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「なっ……お、俺がそんなに非道な人間に見えるのか?!」


「あ、ち、違います! そういう意味じゃなくてその、久城さんと雪平さん、お互いに何かと気にしてるみたいだったから。もしかして、と思って」


「気にしてる? ……あー」


 思い当たる節はあった。


「少し前に、ちょっと選択肢をミスっ……じゃなくて、雪平に変なこと言ったから、怒らせてないか気にしてたんだ。あと、メンバーの中でも遅くまで残ってることが多いし、心配というかだな……」


 弁解をしているような言い方になってしまい、何故か焦っている自分に気付く。しかもちょうど暗がりで天宮の表情が見えず、反応もないので居たたまれない気持ちになっていると、


「……私……」


 不意に耳元で呟く声が聞こえて、思わず「ぬわっ!」と天宮のような悲鳴をあげた。少しだけ振り返ると、俯き加減の雪平の顔がそこにあった。いつの間にか目を覚ましていたらしい。


「ゆ、ゆ、雪平っ……?!」


「雪平さん! 大丈夫ですか? 気持ち悪かったりしないですか?」


「はい……すみません……」


 消え入るような声で謝る雪平に、「何ともないなら良かった」と努めて明るく返す。


「自分で歩けそうなら言ってくれ。ゆっくり下ろすから――」


 しかし、その言葉を最後まで言い終える前に、浬は息を呑んだ。何が起きているのか――処理の遅いレトロゲーム機のようなスピードで、ゆっくりと状況を把握していく。


「私……嘘を、つきました」


 雪平の腕が、浬に絡みついている。落ちないようにしがみついているわけではない。明らかに意図的に、雪平は背後から浬を抱きしめていた。


「本当は、心配です。久城さんが、御手洗さんみたいに倒れちゃったらって……」


 考えないようにしていた温もりや感触が、一気に現実味を帯びて浬を支配する。心臓が早鐘を打ち、どっと汗が噴き出るのを感じた。そして、


「……久城さんが、御手洗さんを想うように……久城さんを想う人間がいることも、知ってください」


 静かな夜道に落ちた言葉は、更なる静寂を呼んだ。


 固まっている自覚がある。フリーズだ。やはりこの情報量、レトロゲーム機では処理が追いつくはずが……いや、俺は何を考えているんだ?


「…………あ。………………す、すみません、おろしてください」


 突然我に返ったように、雪平が慌て始めた。浬はほとんど反射的に屈んで彼女を背中から下ろす。


 ずっと無防備に背負われていたせいか、雪平の服は軽く乱れていた。だがそんなことには気にも留めず、雪平は赤面しながら頭を下げる。


「私、まだ、酔って…………、……申し訳ありません……天宮さんにも、ご迷惑を……」


 その言葉に、天宮も一緒だったことを思い出した。あまりの出来事に、全てのデータが吹っ飛んでしまったようだった。


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