第2ステージ どうあがいてもゲーマー



 ゼノ・ゲームス、ソーシャルゲーム部の成績報告会は、月に一度、第一会議室で行われる。各タイトルのプロデューサーとディレクター、そして課長と部長が勢揃いする中、アスクロからは久城浬ひとりの参戦である。


 今までは、この時間が苦痛だった。快進撃を続けるDIVINEディヴァインとは桁違いの目標値にも関わらず、それにも及ばない成績を発表し、「原因は?」「対策は?」と問い詰められるこの時間が。


 しかし今は違う。既存メンバーのコツコツとした改善が少しずつ実を結び初め、そこに天宮の企画力が加わって、夏の大型イベントを皮切りにアスクロは変わった。


「――以上が先月のアストラ・クロニクルの成績です」


「うんうん、いい感じだね。何よりユーザー数の回復が嬉しいね」


 赤い帽子……ならぬ赤いネクタイを身につけた某有名ゲームキャラに似た草壁部長は、浬の発表が終わると満足げに手を打った。その周囲では課長陣が同意を示すように頷くが、長谷田だけは苦虫を噛み潰したような顔で腕組みをしている。


 長谷田は、アスクロの継続に最も反対していた立場だ。過去の自分の主張を結果で否定されつつあることが、どうにも気に入らないようだった。


「継続率もかなりいいね。ARPUはまだ課題だけど、しっかり対策も練られていたし」


「ありがとうございます。メンバーが頑張ってくれたお陰です」


「これからも期待してるからねー」


 部長の高評価にホッと息を吐きながら、浬は資料を片付けて巨大スクリーンの前から退き、席に戻った。


 代わりに発表者として立ったのは、DIVINEディヴァインのプロデューサー、井坂だった。普段は物腰柔らかい性格だが、こうした場では淡々と論理的に話す姿が印象的だ。


「――では、DIVINEディヴァインの成績を発表します。DIVINEディヴァインはアスクロとは逆でARPUが好調、ユーザー数の伸び悩みが課題です。ただ、こちらのグラフの通りPUは――……」


 いくらアスクロの成績が良くなったとはいえ、DIVINEディヴァインの売上げには遠く及ばない。


 その差は月一億。年間で十二億の差は、はっきり言って格が違う。



――……



「アスクロはラッキーだよなぁ」


 報告会が終わり、管理者たちが出て行ったあとの第一会議室。目が合ったら勝負をしかけてくるトレーナーのような男、戸部が目の前に立ちはだかった。


「なんだっけ、亜音? とかいうコスプレイヤーのコスプレがバズったんだろ? そのお陰でゲーフェスの参加権まで手に入れてさー」


 たたかう

 どうぐ

▶にげる


「すまん、急いでるんだ」


「おいおい、報告会が予定より早く終わったんだからちょっとくらい時間あるだろー?」


 にげられない!


「……トレーナーよけスプレーが欲しい……」


「あ? なんだって? トレー……?」


 心の中で零したはずの愚痴が漏れていたらしく、戸部が怪訝そうに眉根を寄せる。前回、安い挑発に乗ってしまったことを反省して何も言い返さず立ち去ろうと思っていたのに、また余計なことを言ってしまった。どう誤魔化そうかと目を泳がせていると、最新式のノートパソコンを小脇に抱えた井坂が声をかけてきた。

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