修行に集中できるでしょう。まだまだ加速もやっと5倍になったくらいでは,とても私のそばにはいさせられないわ。せめて,20倍速以上ないとダメ。それでも,拳銃の弾を躱すことはできないわ。ハルトは,毎日,私の母乳を飲んでいるんだから,もっと,早く成果が達成してもいいはずよ。死ぬ気で修行を続けなさい」


 ハルト「・・・・,ほんとうに性欲を抑制できるのですか?」

 千雪「できるわ。今から性欲を抑える手術をします。3ヶ月後には,元に戻してあげる。いいわね?」

 ハルト「もともと,私に拒否権はないですから,いいですよ」

 千雪「よかった。じゃあ,裸になって,そこのベッドで横になりなさい。目を閉じなさい。20分程度で終わるわ」


 ハルトは,言われた通りにした。


 千雪は,ハルトの痛覚を遮断した。千雪は,自分も裸になった。


 千雪は,ハルトの男性機能を有するすべての部分を切除して,最低限の回復魔法をかけた。


 千雪はハルトの切除した部分を自分のものにした。このようにすることで,千雪は1週間ほどかけて自分の遺伝子を持った精子を生成させるつもりだ。


 千雪「ハルト,もう起きていいわよ。性欲はないはずよ」


 ハルトは,何をされたか,わからなかった。だが,体を起こして,あるべきものがないのがわかった」


 ハルト「ああぁーーーーーーーーー!!」


 

 ー リビングルーム ー


 リビングルームでは,香奈子が頭を抱えて悩んでした。まったく,何から手をつけていいのかよくわからない。


 香奈子は,泣きたくなってきた。エリートとして,輝かしい人生を歩むはずだったのだが,こんな『容易い?』仕事もできないとは,,,自分が情けなかった。


 そんな時,千雪の部屋から,ハルトの悲鳴が聞こえてきた。

 

  ああぁーーーーーーーーー!!!


 香奈子「叫びたいのは,私のほうよ,もう,,,」

 香奈子も,ハルトに対抗して,大きな声を上げた。


 香奈子「ああああああーーーーー!!!」


 少しすっきりしたので,香奈子は千雪の家を後にして帰路についた。


 しばらくして,香奈子と同じく意気消沈したハルトが戻ってきた。ハルトは,意気消沈していたが,その後,千雪によって精神支配を受けた。その内容は単純だ。『徹底的に修行に励み,与えられた霊力を極限まで自由に操りなさい』というものだ。


 ハルトは何も言わず,千雪の家を出て山に戻り,修行を再開することにした。性欲を失って,精神的に少し女性化したので,一般人の女性を襲う,というような発想はしなくなった。



 ーーーー

ー 千雪の部屋 ー


 千雪は,茜を使って新しい遊びを始めた。というのも,付け刃だが,千雪にも男性機能が備わった。


 風呂から上がってきた茜は,Kカップをユラユラさせて千雪のベッドの傍に来た。


 茜「千雪様,今から,どんな遊びをするのですか?とても期待します」

 千雪「茜,これを見て!!」


 千雪は,先ほど,手に入れた女性にはない異物を茜に見せた。


 茜「えーーー!!」


 茜の悲鳴は,ハルトの悲鳴よりも小さかったので,リビングルームで,トランプゲームをしているカロックとアカリには,さほど奇異には感じなかった。


 アカリは,料理ができるといっても,出来合い品を電子レンジでチンするだけだ。アカリのまともな料理といえば,炊飯器で米を炊けるくらいなものだ。それでも,その方法を知っているとはたいしたものだ。


 カロック「アカリ,夕食の準備はできているのか?」

 アカリ「大丈夫よ。ご飯さえできれば,あとは,レトルトのカレーでも,シチューでも,なんでもあるわ。世の中は便利になっているのよ」

 カロック「さすがは,財閥のお嬢様だ。レトルトカレーとシチューの日替わりメニューが1カ月続いている。千雪もよく文句を言わないものだ」

 アカリ「千雪様には,茜をあてがっていればいいのよ。それ以外のことはどうでもいいの」


 こんな会話をしている時,2階から千雪の悲鳴が聞こえた。


 千雪「キャーーーーー!!カ,カロック,カロック,早く来てーーー!!」


 千雪が叫ぶなど前代未聞だ。カロックとアカリは,すぐに2階の千雪の部屋に駆け上がった。


 茜が全裸で,横になってベッドで倒れていた。千雪も全裸だが,茜の体を揺すっていた。


 カロックが部屋に入ってきたのを知って千雪は,すぐに声を発した。


 千雪「カロック!茜が息をしていないの!心臓が止まっているの!回復魔法も効かない!ど,どうしよう!!」


 カロックは,千雪の下半身に変なものがあるのに目が一瞬奪われたが,今はそれどころではない。


 すぐに,茜のところに来て,カロックが最大級レベルの回復魔法をかけた。それと同時に千雪に命じた。


 カロック「千雪,至急,サルベラとメーララを召喚しなさい」


 千雪「う,うん,わかったわ」


 千雪は,急いで,標的魔法陣を起動した。


 ボァーーー!!


