第4ステージ それは、七つの星の物語



DIVINEディヴァインステージ午前の部、受付中でーす!」


「当選チケットをお持ちの方はこちら! 記者の方は入場証を見せてください!」


「ゲストにはなんと、主人公ノウスの声優、隈江くまえシュウさんをお呼びしてまーす!!」


「オープニング曲の歌唱を担当するRiMEさんとのトークショーもあります!」


 会場に客が流れてきたのを観て、すぐさまDIVINEディヴァインのスタッフたちが大きな声で呼び込みを行う。巨大なステージの前には早くも行列ができ、最後尾はアスクロのブース前にまで差し掛かろうとしていた。並んでいる客たちも熱も高く、こちらまで興奮が伝わってくるようだ。その賑わいに誘われ「このブース何?」と他の客も続々と集まってきている。


「いやぁ、悪いね。うちのブースが騒がしくて」


 DIVINEディヴァインロゴ付きの赤Tシャツを着た戸部淳也が、ヘラヘラと笑いながらアスクロブースにやって来る。臨時のスタッフを大勢雇っているため、あまり仕事が無いのかもしれない。


「アスクロはどう? あれ、まだ客なし?」


 戸部がにやけながら背伸びをして、アスクロの入り口をのぞき込む。そこにいるのは受付を担当する黒木だけだ。浬はタブレット端末に目を落としたまま「あぁ」と生返事をするのみだったが、戸部は構わず続けた。


「つーかあの亜音っていうコスプレイヤー雇ったんだろ? 写真見たけど結構美人だよな。あれ加工? なぁ、実物も美人で巨乳だったら紹介してくれよ。つーかどこにいんの? 亜音のファンくらいは来そうなもんなのに。おっと、しつれ……」


「さっきからうるさいわね、そこのモブ男」


 台詞ウィンドウからはみ出す勢いでしゃべり続ける戸部に、黒木が大きな舌打ちと共にドスの効いた声で言い放つ。


「……えっ、モブ男って俺のこと?」


「他に誰がいるのよ。顔の上半分を影で塗りつぶすわよ」


「お、おまえのチーム、やべー女しかいねぇなマジで!」


「黒木」


 浬は軽く手を上げて黒木に呼びかけた。


「一組来る。よろしく」


「えぇ、分かったわ」


 黒木はころりと表情を変えて微笑むと、受付用のタブレット端末を手に取った。縁や背面が、発泡スチロールで作った石のカバーで覆われたものだ。


「あっ、あれじゃね?!」


 そこへ、3人組の少年グループがアスクロのブースを指さしながらやってきた。


「やべー見つかんないかと思った! ブースちっさ!」


「つか、俺たち一番乗り?」


 ワイワイと楽しそうに話しながら、少年たちが受付の前に立つ。中でも、一番わかりやすく目を輝かせていた眼鏡の少年が、友人に背中を押された。


「ほら、多田やん、おまえが出せよ。楽しみにしてたんだろ?」


「う、うん」


「こんにちは、旅のお方」


 先ほどとは打って変わり、甘い天使のような声で台詞を口にする黒木。戸部が隣で「別人じゃねーか!」と震える。


「この先は選ばれた方しか進むことはできません。七つの星の道しるべルミノクスはお持ちですか?」


「あ、え、えと。これ……集めました」


 眼鏡の少年はおずおずと七枚のタロットカードを差し出す。フライヤーとして会場の各所に置いていたものだ。黒木はその七枚を確認すると、持っていたタブレット端末を差し出す。


「ありがとうございます。こちらの石版に名を刻んでいただけますか?」


 黒木と少年たちのやりとりを見て、戸部が「ハッ」と小さく笑う。


「まじ? あれ集めた客しか入れてねーの? 入り口狭めてどうすんだよ。なんでこんな馬鹿げたやり方にしたんだ?」


「なんでって……」


 浬はタブレット端末に視線を落とした。画面には、会場内に設置された定点カメラが六分割で表示されている。そのうちの一つに、アスクロのフライヤーを見つけて喜ぶ女性客二人組が小さく映し出されていた。


「──そのほうが、面白いからに決まってるだろ」


 石像を正しい順番で動かすと毒ガスが止まる。


 噴水の水を抜くと鍵が浮かび上がる。


 ピアノを弾くことで隠し扉が現れる。


「はぁ? そんなガキが考えためんどくせー遊びみたいな企画で、集客できるかよ」


 ゲームの仕組みの多くは面倒で馬鹿げていて、でも、その面倒で馬鹿げたことにワクワクする。そんな仲間ゲーマーたちが、今日、この暮張メッセに集っている。


「あったぁ! ゆまてゃ、こっちこっち!」


「うっそ、笑魅たん神ぃ!」


『どうせなら、ブースが小さいことを利用しちゃいましょう! ほら、隠しダンジョンは見つけづらい上に、簡単には入れないものですから』


 そう言って笑った天宮星七を思い出しながら、浬はタブレット端末をコントローラーのように両手で握りしめた。

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