第25話 エピグラフ 紙魚 トイレ。


物語を書き始めるようなことがあれば

皆も書き入れてるエピグラフと云うものをと考えていたので、此処に其れらしきモノを。

私文で引用文では無いが、でも全ての言葉は既に無限近くに引用されているので此れはパスティーシュかも?


1)「さて、エフェソスのクレテス通りを下りて行くとハドリアヌス神殿のところでガイドが何やら思わせぶりに「こっちこっち」。

大理石で出来た仕切りなし公衆水洗トイレの列が、青空と日光の下に出現。

強い太陽光線に長い年月晒れ遺跡全体がボケ過ぎて感慨を起こさない石塊の集まりと成り、観光にも飽きてきたところに急に古代人の生理現象の場に引き合わされると、「ああ、その昔此処を生身の人間があたふたと駆け込んで来たんだ」。

そう考えると、往時の諸々のアネクドートが去来してくる。例えばエフェソスの



アルテミス女神の体にブラ下がっているのは「本当は雄牛の睾丸群」だとか。。。。ポンペイの家屋では

竃の横にトイレがあるのは現代では考えられないとか。しかし、厨房は奴隷の居住区なので彼等は狭い空間に押し込められて、遺跡とし現在は残っていない二階に居住してた主人達は手洗いの水を運ばせオマルも上げ下げさせてさぞかし快適な人生を送っていたのだろう」。


2)「友人によれば僕の場合、エピグラフ、引用文使用は拙い文章や継ぎ接ぎだらけの知識にまやかしの光輪をつけるためとの事」。


 返答としては、「色即是空」「空即是色」。











トイレだろうと思いながら開けたらトイレだった。電灯を点けると昔日の亜麻仁油の残響を想起させる灰色系リノリウム床。何やらうごめいてる、床一面に紙魚達が陸上競技会を開いていた。紙魚は大人も子供も同じ形状で唯サイズ

の大小で年齢が分かる。絹糸片のような大きさで動きがなければただのゴミと間違えられそうなのが最近生まれたばかりの子供だ。電灯をつけたので急に明るくなって皆で右往左往アタフタしているのではない。右又は左45度上下半弧、しばらく走って予期せぬ方向へ四分の一弧あるいは120度の弧を描きながら、ブツカリもしないで動いている。あてずっぽに餌や生殖対象を探し歩くのと絨毯爆撃のように隅から隅へと隈なく探索する効率差を長期に渡って吟味した結果、現在の形態になったと思われる。進化論的にあらゆる試練、試行錯誤を繰り返しながら彼らは僕ら人類が出現するより3億年前から地球に住んでいる生き残りにかけては大ベテランなのだ。それに彼らは健康上のことなら大変物知りで細心の注意を払っているので、シックハウスなどには寄り付かない。亜麻仁油は生き物に優しいのだ。そして彼らがリノリウムを大好きなのは、人によっては肝油の匂いとかで嫌われる亜麻仁油の匂いがたまらなく好きなせいだ。


金がなくホテル代が払えなくなってカルチェ・ラタンのレストランの階上の倉庫兼更衣室で寝

まりしていた頃から僕は紙魚さん達とお付き合いがあるのだ。

樫の木如く硬いボニートの燻製のフレークが彼らの大好物。何故か隣のパン屋の紙魚達も時々来ては食べていたがそれ程ポピュラーでは無かった。思うに僕の知り合い達は僕の故郷から送られてきた食品ダンボールに紛れ込んで来た

別文化圏出身なのだろう。だから彼等もパンくずや小麦粉の方が美味しいのは知っていたけど幼少の頃刷り込まれた記憶は美しく、一種の対ストレス鎮静剤として食していたに違いない。

彼らは暖かく常湿な場所を好むので、レストランの二階や厨房、パン屋の窯場は結構有名な社交場だった。

田舎や他の都市へ移動する前に其処に来て情報を仕入れ、食い溜めしていくのだ。

水分は尻尾の方から空気中の湿分を集め吸収できるので水筒は不必要。食事の方は紙でも人の古い皮膚やフケもOK。だから彼らは人間が移動する所ならどんな長距離な場所でも随行してきた。。

旅旅に明け暮れてる僕の手荷物の中にも彼らは居たり何処かで消えたりまた新顔が乗り込んできたりして暫くするとまたべつの新顔。

新顔と云えば、あちらの部屋で今私刑執行中のミヌイもアテネ行きの船上で見知りドックの事務所で引き合わされたばかりで、あまり良く知らない人。

今朝そのミヌイと僕は現金輸送直前の銀行へ押入り

現金受け取り後、行員を縛り上げ金庫室に押し込め2CVに金袋を満載し町外れの森蔭で車ごと待機していた大型貨物トラックに積み込みミッション完了後、自転車旅行中のペアに扮して此の地を離脱する予定だったのに、ミヌイに先導され町外れの一軒家の裏に着き気がついたときは見知らぬ老夫婦が縛り上げられサルグツワされていた、全ては枯れ葉が風に三回程舞う間に起きた。捕縛の手慣れた様はミヌイが場数を積んだプロだという事を如実に物語っていた。

逃避行中に前通知も無く、プログラム以外の出来事を傍観するしか無かった僕は多少の皮肉を込めたツモリで聞いた。

「これもミッションの一部なのか?」。

「そう私のミッション」。


リーダーでもない僕には統制権は無いし元々此の作戦はパリでミヌイがドックに会い指示されてきたものだ。だから僕はミヌイの指示通りに動いてきた。今朝の作戦は緊張感を持つ暇も無くリハーサル的に終わり少々調子抜けだった。が今急に予期してない状況に引きずり込まれ、心持ちはブルー。

ミヌイに此れはプライベートな作戦だと宣言されて、処刑に加担はしなくても良いと部外者の立場は保証されたけど、知った以上僕は反応行為せねばならないしそれに対して責任も採ら

なくては成らない。今更僕が混ぜるなと言ったところで遅い。知るという事がこんなに面倒なときもある事を思い知った。しかしまた知りたいがそれが困難あるいは不可能な時、人はまた苦悩の海へ投げ出される。

例えばアドラーは死の直前までソヴィエト・ロシアで行方不明となった娘バレンタインの事で心をいたませていた。彼女は父の死から5年後強制収容所のカザフスタンのアスタナで死亡。この場合 NKVD の GULAGは教えないことで権力を保持行使。今の僕の場合知らされないので憶測で判断せねばならないと言うハンディを負わされてるのでブルーに成っているのだ。で僕が取った保身術はある哲学者がナチ占領後のパリで同じ通りに住んでいるユダヤ人の肉屋のおやじの存在を少しずつ消し去る方法。見ない、挨拶しない、話題に挙げない。

ところで、彼女は彼等、老夫婦のことを「協力者」と呼んだ。

彼女は事故紹介の時に3代に渡り純正のブントだと言い切った。

ブントの連中は心情的にパレスチナ住民を切り捨てられなかった弱くて優しい人間の集まり。故に権力闘争でまけた。

ミヌイ彼女は僕がパン・パレスチナなのは知っている。



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