 ボァーーー!!


 サルベラが,特殊攻撃機動隊(SART)の制服姿で現れた。メーララは教祖風の姿で,手に仰々しい杖を持って現れた。


 最初に文句を言ったのは,メーララだった。


 メーララ「ちょっと,召喚するなら,事前に召喚するって,言ってよね!!こっちもいろいろと事情があるのよ!!」


 その問いに,千雪は答えず,カロックが先に返答した。


 カロック「その話は後だ。メーララ,彼女を救えるか?」


 メーララは,カロックを見て,カロックが回復魔法をかけている茜を見た。そして,すぐに返事した。


 メーララ「カロック,無駄よ。もう死んでいるわ。死因が外傷でないから,もともと回復魔法では無理よ。回復って,もとに戻す魔法よ。元々の体に,死ぬ要因があるのだから,いくら回復したって無駄よ」


 サルベラ「この子は,茜よ。私のアドバイスで千雪にあてがった女性よ。メーララ,なんとかならないの?」


 メーララ「まだ,霊体は,そこにあるから,その体を蝕むあらゆる微生物などの活動を止めることができれば,落ち着いて死因を調査することができるわ。そんなことより,とにかく,霊体を一時保管しないとダメよ」


 サルベラ「千雪,あなたの霊力で茜の体を覆って,細胞活動の停止をできないの?つまり,腐敗菌だけの生命エネルギーを奪うのよ!!」

 千雪「そんな神様みたいなことできないわ」

 サルベラ「千雪,できなくてもいいからやりなさい!!」


 千雪「・・・,やるわ」


 ボーーー!!


 千雪は,茜の体を霊力で覆って,茜の体以外のすべての生命体の生命エネルギーを吸収しようとした。


 メーララ「次に,霊体が問題ね。一時保管できないと,輪廻の転生サイクルに入ってしまうわ。あと,2,3時間のうちに方法考えないとだめよ」


 カロック「なんかの魔法陣に括り付けれないのか?」

 メーララ「適当な魔法陣が,すぐ思いつかないわ」

 サルベラ「千雪,あなた,エルバック領主からゴーレムの魔法陣設計図を入手したんじゃないの?それを見せてちょうだい」

 千雪「えーー??今の状態でーーー,わかったわ,一瞬,術を止めるわ」


 千雪は,茜に施している術を中断して,亜空間からゴーレムの魔法陣設計図を出して,サルベラに渡した。


 サルベラ,カロック,メーララがその設計図を見た。それを理解できるのは,サルベラしかいなかった。


 サルベラ「なるほど,,,現代魔界語で書かれているから,理解するのは容易だわ。メーララ,2時間ほど時間をちょうだい。大丈夫ね?」


 メーララ「それくらいなら大丈夫よ。いざっとなったら,私の特殊能力を使うわ」

 サルベラ「それと,カロック,メーララ,これを起動するのに,膨大な魔力がいるわ。魔法石に魔力を貯めてきてちょうだい。あなた方も,独自の魔鉱脈を見つけているのでしょう?」

 

 カロック「サルベラ,さすがだな。では,魔鉱脈の一部を砕いて,持ってくるとしよう」

 メーララ「私は,魔法石の指輪に注入してくるわ。サルベラ長官の持っている指輪を貸して」


 サルベラ長官は,メーララに指輪5本を渡した。


 メーララとカロックは,転移で姿を消した。


 アカリは,ただ,何もできずに彼らのすることを眺めていた。でも,何か,力になりたかった。恐る恐る初対面のサルベラに声をかけた。


 アカリ「あの,,,何か,手伝うことありますか?」


 サルベラは,アカリを見た。そして,ニコッと笑って,サルベラの持っていた携帯を渡した。


 サルベラ「その携帯にα隊隊長の電話があるから,彼に電話して,茜に異常が発生したので,至急ここに来てと言ってちょうだい。それから,おいしいコーヒーを準備して」


 アカリ「はい,わかりました」


 アカリは,自分の仕事ができたので嬉しかった。


 1時間後,カロックとメーララが前後して戻ってきた。その後,α隊の隊長と2号が,千雪の家にやってきた。この場で,全体を指揮するものはサルベラだ。だが,今は,魔法陣の理解に集中しないといけない。なにせ,100ページもある魔法陣の設計図だ。それを理解しないと,起動させることができない。単純な単発魔法なら,理解など不要だが,ゴーレムという稼働式になると話は違う。それを2時間で理解するという,離れ業をしないといけない。


