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 大慌てで片付けて、次の利用客の邪魔にならないよう退散する。しかし、まだまだ遊び終える気はない。ゲーミングルームほど大きなモニターは無いにしても、各部屋にもゲーム環境はしっかりと備えられているし、当然携帯用ゲーム機も全員持参しているのだから。


「次は何にする?」


「アマアスはどうですか? 雪平さんとかすっごい上手そう!」


「あーいいな。あれインポスターになった時の緊張感が――……」


「ちょっとふたりとも、もうご飯の時間よぉ。レストランに行かないと」


 天宮との話しが盛り上がりかけたところで、花里の呆れ声に呼び止められた。振り返ると、他のメンバーからの視線がこちらに向けられている。


「あ、そ、そうか。悪い、部屋に戻るつもりで歩いてた」


「私も同じく……あはは」


「もー、浬ちゃんと星七って、ほんとあたし達の中でも抜きんでてゲームバカだよねえ」


「ご飯食べるのも忘れるタイプね。トイレはちゃんと行くのよ?」


「そこまで堕ちてはないぞ」


 黒木が溜息交じりに言うので、浬は俊敏に否定した。



――――……





 レストランでの食事を終えたあとは、風呂に入ってから部屋に集まることになった。今回の部屋割は浬と東、花里と黒木と宇佐見、天宮と雪平の三部屋に分かれている。一番広いのは花里たちの部屋で、そこにゲーム機やコントローラーを持ち寄る予定だ。


 このホテルには大浴場もあるらしい。今回はモニター宿泊でアンケートに答える必要もあるし、せっかくなのでと全員で2階の大浴場へ向かう。


 男女の浴場は隣接しており、女性側からはきゃっきゃ騒ぐ声や、ドギマギするような会話が聞こえて――くるなんてことは、新築のホテルであるわけもなく。


「見てー! ペカチュウ!」


 シャンプーで頭に角を作り、嬉しそうに騒いでいる友人男性の奇行を眺めているのが、今の浬を取り巻く現実である。


「おお……」


「おいーもっと興味持ってくれよ。俺が何のために金髪にしてると思ってんのさ!」


「風呂でペカチュウの物真似をするためだとこの世の誰が思うんだよ」


「確かに」


「その頭で急に真面目な顔すんな。逆にビビるだろ」


「あっ、俺サウナ行ってくるわ!」


「ころころ話が変わるやつだな……好きにしろ、俺はもう出るぞ」


 大浴場を存分に楽しむ東を放置し、浬はさっさと風呂から上がった。


 服を着て簡単に髪を乾かし、大浴場前の待合スペースに出ると、早速やりたかったこと――隠しコマンド探しを始める。暫くウロウロして、それらしき文字列を大浴場の案内板に発見するが、どうも暗号になっているようだ。考えながらスマホに入力をしていると、背後からトンと背中を叩かれた。


「久城さんっ、キャラのレベル上がりましたか?」


 振り返ると、そこには天宮と雪平の姿があった。


 あの飲み会の出来事から、このふたりが揃うと何となく落ち着かない心地になるのだが、今はそれよりも彼女たちの姿に目を奪われる。


 風呂上がりとあってほんのりピンク色に染まった頬。雪平は長い髪をアップにし、天宮は出会った頃より伸びた髪を緩くローポニーテールにしている。いつもと違う髪型というだけで、雰囲気ががらりと変わって見えるのは気のせいだろうか。


 服は、雪平がシャツにカーディガンを羽織り、天宮はゆったりとしたワンピース。当然だが、職場で見るよりもずっとラフでリラックスに適した装いだ。


 いわゆる着せ替え系ゲームと呼ばれるものを浬はプレイしたことがないが、あれが流行る理由を今、理解した気がする。


「どうかしましたか? 遠い目をして……」


 雪平が不思議そうに首を傾げ、天宮も浬の目の前でひらひらと手を振ってみせる。その拍子にふわりとシャンプーの良い香りがして――浬は動揺を誤魔化すように、小さく咳払いをした。

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