第4話 出会い方

 より多くの男性と知り合う。簡単に見えて難しい。


 (公園で知り合いができたからなあ…。もっと増やすには多くの場所に行ったほうがいいよね。でも、どこに行けばいいのかな…。私の趣味って言うとスポーツをしたり観戦したりすることだから、それに関係した場所…)


 ジムやプール、野球場など場所はいくつもある。


 (いい人がいる場所ってどこなんだろう…)


 それが分かれば苦労しない。藍子もそう言うだろう。


 (そういえば、お店は既婚者やカップルがほとんどだけどみんないい人なんだよね…。どうしてなんだろ…)


 ふとした疑問が頭に浮かんだ。考えてみるとあることが分かった。


 (店長ってお客さんにもそうだけど、従業員にも丁寧に接してくれるよね…。お客さんに対しては当たり前だけど、人柄がとてもいいから。だからみんなこのお店に集まってきたのかな…。そして、雰囲気がいいからお客さんも集まってきて…。たまにお友達同士で来るお客さんもいるけどその人達も…)


 いい人の元にいい人が集まると言われるように、店長の元にはいい人が集まってくる。私は妙に納得してしまった。


 (公園にもいい人が多かったな。工場で働いているお兄さんも、50代くらいのおじ様も。しばらく公園に通うっていうのもありだよね…。多くの人に顔を覚えてもらって)


 翌日、藍子が笑いながら話し掛けてきた。


 「昨日はちゃんと帰れた?」


 「もう、ややこしいことしないでよ。心配しちゃったじゃん!」


 「あはは!ごめんね。アンタ、ほんと騙されやすいから。でも、実際女性が襲われる事件起きてるからね。警察も巡回してたでしょ?」


 「うん。懐中電灯の光が少し怖かったけど。藍子のせいで…」


 「もう!ほんと怖がりだね。悪い男から逃げられなくなるよ?そしたら、また体を…」


 「余計逃げられなくなったかも…」


 「なかなか直らないからね性格は…。まあ、ゆっくりやっていきなよ」


 「うん…」


 藍子は私の右肩に手を置き、キッチンへ入った。少しだけ藍子が羨ましくなった。怖いものなんてなさそうに見えたから。実際はあるのかもしれないが。そんな素振りは全く見せない。


(藍子って怖いものあるのかな…)


 休憩中、聞いてみることにした。


 9時になり、お店は営業を開始した。10分ほどしてお客さんが来店した。常連のご夫婦。どちらもお休みだそうだ。私はお冷を差し出した。


 すると奥さんが「優奈ちゃん、昨日はちゃんと帰れた?」


 2人も事件のことを知っていた。私のことを心配してくれていたようだ。


 「はい…。ちょっと怖かったですけど、なんとか家まで帰れました」


 「そう、よかった。優奈ちゃんいなくなったら寂しくなっちゃうから…」


 「おいおい、縁起でもないこと…」


 「あ…、ごめんなさいね。でも、無事でよかったわ。いつものお願いできる?」


 「はい。ホットコーヒーですね。少々お待ちください」


 私はキッチンへメニューを伝えた。


 「よかったね、心配してもらって」


 「何よ、もう…」


 藍子は少し笑っていた。


 「お待たせしました」


 「ありがとう」


 私はキッチンへ戻り、仕込みをした。


 (こうやって心配してくれる人がいるんだもんな…。藍子は心配してくれてるのか、からかってるのかよく分からないけど…)


 その後もお客さんが私のことを心配していたことを話していた。嬉しくもあるが、同時に自分の弱さを実感した。


 (いつかはみんなに心配されないくらいの人間にならないとね…。恋愛にしても、普段の生活にしても…。私って子どもっぽいところがあるのかな…。藍子から見ても)


 40分ほどして私は最初に来店したご夫婦のお会計の対応をした。すると、奥さんがこう話し掛けた。


 「優奈ちゃん、公園もいいけどスーパーだったり飲食店だったりでも出会いがあるものよ。常連になれば顔を覚えてもらえて話しやすくなるし。実際、私達もこのお店の従業員さんと話しやすくなったもの。視野を広げてみると、可能性が広がるわよ」


 「俺達、実はスーパーで出会ったんだよ。俺が一目惚れして。買い物ついでにあの人の顔見に行きたいなって気持ちで。そこから顔を覚えてもらって。交際が始まり、そして結婚までに至ったんだ」


 「よく来てくれたものね。嬉しかったな。私も来ないかなって思いながら出勤してたし。いい人は意外と身近にいるものよ。また悪い男に引っかかっちゃだめよ?じゃあね。ごちそうさま」


 「ありがとうございました」


 出会いは至る所にある。そのことを教えてもらうことができた。


 (確かに、公園以外でも出会えるもんね…。ちょっとしたことがきっかけで顔を覚えてもらって…。その人のことをよく知って…)


 テーブルの食器をキッチンに運び、洗い物をした。


 (『いい人は身近にいる』ってそうだよね。実際、このお店がその場だし)


 洗い物を終えると藍子が私の両肩に手を置きながらこう話した。


 「いい人はここにいるよ」


 「藍子はいい人というより仲のいい悪友って感じかな」


 「ひどい!でも、友達って思ってくれてるの嬉しい」


 私はある疑問を藍子にぶつけた。


 「ところでさ、藍子って怖いものとかある?」


 藍子はこう答えた。


 「アンタを騙そうとしている男かな」


 「何それ!?」


 「私達まで騙されそうだから」


 「他のみんなはともかく、藍子は大丈夫だと思う。ほんとに強いから」


 「アンタ、私の弱さ知らないでしょ」


 「どこが弱いの?」


 「こういうところ」


 「力!?」


 藍子らしい答えだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る