第4話温泉旅行


ー 千雪の家 ー


 千雪が小百合の部屋から自分の部屋に転移して,数日が経った。


 千雪の家は,東都の南西方面の外れにある。具体的な地名では御殿場周辺だ。2階立ての一軒家で,千雪の部屋は2階にある。両親は,相変わらず外国暮らしだ。


 千雪は,魔界に2年近くも過ごしたので,年齢的には17歳になっているのだが,千雪が自分の顔を見ると,まだ15歳の時の顔となんら変わらなかった。


 千雪『なんか,まったく歳を取っていない感じだわ。まあいいわ。でも,この世界でも,魔法や霊力はこの世界でも使えそうね。でも,なんていうか,空気に魔力がないわ,,,』


 千雪は,魔素という言葉を知らなかった。


 千雪『でも,これ以上,ものを食べないと,おっぱいがますます小さくなっていくわ。もう限界だわ。一人では寂しいわね。それに,なんか,面白いこともしたいし,なんたって金を稼がないと,,,』


 千雪は,自分のキャッシュカードを探した。だが,発見できなかった。


 千雪『ふん,どうせ銀行に行ったって,たいした金はないんだし,,,,そうよ!秘書を呼びましょ!!』


 千雪は,標的魔法陣で秘書に連絡することにした。



 ー 香奈子のアパート ー


 その頃,香奈子は,明日からの2泊3日の楽しい温泉旅行の準備をし終えたところだった。


 香奈子「よし,これで完了ね。明日が楽しみだわ」

 香奈子は,ベッドで横になって読みかけの本を開いた。その時だった。香奈子の胸が熱くなった。


 香奈子「え?え?何?胸が熱いわ!!」


 香奈子は,慌てて起き上がって,姿見の前に立ち,寝間着をたくし上げた。


 香奈子「えーーー???これって,魔法陣??し,しかも文字が出てる!!」


 香奈子のおっぱいはCカップだった。それなりに立派なおっぱいをしていた。そのおっぱいの上に,魔法陣が浮かんで,文字が出現していた。


 『転送の準備をして。できたら連絡して』


 香奈子は,その文字を読んだ。意味がいまいちよくわからなかった。


 香奈子「連絡のほうはわかるけど,転移って何よ??」


 でも,いろいろと思考を巡らして,どんなことがあってもいいように,旅行に行ける服装と,旅行鞄,かつ,靴も履いて,帽子もかぶった。そして,千雪から指示されたように,紙の魔法陣の上に,『準備完了』と書いた紙を置いた。


