第7話特殊攻撃機動隊


 ー 治安特別捜査部α隊 ー


 十和子がこの月本国に来てから半年が経過した。とても,落ち着いた日々を過ごした。なんせ,千雪と距離を置いたので,とても平和な時間だった。十和子が提案した『千雪にしゃべり相手をあてがう』という提案は採用されたが,適当な人材は発見されずに,時間ばかりが過ぎた。だが,やっと今日,その人材が出向して来ることになった。


 その人材が来れば,十和子が千雪の元に戻されるのを阻止できる可能性が高い。十和子は,少しうれしくなった。


 隊長が,かわいい女性を連れて事務室に入ってきた。


 隊長「皆,聞いてくれ。新しい隊員を紹介する」


 全員がその新しい隊員を見た。めちゃ,かわいい女性だった。年齢18歳。どうして,こんな危険な仕事を引き受けたのかよくわからなかった。


 隊長「名前は,茜(あかね)。海上軍隊からの出向だ。茜は,この任務を快く引き受けるとのことだ。茜,自己紹介をしなさい」


 茜「はい。茜です。18歳です。これから,このα隊でお世話になります。皆さんは,なんで,こんな危険な仕事を引き受けたかと疑問に思っていると思います。


 うちは,弟がまだ3名もいて,お金がかかります。元いた海上軍隊の給与では,家族に仕送りするにも全然たりなかったのです。そんなとき,このα隊への出向の話がありました。特別に危険手当も支給されます。


 それに,もし私が死亡しても,または,3ヶ月以上行方不明になっても,特別な死亡保障が加算されるとのことです。それで,思い切ってここに出向しようと決めたのです。α隊への出向が認められてよかったです」


 十和子が茜に質問した。


 十和子「茜さん,あなた,自分が死ぬこと怖くないの?半端な危険じゃすまないのよ。分かっているの?」


 茜「はい,危険な任務だとは,充分に知らされています。それでも,,,決めました。それに,わたしは,捨て子だったのです。これまで育ててもらった恩を返すいい機会だと思いました」


 そう言いながら,茜は,少し涙を出した。


 茜「あの,,,危険,危険って,言わないでください,,,決心がにぶります,,,」


 茜は,涙を拭った。


 他の隊員は,茜の涙顔をみて,『かわいいーー』と内心キュンとなった。


 隊長「十和子,茜を泣かすな」


 十和子「なるほど,,,千雪の好きなタイプかもしれないわね。隊長,いい人材を見つけましたね」

 

 隊長は胸を張っていばった。


 隊長「茜は,2週間ここで過ごす。この職場に慣れてもらう。それから,千雪との交渉に茜を常に連れて行く。果たして,千雪が茜を所望するかどうかわからんが,,,」

 十和子「たぶん,ひと目で引っ張られるわね。私が保障するわ」

 

 隊長「そうか。では,この件はここまでだ。次に,新しい調査依頼が来た。やはり千雪がらみだ。会議室に異動してくれ」


 ー 会議室 ー


 全員が会議室に集合した。隊長が,早速,新しい調査依頼の報告を始めた。


 隊長「この事件は,もう2ヶ月前から始まった。だが,死体が発見されないので,警察も動くことができない事件だ。多分,千雪が本格的に金集めを始めたと思われる」


 隊長は一息ついてから言った。


 隊長は一軒家のスライドを映した。


 隊長「ここが,千雪の家だ。当時は,千雪以外は住んでいなかった。週末に香奈子がこの家に来て泊まり,月曜日の朝,この家から直接科学先端省に出勤していく。千雪は,平日の午後,御殿場の繁華街にある一室で占いの店に出勤する」


 隊長は占いの店のスライドを映した。


 隊長「これが占いの店だ。客はすべて出張者だ。ホテルの客室に宣伝のチラシを配るアルバイトがいる。予約制で,一日5名しか客をとらない」


 隊長は宣伝チラシのスライドを映した。


 隊長「これが,宣伝チラシだ。千雪が一人でこんなことはできない。協力者がいる。たぶんハルトだろう。というのも,この部屋を借りている名義人はハルトだ。


 さて,客が千雪の部屋に入ると10分後には,廃人になったように出ていくそうだ。それから,1週間後にその客は有り金全部を鞄に詰めて,全員,覆面とマントをして,また千雪の占いする部屋に入っていく。だが,入っていくだけで,部屋から出てくる様子はないそうだ」


