第2話 ハルトの受難
東都の外れに,1台の大型車が人気のない道を走っていた。すでに,舗装道路ではなく,砂利道になていた。完全に,人気のない場所に来た。ここで,もし,ひとりだけ,身動きできない状態で捨て置かれたら,確実に死ぬのは明らかだ。
彼の名は,ハルト。17歳。今,車に乗っている。だが,猿ぐつわをされて,手足も縛られていた。
車が止まった。
リーダー格の組員は,皆に声を掛けた。
リーダー「この片でいいだろう。ハルトを引っ張り出して,その道ばたで用事をすますぞ」
組員A「そうですね。ここなら,死体を捨て置けば,2,3日くらいで発見されるでしょう。時間的にちょうどいいですね」
リーダー「まあ,そういうことだな。フフフ」
彼らは,麻薬等違法薬販売の元締めグループだ。名を『木の葉会』という。この月本国では,4大違法薬販売組織の一つだ。違法薬とは,幻覚剤,媚薬,覚醒剤,麻薬,大麻などを指す。
組員Aと組員Bは,ハルトを車から出して,猿ぐつわを外した。
ハルト「な,なんで,俺が,死ななきゃならないんだよ。組のために,何年も頑張ってきたのに!!」
ハルトは,中学卒業してから,すぐに,木の葉会の下部組織である『桜の会』に入って,地道に,薬物の販売ルートを開拓してきた。殺される理由がわからなかった。
リーダー「まあ,ハルトにとっては,そうだろうな。でもよ。われわれの世界では,親分のために命を捨てるのも,りっぱなおつとめなのさ。ハルト,そのつとめを立派にはたしなさい」
組員A「ハルトは,敵対する幹部のケイタを殺害した罪を背負ってもらう。その罪の重さに嘆いて,この地で自殺してもらう。遺書もこの通り,準備しているぜ」
組員Aは,遺書をハルトに見せた。
組員Bは,ハルトの顎をつかんで,口を開けさせて,毒の丸薬を溶かし込んだ酒を注ぎ込んだ。
ハルト「ゲホッ,ゲホッ,,,」
ハルトは,何度かむせたが,組合Bの強制的に口に注ぎ入れる行為は止まなかった。
ゴロゴロゴロゴローーーー!!! ドーーーーーン!!
そのとき,晴天なのに,雷が鳴って,彼らのすぐ近くに落ちた。
リーダー「何事だ!!」
組員A「あ,見てください。女の子?え?え??裸の少女??巨乳??爆乳??」
車の中には,控えの組員たちがいた。いざっという時のための武装した組員だ。
組員C「え??女の子が降って来た??」
組員D「すごい胸ですよ,あれ,,ホルスタイン以上です。重さでいったら片方だけでも10kgは超えるでしょう」
組員E「だけど,なんで?こんなところに全裸の巨乳が降ってくるんだ??人間じゃないのか?」
組員C「世の中には,わたしたちのために,恵みを与えてくれる神様もいるってことですよ」
組員C「でも,あの巨大な乳首は病気じゃないのか?人間のものではないぞ」
などなど,好き勝手なことを吐いていた。天から降ってきたその全裸の巨乳少女は絶世の美人だった。しかし,その美貌に感嘆する余裕もなく,その大きな胸とそれに比例するかのように大きい乳首に目が移ってしまった。
雷とともに降って来た女の子は名を千雪という。16歳だ。だが,ある原因で,知能障害をきたしていた。自分がまだ5,6歳の子供だと認識していた。
千雪は,その場で四つん這いになっていた。千雪の胸は,片方が15kg,両方で30kgにもなる大きさをしていた。というのも,母乳が大量に貯まってしまった。しかし,千雪は,自分が子供を産んだばかりだとは,まったく認識できていなかった。
ハルトは,咳き込みながらも,近くにいるその少女に,思わず叫んだ。
ハルト「ゲホッ,,ゲホッ,,,おい,そこの女の子!!助けてくれ!!俺は殺される!!」
