「へー!」


「なになに、コミュニケーション費のハナシ?!」


 浬たちの会話を聞きつけ、宇佐見を筆頭にわらわらと他のメンバーが集まる。いつしか全員が部屋に戻ってきていたらしい。


「おー。まだ使い道決めてなかったなと思って」


「コミュニケーション費の使用期限っていつまでだったかしら?」


「今年度内じゃなかった? だからえーっと、来年の三月までかー」


「ゲーフェスと三周年の打ち上げ費に充てるのも良いわねぇ」


「……飲み会なら、私はノンアルコールにします……」


「雪平ちゃん、こないだのことめっちゃ気にしてるじゃん?!」


 一気に騒がしくなる中、天宮は探偵のように顎に手を当て考え込んでいる。そして唐突にスマホを手に取り、物凄いスピードで何かを調べ始めた。


「何やってんだ、天宮? ……まさかボケGOのレアでも出現したのか?!」


「いえ、レアボケは出てません! でもちょっと提案があります!」


 ずいっと目の前に突き付けられた天宮のスマホには、とある宿泊施設らしい画像が表示されている。


「……これは?」


「来年、新しいAMAのホテルがオープンするんです。私の兄がこのプロジェクトの責任者で、今度モニターを募集する予定らしいんですけど……もし皆さんが良ければ、それで宿泊するのはどうかなって」


 思わぬ提案に、ポカンとして天宮の顔を見つめ返す。何となく忘れがちだが、そう言えば天宮はホテル運営会社AMAの社長令嬢だった。


「えーっ、AMAの新しいホテルに泊まれるの? 最高じゃん!」


 宇佐見が興奮したように声をあげた。浬もそれに乗っかりかけるが、ぎりぎりのところで理性が働く。


「有り難い話しだけど、その、うちの会社行事にそんなコネを使わせてもらうのってどうなんだ? 本来、一般から募集するものなんだよな」


「ダメですかね? ゲーミングホテルだから良いと思ったんですけど……」


「……なんだって?」


「ゲーミングホテルです。八十台以上のゲーミングパソコン、ゲーミングチェアを完備! レトロから最新作まで、色んなゲームソフトの貸し出しも行ってますよ。もちろん部屋は完全防音で、夜中まで騒いでも大丈夫! モニターなので宿泊後にアンケートに答えていただく必要はありますけど、朝食と夕食以外はタダですし、みんなでゲーム合宿出来たらなって!」


 ――浬の理性は、僅か数秒で跡形もなく吹き飛んだ。

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