 2号「かなり,詳しい報告ですね。これは,いったい誰が調べたのですか?」

 

 隊長「被害者の奥さんが,たまたまこの『宣伝チラシ』を見つけて,あやしいと判断したそうだ。それで,私立探偵を雇って徹底的に調べてもらったという経緯だ。この資料を地元の警察に持っていったが,事件性なしということで突っ返された。そこで,警視庁に持ってきたそうだ。たまたま,千雪の状況を知っている警官だったので,その資料を私の手元に送ってきた。まだ,事件にはなっていないし,死体も発見されていない。だが,確実に殺人が行われていると思う」


 隊長は,もう一枚の写真を映し出した。それは,精悍な男性の写真だった。


 隊長「1週間前から,この占いの店に,千雪とこの男性が一緒に入っていっている。十和子,この男性の素性はわかるか?」


 十和子は,下を向いていた。そのポーズは,明らかに『知っている』というポーズだ。


 隊長「十和子,もう一度聞く。この男は誰だ??」

 

 十和子は,ため息をついた。だんだんと,自分の平和な時間がなくなっていくのを感じとった。彼はカロックだった。十和子の部下だった人物だ。分からないわけがない。


 十和子「・・・,とうとう,千雪に魔界の奴隷が戻ってきたわ」

 隊長「もう少し,詳しく教えてくれないか」

 

 十和子「彼は,カロック。魔界では,火炎使いとしてはNo,1の実力者よ。人を火炎で殺して蒸発させることができるわ。一切の痕跡も残さずにね。もっとも,それくらいなら,私でもできるけど。でも,千雪はそこまではできないと思う。魔法が下手だからね。だから,連れてきたのでしょう。今の,この世界の常識では千雪を逮捕起訴することは無理ね」


 隊長以下,全員が『もっとも,それくらいなら私でもできる』という言葉に驚いた。十和子も充分に怪物だ。


 隊長は,もう一枚の写真を示した。かわいい女性だ。


 隊長「この女性は,陸奥星財閥の総裁の一人娘,アカリだ。先ほどの男は,アカリの護衛をしていた。その時は,マサという名前だった。体術が得意でバットを持った2人組も一瞬で倒したそうだ」


 十和子「そんなのあたりまえでしょ。カロックは,魔界では,衛兵隊の隊長をしていたのよ。魔法を使わなくても体術は,ピカイチよ」


 隊長「十和子,そういうことは,前もって詳しく説明してほしい。十和子自身の素性も,実はわれわれは知らないしな」


 十和子「いやよ。まだ,話したくないわ。でも,カロックが千雪の元に戻ったのなら,私もそろそろ潮時かもね,,,メーララは,もともと千雪が嫌いだから,多分,もどらないと思うけど,私はね,別に千雪が嫌いでないし,カロックも私の部下だったから,,,千雪の元にもどろうかなぁ,,,」


 十和子は,ぽろっと,大変なことを言った。十和子がカロックの上司だった!??


 隊長「十和子,お前,魔界では,カロックの上司だったのか??」


 十和子「え?あ?今,そう言った??ばれちゃしょうがないわね。まあ,そうよ。王都が千雪に,,,実際は,私が全滅させてしまったのだけど,その後は,島流しにあって,千雪の元に居候していたわ」


 全員が唖然とした。『十和子が王都を全滅させた???』


 十和子「茜が千雪のもとに行ったら,,,どうしようなかな,,,わたしももどろうかな,,,」

 

 隊長「・・・,そうか,,,十和子,1週間だけ待て。ここから,どこか出向させてやる」

 十和子「出向したって,私の居所がすぐにバレるわ,,,でも,茜が千雪の面倒みるからいいか,,,あまり効果ないと思うけど,そうしてちょうだい」


 隊長「わかった。しばし待て。だが,十和子,この事件について,報告書を作成してくれ。カロックという男の能力と,客がお金を持ってきたら,どうなったかということも含めてだ」


 十和子「また,私が報告書を書くのですか?あの,茜さんでいいですから,私の口述筆記をお願いしたいのですが」

 