千雪は,「そこの女の子!!助けてくれ!!」という言葉に反応した。
千雪は,ハルトの方を見た。
千雪「お兄ちゃん? 助けてほしいの?でも,どうやって助けるの?」
ハルト「何でもいいから,助けてくれ!」
リーダーは,手刀でハルトの後頭部を強打して気絶させた。
リーダー「ちょっと邪魔が入ったようだな。あの女を始末してから,ハルトに毒を飲ます」
リーダーは,千雪のそばに来た。
リーダー「お嬢ちゃんは,いったい,どこから来たの?」
千雪「わかんない。気がついたらここに来てた」
リーダーは,千雪の話し方が子供っぽいのに,違和感を感じた。
リーダー「お嬢ちゃんは,今,何歳なの?名前は?パパは?ママは?」
千雪「今,6歳。パパは,,,パパは家にいるよ。ママも家にいるよ」
「ハハハハーーー」
「ハハハハーーー」
「ハハハハーーー」
組員たちは,大声で笑った。この天から降ってきた巨乳でデカ尻の千雪は,知能障害をきたしていると判明したからだ。
リーダー「お嬢ちゃんは,男の人とエッチしたことあるの?」
千雪「え?チ??って何?」
リーダー「そっか,わかんないか。じゃ,教えてあげるね」
千雪「でも,ママが知らない人の言うことを聞いちゃダメだって言ってたよ。おじちゃんは,いい人?悪い人?」
リーダー「もう,お嬢ちゃんとは,こうやって,お話をしているでしょう。だから,おじちゃんは,もう知らない人じゃないよ」
千雪は,身長160前後だが,片側で15kg,両方だと30kgにもなる病的な胸をしていた。左右の乳首は,直径12cm長さ12cmもの乳首になっていて異様な大きさだった。
だが,それだけではない。お尻周りも140cmもに達していた。それでいて全体的に痩せ型の体型をしていた。
この体型は,ゲームかアニメに出てくるオタクの理想の女性像に近かった。
組員A「リーダー,この子は,なんかアニメに出てる巨乳美少女の体ですぜ」
組員B「これは神からのお恵みですぜ」
組員Cは,千雪のそばにブルーシートを敷いた。
組員C「リーダー,どうぞ」
リーダー「お,気が利くな。お嬢ちゃん,このシートの上に移動しようか。今から,エッチを教えてあげるよ」
千雪「?え?ち? 教えてくれる? うん,ありがとう」
千雪は,リーダーの言いなりになった。
リーダーも全裸になった。だが,リーダー以外は,全員,携帯でビデオ録画のボタンを押して,千雪の見事な,いや,病的な体を録画していった。
リーダー「お嬢ちゃん,ちょっとその大きな胸触るね」
千雪「うん,いいよ」
リーダーは,右手を千雪の大きな胸に触ろうとした。
その時,奇妙な現象が起きた。リーダーや組員たちは,口から異様な声を発した。
リーダー「くわーーー,,,やめてくれーー」
組員A「な,なんだ,お前は???来るな!!来るな!」
組員B「ば,化け物,,,ばけもの,,,」
組員C「ゆ,幽霊??うわーー」
組員D「怪物だーーー,喰われる!!」
組員E「お前は妖怪か!!」
バキューーーー,バシュウーー!!バシューー!!
武装した組員たちは,思わず,空中に向かって発砲した。
だが,その行動も一瞬で終わった。リーダーをはじめ,組員たち全員がその場で倒れてしまった。
千雪「え?お兄さん? どうしたの?」
千雪は,わけがわからず,倒れているお兄さんたちをひとりずつ揺り動かしていった。
そんな中で,ひとりだけ意識を取り戻した男がいた。ハルトだった。
ハルトは,目を覚ましたが,まだ後頭部が痛かった。でも,我慢できる程度の痛さだった。
周囲の状況を見てびっくりした。リーダーや組員たちが倒れていた。しかも,組員D とEは,拳銃を持っているではないか!!
