03
「ハーマン製薬 認知症治療薬"ロズリア"の発表会見のお知らせ」
数日前に送られてきた文書をスマホで眺める男が居た。
握られたスマホは傷だらけで、画面をスワイプする指には「H・O・P・E」と一文字ずつタトゥーが彫られている。
液晶を見つめるたれ気味の目は虚ろでとろんとしているのにどこかギラぎらついた感じがした。
口はだらしなくガムを噛んでいる。
ハーマン製薬の認知症の治療薬の発表会見はハーマンビル本社の大会議室で行われる。
部屋の前方には、カバーのかかった長机が2つ並べて設置してあり、それと向き合う形で記者用のパイプ椅子が並べられ、記者たちがそれぞれ座っていた。
どの記者も忙しそうに電話で話したり、ノートPCに向かっててキーを叩いている。立ち話をしている者たちも情報交換に余念がなく部屋全体にざわつきと緊張感があった。
そんな中で男は明らかに場違いだった。
リュックを床に放り投げてだらしなく足を組み、ジャケットこそ着ているが中に来ているのは首元がヨレたTシャツだ。
見える場所にタトゥーを入れている記者は他に見当たらなかったし、髪を伸ばしているのも女性だけだった。
「ほんとに認知症を治せるのかねぇ?」
男は一人言の様に口にする。
「なぁ?あんたどう思う?」
突然ガラの悪い男に話しかけられた隣の青年はギョッとした表情で男を見返した。
「さ、さぁ?」
黒縁眼鏡をかけて水色のギンガムチェックのシャツのボタンを上まできっちり留めた真面目そうな青年は、これ以上ボクに関わるなと言わんばかりに机上のノートPCを開いて、イヤホンを耳に突っ込んだ。
「でも、ここにいる奴ら全員コレ信じてんだぜ? 多少は」
隣の青年の反応が一切目に入らないようにしゃべり続ける。
「君もそれは同じだろう?」
思わず青年は言葉を返してしまった。
「あ、やっぱり聞こえてたんだな」
男は屈託なく笑った。
「俺は信じてる、じゃなくて信じたい、だな」
「それも皆、同じだ」
青年は少し笑った。
「俺の名前はケン・ルイス。
フリーのジャーナリストだ」
仲良くやろうぜというように、ケンは手を差し出した。
「僕は、アンソニー・リュウ。
ニューズの記者だ」
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