第5話 お腹

 (スーパーと飲食店か…)


 飲食店はたまに行くが、スーパーマーケットはよく行く。だが、顔馴染みと言える男性従業員はいない。男性の従業員は3分の1ほどだが、みんな優しい雰囲気を持っている。


 (行って、勉強しよう)


 この日の仕事終わり、行きつけのスーパーマーケットへ寄った。カートにかごを乗せ、店内を歩いた。


 (今日は何食べようかな…。お刺身もいいなあ…)


 パックに入ったお刺身と手に取り、かごへ入れた。


 (野菜も欲しいな…)


 野菜売り場へ足を運び、キャベツや人参などをかごに入れた。


 レジへ向かうと長い列ができていた。一番空いている列に並び、順番を待った。10分ほどして順番が回ってきた。カートからかごを出し、商品をスキャンしてもらった。私がよく会う40代くらいの女性従業員だ。


 「明日も仕事?」


 「はい」


 「近いうちまた行くね」


 「ありがとうございます!」


 ご夫婦でお店によく来られる。相談もできる間柄になった。


 「うちの従業員の男の子なんかどう?」


 「いい人多そうですよね」


 「みんないい子だよ。ユウちゃんのこと知ってる子もいるし」


 「ほんとですか?嬉しいです」


 「まあ、怪しいと思ったら逃げなよ?」


 「はい」


 笑ってそう返した。


 袋を片手に自宅へ向かった。


 (知ってくれてる人がいるの嬉しいな…。より多くの男性と知り合って勉強しないと…)


 自宅に着き、お刺身を盛りつけた。ご飯、みそ汁、煮物もテーブルに乗せ、夕食を食べた。


 テレビを点けると、恋人同士が手を繋いで歩いている様子が映った。みな、幸せそうな表情だ。私は羨ましくなった。


 (みんな幸せそう…。私にもいつか恋人ができるといいなあ…。でも、また騙されたらどうしよう…。いや、騙されないために多くの男性と知り合おうと思っているけど、しっかり見極めることができるのかな)


 少しの不安がよぎった。


 だが、騙されなくなっても抵抗できない状態にされる可能性がある。騙されること以上にそのことが心配だった。逃げ方も勉強しなくてはいけない。


 (力では勝てないから逃げるとなると少し不利なところがあるよね…。何か考えておかないとまたあんなことに…)


 自身の胸を触り、過去のことを思い出していた。もうあんな思いはしたくないが、またされてしまうのではないかという不安に襲われた。だが、不安に思っても何も状況は変わらない。気持ちを切り替え、箸を進めた。


 翌日。出勤途中、私に視線を向ける男性2人とすれ違った。すれ違った後、何か話していたようだ。何を話していたのだろうか。少しに気になり、怖くもなった。カフェに着くと藍子が話し掛けてきた。


 「アンタ、私の友達から人気あるんだね。驚いちゃった」


 私は何のことか分からなかった。藍子に聞くとこう返ってきた。


 「実はね、アンタの写真を男友達2人に見せたの。そしたら2人ともアンタのこと気に入ったみたいなんだ。羨ましかったな」


 「どういう人?」


 「1人は少し色黒で黒髪のミディアム。もう1人は黒髪のショート」


 (もしかして…)


 出勤途中にすれ違った男性2人を思い出した。


 「さっき、その2人とすれ違ったかも。黒のシャツと青のシャツを着た男性2人。すれ違った後、何か話してたみたいだけど」


 「ああ。その2人だよ。アンタのこと可愛いとか言ってたんじゃない?おちゃらけた感じに見えるけど、2人とも真面目だよ」


 「そうなんだ」


 「あれ、もしかして気に入ったの?」


 「え…。いや、そんな…」


 笑ってごまかしている自分がいた。だが、もっと多くの男性と知り合いたいという思いがあり、その気持ちは封印した。


 仕込みを始め、9時に営業を開始した。この日も多くのお客さんが来店した。忙しく店内を歩き回った。お客さんと従業員がやさしく私を見つめていた。


 6時になり、営業が終了した。食器洗いなどを済ませ、更衣室に入った。


 (みんな、私の汗のにおい気にならなかったかな…。ちょっと心配…)


 制汗シートで汗を拭った。すると、藍子が私のお腹を触ってきた。


 「ちょっと!」


 「ほんと細いよね、アンタ。羨ましい。運動してるからかな?」


 「多分ね。藍子は運動しないの?」


 「したいんだけどね。尻が重くて…」


 「ずっとできなかったりして…」


 「そのうち始める」


 「じゃあ、やらないね」


 藍子は笑いながら再びお腹を触ってきた。


 「恋人以外の男にお腹触られないようにしなよ?アンタ、隙だらけだから」


 「突然触られたらどうしよう。今みたいに」


 「電車で吊革に掴まってたらありそうだけど、歩いている時だったらないんじゃない?」


 「夜道でありそう…」


 「その時は逃げなさいよ!ほんと心配性だね」


 「逃げ方教えてよ」


 「走れ!」


 「走れ!」とは言われたが、実際に走って逃げられるだろうか。しかし、走らなければ結局捕まってしまう。


 (走るしかないよね。私に腕力ないし…)


 「アンタ、スタイルもいいからそりゃ狙われるよ。うちの看板娘だし」


 「私、看板娘だったの?」


 「みんな言ってるよ」


 「藍子が看板娘だと思ってた」


 「バカにしてるでしょ」


 「ほんとにそう思ってる」


 「こいつぅ」


 藍子は笑いながらまたお腹を触ってきた。


 (藍子にもお腹触られないようにならないとね)


 

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