ハルトは,近くにあった鋭利な岩石に近寄って,手首のロープをこすって解いた。足首のロープを解いて,体の自由を取り戻した。
ハルトは,組員DとEから拳銃を奪った。リーダーや組員は,息があったので,気絶しているものと判断した。そこで,急いで,車からロープを出して,リーダーと組員たちの手首と足首にロープで縛った。
ハルトは,やっと一息ついた。これで,当面は安心だ。ハルトは,改めて,傍でハルトのことをじっと見ている少女を見た。
両方で30kgにもなろうかという病的な胸,直径12cm長さ12cmにもなるあまりに大きな乳首,140cmにもなるお尻周り。一部のオタクが理想とするアニメ巨乳美少女の姿だった。
ハルトは,少女に声をかけた。
ハルト「お嬢ちゃん,あなた,いったい,誰ですか?どこから来たのですか?」
千雪「名前,,,ちゆき。どこからきたのか,わかんない」
ハルトは,千雪の話方が子供っぽいのに違和感を感じた。
ハルト「千雪さんか,,,今,何歳?」
千雪「今,6歳」
ハルトは,ある意味,予想通りの答えにびっくりした。なんと,この体で6歳だと??
その疑問を解明する前に,リーダーたちがどうしてこうなったのかを聞くことが先決だと思った。
ハルト「千雪さん,いや,千雪ちゃんかな?どうして,このおじちゃんたちは,気絶しているの?」
千雪「気絶って何?」
ハルト「ああ,ごめんごめん。このおじちゃんたちは,どうしてこうして寝ているの?」
千雪「うーーん,わたしのともだちが怒った」
ハルト「千雪ちゃんの友達?」
千雪「うん。そう」
ハルト「千雪ちゃんの友達に会いたいな。どこにいるの?」
千雪「声しか聞けない。このおじちゃんたちを殺したって言ってた。ちゆきの体を触る人,みな,殺してやるって言ってた」
ハルトは,体に電撃が走るのを感じた。
今の話が本当だとすると,リーダーたちは,気絶しているのではない。なんらかの方法で殺されたのだ! 息はあるものの,もう目覚めることはないのかもしれない。
ハルトは,ここに長居するのは無用だと判断した。リーダーたちを,草むらの奥に移動させて窪地に放り込んで草木で覆った。このようにすれば,まず見つかることはないはずだ。携帯の電源は切った。彼らの財布,携帯などはすべて奪った。
その後,シーツを車の中に収納して,千雪を車の助手席に乗せて,東都を離れて,東北地方にいくことにした。ハルトにとってまったく縁もゆかりもない地方だった。
車で,高速を使わずに,地道を運転しながら,ハルトは千雪にいろいろと質問した。
ハルト「あのおじちゃんたちを殺した友達とお話できるかな?」
千雪「うん。できるよ。ちょっと待っててね」
しばらくして,千雪は意識を失った。そして,意識を失った状態で,顔をあげた。悪霊大魔王が千雪の体をのっとったのだ。
悪霊大魔王(魔界語)「ふふふ。まさか,千雪の体を乗っ取ることができるとは驚きだ」
悪霊大魔王は,千雪の手で,千雪の乳房と乳首をモミモミしだした。
悪霊大魔王(魔界語)「これは愉快だ。まさか,こんなことができるとはな。でも,せいぜい10分が限界か。それ以上支配すると,千雪の霊体が不安定になってしまう」
ハルト「あの,すいません,あなたは,あいつらを殺したのですか?」
悪霊大魔王(月本語)「まだ,,,言葉が,,,ちょ,ちょっと待て」
数分後,,,
悪霊大魔王(月本語)「ふう,,,なんとか,この国の言葉も理解できるようになった。うん。よし。そうだ。我が殺した。やつらの霊体をすべて俺の中に取り込んで消化した。やつらの記憶,思考すべて吸収した。こうやって,月本語を話せるのもやつらの霊体を取り込んだおかげだ」
ハルト「え? そうなんですか??,,,よくわかりませんが,,,とにかく,これから,私はどうすればいいのでしょう?このままでは,私のいた組織『木の葉会』の連中に捕まって殺されてしまいます。あなた様のお力で,私を救ってほしいのです」
悪霊大魔王「それはかまわん。だが,その前に,我に誓え!我の奴隷になると。この娘の奴隷になると」