 隊長「よし。茜,2,3日は,十和子の指示で動け」

 茜「隊長,了解です。十和子さん,よろしくお願いします」

 十和子「こちらこそ,お願いね」


 かくして,十和子は,報告書を完成させて,その数日後,警視庁の特別な部署である『特殊攻撃機動隊』略して『SART』に転勤になった。



ー 『特殊攻撃機動隊(SART)』ー


 このSARTは,東都中心部のやや東に位置する目赤区ある。警視庁の下部組織のくせに,そのスタッフの全員は,陸,海,空の軍隊からの出向職員からなっている。α隊と似たような感じだ。強いて言えば,α隊は頭を使う部隊だが,SARTは体を使う部隊だ。


 SARTの隊員は30名前後からなっている。そのうち,女性隊員は10名も占めていた。女性隊員は,主に,通信,磁気探知機,レーダーなどの分析処理などを担当するバックアップ部隊だ。


 それでも,実動部隊を担当する女性が3名ほどいた。美月,美桜,美沙だ。この実動部隊に十和子は配属された。


 このSARTは,普段はまったく仕事がない。α隊以上に暇な組織だ。十和子は,同僚とおしゃべりするのが日課になった。


 十和子「美月,もう暇よ。訓練だって,午前中の2時間だけだし,,後は,何をすればいいの?」

 美月「決まっているじゃない,合コンの相手探しよ。高級官僚になるエリートと知り合いになりたいなぁ,,,十和子,高級官僚との接点,ないの?」

 十和子「私,α隊で採用されたから,その部隊しかしらないわ」

 美桜「私,東都のツインビルに努めている友人を知っているわ。男4名なら,なんとか集められるわよ」

 美月「それ,いいわね。十和子の歓迎会も兼ねて,繁華街の有名な焼き肉店で,合コンしましょうよ」

 十和子「でも,有名どころったら,予約取るの大変じゃないの?」

 美月「ふふふ,それがね,SARTの職員には,特別枠があるのよ。警視庁の幹部波の特権があるのよ。予約をごり押しできるのよ」

 十和子「じゃあ,α隊にもあったのかな?」

 美月「当然,あるわよ。でも,α隊は辺鄙な場所にあるでしょう。実質,意味ないわね」

 十和子「なるほどね,,,そういうこと,,,,」



 ー 超有名焼き肉店の『焼牛肥肥店』の本店 ー


 この『焼牛肥肥店』の本店は,東都でも有数の有名な焼き肉店だ。予約がなかなか取れないことでも有名だ。料金もさほど高くもないので,主に中間層のホワイトカラーが利用する。特別枠として,警視庁幹部や軍隊幹部のほかに,裏社会の幹部枠もあった。


 酒の飲んで酔っ払った連中が肩がぶつかったことで,口論になるのはよくある話だ。案の定,十和子たち女性4人組と合コンでジョイントした東都ツインビルの職員の1人が,ヤクザ風の若者と口論になっていた。


 美月「なんか,トイレ側でなんか騒いでいるわよ。あなた方の同僚じゃないの?」

 

 東都ツインビルの職員は争いごとが嫌いだった。普通はそうだ。3名の彼らは,モジモジとして動こうとはしなかった。


 十和子は,魔界で千雪と関係してからトラブルの連続で,安穏とした日々はなかった。やっと,この月本国に来て,平穏な日々を楽しみ始めたのだ。再びドタバタに巻き込まれるのは避けたかった。


 十和子は,決してドタバタが嫌いというわけではない。でも,もうしばらくは平穏な日々を楽しみたい気分だった。


 十和子「私は,トラブルは嫌いよ」 十和子は自分の立場を明確にした。だが,美月,美桜,美沙の3名は違った。トラブル大好きなのに,職場は平穏な日々が続いていた。


 だから,ちょっとのトラブルも見逃すことはなかった。3人の中でリーダー格の美月が声を掛けた。


 美月「美桜,美沙,様子を見にいくわよ」


 美月,美桜,美沙,そして十和子の服装は,スーツ姿でズボンを履いていた。そのスーツは,簡易防弾服だ。服の内部に鉄板が仕込まれている。靴は一見して革靴のようだったが,動きやすい運動靴で強度のある鉄板が仕込まれていた。


 彼女らは,いつでも現場に駆けつけられるように,普段からこのような服装をしている。


 女性3名が見に行ったので,しぶしぶ男性3人も,ちょっと後から,騒動の現場であるトイレに行くことにした。


 ダーン,ダーン,ダーン!!


