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 その後運ばれてきた朝食を食べ、しばらくしたら鉄扉が開けられた。扉の向こうには真咲が立っていた。


「これから授業が始まるから、一緒に来て」


 それだけ言うと、真咲は昨日と同じようにさっさと歩き始めてしまう。累は何も言わずにその後を追った。

 昨夜でこの乙子が手ごわい事はよくわかった。それに、仮に真咲を出し抜けたとしても、学園の警備は厳重だと伊都が言っていた。無策で動くのは得策ではない。

 今回ははじめての脱走だったから反省房に一晩いるだけで許されたが、次も同じ罰とは限らない。いや、もっと厳しい罰があるだろう事は容易に想像できる。


「今は機会を伺う時だ……」


 累は呟きながら、真咲の後を追って授業が行われる教室まで向かった。



 黒百合学園では午前中は教室での勉学、昼休みをはさんで午後は奉仕活動や実務活動を行うのが主なルーティンとなっている。

 実務活動とは、学内の施設で行うアルバイトのようなもので、衣類小物の製造や学内施設の手伝いなど、多岐にわたる。

なんの実務を担当するかは、その生徒の適性を判断し、数種類の実務の中から生徒が希望したものが割り当てられる。



「つ、疲れた……」


 機会を伺うため、ひとまずこの学園で生活する事にした累だが、すでに精神はかなり疲れていた。

 午前中の授業は、我が国の女性史をメインに、いかに女性が優れており、素晴らしい性であるかを、教師が延々と教壇で熱弁していた。

 さらにこの学園では、上級生が隣で下級生に授業をアシストするというシステムらしく、累が退屈で船をこぎ出そうものなら、真咲が累の太腿を、その万力のような力で思いっきり抓ってくるのだ。


「授業に集中して」


おかげで累の太腿はすっかり赤く腫れあがってしまった。

 そんな退屈だった授業も終わり、今は昼休み。累は真咲に連れられて食堂に来ていた。食堂、と言っても中はまるでレストランのようにきれいで、メニューも非常に豊富だ。

 ビュッフェ形式になっており、生徒たちは自分の好きな物を取って食べる事が出来る。

 累は選んだオムライスをスプーンですくって、口に運ぶ。卵のまろやかさとデミグラスソースのコクが口の中一杯に広がり、疲労した身体に染み渡る。


「ああ、美味い……」


 思わず声が漏れてしまう。孤児院は決して裕福ではなかったので、食事も比較的質素なものが多かった。男を受け入れている、というだけで国からの支援も周囲からの協力もほとんど得られないからだ。

 食べ物だけじゃない。教育も仕事も、男であるだけで多くの制限がかかってしまう。


「男と女で、こんなにも差があるのか……」


 そう思うと、先ほどまでとても美味に感じた目の前のオムライスの味が、途端に砂を噛むような嫌な感じに変わってしまった。

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男性収容更生機関 私立黒百合学園 飛烏龍Fei Oolong @tak-8

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