 香奈子「ほんとうに,この指輪をつければ紙が転送されるのかしら?」


 香奈子は,半信半疑で,指輪を魔法陣に接触させた。


 ボァーーー


 その小さな紙は,消えてなくなった。香奈子は,小さな驚きを覚えた。


 香奈子「こ,これが,魔法!??」


 そしてすぐに,香奈子も,荷物とともに,その場から消えた。



 ー 千雪の部屋 ー


 香奈子は,自分の荷物とともに千雪の部屋に転送された。


 香奈子「えーーーー???これって,,,何??」

 香奈子は,初めての転送を経験して,びっくりした。


 千雪「転送しただけよ。慣れなさい。でも,その格好は何?旅行でも行くの?」

 香奈子「そうよ。明日,温泉旅行なの」


 千雪「フフフ,私も連れていきなさい」

 香奈子「ダメよ。友人と一緒だから」

 千雪「私の命令が聞けないの?」


 香奈子「・・・,わ,わかりました。でも千雪様の旅行費用は?」

 千雪「私は,一文なしよ。必要なら,いくらでも小百合かハルトに請求しなさい」

 香奈子「そ,そうだったわね。ちょっと,待っててね。今から,いろいろと調整しないといけないから,,,」


 香奈子は,友人,旅行先,小百合などに連絡して,なんとか,無理矢理,千雪を温泉旅行に押し込んだ。


 この日,香奈子は,千雪の家で一泊して,翌朝,千雪を連れて,熱海温泉の場末にある幽門館に着いた。


 ー 幽門館 ー

 熱海温泉でも一番山奥に位置する旅館だ。とても古くて,人気がなく,値段も安くないので,客は,香奈子たちだけだった。


 部屋に通されると,友人がすでにその部屋で待っていた。彼女の名は知花といった。23歳,独身,香奈子と同じく恋人なし。だから,香奈子とこうして旅行に来ている。


 香奈子「知花,ごめんねーー,急に一名,飛び入りでメンバーが増えちゃって!!」

 知花「いいのよ。人数が多いほうが楽しいしね」

 香奈子「ところで,デビューはまだできないの?」


 知花は,漫画家志望だ。ときどきは,雑誌に掲載されたりもしたのだが,いまいち,大ヒットにはならず,今では,3流のエロ雑誌に定期的に投稿している。


 知花「言いにくいけど,エロ雑誌に投稿するくらいしか,今は仕事がないのよ。設定もワンパターンで,面白くもなんともないわ」

 香奈子「まあ,暗い話は,ここではやめましょう。彼女が言っていた千雪様よ。よろしくね」

 知花「なんで『様』をつけるの?」

 香奈子「理由は聞かないで。でも,悪いけど,知花も『千雪様』って呼んでちょうだいね」

 知花「わかったわ。『千雪様』,よろしくね」

 千雪「よろしく」


 それから,香奈子と知花がいろいろと雑談していて,千雪はほったらかしにされた。


 千雪は,浴衣に着替えて,一人で散歩にでることにした。


 山奥にある旅館のためか,周囲には,ほかの旅館はなかった。獣道が何本もあった。千雪は,その獣道を歩くことにした。


 この獣道は,旅館の女中に勧められたルートだ。でも,散策には不向きなルートと思えた。足下が悪く,とても草履で歩けるような場所でなかった。それに,人が通った形跡がほとんどなかった。


 それでも,しばらくゆっくり歩いていると,後方から5人組の男連中が早足でやってきた。


 男A「ほんとだ。女中の言った通りだ。すっげーべっぴんだ。こんな美人見たことない」

 男B「おっぱいもデケー」


 その男たちのひとりが千雪に声をかけた。


 男C「おい,お嬢さん,ちょっと,俺たちと付き合ってよ」

 千雪「・・・,いやっと言っても,ダメなんでしょう?」

 男C「へへへ,わかっているじゃねか」


 男Cは,千雪の背後に立って,浴衣の襟の隙間から手を突っ込んで,左側の胸を鷲づかみした。ほかの男たちは,千雪の帯を解いて,浴衣をはいだ。


 男A「こりゃーすげーーー!!!見事なおっぱいだぜ!!」


 男Aは千雪の胸に触った。男Bは,携帯で千雪を撮影した。

 

 千雪は,これから死に行く者のために,自分の裸体くらい,触らせてもいいと思った。もっとも,男たちが千雪の体に触ったのは,ものの2,3秒だけだった。


 彼らは,瞬時に寿命エネルギーが奪われて,歳を急激に加えて老人,ミイラ,骸骨,さらに灰燼と化していった。服さえも灰燼と化した。彼らの霊体は悪霊大魔王によって吸収されていった。悪霊大魔王も,ますます,この世界の状況が理解できるようになっていった。


 何事もなかった顔で旅館に戻った千雪を見た女中は,かなり怪訝な顔をした。しかし,すぐに,笑顔になって,千雪に声をかけた。


 女中「散策はよかったですか?」

 千雪「はい,とってもよかったです。最高でした。また,ほかのルートを教えてくださいね」


 そう返事して千雪は,部屋に戻った。


 部屋では,相変わらず,香奈子と知花がおしゃべりをしていた。千雪が戻ってきたので,皆で風呂に行くことにした。

 


 ー 女湯 ー


 この旅館での客は,彼女らたちだったので,もちろんこの女湯は貸し切り状態だ。


 知花「千雪様,千雪様は,超美人だけど,胸もでかいですね。それに,お尻も大きい。そんな体をしていたら,すぐに男どもに目をつけられて犯されていまいますよ。あっ,股間から,変なものが出ていますよ。それって,,,」

