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昼休み明け、全体会議。リリース前の最終確認。
「さぁ、いよいよ大型イベント『アクアスフィア・サマー』のリリースだ」
天宮と雪平は神妙な顔で頷き、花里は「楽しみねぇ」と呟く。宇佐見と黒木は「見て。浬ちゃん、格好付けてるけど寝癖も付いてる」と悪口を言い、いつの間にか侵入を果たしたらしい東は満面の笑みでスマホからRPGの戦闘音楽を流し始めた。
「東、会議中だぞ……」
「だって勝負の日だろ? 盛り上げようと思ってさ」
「このBGM、熱いですよね! 大きな橋の上で次々に襲ってくる敵を倒していく流れにぴったり!」
「さーーーすが天宮サン、分かってるう」
天宮の肯定的な意見を得て、東はきゃっきゃと喜ぶ。その様子は腹立たしいことこの上ないが、確かにこのBGMには士気を高める力がある。
「えー、まず雪平。バグは三日前に潰したもので全部だな?」
「はい。開発環境で十九件、ステージング環境で六件のバグがありましたが、試験会社とも連携し、全て解消されたことを確認しました。後ほど商用環境でのチェックを行います」
「了解。シナリオの商用確認は宇佐見、よろしくな」
「承知!」
「俺も商用確認するわ! アスクロに音乗せたの久しぶりでちょい心配だし」
「あぁ、助かる。SNS記事は黒木と花里で最終チェックを頼む」
「分かったわ」
「はーい、お任せをー」
「天宮は俺と全体チェックだ。十五時になったらすぐ確認出来るように、端末を準備しておいてくれ」
「わかりゃししゃた!」
キリッとした顔で盛大に噛む天宮を二度見したあと、浬は小さく咳払いをする。
「よし。じゃあ何かあればすぐ報告してくれ」
はーい! という元気な返事が揃った。
『第2四半期の目標達成出来なかったら、アスクロ、今度こそサ終ね』
長谷田課長の言葉が蘇る。第2四半期、つまり7月から9月にかけての総売上げが目標を越えなければ、問答無用でサ終ということ。
こうした突然の宣告は、流れの速いソシャゲ業界では珍しくない。そしてアスクロは昨年もサ終の危機に陥ったことがある。
『――お願いします』
二年に一度の社員旅行。宿泊先のホテルで、浬は上層部に頭を下げた。何でこんな時に、とロビーでくつろぐ課長たちは笑った。社員旅行出発の直前に、サ終を言い渡されたからだと心の中で言い返した。
『もう少し、頑張らせてください。御手洗さんの仕事は俺が引き継ぎますので……』
あの時、部長の草壁だけが『いいんじゃない?』と言った。
『アスクロは最初の一年は結構良かったし、ポテンシャルはあると思うよ』
部長の一言で、アスクロは延命できたと言っても過言ではない。これで何とか、前プロデューサーの御手洗が不在のまま、彼女が子どものように思っていたゲームを死なせずに済んだと思った。
その後、浬がプロデューサーになり、慣れない仕事に忙殺されながらも何とかここまで繋ぐことは出来た。しかし、黒字ラインまで回復させるには至っていない。
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