 何やら人が倒れる音がした。1人残させた十和子は耳を塞いだ。だが,耳を塞いでも無駄だった。騒動を見に行った3人組が戻ってきて,十和子に叫んだ。


 職員A「十和子さん!あなたの同僚が,ヤクザ風の男3人を殴り倒した!!そしたら,やつらのリーダーが出てきて,あなたの同僚を表に連れ出した。どうしよう!!」


 この状況では,十和子は現場に行かざるを得なかった。


 十和子「もう,しょうがないわね。ここの勘定を支払っといて!!」


 十和子は,捨て台詞を残して,焼肉店を出て,同僚がどこにいるかを見渡した。メイン通りにはいなかったので,裏道だと思って,この建物の裏側に廻った。


 そこは,人通りのない袋小路だった。そこに,同僚3名がいて,彼女らと相対しているのが,リーダーと,部下2名,それと女性1名がいた。リーダーは,ご多分にもれず,サングラスをしていた。


 十和子は,同僚3名のすぐ後ろに控えた。できれば手出しをしたくなかった。


 リーダー「おねえちゃんたちよ,よくも俺のかわいい部下3名を倒してくれたな。この落とし前どうしてくれるんだよーー。お姉ちゃんたちの体で返してもらうかな,ふふふ」


 美月「何,冗談言っているのよ,ヤクザ風情が!お前たちみたいなのがいるから,世の中,平和にならないのよ!!」


 リーダー「俺たちは,被害者だぜ,このまま警察に駆け込んでもいいんだぜ!!」


 美月「何寝ぼけているのよ。お前の部下が私の胸を先に触ったのよ!!正当防衛よ。監視カメラを見れば一目瞭然よ!!」


 部下A「兄貴,いやいや,あの女が先に相棒の手首をねじってきたんですよ」


 リーダー「水掛け論になるから,話はここまでだ,お姉ちゃんたちは,腕っ節がたつようだな。勝ち抜き戦でどうだ?やりあわねえか?顔面攻撃と金玉攻撃は禁止だ。俺の2人の部下は,空手初段と2段だぜ。そこそこやるぜ。どうぜ10分か20分もすりゃ,警察が来る。それまでの余興にちょうどいいぜ」


 美月「いいでしょう。その余興に付き合いましょう。美沙,先鋒で行きなさい」


 いざ,戦闘となると,指揮命令ははっきりする。美月が指揮命令をする立場にある。


 美沙「了解。アルコールが廻っているけど,なんとかするわ」


 美沙と部下Aとのバトルが始まった。部下Aは空手初段で,美沙は合気道2段,空手2段の女性猛者だ。彼女は男女の体力差を充分に理解している。幸い,防御性能に優れた服を着ているので,彼の攻撃がクリーンヒットしない限り,彼女に有利だと思った。


 真っ向勝負となると,美沙の攻撃も有効打がなかなか出なかった。


 ところが,,,


 ダーン!ダーン!


 美沙の回し蹴りと部下Aの蹴りが,お互いをクリーンヒットさせた。そして,お互いが,その場で倒れてしまった。


 美月「相打ちですか,,,酔っ払っていて,そこまでできれば上出来よ。美桜,次の相手を倒しなさい」

 美桜「了解です」


 美桜は,ほとんど酒を飲んでいなかった。美桜も格闘バカで,空手4段だ。強さを追求するのが好きで,体力に勝る男性をどのように倒すかを日頃研究するのが好きだった。

 

 リーダーは,先ほどの美沙の攻撃が,男性なみに鋭いのが分かった。彼女らは,男性にも匹敵する武闘派だと理解した。


 リーダー「彼女らは,たぶん,どこかの専門部隊の連中だろう。戦い方が実践的だ。次はお前だ。全力で行け」


 部下B「わかりました」


 部下Bは,空手2段だ。それなりに日頃から鍛えてきた。リーダーの強さに惚れて,最近,舎弟に採用されたばかりだ。今回は,彼の歓迎会でもあった。


 美桜と部下Bのバトルが始まった。


 美桜は,部下Bの鋭い攻撃を巧みに躱して,速攻の肘鉄攻撃,膝打ち攻撃を繰り出した。肘や膝には,鉄板が仕込まれている。それを巧みに利用した攻撃だ。そのため,美桜は,接近戦を極めていた。


