第15話 メガネをかけた優奈

 アパートに着き、夕食の準備をした。


 (今日は麺類にしようかな)


 冷凍庫からうどんを取り出し、沸騰させた鍋に入れ茹でた。茹でている間、拓真との会話を思い出していた。


 (メガネか…。雑貨屋さんでも売ってるし、今度買ってみようかな)


 メガネをかけた自分の姿を想像した。


 (似合うかな?)


 かけてみないと分からない。


 野菜を切り、鍋に入れた。しばらく煮詰め、だしを入れさらに煮詰める。その間、私はぼーっとしていた。気付くと、沸騰しすぎて危うく汁がなくなりそうになった。慌てて火を止め、器に移した。


 (危なかった…。自分の姿想像してたらいつの間に…)


 想像の中での私の姿はどう映っただろうか。


 汁が煮詰まり、味が濃くなっていた。だが、そのまま食べた。


 食べ終え、箸を置いて天井を見た。


 (どれくらい印象変わるかな…。かけて大人っぽく見えるかな…)


 そんなことを思い、じっと天井を見つめた。


 (どんなメガネがいいかな。明日見てこよう)


 翌日。何事もなく店に着いた。更衣室で着替えながらどんなメガネを買うか考えていた。すると、藍子が声を掛けた。


 「何か考え事?」


 「買いたいものがあってね。どんなのがいいかなと思って」


 「何買うの?」


 「何でしょう」


 「教えてよ!」


 「内緒!」


 笑って振り切った。


 営業が開始し、私はオーダーを取ったり、料理を運んだ。この日も多くのお客さんが来店した。お客さんを見ていると、おしゃれな人ばかり。その中にはメガネをかけた女性も来店していた。


 (このお姉さん、ほんとオシャレ。このメガネどこで買ったんだろ…)


 すると、その女性が私に声を掛けた。


 「優奈ちゃん。もしかして、メガネ買おうと思ってる?」


 「何で分かったんですか!?」


 「私の顔じろじろ見てくるからもしかしてと思ってね」


 「実はですね…」


 私はメガネを買いたい理由を伝えた。


 「そうなんだ。それで…」


 「印象が変わればそういったことも減ると思って」


 「確かに、印象が変わるからね。優奈ちゃん、大人っぽくなれると思うよ」


 「ほんとですか?」


 「髪型とか優奈ちゃんの雰囲気と合うと思うよ。大人っぽくなればそういう目に遭いにくくなるだろうし」


 私はお客さんからアドバイスを貰った。


 「ありがとうございます!」


 「幸せはきっと来るから大丈夫だよ!」


 女性は笑顔で私を見つめた。そしてコーヒーを飲み終え、お会計を済ませた。


 「じゃあね、優奈ちゃん。頑張るんだよ」


 「はい!」


 「また来るね!」


 「お待ちしてます!」


 女性を見送り、食器を片付けた。


 営業終了後の業務を終え、雑貨店へ向かった。


 (どんなメガネがあるのかな…)


 私はメガネ売り場で品定めをした。見ていると気に入ったメガネを見つけた。


 (あっ、このメガネいいかも。かけてみよう)


 かけてみて、鏡で自分の姿を確認した。


 (私ってメガネかけるとこんな感じになるんだ…。全然印象が違う…)


 自分自身でも印象が変わることが分かった。


 (これで変に声を掛けられなければいいけど…)


 私はラウンド型のフレームの眼鏡を購入した。


 私は購入したメガネをかけて帰宅した。すれ違った通行人に私の姿はどう映っただろうか。


 すると帰り道、男性2人組が女性に声を掛けていた。だが断られたようだ。すると、私の顔を見た。


 (どうだろ…)


 男性2人は私の顔をちらっと見ただけで、すぐさま私の前を歩いた。そして、十字路を右に曲がった。


 私は十字路をまっすぐ進み、2人の後姿を見た。


 (よかった…。私、どう見られたんだろう…)


 嬉しかったが少し寂しい気持ちもあった。だが、痛い目に遭わずに済んだのだからこれでよいと思うことにした。


 私はそのままコンビニエンスストアへ立ち寄り、食料品を購入した。すると、レジの前に見覚えのある男性がいた。


 「ありがとうございました」


 袋を手に店を出ていく男性の横顔が見えた。


 健二だった。一瞬、こちらを見たがすぐ視線を戻した。どうやら私だと気付かなかったようだ。


 (健ちゃんが気付かないってことはそれだけ印象が変わってるてことだよね…)


 メガネの効果を実感したが、話し掛けてほしかった気持ちもあった。


 (すぐ帰っちゃうかな…)


 私はお会計を済ませ、店を出た。喫煙スペースを見ると健二の姿はなかった。どうやら帰宅したようだ。


 (帰っちゃったんだ…。お話したかったな…)


 少し残念な気持ちのまま帰り道を歩いた。


 アパートに着き、部屋に入った。部屋の灯りを点け、鏡を見た。印象ががらりと変わった自分の姿が映った。


 (印象が変わったのは嬉しいけど、知り合いに気付かれなくなっちゃうのは寂しいな…。でも、印象が変わったおかげで痛い目に遭わずに済んだし。健ちゃんに声掛ければよかったな…。)


 声を掛けなかったことを後悔した。


 私の姿を健二はどう思うのだろうか。意見を聞きたくなった。


 次はいつ会えるのだろうか。そんなことを考えた。


 私はメガネを外し、ケースに入れた。


 (仕事中は外そう。あくまでああいう目に遭わないようにするためだし…。でも、遊びに行く時は着けていきたいな。オシャレにもなるし)


 メガネが私のプライベートを楽しくするアイテムになりそうだ。


 

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