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 天宮と雪平が何かをやり取りしている。自宅、ホテル、キャンセル、お詫び――耳が幾つかの単語は拾うものの、話の内容を理解するまでには至らない。


 雪平が何度も頭を下げ、大通りのほうへ消えて行くまで、浬は何も言葉を発することができなかった。


 残されたのは、ふたり。


「……あの、久城さん」


 天宮は浬の顔を覗き込むようにして、


「ルートは、ひとつに絞った方がいいですよ……? ほら、ギャルゲーのバッドエンドって、色々ありますから……」


 と、下手なホラー映画よりも怖い台詞を言ってのけた。


「……ちが……おれ……」


「かゆうまみたいな喋り方みたいになってますよ久城さん! 早く帰ってリセットしたほうがいいです。雪平さんのおうちもここから近いみたいで安心ですし、私もこれで失礼しますねっ」


 では! と、最後まで明るく振る舞う天宮に、ほんの少し平静を取り戻せた気がする。かろうじて「あぁ……今日はありがとう……」と、人間の言葉で別れを告げることが出来た。


 ただ、その後ろ姿が何を思っていたかまでは――……知るよしも、なく。




  ◆




 ――それから。


 天宮と雪平から無事に帰宅したと連絡を受け、何とか当たり障りの無い返事をしたことまでは覚えている。そこからは恐らく泥のように眠って、目覚めてからもどこかふわふわとした頭のまま週末を過ごした。


 自分でも形容しがたい精神状態で出勤した月曜日。


雪平から詫びの品だという菓子折りを受け取りながら、あの夜の出来事は夢だったのでは――とさえ思い始めた直後、元気よく出勤してきた天宮のTシャツに『You Are Dead』の赤い文字を見つけ、甲高い悲鳴をあげかけた。


「おはようございまーす!」


「天宮……頼むから深い意味はないと言ってくれ……」


「はい?」


 きょとんとする天宮と背後で、内線電話が鳴り響く。近くにいた花里が取り、一言二言だけ話したあと、通話を切って浬の方を見やる。


「久城くん、お呼び出しよー。草壁部長から!」



――――……



「何故呼び出されたか分かるかね、久城くん」


 ゼノ・ゲームス第二会議室。接待にも使われるその部屋で、草壁部長に真剣な面持ちでそう問われ、浬は意識が遠のくのを感じた。


 ……まさか、先週末の出来事が何か問題に? それとも部長の電話番号を『配管工』でスマホに登録しているのがバレた……?


「わはは。そんなに震えなくても大丈夫、良い話だよ」


 草壁は真面目な表情を崩し、にっこりと笑う。


「アスクロ、夏イベのあとも調子良いからさ。アレにちょっとだけ出てもらおうと思ってるんだよね」


「……アレ?」


「ゲームフェスティバル・ジャパン」


 さらりと告げられた、その名は。


「まぁ、うちからはDIVINEディヴァインをメインに出すんだけどさ。少しならスペース空けられそうだし、どうかと思ってね」


 日本最大級の規模を誇る、ゲームの祭典。


「ほら、色んなタイトルがあったほうがお客さんも喜ぶしねえ。どう? 久城くん。大人気ゲームDIVINEディヴァインブースの隣、小さなスペースで、リアルイベント。ちょっと難しいかな?」


 腹のあたりからジワジワと熱くなって、やがて指先まで熱を帯びる。


 浬は、この感覚をよく知っていた。


 弱点が分からない強敵を前にしたときの――


 自然と口角が上がる。笑みを抑えられない。


「いや……俺、ゲーマーなので」


 浬は、気付いていなかった。


 今の自分が、誰よりも。そう、あのときの『勇者』よりも――


「最高難易度クエスト、挑戦させていただきます」


 ――を、していると。








1st STAGE CLEAR!

To Be Continued...

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