第3ステージ エンディングまで、諦めるな



 S2以上の障害は、臨時会議を開き上層部に報告する必要がある。先週末、アストラ・クロニクルで発生した障害は雪平の想定通りS1に認定され、浬は休日出勤中に作成した報告資料を読み上げていた。


「以上が、先日のアストラ・クロニクルに起きた障害です。メンバーの尽力もあり現在は八割方復旧しておりますが、二度とこのようなことがないよう、再発防止策を検討し改めてご報告を……」


「いやいや、再発防止っていうレベルの損害額じゃないでしょこれ」


 課長席に座る長谷田が、これ見よがしに頭を抱えて溜息を吐く。他の課長陣は難しい顔で沈黙を保っている。上層部の中で最もアスクロに好意的な草壁部長は長期出張で不在。今、この場で一番発言力を持っているのは年長者である長谷田だ。


 先日の成績報告会とは打って変わって、第一会議室の空気は地獄のようだった。大きなミスを許したプロデューサーの味方をする者などいない。


「イベントのロジックやショップの内容が、過去のものと入れ替わってた? そりゃ課金にも影響するだろうよ。何故そこのチェックを怠ったんだ?」


「怠ったつもりはありません。通常試験は全てクリアしていました。先ほどご説明したように、商用環境でのみ時限更新システムに不具合があり――……」


「ならプログラマーの責任か。プロデューサーの自分は悪くないと。ん?」


「……いえ。まだ詳細は調査中ですが、プログラマーはきちんと確認してくれています。内容や原因に関わらず、不具合は私の責任です」


 浬の回答に、長谷田は隠しきれない笑みを滲ませて眼鏡を押し上げる。


「あぁ、だから私は何度言ったんだよ。アスクロは潔くサ終したほうがいいって。人数も足りてなければ能りょ……経験も足りていない連中が、気合いだけで何とかしようとするからこうなる」


 確かに。そうですね。仰る通りです……成績報告会の時は部長に合わせてアスクロを褒め称えていた他の課長たちが、神妙に頷き長谷田に同意を示す。


 ――浬は心の中でロケットランチャーを構えた。


「でも草壁部長がさぁ、ホラ、やたらアスクロを庇うから……ねぇ? まぁ過去のことは置いといて、アスクロにはどう責任取ってもらうか検討の必要があるだろう。部長が帰ってきたら管理者会議の議題にあげることにするよ」


「…………」


「じゃ、以上で臨時会議は終わろう。解散」


 長谷田の号令に、課長たちが一人、二人と席を立つ。資料を片付ける浬の元へ、長谷田が大股で歩み寄ってきた。


「今度こそ、私の言うことを……サ終を素直に受け入れることだ、久城。責任を取るといっても、君に出来ることはそれくらいなんだからね」


「……管理者会議でそう決まれば、従います。ただ、その時に今回の障害を挽回出来ていれば再考をお願いすると思います」


「っは! ふっしぎなんだよねぇ。自分がイチから作ったゲームでもないのに、そこまで必死になる意味が分からないよ」


 話しても、理解して貰えるとは思えなかった。浬は「そうですか?」と肩を竦めつつ、脳内ロケットランチャーを上司の顔面に向けてぶっ放した。



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