05-05
夏休みの半分が終わった頃、俺たちの人形劇作りは始まった。
須川の書いた脚本はたしかに子供向けで、シンプルでわかりやすくなっていたけれど、それでも彼女らしい鋭さのようなものが宿っているように見えた。
当初の予定通り、俺は人形作りの担当になって、登場人物のイラストを描くのを任された。
笑い顔、泣き顔、困り顔、そんなさまざまなイラストを、俺は不器用ながら一生懸命に描いたけれど、残念ながら誰も褒めてくれなかった。「はじめてだから仕方ないよね」と、須川はそう言ってくれたけれど、あんまり慰めにはならなかった。
結局俺たちのやっていることは、遠くにいる誰かの役に立つことでもなければ、身近にいる誰かの心を慰めることでもない。ただ俺たちは、俺たちの心を慰めているだけなんじゃないかという気がした。
作業の分担にはっきりとした区別はなくて、須川や広瀬が俺の作業を手伝ってくれることもあれば、その逆もあった。根を詰めすぎたときには、他の人に行き詰った作業を任せ、それぞれが息抜きに好き勝手なことをしていた。
あるとき、広瀬が余った画用紙に描いていた絵を見て、俺は戸惑った。
棺桶を引きずる男の絵だった。
「それは?」
訊ねると、広瀬は戸惑ったみたいな顔をした。
「べつに、深い意味があるわけじゃないけど」
そのわりに、描かれているものはずいぶん意味ありげだ。
「去年、友達に勧められて、一昔前のゲームをやったんだけど、そのゲームの主人公がこうしてたの。冒険の途中で仲間が死ぬと、その棺桶を引きずって歩くの」
たしかにそういうRPGがあったな、と俺は納得した。
「ゲームの中だと、教会に連れていくと生き返るんだよね。それが妙に印象に残ってて」
「生き返ること?」
「ううん。棺桶を引きずるのが。だって、絶対、つらいし、重いでしょ?」
言われてみればたしかに、そういう気もしたけれど、いまいちピンとこなかった。
「でも、置き去りにできないなら、引きずっていくしかないんだよね、きっと」
その言葉に含まれている意味について、少しだけ考えてから、
「たしかにね」と俺は頷いた。
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