第10話 連絡

 翌日。いつも通り出勤した。みんなはいつもの通り、私に声を掛けてくれた。普段と変わらず、9時に営業を開始し、6時に営業を終了した。


 特に何も起こることなく私は店を出て、アパートへ向かった。


 (藍子が何も言ってこないなんて珍しいな…。何かあったのかな)


 普段と違う藍子の対応に少し戸惑っていた。


 アパートに着き、夕食の準備をした。すると、私の携帯電話にメールが届いた。


 「いい人でも見つけたの?」


 藍子からだった。


 (えっ…!なんで分かったの…)


 メールで理由を尋ねた。


 「アンタがいつも以上に明るいから、もしかしてと思って聞いてみただけだよ。やっぱり、見つかったたんだ」


 藍子の勘は鋭かった。


 「私の前にも現れてほしいな…。んじゃ、仲良くね」


 携帯電話をテーブルに置き、夕食作りの続きをした。ただ1つ引っかかることがあった。藍子が心配してこないことだ。何故なのだろうか。理由を考えていると、いつの間にかお湯が激しく沸騰していた。


 (わあ…、沸騰させすぎちゃった)


 一旦火を止め、スパゲッティの束を入れた。


 数分後、麺が茹で上がり、水気を切ってお皿に盛り、ソースをかけた。そして、作り置きしておいたサラダを別のお皿に盛り、テーブルに置いた。


 (明後日か…)


 椅子に座り、天井を見つめた。デートに行くと言ったら藍子は何と言うのだろうか。少し知りたい気持ちもあった。


 (付き合ってるわけじゃないから…。会う回数を重ねて見極めないと…)


 そんなことを考えているうちに、茹でたスパゲッティが少し冷めていた。


 (冷えたら固くなっちゃう…。早く食べよ…)


 食べ終え、食器洗いを済ませた。自然と蓮からの連絡を待っている自分がいた。これは既に好意なのだろうか。


 その日は連絡が来なかった。


 翌日。藍子が声を掛けてきた。


 「おはよ。いい人見つかってよかったね」


 「藍子…。何も言ってこないから気付かれてないと思ってた…」


 「アンタの様子見てればね。他のみんなは気付いてないけど、私にはバレバレだよ。ま、仲良くやんな」

 

 (藍子が心配してこない…。ほんとどうしたんだろ)


 心配してほしいわけではないが、少し寂しかった。心配されるということは藍子とのコミュニケーションの1つだったのかもしれない。 


 営業終了後、藍子がデートについて聞いてきた。

 

 「行く場所決まってないの?」


 「うん。楽しみなんだけど不安というか…」


 「まあ、何かあったら逃げな」


 「うん…」


 少し元気のない声で返した。


 着替え終え、アパートに戻った。


 すると、携帯電話にメールが来た。


 「その男の人から連絡来た?」


 藍子からだ。


 「いや、来てないよ?」


すると


 「そう…」


 一言だけ返って来ただけだった。


 (どうしたの?藍子…)


 私は少し首をかしげた。


 夕食を済ませ、翌日の準備をした。


 着ていく服、持っていくバッグなどを準備した。


 楽しみと不安で胸がいっぱいだった。


 準備している時、藍子のメールが気になってしまった。あれはどういう意味だったのだろうか。理由も分からないまま、準備を進めた。


 夜11時半過ぎに布団に入った。明日はどこへ行くのだろう。そんなことを考え、眠りについた。


 翌朝。普段の休みと同じ時間に起きた。だが、なんだかよく眠れた気がしなかった。


 時折目をこすりながら朝食作りをした。


 10時前、吉田駅へ向かう電車に乗った。車内には数名が乗車していた。


 (この時間だから空いてるよね…)


 吉田駅に着き、改札口へ向かった。すると、改札口の向こうに蓮が立っていた。私の姿に気付くと、大きく手を振っていた。私はそれに応えるように手を振った。


 「お待たせしました」


 「優奈さん。じゃあ、行きましょう!」


 私達は会話をしながら街中を歩いた。


 すると、以前行こうとした洋服店を見つけた。この店に着く前にあの男に声を掛けられ、逃げた。あの時の映像が頭の中に浮かんだ。


 「どうしたんですか?」


 「以前、ここに来る前に嫌な思い出があって…」


 すると、蓮は私の肩に手を置いた。


 「大丈夫ですよ。買い物して嫌な思い出を忘れましょう」


 蓮がそう言うと、私達はそのまま店に入った。私は欲しかった服を見つけた。財布を取り出し、レジに向かった。


 お会計を済ませ、蓮の元へ向かった。すると、蓮は誰かと電話をしていた。


 「あ、ごめん。また電話する」


 そう言って電話を切った。


 (誰と電話してたんだろ…)


 私は少し気になった。その表情を見た蓮はこう話した。


 「ちょっと仕事の話をしていて。分からないことがあって、従業員が電話してきたんです」


 その言葉には妙に説得力があった。私はその言葉を信じてしまった。


 その後、着信音が何回か聞こえたが、蓮は電話に出なかった。


 正午を過ぎ、私達はイタリアンレストランへ入った。私が行きたかったお店だ。だが、私の懐の状態では入ることができなかった。蓮が予約し、御馳走してくれた。


 1時間ほど滞在し、店を出た。その後も買い物などをし、時間が過ぎていった。


 5時過ぎ、私達はまた会う約束をし、別れた。蓮は駅まで見送ってくれなかった。急いでいたからだろうか。速足でその場を後にした。


 アパートに着き、蓮にメールを送った。しかし、1時間以上経っても返信がなかった。


 (忙しいのかな…)


 少し不安になった。


 結局、その日に返信が来ることはなかった。

 

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