「初めまして。ゼノ・ゲームスの久城と申します。アストラ・クロニクルというソーシャルゲームのプロデューサーを担当しております」


「ご丁寧にどうも。頂戴します。わたくし、ゲームフェスティバルを主催者しているRISEライズの取締役、阿斗里あとりです。あなた方のゲームは初出展でしたわね?」


「はい。このような素晴らしい機会をいただきありがとうございます。ゲームフェスティバルを少しでも盛り上げられるよう、精一杯努める所存です」


「えぇ、期待しているわ」


 阿斗里も自分の名刺を取り出して浬に渡すと、DIVINEディヴァインチームに再び声をかけ、男たちを引き連れて颯爽と立ち去った。しばらくして、DIVINEディヴァインチームがワッと盛り上がる。


「アレが阿斗里女史……! テレビで観るよりすげー美人!」


「ってか、DIVINEディヴァインがゲーフェス大賞有力候補って言ってたよね?!」


「ゲーフェス来場者の投票で決まるんだっけ? 確か一番良かったブースに一票を投じるって」


「要するにゲームの人気投票みたいなもんでしょ。ここ最近、うちはイベント出したら絶対セルラン一位取ってるもん。いけるよ!」


「大賞取ったら部長に序々々苑じょじょじょえんでも奢ってもらおうぜっ」


 さんせーいと声を揃えるDIVINEディヴァインチームを背にアスクロブースまで戻ると、宇佐見がげっそりした顔で腹をさすっていた。


「聞いた? 阿斗里さんの『期待しているわ』の心の籠もってなさ……」


「そりゃ、本心から期待なんてしていないでしょうからね。社交辞令ってものよ」


 黒木は顔を背け、不機嫌そうに腕を組む。


「悔しいけれど、確かに私たちには到底手の届かない領域ね。でも、今回の目的はあくまでもアスクロの売上げ回復だから──……」


「あのトロフィーを獲ろう」


 浬は言った。一瞬、その場がシンと静まりかえる。黒木はこめかみに手を当て、呆れたように首を横に振った。


「……浬ちゃん。他社の超有名ソシャゲが揃って狙いにいくような注目度の高い賞なのよ」


「ま、まー目標にするだけならタダだしねっ」


「いいや、本気で獲りに行く」


 浬は再び言った。思わず口を突いて出た言葉に、心がようやく追いついたのを感じる。


「……えーっとぉ、それはさすがに現実味が……」


「うん、獲ろう。浬くん」


 凜とした、明瞭な声が浬の背中を押す。天宮は、あの満点の星を湛えたような瞳で浬を見つめていた。


「……………………?」


 ポカンと口を開けて、宇佐見が浬と天宮を交互に見やる。黒木も目を丸くしている。


「絶対に獲ろう。トロフィーはゲットしないと」


 あぁ、そうだ。


「だよな」


 クリアするだけが目的なら、狙わなくても良いトロフィー。しかし、それだけでは満足できないのがゲーマーのさが


 それが久城浬と、天宮星七という人間だ。

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