――……


亜音-ANON-コスプレイヤー『ゲーフェスついに開幕☆みんな、私を見つけられるかな?」


ラーメンオタのメンマ『亜音様ドコーーーー』


多々良『アスクロってこの間燃えてたゲームだよね?』


ワイは汝・汝はワイ『ワイ出陣』


sorane*『ディヴァの隣にめっちゃ地味なブースあるんだけど、出てきた眼鏡男子が超興奮しててびっくりしたw』


青クラッセ『アスクロ開いたら、なんか謎のポップアップ出て来たんだけど。暗合?』


あゆちん@ゲーフェス参加『アストラクロニクルってゲーム知らんけど、お洒落なフライヤーで何枚かあるらしいから集めてる。コンプしたらブース行ってみよかな』


折鶴さや『ルミノクス、四枚目と七枚目が見つからない! 誰か知ってる?』


ゆまてゃ『ねぇアスクロのブース感動なんだけど。お願いみんな行って』


アスクロ攻略@非公式『アスクロのゲーフェスイベ、攻略ページ作りました。ルミノクスの場所も載せてますが、定期的にスタッフが場所を変えているという情報も入ってます』


真下チカ@課金は家賃まで『RT>攻略助かるー! って場所変わってるの?!』


ねここ@ゲーム垢『アプリのイベントはゲーフェス行けない勢向けだよね。感謝!』


――……






 それは波紋のように、静かに広がっていく。


「あっ、ここだよ。フォロワーの子が気になるって言ってたブース」


「入場にルミノクス? ってやつがいるんだって」


「えっ、何それ。宝探し的な?」


 少しずつ、その面倒な仕組みに興味が集まり始め。


「今すれ違った子が持ってたタロットカードみたいなやつ、何かのグッズかな」


「フライヤーだって! ってことは無料? どこにあるんだろ?」


「ブースの内容はどんななの?」


「それがSNSじゃ出てないんだよね。『とにかく行ってみて』としか」


「ネタバレ禁止なのかな」


 アスクロを知っている人、知らない人。その隔たりはなく。


「うっ、う……アスクロ古参勢のワイを泣かせにきてる。あの内容、BGM、スチル……」


「俺全然知らないけど結構良かったよ。ゲームやってみようかな」


「あれ、炎上してたアプリじゃん。冷やかしに入ってみる?」


「亜音様探さなきゃ! なんかヒントくれるらしいよ!」


 冒険へと、足を踏み入れる。







「すみませーん、これ七枚集めたら入れるブースってここで合ってますか?」


「はい! こちらにお並びください」


 正午が近付くにつれ、アスクロブース前に少しずつ列が出来はじめていた。DIVINEディヴァインの舞台目当てに訪れた客からも、チラチラと興味深そうな視線を感じる。


 浬は列の整理をしながら、自分を落ち着かせるように小さく息を吐いた。


(大丈夫。上手くいってる)


 七つの星の道しるべルミノクスを探し求めて会場を歩き回る来場者の姿。SNSの反応。何より、実際にブースを体験した目。それらに確かな手応えを感じる。


 この様子だと、午後から更に人が増えるだろう。それまでに数少ないメンバーの休憩を上手く回さなければならない。ちょうどフライヤーの補充から戻ってきた花里に声をかけようとしたその時、雪平からの着信に気付いた。


「もしもし、雪平?」


「久城さん、緊急です。また不正アクセスがありました。一分前です」


 心臓が軋むような、嫌な跳ね方をする。スマホを握りしめ、花里に「悪い、少し席を外す」と声をかけてからその場を離れた。一般客が大勢いる中、迂闊なことは口に出来ない。


「影響は?」


「まだ出ていません。不正アクセスがあれば警告アラートが上がるように仕掛けていました。犯人には気付かれていないと思います」


 人混みの合間を縫い、スタッフ用の通路へ繋がる重い扉を開けて中に入った。喧噪が遠のき、不規則な息遣いが冷たい空気に白く消える。他に人影はない。


 スタッフルームへ向かいながら、浬は短く尋ねた。


「不正アクセスをしたアカウントは解析できたか?」


「──……」


 逡巡する気配のあと、雪平は呟く。


「特定はできませんでした。ですが、を持つアカウントです」


 賑やかな外界と断絶されたような廊下で、浬は立ち止まり言葉を失った。

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