第14話 たくちゃん

 この日も営業開始から多くのお客さんが来店した。店内を歩き回り、気付くと営業が終了した。


 業務を終え、店を出た。しばらく歩いていると、男性2人がこちらへ歩いてくる姿が見えた。そして、段々と私に近付いてきた。


 私の目の前で止まり、声を掛けてきた。


 「お姉さん、今帰り?」


 「え、ええ…」


 「遊びに行かない?」


 「ごめんなさい…。急いでるので…」


 「何?デート?」


 私は「すいません」というような表情で立ち去ろうとした。すると、2人は私を追いかけてきた。


 「いいじゃん『遅れる』って言えば。時間になるまで遊ぼうよ」


 しつこく声を掛ける2人を振り切るために、私は走った。


 しばらく走り、2人の姿は見えたなくなった。すると、後ろから誰かが私の肩に触れた。私は思わず、その手を振り払った。


 「どうしたの。そんな怖い顔して」


 藍子だった。走っている私の姿を見ていたようだ。私は事情を説明した。


 「なるほどね。それで走ってたわけね」


 「もう嫌になってさ…。大人っぽくなりたいよ…」


 「でも、アンタは今のままでいてほしいな。変わっちゃうと声掛けにくくなるかもしれないから」


 「でも…」


 私は俯いた。


 「学生時代の同級生とかにいい人いないの?」


 「いるんだけど、恋人がいたり、結婚してる人が多くてさ…」


 「うーん…。難しいか…」


 「なかなか見つからないよ…。運命の人なんて…」


 そう話す私を藍子が心配そうに見つめていた。だが、私は店長の言葉を思い出し、気を取り戻した。


 「でもさ、今を乗り越えればいいことが起こる気がしてさ。そのためにいろんなことを頑張ろうと思って」


 そう言うと、藍子の表情は少し晴れたように見えた。


 「そうだよ!絶対いいことあるって。悪いことばっかりじゃないよ」


 藍子は私の肩に手を置いてそう話した。


 藍子と話しながら途中まで一緒に帰った。十字路で手を振って別れ、アパートへ向かった。途中にコンビニエンスストアが見えた。私は買い物をするために立ち寄ることにした。私は店内を見渡して誰かを探していた。


 (健ちゃんがいたらお話したいなって思ってたけど、なかなか会えないよね…。忙しいだろうし…)


 私の数少ない男性の理解者だから。


 私は買い物を済ませ、アパートへ向った。


 歩いていると、1台の自動車が見えた。自動車はスピードを落とした。


 その後路肩で停まり、ライトが消え、ハザートが点滅する。ドアが開くと、1人の男性の降りてきた。


 「一倉か?」


 その声に聞き覚えがあった。私が歩み寄ると、懐かしい顔が見えた。


 「たくちゃん…」


 健二と同じく、中学校時代の友人である坂本拓真さかもとたくまだった。身長が高く、きれいな顔立ちをしている。彼は、デザイン事務所に勤めている。


 「久しぶりだな。元気だったか?」


 「うん。たくちゃんも元気そうで良かった!」


 彼は現在、2年間交際している恋人がいるそうだ。だが、最近喧嘩したという。


 「ちょっとしたことだったんだけどな…。それが大きくなって。そこから…」


 「そうなんだ…。たくちゃんが喧嘩するなんて…」


 今は音信不通だそうだ。


 「一倉はいい人見つかったか?」


 「相変わらず遊ばれてさ…」


 「そうか…。健二から聞いてはいたけど、まだ遊ばれてたか…」


 「ホイホイついていっちゃって、結局…」


 「断れないもんな」


 「最近になって断れるようにはなってきたんだけど、断ったら追いかけられて…」


 「それは危ないな…」


 どうすればよいのか、拓真に尋ねた。


 「一倉って話掛けやすいからその分、悪い男にも声を掛けられるんだよな。断っても追いかけられるのは『イケる!』と思われてるから。一倉の雰囲気だろうな。だけど、メイクを変えると一倉らしさがなくなるし」


 「どうすればいいんだろうね…」


 拓真は腕を組みながら考えた。すると、何か思いついたようだ。


 「メガネかけてみたらどうだ?勤務中以外。メガネかけると少しは雰囲気変わると思うぞ?」


 「メガネか…」


 「度が入ってなくてもいいからかけてみたらどうだ?ちょっとしたオシャレにもなるし」


 「確かに…。さすがたくちゃん!」


 「いやあ!」


 拓真は照れた表情を見せた。私はメガネを買うことを決めた。


 「オシャレボーイだもんね、たくちゃん」


 「オシャレボーイか。初めて言われたな」


 拓真はさらに照れていた。しばらく拓真と話し、時間はあっという間に過ぎていった。


 「一倉。負けるなよ、今の状況に」


 「うん!打ち勝ってみせる」


 すると、拓真は車の中から何かを取り出した。


 「これ食べて頑張れよ!」


 「いいの?こんなに」


 渡されたのはお菓子の詰め合わせだった。私の好きなお菓子がたくさん袋に詰められていた。


 「お菓子、大好きだもんな」


 「どうしたの?これ」


 「安かったからスーパーで買ったんだよ、2袋。そしたら一倉の姿が見えたから1袋渡そうと思ってさ」


 「たくちゃんがお菓子の詰め合わせ買うなんてちょっと意外」


 「俺には似合わないよな!ははは!」


 2人で笑い合った。


 拓真は車に乗り、私に声を掛けた。


 「じゃあな、一倉。また会おうな」


 「うん!お菓子ありがとう。会ったらまたお話聞いてよ?」


 「もちろん!いくらでも聞くぞ!」


 「嬉しい!」


 「じゃあ、気を付けてな!」


 「ありがとう!じゃあね!」


 私は手を振って拓真を見送った。


 (たくちゃん、相変わらずかっこいいな…。女の子から人気だったもんね…。恋人と仲直りできるといいな…。お話聞いてくれてありがとう)


 そんなことを思い、拓真から貰ったお菓子の詰め合わせの袋を大事に抱え、アパートへ向かった。

 

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