15



 中に入ると、カタカタとタイピング音だけが静かに響いていた。既にひとりだけ着席し、早くも仕事を始めているらしい。モニターで姿が見えなくても、それが誰なのか分かる。


「雪平、おはよう」


「…………」


 浬の声に反応して、雪平がモニターの隙間からこちらに顔を見せる。CGで作られたかのような、近未来的な銀色の髪。青みがかった切れ長の瞳。日本人にはなかなか見られない、彫りの深い北欧系の綺麗な顔立ち。確かノルウェーかフィンランドのミックスだと聞いた事がある。


「……おはようございます」


「今、ちょっといいか? 新しいメンバーを紹介させてくれ」


 そう言うと、雪平は立ち上がって天宮を見た。腰まで伸びた細く長い髪が、肩から零れ落ちる。天宮は思わず魅入ったように言葉を失っていたが、我に返って頭を下げた。


「初めまして! プランナーとしてお世話になります、天宮星七と申します。よろしくお願いします!」


「……雪平。プログラマーです。よろしく」


 簡素に挨拶をして、雪平はすぐに着席し直し、タイピングを再開する。浬にとってはいつものことではあるが、少々クール過ぎる対応に天宮が驚いていないかが気がかりだった。ちらりと視線だけを動かして様子を窺うと、天宮は感動したように目をキラキラとさせていた。


「わああ、スクアニゲーのヒロインみたい……!」


 あーーーーー、わかる……と思いながら、浬は自分のパソコンに電源を点ける。そこでようやく、仕事のスイッチも入った気がした。





 そのあと、花里、宇佐見、黒木の順で出勤し、ようやく全員が揃った。浬が持参した、一狩り行きたくなるデザインの時計が始業時間を示したところでメンバーは椅子を移動させ、キャスター付きのホワイトボードの周りに集合する。これが会議室の利用権を持たない、アスクロチームの全体会議だ。


「夏イベの企画を、一から練り直させてほしい」


 浬の第一声に対する反応は様々だった。宇佐見と黒木はギョッとしたように目を見開き、花里は微笑みながら遠くを見つめ、雪平は全く表情を変えない。そんなメンバーの様子を見て、天宮はきょとんしていた。


「えーーーっと、一応確認。夏イベって、7月下旬からの大型イベントのことで合ってる?」


「ああ、合ってる」


「そのぉ、大型イベントは準備に時間がかかるし、早めに企画書と仕様書を貰っていたから、もう準備を進めていたのだけど……」


 花里が片頬に手を当て、困ったように言う。こういった反応が多いことは予想していたが、浬に出来るのは、謝罪と懇切丁寧な説明くらいだ。大丈夫、やれる。シナリオゲームでは滅多に選択肢を誤らない男、久城浬である。


「悪い。全部とまではいかないが、やり直しや追加制作を頼むことになる。売上目標が上乗せされたんだ」


「えーっ! 今でさえ厳しいのにー」


「はぁ……」


 いや、やっぱり間違えたかもしれない。宇佐見、黒木、花里あたりの好感度ゲージが下がった音がする。

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