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さっき肩に当たったのは彼女の体だったらしいと気付き、慌てて声を掛けた。


「だ、大丈夫か? 雪平」


「ふ……はい……」


 いつものしっかりした声音ではない、どこかふわふわとした返事に、心配ゲージが上昇していく。確か雪平はまだ一杯目だ。しかも梅酒のソーダ割り。さほど度数も高くない上、グラスの中身を見ても殆ど減っていない。だが、彼女の顔は明らかに赤くなっていた。


(……酒、弱かったのか……)


 通路側の席に座っていた浬は、店員を呼び止めて水をもらい、雪平に飲むよう促す。雪平は大人しくそれに従っていた。


「――……で、浬ちゃんは?」


「え?」


不意に話を振られて顔を上げると、いつしか全員の視線が浬に集中していた。


「もー、聞いてなかったの? 初めてプレイしたゲームって何? って話題だよ!」


「あ、あー、ええと……初めてプレイしたのは、確かトラクエだな」


「ほう、王道だねぇ。親に買ってもらったの? サンタさん?」


「いや、じいちゃん。すげえハマって、病院に見舞いに行ってる時もずっとやってたな」


「まぁ、怒られなかったの?」


 花里がまた新しいジョッキを店員から受け取りながら、首を傾げる。あれは何杯目なのか……聞くのが怖い。


「一応、電子機器が許可されてる場所でやってたけど、親にはよく怒られたような……」


「あははっ、そりゃまー怒られるよ! でも浬ちゃんらしいー」


「でも、友達と一緒にやってる時は大目に見てもらってたな、そういえば」


 ぼんやりとした記憶の中で、ニット帽を被った幼い頃の友人が、ぶすっとした顔でこちらを振り返った。――確か、トウヤ……という名前だった。


「友達? 病院で?」


「ああ。そいつ、入院中の患者でさ。ゲームやってたら、向こうから声掛けてきたんだ」


「トラクエって一人プレイ用じゃないの? 対戦モードとかあったっけ?」


「やり方教えてたんだよ。ゲーム、初めてだったらしい」


「おーっ、なんかいい思い出だねー!」


「……まぁ、そうだな」


 ――なんだろう。せっかく思い出した記憶なのに、何かが噛み合っていない気がする。酒には強くも弱くも無く、まだ一杯目だというのに、もう酔ってしまったのだろうか。


 最後のプチトマトを口に含みながら考え込んでいると、ふと向かい側に座る天宮の姿が目に入る。天宮はオレンジサワーらしき飲み物が入ったグラスを両手に持ち、ごくごくごく! と勢い良く飲み干していた。


「お、おい天宮、おまえも気を付け……」


「私は、星を探す、ゲームです!」


 空になったグラスをテーブルに置きながら、唐突な発言。全員の目が点になる。

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