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「へ? えー別にいいけど……夏っぽい楽しそうなシチュで、場所が海で、水着ならなんでも」
「なるほど。なら、そういうシチュエーションを新しく探すか?」
「……ネットを漁れば、いくらでも色んな構図が出てくるけど……その楽しさが分からないせいかイマイチ乗れないのよね。本人に聞きたくなるのよ。それ、何が楽しいの? って」
クリエイターの言うことが、浬は時折理解出来ない。しかし、そんなクリエイターたちをまとめるのが、浬の仕事である。
「うーん、夏を楽しんでる人の意見か」
浬は去年の夏を思い出してみる。
六月。気になっていたソシャゲのベータテストに当選して狂喜乱舞し、正式版にはデータが引き継がれないというのに、仕事以外一切外へ出ずにプレイした。
七月。東とゲームイベントに行って、そこで開催されていた小さな素人大会に参加した。決勝戦の相手は中学生だったが、手加減することなく蹴散らして優勝した。
八月。インクをぶちまけるゲームの発売日。駅が花火大会のせいで混雑を極めており、この人混みを消失魔法か何かで消せないだろうかと思いながらかき分けて、ついにソフトを受け取った。感動もひとしおだった――……
ダメだ。駅が混んでいた理由以外、夏に関係ない出来事ばかりである。
「おーい誰か。夏の思い出を語れるやつはいるか?」
浬が助けを求めて声を掛けると、意外にも雪平が一番に答えた。
「昨年の夏、ツモツモで20億点突破しました」
「すげぇな?! あ、えーとそういうんじゃなくてだな、夏っぽい何か……」
「私は、ゲームの中で花火大会を楽しんだわよ。くじを引きすぎて、タピオカドリンクと綿飴だらけになっちゃったのよねぇ」
次に答えたのは花里だった。だが惜しい。
「誰か……現実の世界で夏を楽しんだやつはいないのか……」
「あ、私、去年の夏に家族で海に行きました」
そんな声が背後から聞こえて、浬は勢い良く振り返った。そこで天宮が小さく手を挙げている。救世主だ。……いや、勇者だったか。
「本当か、天宮!」
「はい! もともと、バトロワゲーで衣装スキンをセットし忘れたままバトル開始しちゃった人のコスプレをするつもりだったんですけど……」
聞き間違いだろうか?
「一応水着だし、ついでに泳ぎに行ったんです!」
「コスプレのテーマが気になるけど、いいわね。良かったらその時の写真を見せてもらえない?」
「ちょ、ちょっと恥ずかしいですけど……わかりました、明日持ってきますね!」
「ありがとう、助かるわ」
混乱する浬を置き去りにして、話がまとまっていく。聞きたいことは山ほどあったが、とにかく呪いモードを沈静化できたならひとまず安心だ。
浬は削り取られたSP回復のため、天宮に一声掛けてからコーヒーを買いに行こうとして――
雪平が席にいないことに気付いた。
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