29
さっき肩に当たったのは彼女の体だったらしいと気付き、慌てて声を掛けた。
「だ、大丈夫か? 雪平」
「ふ……はい……」
いつものしっかりした声音ではない、どこかふわふわとした返事に、心配ゲージが上昇していく。確か雪平はまだ一杯目だ。しかも梅酒のソーダ割り。さほど度数も高くない上、グラスの中身を見ても殆ど減っていない。だが、彼女の顔は明らかに赤くなっていた。
(……酒、弱かったのか……)
通路側の席に座っていた浬は、店員を呼び止めて水をもらい、雪平に飲むよう促す。雪平は大人しくそれに従っていた。
「――……で、浬ちゃんは?」
「え?」
不意に話を振られて顔を上げると、いつしか全員の視線が浬に集中していた。
「もー、聞いてなかったの? 初めてプレイしたゲームって何? って話題だよ!」
「あ、あー、ええと……初めてプレイしたのは、確かトラクエだな」
「ほう、王道だねぇ。親に買ってもらったの? サンタさん?」
「いや、じいちゃん。すげえハマって、病院に見舞いに行ってる時もずっとやってたな」
「まぁ、怒られなかったの?」
花里がまた新しいジョッキを店員から受け取りながら、首を傾げる。あれは何杯目なのか……聞くのが怖い。
「一応、電子機器が許可されてる場所でやってたけど、親にはよく怒られたような……」
「あははっ、そりゃまー怒られるよ! でも浬ちゃんらしいー」
「でも、友達と一緒にやってる時は大目に見てもらってたな、そういえば」
ぼんやりとした記憶の中で、ニット帽を被った幼い頃の友人が、ぶすっとした顔でこちらを振り返った。――確か、トウヤ……という名前だった。
「友達? 病院で?」
「ああ。そいつ、入院中の患者でさ。ゲームやってたら、向こうから声掛けてきたんだ」
「トラクエって一人プレイ用じゃないの? 対戦モードとかあったっけ?」
「やり方教えてたんだよ。ゲーム、初めてだったらしい」
「おーっ、なんかいい思い出だねー!」
「……まぁ、そうだな」
――なんだろう。せっかく思い出した記憶なのに、何かが噛み合っていない気がする。酒には強くも弱くも無く、まだ一杯目だというのに、もう酔ってしまったのだろうか。
最後のプチトマトを口に含みながら考え込んでいると、ふと向かい側に座る天宮の姿が目に入る。天宮はオレンジサワーらしき飲み物が入ったグラスを両手に持ち、ごくごくごく! と勢い良く飲み干していた。
「お、おい天宮、おまえも気を付け……」
「私は、星を探す、ゲームです!」
空になったグラスをテーブルに置きながら、唐突な発言。全員の目が点になる。
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