第7話 聖都へ行こう!

魔物を討伐した後、大聖上より祝福ギフトを受けた十二星将じゅうにせいしょうの一人、アズライドと出会った私とヴェーダは彼と共に聖都へと向かうことになった。


「で、何であんたも付いてきてるわけ?」


私とヴェーダ以外にもう一人ついてきた人間に向かって声をかける。


「おほほほほほっ!まあ良いではありませんか!減るものではありませんし!」


フローズンハートは馬鹿みたいに笑いながら意味の分からないことを言っている。


「あんた家に戻らなくていいの?一応次期頭首なんでしょ?それが一言も言わずに町を出て良いの?」


「心配には及びませんわ~!ジル先生にも言伝を頼みましたし、むしろ聖都を見ておくのも経験になりますわ~!」


呆れて尋ねるが彼女は気にした素振りも見せない。


「それに星将を間近で見ることのできる機会などそうありはしませんからね!」


十二星将じゅうにせいしょうってやつはそんなに有名なのか?」


私たちの会話を聞いていたヴェーダが口を挟んでくる。


「勿論ですわ~。特にアズライド=レオは剣聖とも呼ばれ、魔術が使えないにも関わらずその剣の腕のみで祝福ギフトを賜った存在。聖教の歴史を振り返っても唯一の存在ですのよ!魔術が使えないものからの人気は絶大なものがありますわ~!」


「そいつは凄いな。」


「貴様もかなりの腕と見たぞ?それに先程見せて貰ったがお前の剣は見たことのないものだった。聖都で何か分かればいいがな。」


馬上からアズライドがそんなことを言ってくる。私たちの話を聞いただけだというのにヴェーダも随分と気に入られたものだ。


「よしてくれよ。そんな大したもんじゃない。魔物を倒せたのだってまぐれだ。」


「まぐれで倒せるものでもあるまい。聖教の討伐隊が後れを取った相手をよくも倒せたものだ。」


「…そんなものか。」


死んでしまった彼らのことを思い出し、重たい空気が流れる。


「でも彼らがいたから逃げることが出来たものもいたのだし、そのおかげで私たちが応援に行くことが出来たのですわ~!立派ですわよ!」


そんな空気を見かねたのかフローズンハートがそんなことを言う。こんな時ばかりはこいつの明るさが頼もしい。


「そうだな。奴らは役目を果たした星将として、聖教の軍を預かるものとして、誇りに思う。」


再び湿っぽい空気が流れるがすぐにそれは破られた。

先を行くアズライドが口を開く。


「そろそろ日も暮れる。今日の所はあそこに泊まるとしよう。」


気付けば前方に建物がいくつも見えていた。町の近くまで来ていたようだ。

町の中へと着いた私たちはアズライドの案内で宿へと案内された。


「ここは聖教と関係のある宿だ。戦いの疲れもあるだろう。今宵は体を休めるが良い。」


そういわれ彼は店主と何やら話し、どこかへと立ち去ってしまった。その姿を見送り二人に向き直る。


「うーん、これからどうしましょうか。自由行動っぽいけれど。」


「まずは腹ごなしですわ~!色々あったので気付きませんでしたが私どうやらお腹が空いているようですわ~!」


「あっそう。とはいえその意見には同意ね。言えばすぐに食事にしてくれるでしょう。ヴェーダもそれでいいわね?すみませ~ん!」


ヴェーダの返事も待たず私は店員を呼び食事にしてもらうことにした。食堂には私たちの他に客はいなかったためかそれほど待たずに私たちの前に料理が並べられた。


「へ~、宿屋の料理にしては随分と手が込んでますわね~!」


机の上に並べられた料理を見てフローズンハートがそんなことを言う。確かにスープにサラダ、小鉢が3つにご飯に魚料理とちょっとしたご馳走だ。しかし、


「あんたね~、大声でそんなこと言うんじゃないわよ。ほら店員が睨んでるわよ。」


調理場の方でこの料理たちを作ったであろう中年の男性がこちらを見てムッとした表情を浮かべている。


「あら、褒めてるんですわよ?」


「…あんた基準ではね。」


ハァとため息をつき運ばれてきた料理に手を付ける。お腹は空いているのだがあまり箸が進まない。


「熱っ!このスープ凄く熱いですわ~!」


フローズンハートがぎゃあぎゃあ騒ぎながら湯気を立てているスープに魔術をかけている。


「これで丁度良くなりましたわ~!」


さっきまで湯気を立てていたスープに氷が浮かんでいる。どうやら魔術をかけて温度を下げたようだ。何をやっているんだか…。


「ほら、エルハーベンさんも!」


「ちょっ!?」


フローズンハートはそう言い放ち私の料理にも手をかざしてきた。静止の声も間に合わず私の料理に霜が付いて行く。


「ほら、これで食べやすくなりましたわ!あまり食が進んでいないようでしたのでね。」


「はぁ、あんたくらいなのよ。スープや魚を凍らせておいしいって思うのは。」


フローズンハートに魔術をかけられた魚を箸でつまみ口へ運ぶ。シャリシャリしていて変な感触だ。というか冷めてておいしくない。


「…それにしても、あなたの村が魔物に襲われていただなんてね。全く知りませんでしたわ。もしかして故郷へ戻ると決めたのはその所為ですの?魔物に襲われても自分が守れるようにと?」