 2分後,数打の攻撃で,部下Bは,尻餅をついた。


 リーダー「そこまでだ。その服には,何か,鉄板か何か仕込んであるのか?」


 美桜「ご名答。その通りよ」


 リーダー「なるほどな,,,では,遠慮はいらんか」


 ダーーン!!!


 美桜はリーダーに吹き飛ばされて,壁に衝突した。防御服がなかったら,大変なことになっていた。


 美月「え?何,その速度!!目で追えなかった!!」


 美月は,そのリーダーの動きにびっくりした。それだけではない。そのキックの勢いもすごかった。


 リーダー「次は,お前だ。命令ばかりしないで,自分で戦ったらどうだ?」

 

 美月「・・・・,まさか,あなたが,ここまで強い,いや,動きが速いとは驚きだわ。人間の動きではないわね。あなた,何者?」


 リーダー「答えるつもりはない」


 ダーーン!!!


 美月は,リーダーの蹴りをトッサに両腕でガードをしたものの,その勢いを殺せずに,壁に激突した。


 残りは十和子だけだ。


 リーダーは十和子を見た。


 リーダー「お前は,俺とやるのか?」

 

 十和子「はん!冗談でしょ。お前みたいな弱い男など,私の敵ではないわ」


 リーダー「ほほーー,大きく出たな。今の攻撃を見て,俺が弱いだと??俺を誰だと思っているんだ?」


 十和子は,この男と一緒にいる女性が,香奈子,つまり千雪に関係する女性だとわかった。この男はハルトに間違いない。千雪としばらく一緒にいた男だ。たぶん,霊力を少し扱える程度の実力だと推測した。


 今は,この月本国では,その程度の強さで充分だろう。だが,魔界では,その程度の強さではまったく意味がない。


 ダーーーン!!


 十和子は,ハルトが攻撃を掛けようとした矢先に,風魔法で,ハルトを少し空中に浮かせてから後方に吹き飛ばして,壁に激突させた。美月と美桜の仕返しだ。


 壁に激突したハルトは,重力に逆らえずに,地に落ちた。幸い,霊力の層で全身を覆っているので,壁に激突しても,さほどダメージは生じない。


 ハルトは,起き上がって十和子に声をかけた。


 ハルト「何だ?これは,,,マサとも違う,,,」


 十和子「マサ??ハルト,お前,マサと戦ったことあるの?」


 ハルト「え?なんで俺の名前を知っているんだ?それにマサのことも,,,お前,千雪の仲間か?」


 十和子「まず,私の問いに答えなさい。さもないと,,,,」


 ハルト「さもないと??」


 十和子「こういう目にあうのよ!!」


 十和子は,風魔法でハルトを空中に5メートルほど持ち上げて,風魔法を解いた。


 ハルト「ああああーーー!!」


 ダーーン!!


 ハルトは,5メートルの高さから地面に落とされた。


 ハルトは,意識を失った。


 十和子は,香奈子に向かって言った。


 十和子「香奈子さん,このことは,決して千雪に言ってはダメよ。今はダメ。そうね1ヶ月くらいでいいわ。黙っててちょうだい。カロックにも内緒よ」


 香奈子は,なんで十和子が自分のことやハルトのこと,さらに千雪のことまで知っているのか,わけがわからなかった。香奈子は,ハルト側の幹事をしていた。でも,香奈子も,千雪の仲間の女性で,サルベラ長官とメーララの2人がいるのは聞いていた。


 香奈子「もしかして,あなたは,サルベラ長官さんですか?」

 十和子「そうよ。いずれ,あなたたちの仲間になるわ。でも,今は,まだ待っててちょうだい」


 香奈子「わかりました。ハルトさんにも口止めしておきます」


 香奈子は,座標魔法石を出して,この座標点を割り出した。そして,その座標点を書いたメモを転送魔法陣の紙の上において,それを転送させた。


 十和子「香奈子さん,何しているの?」


 香奈子「この地の座標点を送ったのです。非常時にそのようにしなさいって言われたので」


 十和子「へえーー,千雪もいろいろと小道具を用意しているのね」


 ボォーー!!