 

 千雪「あ,これ?生気の不純物よ。どうしても不純物が混じってしまうからね」

 知花「生気の不純物??」」

 知花「・・・??」

 千雪「それ以上,聞かないほうがいいと思うわ

 

 香奈子「知花,いいから,風呂はいりましょ。千雪様は,人間ではないから。そうね,強いて言えば,魔女よ。魔女に人間の常識は通じないわ」


 知花「香奈子,,,あなたは,その魔女の秘書をしているんでしょう?それって,あなたも人間でないの?」

 香奈子「私は,普通の人間よ。魔女の千雪様と一緒にしないで」


 風呂から上がったあと,夕食となった。


 食事をしながらのおしゃべりは,一般の女性にとっては至高の幸せの時だろう。だが,知花は,いまひとつ,幸せな気分になれなかった。というのも,大きな家族問題を抱えていた。


 知花「香奈子,千雪様,私の家族問題を話てもいい?何かアドバイスでもあればうれしいんだけど」

 香奈子「遠慮しないでしゃべってよ」

 千雪「どうぞ」

 知花「じゃあ,恥を忍んでしゃべるわね。うちの弟がもう家に引きこもって,3ヶ月になるの。ぎりぎり高校2年生に進級できるようになったんだけど,一向に学校に行こうとしないのよ」

 香奈子「その原因はわかっているの?」

 知花「だいだいわかっているわ。同級生の女性にラブレターを出したんだって」

 香奈子「いやーー!!青春しているわね」

 千雪「うん。うらやましい」

 知花「そこまではいいのよ。でも,その女性は,にっこりとして,ラブレターを受け取ったそうよ。でも,その後,生徒会室で,その女性は生徒会の連中にこう漏らしたそうよ」

 香奈子「どう漏らしらの?」

 千雪「女性の本性って,悪辣なものよ」

 知花「あの男,自分の身分もわきまえず,この高貴な私にラブレターをよこしたわよ。バカじゃないの?せめて,自分の顔が美男子だったら,成績がダントツだったら百歩許せるけど,不細工で,頭も悪いときたわ。なんで,この高校に来たのよ!!場違いじゃないの!!さっさと退学になってしまえ!!あのクソボケが!!」


 千雪「ふふふ。女王様気分丸出しね。いい性格しているわね。そんな性格大好きよ」

 知花「それはそれとして,その話を弟が生徒会の友人から聞いてしまったのよ。それから,登校拒否が始まったの。まったく再起不能状態よ」

 千雪「弟は,なにをしたいの?その女性に復讐したいの?」

 知花「多分,そうだと思うけど,どうしていいか判らないみたい」

 千雪「弟と電話できる?」

 知花「電話はできるのよ。家の中でも電話で連絡しあうから。風呂とか洗濯物などがあるからね」


 知花は,弟に電話した。


 知花「礼樹,あなたの復讐を手伝ってくれるひとがいるわ。千雪様よ。いまから,千雪様とかわるわ。彼女と話しをしなさい」

 礼樹「・・・,わかった」

 千雪「もしもし,私は,呪詛師よ。呪いを得意とするわ。相手に呪いをかけたいなら,私に依頼しなさい」

 礼樹「呪詛師??ほんとうに呪いを掛けることができるのか?」

 千雪「できるわ。それが専門よ。呪い殺すこともできるわ。どうしてほしいの?」

 礼樹「殺すことまでは必要がない。そうだな,,,歩けなくするくらいでいい」

 千雪「Ok。一生,歩けなくしてあげましょう」

 礼樹「いやいや,一生でなくていい,そうだな,,,1年も動けなくすればいい」

 千雪「なんか弱腰ね。でも,ただでは動かないわ。あなたの寿命5年分を私にちょうだい。そうすれば,その願いを叶えてあげる」

 礼樹「5年分の寿命??寿命なんて奪えるのか?」

 千雪「私は,人間ではないの。魔女よ。できるわ」

 礼樹「わかった。それでいい」

 千雪「じゃあ,細かなことは,お姉さんに伝えておくね」


 千雪は電話を切った。


 香奈子「知花,弟さん5年分の寿命がなくなるのよ!それでいいの?」

 知花「いいわよ,それくらいで引きこもりから脱出できるなら,御の字だわ」


 千雪は,ターゲットの住所と名前を知らせるように知花に伝えた。


 知花「わかったわ。でも,彼女の家は,超金持ちなのよ。もし,呪詛ってバレたら,それ専門の道士のような人が来るかもしれないわよ。よくフィクションの世界では,呪詛返しって技があるらしいわ」

