第13話 通勤中
晴子としばらく話した後、公園を出た。私の姿が見えなくなるまで晴子と照彦が手を振って見送ってくれた。こうして見送ってくれる人がいることも幸せなのかもしれない。幸せな気分を味わいながら帰り道を歩いた。
(晴子さんも辛い経験しているけど、明るく振舞って…。私も見習わないと…)
辛い時ほど明るく振舞える強さを持っているだろうか。私は自身に問いかけた。
11時過ぎに布団に入った。だが、この日は寝付きが悪かった。その影響か、明け方に悪い夢を見てしまった。複数の男性に囲まれ動けなくなる夢を。男性がまとめて私に向かって走り出した瞬間に目が覚めた。
(夢…!また何か起こりそう…。仕事行くの嫌だな…)
沈んだ気持ちの中、布団から出た。何が起きてしまうのか。そんな恐怖で頭がいっぱいになった。
テレビを点けると占いコーナーが流れていた。この日の私の運勢は恋愛運が最低だった。夢とリンクしているような気がした。
(占い…、だもん。外れるかもしれないし…)
そう思いながら朝食作りを始めた。
朝食を済ませ、出勤の準備をした。私は何だか胸騒ぎがした。やはり、何か起こるかもしれない。そう思い、なかなか外へ出ることができなかった。
しばらくして、意を決してドアを開け外へ出た。この日は少し曇っていた。雲の隙間からわずかに青空が見えるくらいだった。
(雨は降らなそうだね)
私はアパートの階段を下り、お店へ向かった。
しばらく歩いていると、若い男性が立っていた。私は何故か嫌な予感がした。その男性は私に視線を向けた。そして、歩み寄ってきた。
(来る…)
そして、私の1メートル前で止まり、声を掛けた。
「お姉さん、可愛いね。今から仕事?」
「え、ええ…」
「仕事なんか行かずに、遊ばない?」
「い、いえ…。結構です。それでは…」
私がその場を去ろうとすると、しつこく話し掛けてきた
「えっ、いいじゃん仕事なんて。1日くらい休んでも何も言われないよ?仕事好きなの?」
「好きですけど。悪いですか?」
「悪くないけどさ。真面目だなって思って」
「あなたは働いていないんですか?」
「俺、学生でさ。暇してたから声掛けたんだ」
しつこくつきまとってきたため、私は走って逃げた。すると、男性も走って追いかけた。
「待ってよ!いいじゃん」
しばらく走り、物陰に隠れ、男性を振り切った。通り過ぎたことを確認し、その場に座り込んだ。
(恋愛運…。ほんとに最悪だ…)
占いが的中してしまった。さらに沈んだ気持ちでお店へ向かった。すると、わずかに見えていた青空が隠れた。
「おはよう…」
「ユウちゃん。どうしたの、暗いよ?」
「亜希…。実はね…」
「そうなんだ…。今度は大学生が…」
「年下にまで舐められちゃってるのかな私…」
自身の容姿が少し嫌になった。
「みんなから『可愛い』って言ってもらえるのは嬉しいけど、それって私の顔が幼く見えるからってことなのかな…。年相応に見られていないというか…」
「ユウちゃんって見た目よりも若く見えちゃうんだよね。高校生っぽいというか。だから、大学生に声を掛けられちゃったのかもね」
「大人っぽくなりたいな…」
私は俯きながらそう口にした。
生まれつきなのか、苦労が足りないのか。理由を考えた。
「亜希、大人っぽいメイクの仕方教えてよ。亜希って大人っぽいから」
「メイクの仕方か…。でも、ユウちゃんは今のままが好きだけどね。お客さんもそうだと思う。無理して大人っぽくなる必要はないよ」
「でもさ…」
話していると店長がやってきた。すると、やさしい表情で私に声を掛けた。
「これからたくさんの経験を積んでいくと顔付きが変わっていくものよ。仕事、恋愛、普段の生活の中で。優奈ちゃんに足りないものは経験かもしれないね」
「経験…。ですか…」
「楽しいこと、辛いこと、苦しいこと、それらを経験して乗り越えていくとだんだん顔つきが変わっていくものよ。だから、今は経験を積んでいる期間と思えばいいのよ」
店長はそう話した。
「どうやったら今の期間をうまく乗り越えられますか?」
「自分がなりたい姿を想像してみなさい。そうすると目標みたいなものができるから。その目標のために今を頑張ろうって気持ちを持てるわよ」
今なりたい自分の姿を想像してみた。なりたい姿。
(普通の恋愛がしたいんだよね…。なのに、いつもあんな目に遭って…。普通の恋愛ができる自分かな。そのために多くの男性と知り合って…)
多くの男性と知り合い、男を知り、運命の人を見つけていく。その過程を経て幸せを掴む。それが、私の恋愛の仕方。
その中で、先日やこの日の通勤中のような目に遭うこともあるだろう。だが、そのような経験が幸せを掴むためには必要なのかもしれない。少なくとも私にとっては。
私は何かを決心したような表情で店長を見た。
「ありがとうございます。何だか乗り越えることができそうな気がしてきました!」
「今は辛いかもしれないけれど、きっと幸せはやってくるわよ。応援してるから!」
店長は私の方に手を置き、声を掛けた。そして、笑顔で従業員を迎えていた。
店長のやさしい心が沈んだ心を元通りにしてくれた。
自然と私の表情は晴れやかになった。青空も少しずつ顔を出した。
「今日も頑張ろう!」
そう意気込む私を亜希が微笑みながら見つめていた。
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