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ゲームフェスティバルまであと三日。
「東、音の調整は終わったか?」
「いや、ぜーんぜん駄目っ!」
東はヘッドフォンを外しながら、炭酸飲料のCMかと思うほどの爽やかさで地獄のような進捗報告をする。
「ぜ、全然だと!?」
「今流れてるあたりが全然だめ。足音が邪魔してんだよなぁ。ボイスも調整したほうがいいし……中盤のBGMもやっぱ三稿のやつの方が……全体をもうちょい下げて……」
「東さん、そろそろ
雪平が進捗管理表を確認しながら、その声に焦りを滲ませる。浬は頭の中に、世のクリエイターたちを散々悩ませてきたであろう天秤を生み出した。
片方の皿に乗っているのは〈クオリティ〉、もう片方には〈納期〉。
「──重要な部分だ。出来れば納得いくまでやってほしい。雪平、試験担当を一名増員。デッドラインは?」
「……本日二十二時。これを過ぎると試験が間に合わず、負けイベ確定です」
「了解。東、二十二時まで!」
「うおお難易度ナイトメア了解ぃい!」
大急ぎで会社へ戻っていく東を見送り、今度は「映像はどうだ?」と花里に声をかける。壁際で床にしゃがみ、太ももの上にノートパソコンを乗せて作業していた花里は、疲れた様子で顔を上げた。
「それが、ムービーに不具合があったのよぉ」
「ふぐ……っ」
今、一番聞きたくないワードが浬の脳にクリティカルヒット。
「さっき、梓ちゃんが外注先に問い合わせて連絡をくれたの。修正してもらって、確認して……うーん、どう考えてもギリギリ間に合うかどうか……ってところねぇ」
「そ……それでも間に合わせるしかない。事務作業は全部やっとくから、花里は宇佐見とあがってきた映像の確認を最優先で頼む!」
「わ、わかったわ」
目が回る、とはこのことだ。
「久城さん、コスプレイヤーの亜音様が打ち合わせに来られました! 歩くだけで周囲の男性陣に魅了をかけまくっています!」
「イラスト、FIXしたものから五月雨で確認お願い出来るかしら!」
「久城くん、フライヤーの追加納品が遅れてて……!」
「うわーん浬ちゃんごめんーーーまたシナリオに誤字見つけたぁああ」
「アストラが4人に分裂するバグ発生中です。申し訳ありませんが至急対応を……」
「やべー! 機材が動かなくなった!」
「案内ボードに大きな傷が!」
「ぎゃっ、浬ちゃんが白目むいてる!」
「ぬわーっっっ久城さんしっかり! ファニックスの尾!」
「ヒール!」
「赤いハーブ!」
「それは単体じゃ……効果がない……」
────……
──────……
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