11
幾つかのソシャゲで、連続ログインボーナスが途切れた。
中にはリリース日から続けていたものもあり、四桁あった日数が一になっているのを見た時には膝から崩れ落ちたが、その精神的ショックは『無事に作業を終えた』ことへの安堵感が僅かに相殺してくれた。
ゲームフェスティバル前夜。設営を終えたブースの前でへたり込むアスクロチームの面々を見回し、浬は掠れた声で言った。
「……お疲れ、みんな」
お疲れさまぁ、と同じく疲れた声が幾つか返ってくる。朝から現場にいる天宮、宇佐見、黒木、雪平の四名に加え、オフィス業務を終えてから出てきた花里、東。全メンバーで最後の追い込みをかけ、ようやくすべての作業を終えることが出来た。
「本当によくやってくれた。一時はどうなることかと思ったが、なんとか終わった。ただ、明日からが本番だ。もうそろそろ出ないといけないし、帰る準備をしようか」
「ふぁーい」
他のブースにはほとんど人が残っておらず、
「この鞄、あいてるので小物類はここに入れましょう」
大きなボストンバッグを持った雪平が、隣にしゃがみながら言った。
「ああ、ありがとう」
「──いよいよ本番ですね。まずは事前準備、お疲れ様でした」
二人で手分けして荷物を詰めながら、雪平はぽつりと呟く。
「雪平もお疲れ。ゲーフェスとアプリの連動イベントの準備、平行作業で大変だっただろ」
「全体管理をしていた久城さんや星七ちゃんほどではありません。──あと、以前頼まれた件ですが」
他に声が漏れないように、雪平はそっと顔を近づけてきた。ギョッとするが、身を引くことも出来ずにただ固まる。
「まだ確定ではありませんが、おそらく久城さんの予想通り……不正アクセスです」
「…………」
一気に体温が下がったような感覚に襲われた。「あたしのスマホ知らないー?!」と大慌てする宇佐見の声が、どこか遠くから聞こえてくる。
「……ユーザーか?」
「いえ、そこはまだ確証を得られません。巧妙に隠されています。……ただ……」
雪平は片付ける手を止めて歯を食いしばった。手元に視線を落としたまま、今まで見たことのないような激しい感情を浮かべる。
「許せません。
ゴゴゴゴ、と炎エフェクトさえ見えそうな怒り。浬は驚きながらも、頼もしさを感じた。
「……無理はするなよ。悪いな、こんなことを頼んで」
「いえ。頼ってもらえないほうが寂しい、ので」
やがてブルーシート上の片付けが終わり、雪平はブースの裏側を掃除している他のメンバーの様子を見に行った。
残作業を探して辺りを見回すと、少し離れた位置からブースを眺める天宮の姿があった。全体の最終チェックだろうか。
「天宮、大丈夫そうか?」
「………………」
「? 天宮?」
反応がなく、不思議に思って再度呼びかけると、びくっと驚いたように天宮の肩が跳ねた。
「あっ」
「大丈夫か? 疲れてるんじゃ……」
「だ、大丈夫です! いよいよ明日かーって思ったら緊張してただけなのでっ」
「そうか。けど、今日は早く休めよ」
はいっ、といつも通りの笑顔を見せる天宮に、浬は不覚にも安心してしまった。過去、あんなに悔やんだ過ちを繰り返そうとしていることに気付かないまま──……
ゲームスタートを迎える。
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