「あなたのことが好き」と言ったら「私も好きだよ小動物みたいで」と言われたので押し倒す百合

水色桜

第1話

陸上部の練習が終わり、校門まで小走りで向かう。

「ごめん。ちょっと遅くなった。」

「ううん。大丈夫だよ。」

校門で待ち合わせをしていたのは幼馴染の北山ゆめだ。栗色のボブにおっとりした子で、よく一緒にいる。

「荷物持ったら、ゆめんちに行くから。」

「わかったよ。そうだお母さんがご飯作ってあるから、食べてってて言ってたよ。」

今日はゆめの家でお泊り会をする約束をしていた。今日お父さんとお母さんは旅行に出かけてて、そのことをゆめに言ったら、一人じゃ寂しいだろうからということでお泊り会をすることになったのだ。

「ありがとう。お言葉に甘えさせてもらう。ゆめんちでお泊り会とか小学生以来だよな。」

「そうだね。大分久しぶりな気がするよ。楽しみだね。」

「ああ、そうだな。」

正直、楽しみというより緊張していた。ゆめのことをそういう風に見て、本人がどう思うかなんてわからないのに、気持ちはどんどん抑えられなくなるばかりだ。いっそのこと告白してしまおうかとも思ったが、勇気が出ない。急いで家まで帰り、荷物を持ってゆめの家まで向かう。ゆめと僕の家は100mほどしか離れていない。門まできてチャイムを鳴らす。

「こんばんは。きらりです。今日はよろしくお願いします。」

するとどたどた二階のほうから音がする。数十秒してドアが開けられる。

「きらりちゃんいらっしゃい。上がって!」

ゆめのこういうあわただしいところはまるで子犬のようだと思う。

「ありがと。そんな急がなくても大丈夫だよ。」

僕は苦笑しながらゆめの家に入る。

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ゆめのお母さんの作る料理は格別だった。特に複数のハーブを使って焼かれたチキンはお店の料理以上においしかった。ご飯を食べて、お風呂に入ったあと、ゆめの部屋で遊ぶことになった。お風呂から上がったゆめはなぜかおさげをしていた。水色のフリルのついたパジャマといういつも見ない服装とも相まって、一層可愛いと思えた。ゆめの部屋でゆめと二人きりという状況は、僕の理性が麻痺するには十分だった。

「ゆめって好きな人とかいる?」

気づいたらそう聞いていた。いつもなら好きな人なんて絶対聞けないのに。

「えー秘密。そういうきらりちゃんはいないの?」

「それは…。秘密だ。」

「えーきらりちゃんもか…。」

しばし沈黙が訪れる。このままゆめに気持ちを伝えずにいていいのだろうか。ゆめはこんなにも華奢で可愛い。目はまん丸で見ているだけで癒される。きっとたくさんの人に告白されるに違いない。誰かに先を越されるくらいなら、いっそ僕が…。そう思った時には自然と口が動いていた。

「ゆめ、大事な話があるんだ。僕は君のことが好きだ。」

「私も好きだよ。小動物みたいで。なんかきらりちゃんっていつもぴくぴく周りを警戒してて子猫みたいなんだよね~。」

そうじゃない。そうじゃないんだ。そういう好きっていう気持ちじゃなくて。そう思った時には体が自然と動いていた。右に座っていたゆめの前に出て、ゆめを後ろのソファーに押し倒す。

「そうじゃない。僕はゆめを他の誰にもとられたくないんだ。友達としての好きじゃなくって、それ以上に…。」

「あえっ。」

ゆめは心底驚いたような様子だった。

「えっちょっ。」

ゆめはなぜか顔を隠す。

「ごごめん。やっぱり迷惑だよな…。」

僕は肩を落とす。当然だ。女同士で好きになる確率なんて天文学的な確率だろう。きっとこれで友達でもいれなくなる。そう思うと吐き気がするほど気分が落ち込んでいった。僕の様子を見ていたのだろう。ゆめは慌てて言う。

「そうじゃなくって。私もきらりちゃんことがずっと好きだったから。にやけちゃったのを見せたくなくて…。」

「えっそうなのか。」

私は一転、天にも昇るような心地になる。ゆめは僕が好き、ゆめは僕が好きなんだ…。僕は何度も言葉を反芻して喜びをかみしめる。でもこんな僕のどこが好きなんだろう。

「でも僕のどこが好きなんだ?好かれるようなところなんてないと思うけど…。」

「えっいっぱいあるよ。毎日陸上を一生懸命にやってるところとか、後輩の練習に夜遅くまで付き合っているところとか、誰よりも優しいのに不器用で怖がられてるところとか、ピーマンがきらいなところとか…。」

「最後のほうはいいところでもなんでもないと思うけど。」

「そういうところもひっくるめて好きなの!」

そうか。そうなのか。本当に現実なのかまだ信じられないけれど、それでも今はこの幸せに酔っていようと思えた。




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「あなたのことが好き」と言ったら「私も好きだよ小動物みたいで」と言われたので押し倒す百合 水色桜 @Mizuiro__sakura

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