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 ――モンスター・シメキリが現れた。


 シメキリの先制攻撃! 『さすがにこの仕様変更は間に合いません』を唱えた!


 久城浬に20のダメージ!


 弓使いアーチャー・久城浬の反撃! 『既存のシステムを一部流用することで稼働削減』の矢を放つ!


 シメキリに10のダメージ!


 シメキリの必殺技! 『であれば仕様書を予定より早く下さい』が炸裂!


 久城浬に50のダメージ!


 久城浬の必殺技! 『残業』


 シメキリに30のダメージ! 久城浬にも20のダメージ!


【久城 浬】くっ ここまでか……


【天宮星七】諦めるには まだ早いですよ!


 勇者・天宮星七がパーティに加わった!


 天宮星七の攻撃! 『入社から一ヶ月経ったので、私も残業できます!』


 シメキリに5のダメージ! シメキリは鼻で笑っている!


【天宮星七】うう レベル1の私では 力不足…… でも!


 天宮星七のスキル発動! 『勉強がんばります!』


 天宮星七のステータスが上昇する……!


【天宮星七】久城さん 今です!


【久城 浬】あぁ!


 久城浬と天宮星七の協力技! 『仕様書提出・スケジュール調整・発注完了――――!!』







「はっ」


 浅い眠りから覚めた浬は、ぱちぱちと何度か瞬きをした。目元から、ほんのり温かい何かがずり落ちていく。


「あ。久城さん、起きました?」


 天井を背景に、天宮星七がひょこっと覗き込んでくる。どうやら浬は、椅子に座ったまま居眠りしていたらしい。慌てて時計を見るが、昼休み終了まであと五分残っていた。


「上を向いて寝てたので、勝手にめぐぐリズム乗せちゃいました。目の疲れは取れましたか?」


「あ、あぁ、ありがとう」


 妙な夢を見てしまった。こんな妄想を頭の中で繰り広げているなんて、プロデューサーとしての威厳を保つためにも、チームメンバーには絶対に知られるわけにはいかない。


「そういえば久城さん、寝言を言ってましたよ! くっ、ここまでか……って」


 最悪だ。


「何かに追い詰められる夢だったんですか? 確かに最近、残業続きでしたもんね……でも、なんとか夏イベの作業終わったじゃないですかっ」


 やりましたね! と、寝起きの浬には少々眩しすぎる笑みを溢れさせ、天宮は言う。そう、そうだった。『〆切』というモンスターを何とか倒し、夏イベの作業を全て終わらせた。バグも、主に雪平の尽力で全て解消し、あとは世に出るのを待つのみ。


 リリースは、本日十五時。


 しかし『〆切』を乗り越えても、それだけは当然足りない。この先にはステージボス――『七月の売上目標』が、待っている。

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