 α隊の隊長と2号の対応は,メーララがすることになった。お互いの自己紹介のあと,メーララから状況を説明した。


 メーララ「茜さんは,なんらかの持病があったようです。それが引き金となって死亡しました」


 隊長「死亡??まさか??」

 2号「・・・・」


 メーララ「うそではありません」


 隊長「・・・,では,茜に会わせてくれ」

 メーララ「今は,できません」

 隊長「・・・」


 隊長は,なぜだ?と質問したかったが黙った。メーララの次の言葉を待った。


 メーララ「可能性は低いのですが,蘇生の模索をしているところです」

 隊長「できれば,もう少し説明してほしいのだが」

 

 アカリが,コーヒーを持ってきた。


 アカリ「コーヒーをどうぞ」


 2階からサルベラが叫んだ。

 

 サルベラ「メーララ!2階にすぐ来てちょうだい!!」


 サルベラは,隊長らに「失礼!」と声をかけて2階へと急いだ。


 リビングルームに残されたアカリは,自分が隊長らの話相手になる必要があると思ってソファに座った。


 アカリ「あの,私でよければ,どのような経緯でこうなったか,お話できますけど,,,」

 隊長「ありがたい。その経緯を説明いただけますか?」

 アカリ「はい」


 アカリは,時系列で,誰が,どのような発言をして,どう対応したかを説明していった。


 隊長「なるほど,,,つまり,千雪は,茜が死んだので,カロックを呼びつけ,かつ他の仲間2名を召喚したわけか。そして,茜の肉体の腐敗防止措置をしていて,霊体が消える前に,どこかに固定させる方策をしている最中だというのですね?」


 アカリ「はい,私は,そう理解しました」

 隊長「・・・,まさに,神の領域だな,,,」

 2号「そう思います。でも,なんで,茜にそこまで,,,,」

 アカリ「千雪さんは,茜さんをペットのように愛でていました。なんか,絶対に死なせたくないという意思が感じられました」


 隊長「十和子の予想通りだな」

 2号「まったくです」

 隊長「あ,十和子とは,サルベラの別名です」

 アカリ「あ,はい,わかりました」


 隊長「でも,アカリさんは,陸奥星財閥のお嬢様でいらっしゃいますよね。なんで,ここで,お手伝いさんのようなことしているのですが?」

 アカリ「実は,護衛をしていたマサが,こちらに戻るということになりました。私は,社会勉強的な意味合いで,マサに付いてここにお邪魔させていただいております」

 隊長「そうでしたか。ここは,普通の家とは違いますから,大変でしょう」

 アカリ「ええ,最初は,びっくりすることが多かったのですが,最近では,なんか,それが当たり前のようになってしまいました」


 ダン!ダン!ダーン!


 2階から,人が倒れるような音がした。


 だが,2階に行くこともできず,隊長らはリビングルームで待つしかなかった。


 隊長らが,ここに来て,2時間が過ぎた。


 カロックが,2階からひとりの女性をゆっくりとエスコートして,階段を一段一段,あたかも初めて歩くかのように,確認しながら降りてきた。その女性は,外見は茜だった。だが,胸の大きさはBカップで,千雪に巨大化される前の姿だった。


 隊長らは,茜を見た。


 隊長「茜,,,蘇生に成功したのか??」

 2号「茜,よかったなぁーーー」


 カロック「茜は,まだ声帯をうまく扱えないです。1週間くらいはかかるでしょう」


 隊長「え?それって,どういうことですか?」


 カロック「茜の元の肉体は,他にあります。これから,時間をかけて,どこに病巣があったのか,着実に調査して行く必要があります。1,2週間はかかるでしょう。ですが,もともと死亡した肉体なので,治癒がうまくいっても,蘇生する可能性は10%もないでしょう。そこで,現実的な対応として,茜に新しい肉体を与えることにしたのです。

 

 幸い,特殊な設計図があり,かつ,茜の魔法因子,この世界にはないものですが,強いていえば,DNAの遠い親戚のようなものですが,それをもとにして,肉体を再構成できました。


 手足を動かす,声を発する,という基本的なことは,時間をかければ可能になります。ですが,赤ちゃんを産むことは無理です。でも,将来的には,赤ちゃんを産むこともできるかもしれません。元の肉体の卵細胞は,高い確率で温存できるようです。今,われわれができるのは,ここまでが限界です」


 隊長「つまり,,,茜は,,,死んだのですか?生きているのですか?」

 カロック「よくわかりません。ですが,目の前にいるのは,茜です。この体に茜の本体である霊体が閉じ込められています。そして,この茜は,1週間もすれば,話したり,歩いたり,走ったりすることもできるようになります。まあ,しばらくは,リハビリが必要でしょうが,,,」


