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「……仕方ない。目標を達成するには、元々考えていたイベント内容じゃ不十分だ」
「うー……シナリオも書き直しになる? 今回、結構良い感じのプロットが出来そうでさー出来れば直したくないなぁ」
「イラストも。もしかして差分の枚数が増えたりするのかしら? 今からだとかなり厳しいのだけど」
「イベント内容が変わるなら、トップのデザインは作り直し必須ね……」
少人数ながら、ざわざわと騒がしくなるメンバーに「まずは企画書を……」と資料を渡しかけたその時、
「その変更で売上げが上がるのなら、文句を言わずにやるべきです」
膝の上に両手を重ね、姿勢良く座っていた雪平が、氷よりも冷たい声で言い放った。その場がシンと静まりかえり、浬は慌てて口を挟む。
「えー、急な話だし、みんなの不安は当然だ。それに、企画書を見て意見があれば是非言ってくれ。どうしても難しいところは相談しつつ見直そう」
「悪いけど」と前置きをして、花里が言った。滅多に笑みを絶やさない彼女の真顔からは、感情の一欠片も読み取れない。
「わたしは、残業はしないわ。その範囲でよろしくね」
「ああ、分かってる」
浬が頷くのを見て、雪平は微かに眉をひそめたが、何も言わなかった。
(あとでフォローしておかないとな……)
そう思いながら、浬は印刷した企画書をメンバーに配る。
「まだ概要のレベルだが、夏イベの企画書だ。俺は資料としてまとめただけで、天宮のアイデアをベースにさせてもらってる」
「えっ、星七の?! もう採用されるなんてすごいじゃん!」
宇佐見が場を和ますように、いつもより高い声で天宮を褒めた。固い表情で会議の様子を見ていた天宮が、ようやく少し笑みを浮かべる。こういう時、宇佐見の明るさには救われることが多い。
「――……面白そうね」
しばらく企画案に目を通し、ぽつりとそう呟いたのは黒木だった。まっすぐに切りそろえられた重い前髪の下から、人形のように大きな目が浬を見つめている。
「奇抜だけど、分かりやすいし引きも良い。ただ、これで売上げがあがるの?」
「そこはこれから俺と天宮で相談しつつ考える。確かに今の企画のままじゃ、面白そうなだけだ。でも、だからこそこのアイデアをベースにしたいと思ってる」
「……分かったわ。詳細が決まったら教えてちょうだい」
黒木の言葉に、会議は一旦区切りが付いた。浬は内心で冷や汗を拭う。
改革は、いつも批判から始まるものだ。
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