ハルト「奴隷,,,下僕のことですね?はい,何でもします。はい,誓います。誓います。でも,私にも,いいめを見せてくださいね。私にも多くのお金と多くの女を抱かせてください」
悪霊大魔王「ハハハ,そんなことか。心配するな。我やこの娘の奴隷であるかぎり,贅沢三昧させてやる。女にも不自由せん」
ハルト「はい,はい,お願いします。一生,ついて行きます。それで,何をすればいいのですか?」
悪霊大魔王「いま,この娘は,能力を失っている。それに,知能障害も起こしている。あの,バカなメーララのせいだ。だが,今は,メーララのことは後回した。
いいか,小僧,まず,この娘,千雪を守れ。今から少なくとも1ヶ月,いっさい人と接触させるな。殺したやつらの記憶を探ると,やつらの追跡能力はすごい。この車もどこか,崖から突き落として消滅させろ。人の住んでいない一軒家を見つけて,そこで,ひっそりと暮らせ。1ヶ月もすれば,千雪は知能も能力もある程度は取り戻すはずだ。その時になったら,千雪の指示に従え。この世界をひっくり返すだろう」
ハルト「ですが,1ヶ月ともなると,食料も買わないといけないし,,,」
悪霊大魔王「一切食料は買わなくていい。千雪の母乳を飲め。それだけでいい。そして,毎日,霊力の修練しろ」
ハルト「霊力??修行??」
悪霊大魔王「ああそうだ。千雪の母乳には,霊力が含まれている。それを飲めばいい。修練の方法は私が教えよう。いいか,小僧,奴隷となったからには,絶対に,千雪の足でまといにはなるな。自分の命は,自分で守れ。そのための霊力だ。それを身につければ,拳銃で撃たれたくらいでは,お前の皮膚を貫通することはない」
ハルト「おおお,,,それはすごい! そんなすごいのですか?霊力って」
悪霊大魔王「ふふふ。千雪が能力に目覚めたら,そんなもんではない。まあ,おいおい分かるだろう。いいか!この1ヶ月,絶対に千雪をひと目に触れさすな。やつらの追跡を許すな。徹底して身を隠せ。この1ヶ月が勝負だ」
ハルト「おおお,俄然,やる気がでてきました! はい,はい。下僕として,その任務まっとうします」
悪霊大魔法「それと,注意しておく。千雪の体には絶対に素手で触るな。肌と肌を接触させるな。触ったら最後,命がないと思え」
ハルト「はい!はい! 肝に銘じておきます!!」
悪霊大魔法「では,明日,また同じ時間に我を起こせ」
ハルト「はい!かしこまりましたーー!!」
悪霊大魔王は眠りについた。肉体を取り戻した。でも,千雪は少々疲れが出たためか,そのまま寝てしまった。
ハルトは,早速,座席の横に置かれていたドライバー用の手袋をした。用心のためだ。その後,ハルトは,今乗っている車を捨てて,ヒッチハイクで乗用車を止めた。彼に拳銃を向けてその車を奪い,千雪を連れて逃亡した。
ー 『木の葉会』東都本部 ー
東都本部長であるカイラは焦っていた。部下の長吉に叱咤していた。まったく,ハルトの消息がわからないのだ。
本部長「おい,いったい,電話も繋がらないし,車の追跡もできないとは何事だ!!」
長吉「リーダーの車には,位置情報がわかる装置が装備されていました。でも,数日前に,東北へ行く一般道で乗り捨てられました。その後,一般人の車を奪ったところまでは分っているのですが,それ以降,消息を絶っています」
本部長「われわれの調査能力をもってしても,ここまでしか追跡できないのか,,,ハルトはいったいどうやって食料を入手するのだ?これだけ検視カメラが発達して,すべてネットに繋がっているのに,,,」
その時,部下のミチルが慌ててやってきた。
ミチル「本部長!やっと殺されたと思われる部員のひとりの個人サーバーのパスワードを解除できました。当時の携帯のカメラや映像を見ることが可能になりました」
本部長「そうか,すぐに見せろ」
ミチル「はい,では,このパソコンでご覧ください」
そこには,なんとも異様な動画がアップロードされていた。ひとりの少女が,リーダーにエッチを教えてあげると言われて,その30kgにもなる大きな胸に触ろうとしているところだった。