 隊長「茜は,これまでの記憶を持っているのですか?」

 カロック「わかりません。私も経験がないものですから。今回の措置は,緊急避難的なものです。所詮,死んだものは生き返りません。もし,蘇生が成功することがあれば,それは,最初から死んでいなかったことになります。今のところ,確率は低いものの,蘇生の可能性があるので,『死んでしない』という表現が正しいのかもしれません」


 隊長「茜に質問してよろしいですか?」

 カロック「どうぞ」

 

 隊長は,茜にいくつか質問した。

 

 隊長「茜,私がだれだか,わかるか?」

 茜は,首を縦に振った。


 隊長「茜は,自分が,茜だと,α隊の隊員だと,分かっているか?」

 茜は,また首を縦に振った。


 隊長「茜は,両親の事,家族のことを思い出すことができるか?」

 茜は,また首を縦に振った。


 2号「茜は,だいたい,記憶を持っているようですね」

 隊長「そのようだ。あとは,うまく,元の体が蘇生してくれればありがたいのだが」


 カロック「茜のことは,われわれが全力で対応します。お二人さんは,いったんお引き取りください。1週間後にまた来てください。茜は,多少とも言葉を発することが出来ていると思います」


 隊長「そうか。わかりました。では,またお邪魔します。今回の件は,ほんとうに感謝します。ありがとうございました。千雪さんたちによろしくお伝えください」


 カロック「承りました」


 隊長と2号は,千雪の家から去った。


ーーーー


 2階の千雪の部屋では,疲労困憊した千雪とサルベラが,ぐったりとしていた。茜の肉体は,腐敗菌を消滅させて,霊体で覆ったまま,亜空間に収納した。


 サルベラ長官は,頭を使いすぎて,今は,何も考えたくなかった。


 メーララは,茜の霊体を移すのに,邪眼を発動したので,それなりに体力を消耗した。


 アカリが,カレーライスを持って千雪の部屋に来た。


 アカリ「みなさん,食事でもいかがですか?しっかり食べてから,対応したらどうですか?」

 

 メーララ「あなた,気が利くわね。千雪のもとにいるの勿体ないわ。私のところに来なさい」

 アカリ「え?あの,,,失礼ですけど,どちらの方ですか?千雪様の仲間だとはわかるのですが,,,」

 メーララ「そうね,自己紹介からすべきだったわね。私は,メーララ,回復魔法士よ。今は,『夢現幸福教』の教祖をしているわ。そこで,私の付き人になりなさい」


 アカリ「えええ??あの,,悪名高い『夢現幸福教』の教祖様ですか??」

 メーララ「悪名高いか。そうよね。信者の財産を全部奪うんだからね。でも,本人が幸福ならそれでいいのよ」

 アカリ「そうなんですか,,,あの,,,いろんな人が,教祖様の奇跡を暴いてやるって動いているの知っていますか?」

 メーララ「そんなの日常茶飯事よ。いちいち真面目に対応してたら身が持たないわ。それに,相棒が詐欺の天才でね。いろいろとトリックを考えてくれるのよ。だから,私の真の能力を出さなくてもいいの。気楽な商売よ」

 アカリ「というとこは,教祖様の奇跡を暴くことはできないのですか?」

 メーララ「トリックを暴くくらいならできるかもしれないけど,所詮,普通の人間が魔法士を暴くなんて,天地がひっくり返っても無理よ。ちゃんちゃら可笑しいわ」


 サルベラ「メーララ,得意のおしゃべりは,そのくらいにしてちょうだい。カレーライスを食べたら,残りの魔法陣解析を手伝ってちょうだい。あのゴーレムの肉体は,最低限の機能しか付与していないのよ」

 メーララ「私も教祖の仕事,放り出して来ているのよ。いったん,教団に戻らしてよ」

 サルベラ「じゃあ,教団幹部をここに連れてきて連絡係をさせなさい。まだまだすることは山ほどあるのよ」


 メーララ「はーーあ,,,,千雪もとんでもないことしだしたわね。人を生き返らすって,こんなにも大変だったのね。まだ成功するかわらないけど,でも,,,もし,成功したら,すごいことよ。このノウハウは,魔界でもないでしょうね」

 サルベラ「確かにそうね。ほんと,成功すれば,私たちって神様かもね,ふふふ」

 

 アカリは,メーララの話を聞いて,香奈子のことを心配した。教祖の奇跡を暴く,,,このことが,不可能であると分かったからだ。香奈子は,カロックとハルトの性奴隷になってしまうのか??


 香奈子のことはどうでもいいが,カロックがアカリ以外の女性を抱くのは許せない。曲がりなりにも財閥のお嬢様だ。アカリの強烈なプライドが許さなかった。


 ーーーー

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