13
慣れない硬さのベッドの上で目を覚ます。部屋の中も、カーテンの隙間から見える窓の外もまだ暗い。
隣のベッドから「草チームにしようぜ!」という東の声が聞こえて驚くが、顔を覗き込むと眠っているようだった。
「寝言はっきりしすぎだろ……」
思わず独り言を呟きながら、がしがしと頭を掻く。
会議を切り上げたあと、また少しだけゲームをしてから各自部屋に戻って就寝ということになった。浬も少し眠ったものの、たった一時間で目が冴えてしまったようだ。奇妙な夢を見たせいだろうか。
……いや、夢というよりも、まどろみの中で自分の考えを整理していたような、そんな感覚だった。けれど何かを掴めたわけではなく、頭のモヤは晴れない。
長い溜息を吐きながらスマホで時間を確認して、ふと、まだこのホテルの隠しコマンドを全て見つけられていないことを思い出す。
最初はくたびれた布の服を着て『むらびと』と記されていたキャラクターが、今は甲冑を身にまとい、頭の上の文字は『きし』に変化している。レベルは百分の九十。ひとつコマンドを入力するとレベルが十あがる仕様なので、どこかにあとひとつ、コマンドが残されているはずだ。
浬は上着を羽織り、スマホだけ持って部屋を出た。ひやりと冷えた廊下の空気が肌に染みるのを感じながら、コマンドが隠されていそうな場所を探し始める。しかし、
「……見つかんねーな」
探しても探しても見つからない。さすがゲーミングホテルが提供するミニゲームといったところか、ゲーマーがあと一歩のところで苦戦する絶妙な難易度を設定されているらしい。この企画を考えた人物に、ぜひ会ってみたいものだ。
そんなことを考えながら歩いているうちに、気付けば一階まで下りてきていた。
静まり返った空間。廊下に並ぶ大きな窓にはカーテンが掛かっておらず、月明かりと、中庭の照明が混じり合いつつ差し込んでいる。
そういえば、中庭はまだ探していなかった――と顔を上げたその時、チカリと一際強い光が浬の目に映った。流れ星のような、ほんの一瞬の輝き。
思わず瞬きをして目を凝らすと、そこには天宮の姿があった。中庭のベンチに座って、ぼんやりしている。さっき光ったのは、彼女がいつも着けている星の髪飾りのようだった。どうやら、照明を反射したらしい。
こんな時間まで外にいたら風邪を引くぞとか。
らしくない暗い顔をして、何かあったのか、とか。
そんな心配が浮かぶより先に、浬の心を支配する感情があった。
『四角の中に星を七つ探す、ゲームなんです』
一歩、下がる。四角い窓から、天宮が見えている。
『ゲーム? 夜、病室の窓から空を見て、星が七つあったら明日はラッキーな日になるっていうゲームなら、毎日やってるよ。……そういうのじゃなくて?』
仏頂面に感動が広がった瞬間の、あの横顔が脳裏に浮かぶ。
『すごい! 本当に、自分がこの世界で冒険してるみたい!』
浬の顔を覗き込み、目を細めて笑う姿が、脳裏に浮かぶ。
『……じゃあ、私たちが初めて会ったときの事を思い出して下さい』
――そんな。
そんな、バカな。
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