本部長「おおお,この超美人は,どこかのアダルト女優か?おまけに,超爆乳じゃないか」
ミチル「本部長,落ち着いてください。これは,リーダーがハルトを殺しに行ったときの映像です。この女の異様にでかい乳首は,偽物ではないようです。ここからです。よく見てください」
その映像には,次々と隊員たちが,意識を失って倒れていく様子が映っていた。この映像の画面も天を回転するかのように映し出されて,そのまま,天を映して,静止映像のように録画が流れた。
ミチルはさらに20分ほど飛ばした。そこには,ハルトが映っていた。ハルトが,携帯を取り上げて,電源を切るような動作をして,映像は終了した。
本部長「なんと,,,ハルトがリーダーたちを殺したのか?」
ミチル「なんともわかりません。銃声らしき音もしませんし,リーダーたちがなんで,ハルトを放置してまで,女を抱こうとしたのかもよくわかりません」
本部長「至急,撮影現場の位置を調べろ。その周辺を探せ。死体があれば死因が判明するだろう」
ミチル「確かにそうですね。巨乳に眼が映ってしまい,位置情報のあること,すっかり失念してしまいました。もし死体が発見されたらどうしますか?警察に連絡しますか?」
コツン!!
本部長は,ミチルの頭を軽く叩いた。
本部長「当たり前だ。映像も警察に提供しても構わん」
ミチル「了解です」
ミチルたちは,すぐに位置情報からその場所を割り出して,10名の部下を連れてその場所に直行した。
付近を探した結果,リーダーたち6名はすぐに発見された。全員が手首と手足がロープで縛られてした。だが,奇妙なことに,リーダー達が失踪して1週間が経過するのに,死体はほとんど腐敗していなかった。
警察の捜査が入った。もちろん,木の葉会の本部にも調査が入った。しかし,特に新しい発見はなかった。最重要容疑者としてハルトが,全国に指名手配された。
ーーー
ー 警視庁死体検査官 ー
死体検査官は新米だった。法医学を抜群の成績で修めた。死体検査官としては優秀な人材と言ってよい。しかし,何分にも24歳の若造だ。このような組織では,若造はいじめの対象になってしまうのが世の常だ。
この若造は,リーダーたちの死因について,担当している警視庁殺人課第2班に説明した。
死体検査官「死因について説明します。彼らの死因は,,,,不明です」
第2班A「きさま!!人をばかにするのか!!」
死体検査官「いいえ,ばかにしていません。彼らは,失踪してから1週間が経過しています。ですが,死亡したのはごく最近です。彼らの胃や腸などを調べても,この1週間,まったく食事をしていないことも判明しました。普通なら,あの状況だと,もっと早く死んでいるはずです。
もし,意識を失った状態であれば,1週間程度は心臓が動いてもおかしくありません」
第2班A「意識を失ったなら,1,2日で回復してもおかしくなのではないか?」
死体検査官「そこが問題なのです。意識を取り戻せば,あのロープの縛り方であれば,30分もすれば解けたでしょう。でも,意識を取り戻さなかった。頭部に外傷はいっさいなかった。6名全員が同じくそうなのです。まったくもって原因不明です。何か,病的な脳障害を6名全員が同時に起こしたかのようです」
第2班A「ということは,何か?ハルトが殺人を起こしたということではないのか?」
死体検査官「現状では,殺人を立証できません。殺人罪を問うことは厳しいと思います」
第2班A「わかった。もういい。もう頼まん。資料を全部置いていけ。あの暇そうにしているα隊に依頼する。頼りにはならんが,それでも,お前よりはもう少しましな答えをもってくるだろう」
死体検査官の若造は,この仕事が初仕事だった。彼なりに頑張ったのだが,死因を解明することはできなかった。気の弱いものなら,自信を無くして,2,3日寝込むところだが,同席した女性上司は,彼をうまく慰めた。