 千雪「そうね,,,前の世界でもすぐに呪詛を解除されてしまったし,身元もバレてしまったことがあるわ。ちょっと,真剣に考えるわ。フフフ,やっと,楽しくなってきたわ」


 香奈子「私は,千雪様の秘書として,千雪様の能力のすべてを知る必要があります。まずその呪詛ですが,呪詛で,どこまでできるのですか?」

 千雪「どこまでって,殺す以外に何があるの?他人を殺すとか,自殺するとか,家族同士殺し合いさせるとか,その町全体を呪い殺すとか,,,」


 香奈子「・・・・,千雪様,もういいです。もう聞きません。私がバカでした,,,」


 香奈子の常識が,再びガラガラと崩れ落ちていった。


 知花「魔女様は,これまで何人,人を殺してきたのですか?」


 知花は,単刀直入に聞いた。


 千雪「今日は5名殺したわ。その前は16名くらいかな?」

 

 知花「今日は5名???って,あの散歩の時?」

 千雪「そうよ」

 知花「でも,死体が見つかったら,どうするの?すぐ捕まってしまうのわよ」

 千雪「死体??そんなもの跡形もないわよ。一瞬で灰にしてしまうからね。このように」


 千雪は,目の前の刺身に手を当てた。その刺身は,一瞬で灰陣と化した。


 知花「え?えーー?何??」

 香奈子「うそーーー!!」


 千雪「人間も同じことよ」

 

 さらに千雪は,目の前の料理すべてを灰陣に化していった。


 千雪「それに,私は被害者よ。男どもに犯されそうになったのよ。殺して当たり前でしょ?」

 

 知花は,あまりのショックに,言葉を失った。どう反応していいか分からなかった。ただ,背中に悪寒が走るのを覚えるだけだった,,,


 香奈子が,千雪のことを『千雪様』と呼ぶ意味が初めてわかった。もし,千雪の怒りを買えば,その場で灰燼にされてしまうのだ。


ーーーーーーー

ーーーーーーー

 女中は,一向に戻って来ない男たちが心配になった。彼らから口添え料をもらうためでもあるのだが,それ以上に,彼らが心配になった。


 どうせ,仕事もないので,女中は,その獣道を行くことにした。暫くいくと,携帯が落ちていた。その数5台。その周辺には,灰燼が散らばっていた。ここで,何かが起きたことには違いないと思った。女中は,5台の携帯を回収して旅館に戻った。


 女中は,携帯に映っている写真や動画をチェックした。その内の一台に,千雪が男たちに触られている動画が映っていた。だが,その動画には1分程度しか映っていなかった。


 女中『あの女性は男たちに犯された。でも,どうして,携帯が残っているの?誰かが助けに来て,男達を連れ去った??どうしよう?警察に連絡しようかしら?でも,,,』


 女中は逡巡した。でも,答えはでてこなかった。


千雪たちが,旅館を去ったあと,女中は,その部屋に設置した隠しカメラを取り出して,録画された映像を見た。何か,脅迫するネタが映っていれば,それを不良連中に渡して分け前をもらうためだ。


 女中「あーーーーーあーーー!!これは,,,」


 ダーーン!!