氷の浮かんだスープを啜りながらそんなことを聞いてくる。こいつなりに私のことを気遣ってくれていたのだろうか?気の遣い方を間違っている気がするが。


「…まあそんなところよ。」


そうしてフローズンハートの言葉に適当に相槌を打っている間に食事は済んだ。その後はそれぞれ割り当てられた部屋へと向かい休息をとることにした。


「料理も凄かったけど部屋も凄いわね。」


宿屋の個室にしては十分な広さがあり、清掃も行き届いている。フカフカのベッドに倒れこむように横になり、今日あったことを思い返す。


「…一体どうなっちゃうのかしら、これから?」


まさか私が聖都へ行くことになるとは。それに故郷の事を思い出す。よく覚えていないが故郷に現れたあの魔物はそれほどの強さだったようには思えない。わざわざ星将が出向くほどの相手だったとは。何故こんなことになってしまったのだか。とりとめのないことを考えているうち、戦いの疲れもあったのだろう、私の意識は眠りの底に落ちていった。


そしてその夜、夢を見た。昔の夢だ。母さんに手を引かれてあぜ道を行く夢。…とても懐かしい夢だ。


「…ん、どうしてこんな夢を。」


窓から差し込む月明かりが顔に当たり眠りから覚める。夢の内容を覚えてることなんてほとんどないのだが何故だか今日見た夢はよく覚えていた。


「…感傷かしら。」


間もなく夜が明ける。眠り直すほどの時間はないし、すっかり目が覚めてしまった。部屋にいても仕方がないので少し外を見て回ることにした。

身支度を整え、音をたてないようにして宿を抜け出す。外に出ると夜明け前の独特の空気を感じた。


「あれ?」


少し離れたところに人影を見つけた。あれはアズライドだろうか?こんな時間に何を?気になって側に寄ってみる。


「こんな時間に何をしてるんですか?」


「エルハーベンか、…少し考え事をな。近頃は昨日のように魔物が結界を破り現れる事も増えた。聖教も手を尽くしてはいるが魔物が減る気配はない。これからこの世界はどうなってしまうのかとな。…それより貴様は何をしている?まだ起きるには早い時間だろう?」


「目が覚めちゃって。それより本当ですか?昨日みたいなことが増えてるって。」


「民が混乱せぬよう情報は伏せられているが今年に入って既にいくつか滅んだ村もある。」


「…そうなんですか。」


「見ろ、…もうじき夜も明ける。あと数時間もすればこの村を発つ。それまで今しばらく体を休めておくが良い。」


東の空が白み始めている。アズライドに別れを告げて宿へと戻ることにした。


宿へと戻るとヴェーダは既に目覚めており店主と何やら話していた。寝ているフローズンハートを叩き起こして三人で朝食を食べる。支度をして外へ出るとアズライドが私たちを待っていた。


「…準備はできたようだな。ならば行くぞ。貴様らの分の馬はないので聖都へは一月ほどかかるだろうな。」


こちらを一目見てアズライドは私たちにそう告げ、先へと歩みだした。一月か…、分かっていたことだが大分遠い。


「フローズンハート、あんたホントについて来るの?」


「くどいですわよ。わたくし、一度決めたことは曲げませんわ!」


「そう、まあ別にあんたが良いなら構わないけど…。」


フローズンハートのことは放っておいてアズライドへと視線を向ける。


「でもいいんですか?私たちに合わせて。あなた一人ならもっと早く聖都へと戻ることもできるんでしょう?星将せいしょうが私達なんかの為に時間を無駄にして?」


「構わぬ。これも重要な役目だ。」


馬上のアズライドは視線をこちらに向けることもせずそう口にする。


「そうですか。」


まあ本人が良いって言ってるんだから気にしなくていいか。それに星将せいしょうが同行してくれるなら旅の安全は保障されたようなものだし。

私達もアズライドに続いて街道を進む。実感は湧かないが一月後には聖都へと辿り着いているのだろう。未来の自分がどうなっているかは分からないが何かが変わる予感がする。そんな予感と共に私は前へと踏み出した。

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