上司「気に入らない報告されると,あんな感じで罵倒まがいな言葉でやじられるのよ。必ず通らなければならない試練のようなものね。でも,あなたは,まだ男だからいいわ。私なんか,どれだけ,セクハラ,パワハラされたかわかんないわ」
若造「そうなんですね。死体検査官って,いい仕事じゃないですね」
上司「そうよ。死因を特定して当たり前なのよ。特定できなかったら,どんだけ罵倒されるか,,,私の場合なんか,貧乳はもう止めちまえ!とか,大きくしてやるから,今晩付き合え!!とか,好き勝手言われたわ。いずれ,仕返ししてあげたいわ」
若造「そうですか,,,任せてください。いつか仕返しするチャンスを見つけます」
上司「ふふふ,そのイキよ。奴らを仕事の成果で見返してあげればいいわ」
ー 治安特別捜査部α隊事務所 ー
α隊隊長は,変死体事件のファイルを診て,どうするか悩んだ。誰に担当してもらおうか。ダメ元で十和子を呼んだ。
隊長「十和子,ちょっとここに来い」
十和子「はい,ただいま」
十和子は隊長の机の前に移動した。
隊長「この変死体事件ファイルを見てくれ」
隊長は,そのファイルを十和子に渡した。十和子は。それをパラパラと診た。まだ,専門用語など,わからない字が多少あったが,写真からおおよその状況は理解できた。
十和子「これが何か?」
隊長「この事件を扱ってみる気はないか?」
十和子「変死体の死因解明は,死体検死官の仕事です。私の仕事ではありません」
隊長「その死体検査官がさじを投げたんだ。期限は問わない。のんびりと対応してくれ。どうせ,殺人課もわれわれには,ぜんぜん期待していないからな」
十和子「それなら,引き受けましょう」
隊長「ところで,この間,個人的な問題が発覚したとか言っていたな。解決したのか?」
十和子「まだです。実は,日々魔力が消失していることが分かりました。このままでは,数週間後には,私の魔力は尽きてしまいます。魔力が尽きると,体力が急激に減ってしまい,下手すれば,生死に関わります。まさか,空気中に魔素のない世界が,こんなにもわれわれ魔族に悪影響を及ぼすとは思ってもみませんでした」
隊長「そうか,空気中に魔素がないというのは,そんなに致命的なのか。でも,十和子は,以外と平気な顔をしているな。何か勝算でもあるのか?」
十和子「ええ,,,いろいろ考えたのですが,私たちは,4名が一緒になってこの世界に来ました。でも,私と同じように,他の3名もバラバラに飛ばされたと思っています。千雪は,もともとこの世界の人間ですし,魔力を必要としませんから影響ないでしょう。でも,他の2名は魔力の枯渇に気づくはずです。そして,ある結論に到着するでしょう」
隊長「それは?」
十和子「われわれが飛ばされた地点こそ,魔鉱脈のある場所だと」
隊長「ほほう,,,それはどうして?」
十和子「私が,戦車の実弾を防御するため,魔法結界を張ったのですが,なんら違和感を感じませんでした。今思えば,あの場所だけは,空気中に魔素が充満しているようでした。つまり,われわれは,魔鉱脈に引っ張られてしまったと考えています」
隊長「なるほど。わかった。十和子,まず,魔素の問題をすぐに解決しなさい。それから,ゆっくりと,その事件ファイルを対応していきなさい」
十和子「了解しました。隊長!」
かくして,十和子の憶測は正しかった。陸軍の実弾射撃訓練場の一角に,魔鉱脈が隠れていた。
というのも,1メートルほど土を掘り起こすと,魔鉱脈の一部分が露出したからだ。十和子は,亜空間から魔法石を頂いた指輪を6個取り出して,その指輪を魔鉱脈に接触させた。そうすることで,指輪に魔力を蓄えることができる。特に魔法を使わなければ,指輪1個につき1ヶ月くらいは体内への魔力供給が可能となる。
十和子は,これからは,遠慮無く魔法を使うことにした。この場所の座標点も記憶した。真夜中であれば,実弾射撃訓練は行われないことも確認済みだ。
十和子は,魔力問題を解決して,転移で自分の部屋に戻った。
ーーーー
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