第2話 成長
マスターから話を聞かせてもらうようになってからいくらかの月日が経った。ボクは苔を集めるのにも慣れてきて、最近では身体の一部を伸ばして天井付近にある苔を取れるようにもなってきた。そうすることで一日当たりの採集量が増えたし、マスターもそれに合わせて飲み物と話の量を増やしてくれた。ボクが飲み物の味がいつもと少し違うと言うと、マスターはいつも同じものばかりだと飽きてしまうだろうと言った。確かにそうだ。ボクも以前聞いた話と同じ話をされてしまったりすれば、苔を集める気力も少なくなってしまうかもしれない。マスターの言う事はいつも道理が通っている。
「それで、今日話してくれるのはどんなお話なの?」
「うん。昨日少し話したことだけれど、キミの身体に起こっている変化についてだ。」
以前、魔物は人間を食べることで力を得ることが出来る。人間の姿へと似ていくって話をしたのを覚えているかな。そして、実は似通っていくのは見た目だけじゃないんだ。人間が魔物に対抗するために発揮している思考力、つまりは考える力も人間を食べると手に入れることが出来る。元々の種族差によって上昇率は違うけれどね。そしてキミは近頃苔を集めるために身体の一部を天井まで伸ばしているだろう?それはキミの思考力が強化されてきているということの表れでもあるんだ。キミは天井にも苔が生えていることを発見し、身体を伸ばすことでそれが取れるのではないかという考えに至った。以前のキミには無かったものだ。僕がキミに提供しているこの飲み物。この中には人間の血液が入っている。もちろん、キミが望まないのであればこれ以上人間の血をキミに飲ませるようなことはしないでおこう。けれどキミは知ってしまったはずだ。力を得る事によって自身の活動が、知能が、世界が広がっていくことを。さあ、これからも引き続き人間の血液を摂取するのか、それとも拒んだ末の停滞を望むのか。選ぶのはキミ自身だよ。
マスターの話は衝撃的なものだった。マスターがボクに人間の血を飲ませていたのはどうしてなのだろうか。マスターがこの話をボクにしたのはどうしてなのだろうか。そんなことを考えて、以前よりもマスターのことがわからなくなった。
「どうしてボクが天井の苔を取っているってわかったの?」
ボクがそう聞くと、マスターは事もなげに話す。
「だってほら、場所によって生えてる種類が違うから。」
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