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『ディレクターで来てくれた久城くんって、なんか、少年! って感じだと思わない? あぁいう子が、ゲーム作りには必要なんだろうね』
行きつけのカフェで嬉しそうに後輩の話をするまどかに、椿はあまり同意できず「そうかしら?」と首を傾げたのを覚えている。
同期入社の中でも落ち着いた性格で、勤務態度も真面目。外見は確かに年齢より少し若く見えるかもしれないが、童顔というほどでもない。彼を〝少年らしさ〟と結びつけるものは、多くのゲーム好きが集まるこの会社の中でも特に重度のゲーマーである、ということくらいか。
とはいえ、今時ゲームが好きな大人なんて山ほどいるし、それだけで〝少年らしい〟とは思えなかった。
しかし、ようやく椿は、あの日のまどかの言葉に頷くことができた。
この逆境だらけの状況で、あんな風に目を輝かせられるのは、きっと──……
「あっ、椿さーん! 浬ちゃんがちょっとだけフロー変更したいってー!」
宇佐見がぶんぶんと大きく手を振って、こちらに呼びかける。椿は「はぁい」と笑顔で返事をして、小走りでみんなの元へ向かった。
『ご来場の皆様にご連絡します。まもなく、ゲームフェスティバル・ジャパンが開幕いたします。事前にチケットをご用意いただき、入り口で係員に──……』
遠くでアナウンスが流れるのを、浬はブースの前で聞いていた。そこへ、革靴の音が近づいてくる。
「久城くん」
穏やかな笑みと共に、手が差し出された。
「今日はお互いに頑張ろうね」
「はい、こちらこそ」
浬はその手を取り、力強く握手を交わす。時計の針が十時を指した。
『────それでは、ゲームフェスティバル・ジャパン2023、開幕いたします』
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