 女中は,腰を抜かして,椅子からすべって床にドスンと落ちた。


 女中「いたたたーーー」

 

 このショックで,女中は,腰の骨を折って入院してしまった。



 ー 治安特別捜査部α隊 ー


 α隊隊長は,このところ,変な事件が立て続けに起きていて,そろそろ真面目に対応しなければならないと感じた。


 久しぶりに,α隊全員を集めて会議を開いた。


 隊長「今日は,全体会議形式で会議を行う。最近,ちょっとおかしな事件が立て続けに起きている。いままで,我々はあまり真剣に対応してこなかったこともあるが,上層部から,かなりキツい言葉で注意されてしまった。下手すれば,この組織自体,解散させられてしまいそうだ。多分,そこまではならないと思うが,全員気を引きしめてほしい。


 さて,まず,十和子に依頼した最初の事件を紹介する。


 この事件は2ヶ月前に起きた。6名の死体が山中で発見された。いずれも『木の葉会』の組員だ。死後,何時間も経っていないにも関わらず,死因がまったく不明だった。


 そして,1ヶ月後に同じく,2回目の事件がおきた。『木の葉会』の組員15名が行方不明になっており,さらに,1名が首が胴体から離れ,かつ,骸骨のようになって殺された。骸骨だぞ。これが,その写真だ。たった1日で人間が骸骨になってしまった。また,この時に,『千雪』という女性が裸で映っている映像を入手できた。いまからそれを流す」


 隊長は,千雪が映っている映像を流した。


 十和子はそれを見た。十和子はニヤニヤするだけで,何も発言しなかった。


 隊長「現場の警察は,ハルトと小百合を重要参考人として,事情聴取を行った。

 ハルトの証言によれば,最初の事件では,悪霊大魔王という怪物が,黒い塊の姿で,急に天から降って来て,千雪に触ったやつらの霊魂を殺したそうだ。

 ハルトは,怖くなって,千雪という女性を連れて,東北地方の一軒家に,1ヶ月ほど身を隠した。

 その後,『木の葉会』の組員に見つかって,2回目の事件が起きた。その2回目の事件でも,悪霊大魔王が現れて,15名の組員を跡形もなく消滅させ,さらに,1名を骸骨にさせた。その後,千雪を連れて,その場から消えてしまったそうだ。

 小百合は,2回目の事件の生き残りだが,直接事件には関与しておらず,車の中で待っていたそうだ」


 十和子は,内心思った。

 十和子『ふふふ,かなり嘘が混じっているわね。でも,私も,千雪の生命エネルギーの吸収能力については,あまり知らないから,変なことは言わない方がいいわね』


 隊長は,次に,大型スクリーンにその骸骨の死体を映し出した。


 十和子『なるほど,これが,千雪の生命エネルギー吸収能力か,,,すごいわね。天下無敵の能力だわ』


 隊長「15名の失踪者だが,現場では,灰のようなものが落ちていた。もしかしたら,それも遺体の一部かもしれないと推定して,DNA解析が行われた。その結果,15名の失踪者のDNAと一致した。


 同じく1ヶ月前に起きた事件だが,幽門館で起きた失踪事件とレイプ未遂事件を説明する。失踪者の携帯が落ちていた場所に灰燼が残されていた。それをDNA解析を行ったところ,男性5名の灰燼であることが判明した。さらに,1台の携帯から千雪の映像が映っていた。これがそうだ」


 隊長は,1分だけの映像を流した。


 隊長「この千雪は,2名の女性と旅館に泊まっていた。知花と香奈子という女性だ。千雪とはどういう関係かというと,香奈子は小百合の妹で,知花は香奈子の友人という関係だ。


 香奈子は,頭脳優秀で,科学先端省に就職したばかりだ。大学も,東都超越大学でトップの成績を納めている。天才とは違うかもしれないが,勉強が抜群にできる女性のようだ。


 今から,彼女らが食事している動画を流す。これは,女中が隠しカメラで撮ったものだ。話の内容については,録音性能が悪くて聞き取ることはできないが,まず,これを見てほしい。女中はこの映像を見て,ひっくり返って転倒してしまい,腰の骨を折る重傷を負ってしまったそうだ」


