◆

   


――――……



何故こんなにも早くゲーム合宿を実行に移したかというと、


『息抜きになるし、楽しい雰囲気で話し合ったほうが良いアイデアが出るかもですね!』


 という天宮の言葉に全員が賛同したからだ。また、ちょうどAMAホテル側も日程的に早いほうが都合が付けやすかったらしい。以上ふたつの理由から大急ぎで準備を進め、ムービースキップでもしたかのようなスピードで当日を迎えることになった。


 宙見台そらみだい駅から徒歩十五分。黒を基調とした外観のホテル入り口には、AMA HOTELの銀のロゴが上品な輝きを放つ。無駄のない洗練された造りに、アスクロチームとプラスアルファは揃って口を開けた。


「こ、ここか……」


 事前に天宮からもらった写真やパンフレットを見てはいたものの、実物は想像以上だ。浬は自分の装備ふくがラフ過ぎないか、猛烈に気になり始めた。宇佐見も慌てたように黒木の肩を掴んでいる。


「えっ、なんかめっちゃ高級っぽいんだけど? ゲーミングホテルってこんなもんなの?!」


「さぁ……私も初めてだし分からないわ」


「なぁ浬ちゃーん、今日のランクマここの大型モニターに映してやろーぜー!」


 プラスアルファこと東は、他のメンバーのように臆する様子もなく目をキラキラさせながら言った。本来どこのチームにも所属していない東だが、今回はアスクロチームの一員という扱いでコミュニケーション費を申請したのだ。アスクロチームは浬以外全員女性であり、そんな編成での一泊旅行は正直言って肩身が狭すぎるので、東が参加してくれて浬は心底ホッとしている。


「コンセプトが『大人のためのゲーミングホテル』なのでそれっぽく見えますけど、高級ホテルっていうわけじゃないですし、気楽な感じで大丈夫ですよ。じゃ、さっそく行きましょー」


 ネイビーブルーのトレンチコートに身を包んだ天宮に先導され、アスクロチーム一同はそのゲーミングホテルなる建物に足を踏み入れた。






 ホテルロビーの内装も、外観同様に落ち着いた雰囲気にまとめられていた。まだ新しい建物とあって微かに新築の香りがする。数が少ないせいか一般モニター客の姿は見えず、まるで貸し切りのような錯覚に陥った。


 天宮が受付へ向かうと、フロントの若い女性スタッフは少し緊張した面持ちで対応する。社長令嬢への接客で緊張しているようだったが、手間取ることはなくスムーズに手続きを終え、QRコードが印字されたプレートを差し出した。


「皆さん、これ読み取って貰えますか? ルームキーになるので!」


 促され、順番にQRコードを読み取る。するとキラキラとした演出のあと、301という数字とドット絵のキャラクターが画面に表示された。短い手足が動き、その場で歩いているかのように見える。


「ホテル内の施設を使ったり、隠しコマンドを見つけて入力するとキャラがレベルアップしていくんですよ!」


「なんだそれは最高だな」


「本当、面白そうだわ」


「隠しコマンドって、受付のカレンダーにあるアレのことか。不自然に太字になってるやつ」


「浬ちゃん見つけんの早っ」


 コマンドを入力すると、ファンファーレのようなSEと共にキャラクターのレベルが上がり、装備も変化する。静かに興奮しながらエレベーターホールへ向かう途中、天宮に声を掛けた。

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