6
バス停前で花里と別れ、浬は天宮と駅まで向かった。ビルが建ち並ぶこの周辺は風が強く、天宮は寒そうに上着を掻き合わせながら歩いている。
「久城さん、椿さんにフォロー頼んでたんですね。ナイス選択です!」
「花里には今度礼をしないとな。ドス森のアメーバカードとか……第何弾がいいか聞いておくか」
歩きながらブツブツと呟く浬をしばし見つめたあと、天宮は囁くように言った。
「アスクロチームって、良い人ばかりですね」
「……そうだな」
「上手くいかないときも、みんなで支え合って。私が来る前から、ずっとこんな素敵な場所だったんだろうなって思いました」
ひときわ強い風が吹いて、天宮の髪が彼女の横顔を覆い隠す。僅かに変わった声色を不思議に思うが、風が止んだ頃にはころりと元に戻っていた。
「そういえば、飲み会で言ってたゲームタイトル、答えられそうですか?」
「ぐっ、悔しいが全然わからん。何かヒントはないのか? ハードウェアとかジャンルとか」
「うーん。……じゃあ、私たちが初めて会ったときの事を思い出して下さい」
「面接? あ、あの勇者の格好か?」
「ヒントはそれだけです! それとも、難易度をハードからイージーに落としますか?」
「落とさない」
即答すると、天宮は「それでこそ久城さんです」と笑顔を見せた。
――――……
帰宅してすぐ、浬は棚の中を漁った。今まで遊んできた数々のゲームソフトを取り出したりかき分けたりして、ようやく目当てのものを掘り当てる。
それは携帯用ゲーム機と、浬が初めて買ってもらったゲーム、トラクエのソフトだった。
面接のとき、天宮がコスプレしていたのはこのソフトの主人公である勇者のものだ。
風呂に入っている間にゲーム機を充電し、ドキドキしながらスイッチを入れる。
今は社名が変わったために見る事がなくなった、懐かしいゲーム会社の旧型ロゴが暗い画面に浮かぶ。懐かしさを感じつつ、浬は思わず感嘆の声を漏らした。
「ちゃんと動くもんだな……お、セーブデータも残ってる」
ずらりと並んだセーブデータ。勇者の名前は『カイリ』――大人になった今はそのキャラクターのデフォルトネームを付けるが、子供の頃は当たり前のように自分の名前にしていた。
妙に気恥ずかしい気持ちになりながら眺めていると、ひとつだけ『トウヤ』という名前のセーブデータが存在した。病院で仲良くなった少年のものだ。
「あーアイツのか。まだ神秘の洞窟止まりだったんだな……」
随分長く遊んでいた気がするが、実際には第一章の中盤までしか冒険は進んでいなかったようだ。祖父の退院が決まって、もう病院に来ることはないと伝えた時の、「そっか」と呟くトウヤの悲しげな表情が脳裏に蘇った。
少し切なさを覚えながら『ニューゲーム』を選択し、流れ始めたオープニングをじっと凝視する。確か、このゲームには星を探す要素なんて無かった筈だ。しかし星が何かの比喩である可能性もある。その手がかりを探すために、浬はトラクエを一からプレイすることにしたのだ。
仕事終わりに古いゲーム機を起動し、冒険を進める。数日間に渡りそれを繰り返していたが――
何度夜を迎えても、ゲームの中に『星』を見つけることは出来なかった。
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