 スクリーンには,千雪が手を動かすと,テーブルの食材が灰燼に帰す映像が流れた。


 2号「なかなか,凝った手品ですね」

 3号「こんな手品,見たことないです。でも,灰燼にする手品は,見応えがないですよ」


 十和子は,ひとりごとを言った。


 十和子『なるほど,,,死体であっても,食料であっても,そこから生命エネルギーを奪えるのか,,,すごい能力だわ,,,魔力を扱う私たちは魔力の供給が必要なように,霊力を扱う千雪は,生命エネルギーが必要なのね,,,ますます化け物になってしまったわね。千雪が私たちを千雪のもとに転送しない以上,今は,私たちの力は不要ってわけね。それまでは,距離を置くことにしましょう,,,』


 隊長「以上から,事件には,千雪がからんでいるのは間違いない。千雪は,レイプされそうになっているので,被害者であることも間違いない。地元警察は,千雪とも連絡を取ったが,レイプされそうになったのは事実だが,被害届けは出さないそうだ。また,悪霊大魔王という,わけの分からないものについては,心あたりはないそうだ。あの食事が灰燼に帰したことについては,そのような現象は起きなかったと否認している」


 2号「ところで,われわれは,いったい何をすればいいのですか?」

 隊長「われわれに求められているのは,犯人捜しではない。それぞれの事件の死因解明だ。死後何時間も経っていないにも関わらず死因がまったく不明だったこと,短時間で人間が骸骨や灰燼になるような現象がほんとうにできるのか?これらの原因を究明することにある。解明するのに,自信があるものは,手を挙げろ」


 誰も手を挙げなかった。


 十和子は,ずーと下を向いていた。


 隊長「十和子,なんでそんなに下を向いているのだ?」

 

 十和子「チッ!!返って目立ってしまったか,,,」


 隊長「十和子,お前,もしかして,千雪のこと,知っているんじゃないのか?」

 

 十和子は,返事に困った。さて,どうしようか,,,でも,いずれは,バレてしまうことだ。正直に話すことにした。多少は曖昧さを含ませて,,,


 十和子「千雪のことは知っています。一緒に,魔界から来た仲間です」


 「おおーー」

 「おおー」


 歓声があがった。


 隊長「それで,死因についても,予測はつくのか?」

 十和子「その点ですが,千雪の能力は,私もよく分からないのです。悪霊大魔王というのは,聞いたことがあります。その悪霊大魔王は,人間の霊体を攻撃できると思います。もし,霊魂を傷つけることができれば,人間は,意識不明の状態になります。植物人間ですね。心臓だけが動いている状態です。


 死後何時間も経っていないにも関わらず死因がまったく不明,という事件は,たぶん悪霊大魔王が関与していると思います。後のミイラとか灰燼については,悪霊大魔王の仕業ではないと思います。千雪ができるかどうか,私は知りません。テーブルの食事を灰燼にした,という映像が事実とすれば,千雪が行った可能性が高いと思います」


 隊長「なるほど,では,これらの事件を十和子に担当してもらう」

 十和子「隊長,お断ります!!」

 隊長「ん?何でだ?」

 十和子「私の知っている事実は,いま,言った内容がすべてです。それ以上は知りません。それに,千雪は,私の仲間と言いましたが,それはうそです。私は,千雪の奴隷です。千雪に会ってしまうと,私は,千雪の指揮下になってしまいます。もう,この職場に戻れなくなってしまいます。今は,千雪と顔を会わす時ではありません」


 隊長「そうか,,,魔界から4名来たと言ったが,ほかの2名も千雪の奴隷か?」

 十和子「奴隷契約をしているかは不明ですが,それに近い契約をしていると思います。私は,奴隷契約していますので,千雪に会えば,絶対服従しなければなりません」

 

 隊長「なるほど,,,そういうことか。わかった。では,十和子の存在は,内緒にしておこう。でも,十和子,今,述べた内容を報告書にしてくれ。それで,これらの調査を終了にする。あとは,殺人課の判断に任す」


 十和子「あの,アドバイスをします。絶対に千雪を逮捕しないでください。とんでもないことが起こります。いざとなれば,わたしは,千雪側に立たざるを得ません。そんな事態は,避けたいです」


