第5話 成長論

 本を読むことにも慣れ、近頃は読書をしながら苔の採取が可能になった。まだ思考能力が発達していない時にむやみやたらと採ってしまっていたせいもあり、苔を採るために洞窟の奥まで足を運ぶことも珍しくない。もしかすると安定して採取を行うために苔を採りつくさない事の他にも、群生地から採ってきた苔を移植するのも良いのかもしれない。そんなことを考えながら知識を身体に染み込ませる。

 血液を摂取し続けているせいか、昔に比べて思考力が格段に上がった気がする。それだけでなく並列思考も可能になった。だが、私は一つ悩んでいる。私は確かに人を身体に取り込み続けている。しかし摂取しているのは血液のみであり、加えて未だ一年と半年ほどしか経っていないにも関わらずこれほどの成長があるのはおかしいのではないかという事だ。勿論可能性としては様々なことが考えられる。

 一つは継続して摂取することで血液の効果が上昇するという可能性。魔物の身体は生存するのに何らかの要素を必要としており、人間の身体にはそれが多数含まれていることで魔物は成長するのではないかという考えに基づいたものである。存在するために必要とする要素を継続した血液摂取によって補い、必要分を過多した要素は成長分へと回されるという仕組みであれば、継続した摂取によって成長の停滞する時期が存在せず、常に成長し続けることが可能になる。

 もう一つは私の成長が思考力に偏っているという可能性。他の魔物は肉体の強度が増したり、馬力が増えたり等肉体面での成長が主であるのではないかという事だ。本来であれば自らを構成する肉体が強化されていくにも関わらず、私といえば体積が少々増えただけで残りは頭脳面への強化である。私としてはこの可能性が高いと考えているが、確かめるのは現時点では難しい。この考えにおいて、判断のしにくい事柄としては、この偏りが私の種族特徴によるものであるのか、それとも血液の摂取中に知識を得ていたことによる刺激によるものかという問題だ。どちらであるのかは管理の下対照実験を行わねばならないが、生憎私はマスター以外に他の魔物に出会ったことがないし、マスターのように魔物でありながら人への伝手がある訳でもない。マスターから渡された物語では主人公が自らを特別であると勘違いしているような記述があるものもあったが、私は私自身を特別であるとは考えていない。しかし特異であるという点においては認めざるを得ないように思える。

 他にも、人の身体には魔物を成長させる効果があるが人間を丸ごと食べた時と人間の血液のみを全て飲み込んだ時では後者の方が効果が高い可能性や、内包する力の大きさによって吸収可能量が変化する可能性が挙げられる。私自身この洞窟から出た場合の展望や自分の力量、実際の世界情勢について何も知ることが出来ていない。早急に更なる情報を手に入れなければならないだろう。

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