 転移魔法陣が発動した。カロックが転移してきた。


 転移してきたカロックは,周囲を見渡した。そこには,サルベラ長官がいた。香奈子もいて,女性が2名倒れていて,ハルトが意識を失っていた。


 カロック「サルベラ長官,久しぶりだな。よく,千雪から逃げられたな」

 サルベラ「逃げるのに必死だったわ。今,千雪にかわいい女の子をあてがう準備しているわ。楽しみにしてちょうだい」

 カロック「もう,充分,落ち着いた生活を楽しんだだろう。戻ったらどうだ?」

 サルベラ「あと1ヶ月くらいまってちょうだい。もう少し,今の生活を楽しみたいわ」

 カロック「そうか。じゃあ,また後でな」


 カロックは,ハルトの状況を見て,大事に至ってないことを確認した。初歩レベルの回復魔法をかけた。


 カロック「サルベラ,彼女らにも回復させたほうがいいのか?」

 サルベラ「そうしてもらうと助かるわ。彼女らには,私の能力をまだ隠しておきたいの」

 

 カロック「了解した」


 カロックは,美月,美桜,美沙たちに,同じく初歩レベルの回復魔法をかけた。


 美月は,意識を取り戻した。美月は,カロックが美桜と美沙の体に触っているのを見た。


 美月「あなたは誰?何をしているの?」

 カロック「治療をしている。すぐに意識を取り戻すはずだ」


 カロックは,香奈子に言った。


 カロック「香奈子,これで大丈夫だ。あとはうまくやりなさい」


 カロックは,ひと目のつかない場所に移動して,人知れず,転移魔法でその場から消えた。


 ハルトが意識を取り戻した。


 ハルト「お,おれは,,,」

 香奈子が,ハルトのそばによって,小声で声をかけた。


 香奈子「ハルトさんは,サルベラさんに空中に持ち上げられて,落とされたのです。その後,カロックさんが来て,皆さんを治療してくださいました」


 ハルト「・・・,カロックって,マサのことか,,,」

 香奈子「そうです。それと,サルベラさんのことは,しばらくは内緒にしてくださいとの依頼です。特に千雪さんには」


 ハルト「そうか,,,おれは,,,弱かったのか,,,」


 サルベラ「ハルト,千雪の弟子を名乗るであれば,そんなレベルでは何の役にもたたないわよ。もっと真面目に修行しなさい」


 サルベラという名前は,千雪の仲間としての名前だ。今のサルベラは,十和子だ。千雪の仲間ではない。十和子は,ハルトに別れを告げて,美月たちのもとにいき,彼女らと一緒にこの場を去った。


 その後,警察が来たが,特に事件性もなく,警察は去った。

 香奈子も,ハルトの了解を得てこの場を去った。


 ハルトや部下たちもこの場を去った。


 ーーー


 ハルトは,悔しかった。カロックに負けて,いや,負けてはいないのだが,手加減させられた。サルベラには,まったく手も足もでなかった。ハルトは決めた。千雪から細かな仕事の依頼が来るのだが,それをすべて部下に任せて,ハルトは,徹底して修行することにした。


 なんとか,カロックやサルベラと肩を並べるだけの能力を身につけることを誓った。そのため,ハルトは,再び千雪から毎朝,母乳をもらうことにした。霊力の補給のためだ。

 

 それをもらって,ハルトは,20kmほどランニングして,富士山の山麓で修行を始めた。携帯の充電はソーラーバッテリーで対応した。寝泊まりは野宿だ。蚊が襲ってくるが,霊力の層で防御した。


 ハルトの唯一の楽しみは,毎朝,ハルトの目の前で,千雪が1,2リットルほどの母乳を絞り出して魔法瓶2本に入れてくれるところを眺めることだ。千雪の胸は,Gカップなのだが,朝はKカップほどになっている。それを搾乳して胸を元に戻す。なかなか見ていて面白いシーンだ。このシーンを毎朝みれるので,ハルトは毎日頑張れた。


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