 隊長「十和子のアドバイスは,今は,意味がない。だれも耳を貸さない。千雪の脅威がまったくわからないからだ。それなら,千雪が魔界で何をしてきたかを開示しなさい」


 十和子「残念ですが,奴隷契約の身です。そこまではできません」

 隊長「ならば,意味のない忠告は不要だ」

 十和子「了解です。報告書を作成します」


 隊長「2号,3号,隣の部屋に来い」



 ー 別室 ー


 別室で,隊長と2号,3号が,密談を始めた。


 隊長「最近,魔界のピアロビ顧問が顔を出していない。すぐに彼とコンタクトをとって,千雪と十和子の素性を調べてくれ。ほかの2名についても,分かり次第,調査しなさい」


 2号「隊長,一足遅かったです。顧問は,数日前に魔界に帰りました」

 隊長「そうか,,,では,調べようがないか,,,いつ,戻るのだ?」

 2号「いったん魔界に戻ったら,2ヶ月は戻りません。なんせ,奥さんは魔界にいるのですから」

 隊長「何か,千雪の素性を調べるいい方法はないか?」

 3号「たしか,ハルトが,千雪としばらく生活していたそうです。ハルトに聞けば,何かわかるかもしれません」

 隊長「よし,若い娼婦を臨時採用して,ハルトの愛人関係を結ぶようにさせなさい。どんなことでもいい,千雪の情報をとらせろ」

 3号「予算は大丈夫ですか?」

 隊長「予算か,,,1000万円用意しよう」

 3号「それだけあれば,採用できますね」

2号「でも,1000万円あるなら,直接,千雪に渡して,根掘り葉掘り聞く方法もありますよ。我々は,千雪とは敵対する必要はないですから」

 

 隊長「・・・,よし,その線でいこう。十和子を呼んでくれ」

 3号「了解」


 3号は,十和子を呼んだ。


 隊長「十和子,今,ここに1000万円ある。千雪に渡して,千雪からすべてを聞き出す予定だ。十和子のことも,状況によっては,千雪に説明したい。了解してただきたい」


 十和子「そうですか,,,,この平和な,時間もここまでになりそうですね,,,でも,それを回避できそうな方法があります」

 隊長「それはなんだ?」

 十和子「私の代わりに,かわいい女性を,千雪にあてがってください。この部隊との橋渡しの役目です」

 隊長「はあ??なんだそれは??」

 十和子「千雪はさみしがり屋です。魔界では4名の女性のしもべがいました。私が戻れば,変な仕事をさせられます。千雪は,わたしの能力を知っていますから,とんでもない命令をするでしょう。それは,この国にとって,決して益のある内容ではないはずです。例えば,銀行強盗とか,大統領を監禁して身代金要求とか,軍隊の火薬庫破壊とか,,われわれであれば容易なことでしょう」


 2号「そんなこと,簡単にできるのか??」

 3号「われわれは,十和子さんの能力はまったくしらない」

 

 十和子「千雪は,魔界では女王様気分でいましたから,自分ではほとんど動きません。でも,われわわれ3名が千雪の元に集まったら,確実にこの東都は火の海になるでしょう。魔界の王都はおろか,領都も火の海にしてしまいましたから。千雪をレイプしようとした男を灰にするなど,朝飯を食べるみたいなものです。


 でも,この世界の普通の可愛い女性であれば,無理な命令はしません。そんな女性を千雪にあてがえばいいのです。おしゃべり好きな,可愛い女の子をあてがってください。数ヶ月は,東都が火の海になる時間が延期できれるでしょう」


 隊長「おもしろい考えだ。だが,そんな危険な仕事を引きうける女性がいるかな,,,」

 十和子「至急,探してください。年齢は20歳までです!!」


 隊長「なるほど,,,上層部に相談してみよう。その前に十和子の報告書を完成させなさい。話はそれからだ」


 十和子「結局,報告書を作成しなくてはならないのですね?月本語で文章書くの苦手なのですけど,,,」

 隊長「添削はしてやる。下手な表現でいいから,今日中に作成しなさい」


 十和子,魔界の名前ではサルベラ長官だが,彼女は意気消沈したまま自分の机に向かった。


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