第8話

 翌日の朝。僕は学校へ向かう。朝食は昨日の夕飯を食べた。変色したレタスが酸っぱくてろくなものではなかった。

 教室がざわつく。

 僕が二日連続で登校したことがそんなに珍しいのか。

 昨日騒ぎを起こした女は来ていなかった。あんな気の狂った女をそのままにしておくのもおかしいか。

 今日もこの教室の誰かがカッターを手に隣人を襲えば良い。全員で殺しあいをするんだ。最後のひとりになるまで殺しあうんだ。

 昔そういう映画をネットで見たことがある。教育に悪いと言われて、途中で止められてしまったんだ。もう邪魔する者はいないから、今日帰ったら見ようか。

 授業は順調に進み、何も起こらずに終わってしまった。

 僕の妄想が全て現実に反映されるわけではないのか? ……そういえば、こやけも何のことだかわかっていない様子だったな。

 夕方になり、長い影が伸びる。線香のような香りが風で運ばれてくる。風上に、着物の男がいた。

「やあ。また会ったね」

「鏡はわらない」

「うん。わらないなら、わらないで良いけど、言葉には気をつけなよ。……もう二人ほど送られてしまったようだから」

「あなたには関係無い! 僕の邪魔をするな!」

「……精霊ってのはね、気まぐれだから気をつけなよ。生かすも殺すも、彼女の気分次第。そして、キミの時間もそれだけ持っていかれるんだ。きゃははは」

 男は笑いながら突然わいたコウモリと共に姿を消した。どうして、死ななかった?

 家に帰る。血生臭い。香りまでは消せないのか。

 誰もいないので自分で夕飯を準備しないと。

 カップラーメンで良いか。スーパーに行けば惣菜も買えるからどうでもいい。

 金は、両親の財布の中にある。カードの番号もわかる。しばらくは大丈夫だ。

 問題は、両親が消えたことを誰かに知られた時だ。いつか誰かが気づいたら、消してしまうか。周りにいるやつらを消せば……学校までは何にも伝わらないはずだ。

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