12



 その後、予定通り部屋に集まってゲームを再開した。


 笑い声、悲鳴、喝采。防音なのを良いことに学生のように騒ぎ、遊び、楽しみ――午後九時を回ったところで、社会人たちは我に返った。


 コントローラーを置き、オフィスチェアの代わりにソファやベッドに座って、円になる。一応は会議のような形を取って、浬は全員に尋ねた。


「……で、三周年とゲーフェスの良いアイデアは思いついたか?」


 みんな揃って首を横に振る中、天宮は深刻な顔で、


「ゲームを楽しんだら、ゲームの良いアイデアを思いつくかなって期待してたんですけど……今日一日、『わーいゲームたのしいな』しか考えていませんでした」


 と、白状した。浬もゆっくりと頷き同意を示す。


「俺もだ」


「オレもー! ていうか仕事のこと忘れてたわ!」


「ずっと、次のゲームの戦略を考えるのだけに脳を使っていました」


「あたしも、何のキャラ使おっかなーとかそういうのばっかり考えてたー」


 宇佐見がソファーに沈み込むようにして溜息をつく。すると、その隣に座っていた黒木がぽつりと独り言のように零した。


「だけど、みんなで集まってゲームをするのって楽しいものね」


 その言葉に、花里もうんうんと頷く。


「そうねぇ。今はオンラインが主流だけど、それとはまた違った良さがあるわ」


「わかる! あたしも、元々こうやってみんなでワイワイするのが好きでゲームやり始めたんだよねー。放課後友達の家に集まったりしてさぁ」


「私は……元々パズル系が好きですし、ひとりのほうが良いって思ってました。……でも、今日は幅広いジャンルのゲームが出来て、楽しかった、です」


 雪平も小声でそう言った。天宮はベッドの上で嬉しそうに膝を抱え、満面の笑みを浮かべる。


「ほんと、たくさんやりましたよね! 私、ゲームってプレイするだけでその世界に連れて行ってくれるような気がして、そういうところが好きなんですけど……今日はファンタジーとかホラーとか、色んな世界を冒険出来た気分です!」


「ホラーな世界はもう冒険したくないよー」


 宇佐見が両手で顔を隠しながら嘆いて、笑い声が起きる。


 ――やはり、遊んだだけでそう簡単に新しいアイデアが降ってくるわけもないかと浬は内心苦笑した。しかし、メンバーの良い息抜きになったのならそれだけで十分だ。


 たった一泊だけの合宿、明後日にはいつものように仕事が始まる。目の前に立ちはだかるクエストの攻略方法は、その時にまた考えれば良い。


 

 ――――……



     



 ――――……


 浬はゲームをしていた。


 タイトル画面でプレスボタン、ずらりと並ぶセーブデータ。その中にひとつ、表示が崩れたデータがあった。そこだけ枠や文字が歪んでいて、勇者の名前も***で――


 浬は顔を上げた。子供の頃の自分が、目の前にいた。


「データ、消えちゃったんじゃない?」


 子供の浬が、大人の浬をせせら笑う。


「おきのどくだね、***」


 なんだこいつは。俺か。子供の頃はこんな皮肉屋だったか? いや、皮肉屋だったのは俺じゃなくて――***だ。


「俺は……何かを忘れてるのか?」


 勝手に声が出た。何故そんなことを聞いたのかは、自分でも分からなかった。子供の浬が、生意気に肩を竦める。


「さぁ? でもフラグはあったじゃん」


「…………、あった」


「回収はしたんだからさ、あとは考えなよ。わかんないなら、何かカンチガイしてんだよ。それか、ゲームの制作者が仕掛けたワナにまんまとハマってるとか」


「それは……ゲーマーとして聞き捨てならないな」


「だろ? だからさぁ、クリアまでコントローラー置くなよ」


 まだ真新しいゲーム機を差し出して、子供の浬はニヤリと笑う。


勇者あいつの冒険、まだ終わってないんだからさ」


 ――――……

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