第一話「入学」
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「以上で入所手続きは終了だ。何か質問はあるかね?
真赤な絨毯の敷き詰められた一室、その奥に据えられた重厚な書斎机の向こうで、黒百合学園理事長「
全身を包む深紅のスーツが目に痛い。タイトスカートから覗く足は、その程よい肉付きを黒いストッキングできつく締めあげている。
しっかりとラインを引いた切れ長の眼は他人を見下す事に慣れているのだろう、目の前に佇む小柄な少年を、そろりと睨め付ける。
「ありません……」
少年はあどけない少女と見間違うほどの美貌を持ちながら、しかしそんな視線を強い眼差しで真っ向から返している。やや長めのショートヘアーはふわりと柔らかく、小動物のような印象を与える。
紺と白を基調としたセーラーワンピースは腰元をベルトできゅっと引き締め、彼の華奢なシルエットをより愛らしく強調している。知らぬ者から見れば、誰もが振り向く可憐な美少女に映っただろう。
しかし、その凛々しく響く声は少女のそれではなく、紛れもない男性の声だった。
「そうか、理解できたなら結構。この学園でしっかりと学び、立派な
「俺は、乙子になる気はありません」
累の言葉に神楽坂の顔が険しくなる。視線は鋭さを増し、相手を射殺さんばかりである。
「ほう、良く聞こえなかったが……」
しかし、そんな視線に臆することなく、大きな瞳で真っすぐ神楽坂を見据えながら、高らかに繰り返した。
「俺は絶対に乙子にはなりません。こんなところだって、すぐに出てやります」
神楽坂はゆったりと立ち上がり、優雅な足取りで累の目の前まで歩いてくる。
女性にしては高伸長な上、黒いピンヒールがその身体をさらに押し上げているため、その迫力は凄まじい。160センチほどしかない小柄な累と並ぶと、まるで大人と子供である。
二人は互いに視線を逸らすことなく、部屋はしばしの静寂に包まれた。しかし次の瞬間、累の身体は横に大きく吹き飛び、受け身を取る間もなく地面に叩きつけられた。神楽坂の平手を受けた頬がじんじんと熱を持って痛んだ。
「ずいぶんと威勢が良いな。しかしここではそれは不要だ。君たちに求められるのは教養と慈愛、そして女性を尊ぶ気高い精神だ。覚えておきたまえ」
神楽坂は何事もなかったかのようにまた悠然とした足取りで椅子へと戻り、卓上の呼び鈴を鳴らした。
すると、既に扉の向こうに控えていたのか、控えめなノックと共に一人の男、否、乙子が入ってきた。
「お呼びでしょうか、理事長」
累と同じくセーラーに身を包んだその人物は、長い艶やかなストレートロングの髪を揺らしながら、スカートの裾をつまみながら優雅にお辞儀した。そのすらりと伸びる伸長のおかげもあり、まるで異国の姫のようである。
「新入生の結城累だ。
「かしこまりました。はじめまして、累さん。近藤真咲と申します。どうぞお見知りおきを」
真咲は累に向き直ると、倒れる彼にその細い腕を伸ばして彼の前に差し出した。しかし累はその手を乱暴に振り払い、走って部屋から出て行ってしまった。
「見ての通りじゃじゃ馬だ、しっかり教育するように」
真咲は優雅に振り返り、また丁寧にお辞儀をしてから、理事長室を後にした。
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