15
「あんたって子は、また隠れてゲームばっかりして……」
「でも、ここならやっていいって病院のひとに聞いたし」
「そういう問題じゃないの。あんた今、お見舞に来てるのよ?」
「だって……このゲーム、じいちゃんに買ってもらったやつだから。早くクリアしたら、じいちゃんも浮かばれるとおもう」
母親は持っていた新聞紙を無言で丸め、少年の頭をスパコーンッと叩いた。
「じいちゃんはまだ生きてるでしょ! そのじいちゃんの見舞に来てるんだから!」
「いったぁ」
「行くわよ、もう! ……あ、すみません、騒がしくして……」
声をワントーンあげて周囲に謝りながら、母親は息子の首根っこを掴み上げ、ずるずると引きずっていった。引きずられつつも、母親が前を向いているのを良いことに少年はまた手に持っている何かを弄り始める。
――世の中ヘンなひともいるんだなと、少々達観した性格だった子供の頃の星七は思った。
その変な少年を再び見かけたのは、たったの三十分後。待合室の絵本を読むのにも飽きて、病室へ帰ろうとしたときだった。
今度は暗くて狭い階段下のスペースに隠れているようで、地べたに座り込み、相変わらず手に持った何かを夢中で弄っている。
星七は、少し離れた位置から少年を眺めていた。今まで、あんなに変な人は見たことがない。新種の生き物を観察している気分だった。
少年は真剣な顔つきをしているかと思えば、うわっと小さく悲鳴のような声をあげて慌てたり、苛々した様子で眉間に皺を寄せたり、とにかく表情をころころ変えていた。やがて、
「~~~っっったぁあ」
手に持っていたそれを掲げ、パーッと顔を輝かせた。なにやら嬉しいことがあったらしいが、星七には全く理解できない。
あの奇妙な少年を夢中にさせる〝何か〟が、無性に気になった。それに昨日は久しぶりに星を七つ見つけることができたから、今度こそ、何か良いことが起こると信じて――……
「それ、なに?」
星七は少年に、自ら声を掛けた。いつもなら絶対にあり得ないことだった。
「……え?」
少年は驚いて顔を上げた。
「なにって……ゲーム」
「ゲーム?」
「やったことないのか?」
「夜、病室の窓から空を見て、星が七つあったら明日はラッキーな日になるっていうゲームなら、毎日やってるよ。……そういうのじゃなくて?」
「……えっ、ゲームを知らないってこと? まじかよ。レアじゃん」
ぽかんと口を開けて、少年は星七を見る。少年と星七は、互いに珍獣を発見したような眼差しで暫く見つめ合った。先に沈黙を破ったのは、少年から。
「やってみる? 一人プレイ用だけど、俺さっきクリアしたから」
誇らしげに胸を張って、少年はそれを差し出した。まだ新しい、長方形の機械。丸いボタンが幾つかと、十字型のボタンがひとつ。
「セーブデータ、新しいの作っていいぜ。……あっ、絶対上書きすんなよ!」
「さっきから何言ってるのか分かんない」
星七はぶすっとして言った。
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